その圧倒的な異形の存在感を前に、響のハンドヘルド端末が狂ったような警告音を鳴らし続ける。
「な……生体反応……ゼロ……!?」
響の声が凍りつく。画面に表示されているのは、完全な空白。心拍も、脳波も、生体ノイズすらも存在しない。
訔は噛み殺すように低く呟いた。
「やはり……」
先日のバキューム・ジャーク戦の後に現れた、あの【暴】の存在と同じ。人間が感情を暴走させてジャークへと変貌したのではない。最初から「それ」として存在している純粋な怪人。
ファルス・ジャークの鏡面のような顔から、歪んだ嘲笑の音波が響き渡る。
「あなたたちはジャークを、人間の感情や悪意から生まれた哀れな怪物だと思っている……随分と可愛らしい勘違いね」
「何を知っている?」
訔が踏み出し、問いただす。
「全部」
ファルス・ジャークは音もなく空気を滑るようにして訔へと近づく。その漆黒の指先が、訔の喉元へとあやしく伸ばされた。
「バイトドライバーのことも……ライドワードのことも……そして――」
ファルスが訔の耳元で囁く。
「あなたがあの『遺跡』で、何を“読み間違えた”のかも」
「――ッ!?」
訔の表情が一瞬にして強張った。
あの日。帝都大学の言語考古学チームが発掘した未確認遺跡で起きた惨劇。訔が古代言語を読み間違え、バイトドライバーを暴走させたことで起きたとされる発掘事故。それが全ての始まりであり、訔の胸に刻まれた消えない罪の傷痕だった。
ファルスは訔の動揺をあざ笑うように、滑らかな声で揺さぶりをかける。
「本当に……『誤読』だったのかしら?」
「なんだ……と……?」
「ふふ……あの日、あの場所で歪められたのは言葉かしら? それとも、あなたの認知の方かしらね?」
発掘事故そのものへ突きつけられた、恐るべき疑惑の提示。訔の心が揺らぎかけたその瞬間、ファルス・ジャークの胸元の【偽】の文字が凶悪な漆黒の光を解き放った。
「さあ、見せてあげるわ。真実なんてものが、いかに脆く下らないかを!」
能力の発動。
オフィス内の影という影から、黒いノイズが湧き出す。ノイズが集結し、実体を結んでいく。
そこに現れたのは――音無訔。
一人ではない。二人、五人、十人……。狭いオフィスの中に、全く同じ顔、同じ服装をした「音無訔」が埋め尽くすように出現していく。
『俺が本物だ』
『俺が本物だ』
『違う、俺が音無訔だ』
『お前は偽物だ』
全員が寸分違わぬ声で、全く同じ抑揚で主張を始める。
「ふざけんな! おい! どれが訔だ!?」
陸が叫び、頭を抱える。
響は青ざめた顔で端末を操作し、偽物群へ波形走査をかけた。しかし、画面に返ってきたのは壊滅的な結果だった。
「声紋一致……皮膚反射、心拍、生体波形……すべて完璧に一致しているわ! 解析でも判別不能。全員が『本物の音無訔』のデータを完璧に保有してる!」
さらにファルス・ジャークは嘲笑を深め、指を鳴らした。
黒いノイズが再度弾け、今度は響の偽物、陸の偽物、さらには床に伏せる優斗の偽物までもが大量に生成されていく。
部屋の中は、互いを「偽物だ」と罵り合う響、陸、優斗、訔たちで埋め尽くされた。誰が本物で、誰が偽物なのか、自分以外のすべてが信用できない底なしの狂気。
ファルス・ジャークがその混沌の中心で、満足そうに両腕を広げた。
「ほら。人間は結局、目に見えたものを信じる。耳から聞こえたものを信じる。そして多数派が『これが正しい』と言えば、それをあっさりと『真実』と呼ぶ。……最初から真実なんてどこにも存在しないのよ」
大量の「音無訔」たちが、一斉にうつむき、絶望に沈みかける。
だが――その混沌の渦の中で、ただ一人だけ、静かに踏み出す者がいた。
「……違う」
「何が?」
ファルス・ジャークが眉をひそめる。
「分からないなら――」
本物の訔は、ポケットからバイトドライバーを取り出し、胸部へ力強く装着した。ガチャリと硬質で冷徹なギミック音が部屋に響き渡る。【咬】のライドワードを装填。
《咬む》
「確かめるだけだ」
「変身」
《
《
ギチギチと牙を模したアーマーが胸部を覆い、咬み合わされる金属音とともにバイトへと変身を果たす。
バイトは即座にファルスへ突進し、重厚なパンチを叩き込んだ。しかし、拳が捉えたファルスの身体はノイズとなって弾け、別の「訔の偽物」へと姿を変える。
「無駄よ!」
背後から迫るファルス・ジャークを振り向きざまに蹴り飛ばすが、それもまた「響の偽物」へとしっぽ切りされる。攻撃するたびに偽物が身代わりとなり、倒したと思えば即座に別個体が補填される。
「ダメよ、訔! 本物を特定できない! 適当に攻撃したら本物の陸たちを巻き込むわ!」
本物の響……あるいは偽物の響が悲鳴を上げる。
バイトは猛攻を受け、床へと膝をついた。
視界を埋め尽くす偽物の群れと、勝ち誇るファルス・ジャーク。
バイトは……ゆっくりと攻撃の手を止めた。
そして、複眼の光を落とし、静かに目を閉じた。
「あら? 降参かしら?」
ファルス・ジャークが滑稽そうに歪んだ音波を放つ。
「……いや」
バイトは深く息を吐き出し、集中する。外見、声、波形、生体データ。五感と機械が捉える「情報」はすべて偽造できる。だが――いくつもの言葉の暴走と対峙し、噛み砕いてきた訔には分かっていた。
言葉の「音」そのものはコピーできても、その言葉が発せられた「理由」や「背景にある想い」までは絶対にコピーできない。言葉は単なる記号ではない。誰かに伝えたいという情動の波形なのだ。
バイトは閉じた目の中で、耳を澄ませる。
周囲に満ちる無数の「俺が本物だ」という虚無な音声ノイズを削ぎ落とし、ただ一つ、目の前に立つ怪人の発する言葉の根底を聞き取ろうとする。
「お前はさっきから、『真実なんてない』と言い続けている」
バイトの声が、ブレることのない重厚な低音となって静まり返った室内へ響く。
「それ自体を……俺たちに信じさせようとしている」
ファルス・ジャークの動きが、ぴたりと止まった。
バイトがゆっくりと目を開ける。その視線は、無数の偽物の群れを完全に無視し、真っ直ぐにファルス・ジャークの本体を捉えていた。
「真実が存在しないなら……」
バイトは一歩、力強く踏み出す。
「お前のその言葉も、真実じゃない」
その瞬間。
ファルス・ジャークの顔に、初めて明確な亀裂が走り、その表情が醜く歪んだ。
「言い逃れは……終わりだ」
バイトはバイトドライバーのレバーを深く押し込む。
《咬む》《咬む》
《
「ハァッ……ッ!」
激しい音響衝撃波を足元に爆破させ、バイトは空間を切り裂くような速度で跳躍した。刹那、溢れ出した圧倒的な紫色のフォントエネルギーが、バイトの右足裏――「咬」の字を象った歯型ソールへと一気に集束していく。あらゆる嘘と虚飾を噛み砕く必殺のキック。
直撃まで、あと数センチメートル。
しかし――
必殺の足先が届く直前、ファルス・ジャークは回避行動すら取らなかった。彼女はバイトを冷ややかに見つめたまま、自らその肉体を崩壊させた。
肉体が無数の漆黒の文字――【偽】の漢字群へと解体され、旋風となって四方八方へと四散する。
バイトのキックは虚しく空を切り、雑居ビルの壁面を爆砕して激しい煙を巻き上げた。
「……なに!?」
足裏に伝わる手応えが、唐突に消失した。
ファルス・ジャークの身体が、キックの威力を受けて砕け散ったのではない。直撃する直前、まるで自ら進んで構造を放棄したかのように、その肉体がドロドロとした黒い文字の群れへと解体されていく。
『あははははっ! 素晴らしい威力。けれど――残念ね』
無数の『偽』の文字となって拡散していくファルスの残像。
バイトは空を切り、着地と同時に激しく床を滑った。振り向きざまに拳を構えるが、そこにはすでに打倒すべき敵の姿はなかった。これまでのジャークのように、爆散して【偽】のライドワードを残すこともない。撃破ではない。敵が自らの意思で戦闘を離脱した――初の「撤退」だった。
空間全体を取り巻く黒いノイズが急速に薄れていく中、姿を消したファルス・ジャークの残響だけが、バイトの頭上に降り注ぐ。
『【咬】の言葉を使う者……いや、音無訔。あなたのその強い意志、そのまっすぐな音……ゾクゾクするわ』
「待て! 逃げるのか!」
『逃げる? いいえ、挨拶を終えただけよ。ねえ、最後にひとつだけ、素敵な問いかけを置いていってあげる』
声が、あざけるように弾む。
『あなた自身が信じている“あの日の真実”――それも本物だといいわね?』
「……何だと……!?」
『ふふふ……あははははははっ――!!』
嘲笑が遠ざかり、完全に途絶える。
同時に、展開されていた偽りの空間が硝子のように割れ散った。後に残されたのは、静まり返ったビル街の裏路地と、拳を握りしめたまま佇む訔の姿だけだった。
「……あの日の真実、だと……?」
足元を見下ろす。そこには、撃破した証であるべきライドワードが転がっていない。回収不能。敵の情報を掴む手がかりすら残さず、奴は消え去ったのだ。そして何より――胸の奥に突き刺さったファルスの捨て台詞が、冷たい毒のように訔の思考を蝕み始めていた。
*
事態の収束と同時に、現実の波が押し寄せる。
帝都映像の本社ビル前。日中の光が照らし出すその場所は、なおも社会の悪意と好奇心でごった返していた。
「出てきたぞ! 桐谷優斗だ!」
「映像の捏造について何かコメントを!」
「真実を話してください! 本当にあなたが改ざん指示を出したんですか!?」
無数のフラッシュが焚かれ、マイクの群れが押し寄せられる。群がる記者たち、そしてスマートフォンを掲げて動画を撮影する野次馬たち。それらはすべて、ファルス・ジャークが撒き散らした「偽」の言葉に踊らされ、義憤という名の快楽を貪る亡霊のようだった。
ビルの自動ドアが開き、疲れ果てた姿の優斗が現れる。
フラッシュの嵐に思わず目を細める彼に、過激な問いかけが矢継ぎ早に浴びせられた。
「優斗さん! 一言! 無実なら無実だと叫んだらどうなんです!」
優斗は立ち止まった。
以前の彼なら、恐怖に震え、あるいは感情的に「俺はやっていない! 信じてくれ!」と怒鳴り散らしていたかもしれない。感情の爆発こそが、ネットの狂騒が最も好むエサであると、今の彼は知っていた。
優斗は深く、静かに息を吐き出した。
そして、押し寄せるメディアの前で、深く頭を下げた。
騒然としていた現場が一瞬、しんと静まり返る。
優斗は顔を上げた。その瞳には、怯えも、過度な怒りもない。ただ澄んだ真摯さだけが宿っていた。
「……自分は無実だ!と、ここで感情的に叫ぶつもりはありません」
優斗の声は低く、しかしマイクを通じて周囲にしっかりと響いた。
「言葉だけで『信じてくれ』と乞うことは、今の世の中において何の意味もなさないことを、俺は学びました。……だから、言論ではなく、事実を置いていきます」
優斗は手にしたストレージドライブを掲げ、背後の大型ビジョンと報道陣の機材へ同期データを送信する操作を行った。
「今、みなさんの報道端末と、弊社のパブリックサーバーにデータを送りました。被害にあったとされる元の撮影映像。その編集履歴データ。そして、1フレーム単位のタイムコードのログ……すべてです。偽造が不可能な暗号化ブロックチェーンを通した、生のデータです」
記者たちが一斉に手元のタブレットやスマートフォンに目を落とす。
画面に並ぶのは、膨大な数値と時間軸のタイムライン、そして改ざんが行われた形跡が一切存在しないというシステム検証結果だった。
「俺の言っていることを、無条件に信じてくださいとは言いません」
優斗はまっすぐに記者たちの目を見据えた。
「だから……自分で見て、確かめてください。そこに書かれている数値と、映像を。それだけが、俺の差し出せる『真実』です」
静寂が広がっていく。
さっきまで声を荒らげていたレポーターの手から、マイクがゆっくりと下がった。周囲の野次馬たちも、スマートフォンに表示された無機質で圧倒的な「一次データ」を前に、掛けるべき悪口を見失っていた。
言葉で言葉を打ち消すのではない。
事実を提示し、受け手に「思考させる」こと。
ファルス・ジャークが作り出した悪意の濁流が、ほんの少しずつではあるが、静かに引いていくのを優斗は肌で感じていた。
深夜、帝都大学・音響言語学研究室。
幾重にも重なるモニターの青い光が、薄暗い部屋を怪しく照らしていた。
「おかしい……いくら解析アルゴリズムの深度を上げても、波形の整合性が取れない……」
キーボードを叩く響の指先が、焦燥に震えている。
メインモニターに映し出されているのは、今日訔が戦ったファルス・ジャークの音響波形データだ。
隣で腕を組んで画面を凝視していた陸が、歪な波形を指差した。
「音羽センセー、この赤く跳ねてる部分はなんなんだ? いつものジャークなら、壊れたノイズでもある程度の周期性があるはずだろ?」
「それが周期性が全くないのよ」
響はメガネのフチを上げ、不気味なデータを見つめたまま息をのむ。
「通常のジャークは、人間の負の感情や歪んだ言葉を取り込んで変異した『感染体』のようなもの。でも、この『ファルス・ジャーク』の波形は違う。言葉そのものが、最初から邪悪な意思を持って自律駆動しているみたいなの。通常のジャークとは、明らかに別種よ」
「別種……? 冗談だろ。あんな理不尽なパワー持った奴が、通常の亜種とでも言いたいのか?」
「いいえ。亜種というより……『純血』。あるいは――」
「――『原典』というべきだろうな」
重厚な声が研究室に響いた。
部屋の奥、巨大な書架の陰から歩み出てきたのは、教授の宗一だった。
その手には、研究室の最深部にある防湿金庫から取り出されたと思われる、一冊の古びた文献が握られていた。羊皮紙とも紙ともつかない、不気味な黒ずんだ革で装丁された巨大な書物。
「教授……それは?」
訔が尋ねる。宗一は無言のまま、中央の作業台にその書物を重々しく置いた。
埃の匂いと、どこか焦げ付いたような古い異臭が鼻をつく。
宗一が慎重な手つきでページをめくる。何百年、あるいは何千年前のものか分からない手書きの文字が刻まれたページを飛び越え、ある見開きのページで彼の指が止まった。
そこに描かれていたのは、異様な禍々しさを放つ四つの太い文字だった。
【暴】 【偽】 【黙】 【縛】
その文字を目にした瞬間、宗一の顔から急速に血の気が引いていくのが分かった。威厳に満ちた彼の唇が、微かに震えている。
「……まさか。都市伝説の類だとばかり思っていたが、実在していたというのか……」
「教授? 一体なにが書いてあるんですか」
陸が覗き込む。宗一は深く吐息をつき、かすれた声で言葉を紡いだ。
「これは……ライドワードの記録ではない」
「ライドワードじゃない?」
訔が目を見開く。自分たちがジャークに対抗するために使い、あるいはジャークから回収してきたあの「言葉の力」ではないというのか。
宗一はゆっくりと頭を振った。
「ライドワードとは、太古の人類が言葉の力を正しく制御するために生み出した『器』だ。だが……この書物に記されているのは、器に収められる以前の存在。かつて、音響文字文明を滅亡寸前まで追い込んだ……」
宗一の手がページをもう一枚めくる。
そこに現れたのは、見開き全体を塗りつぶすかのような、巨大で禍々しい黒い影――その中央に躍る文字。
『
「言葉そのものから生まれた、災厄だ」
宗一の言葉が、研究室の空気を氷のように凍りつかせた。
「人間が言葉を獲得した瞬間に生まれた、原初の毒。暴虐、偽慢、沈黙、束縛……言葉が持つ最悪の側側面が意思を持った存在。それが『原典呪言』……! ファルス・ジャークはその一角に過ぎん」
訔は自分の胸に手を当てた。
ファルス・ジャークが去り際に残した言葉。あれは単なる揺さぶりではない。言葉の原典たる存在が放った、人間の精神の根幹を腐らせる「呪い」そのものだったのだ。
*
暗濁とした、次元の狭間のような空間。
建造物の廃墟とも、巨大な文字の墓標ともつかない異形構造物が立ち並ぶ闇の中で、ファルス・ジャークが優雅に膝を折っていた。
『――ふふ、申し訳ありませんわ、ライオット様。途中で遊びが過ぎてしまいました』
ファルスが平伏するその先。
一段高い瓦礫の上に座す巨躯が存在した。
全身から刺すような赤黒い圧迫感を放つ男――ライオット・ジャーク。その胸部には、荒々しく血のような赤で【暴】の文字が刻まれている。
「【咬】の言葉を使う者はどうだった?」
ライオットの声は、空間そのものを震わせる重低音だった。
『想像以上ですわ』
ファルスは立ち上がり、うっとりとした表情で自分の指先を見つめる。
『音無訔の鳴らす音……あれは真っ直ぐで、純粋で、そして何より――実に壊しがいがある。けれど……くす、可哀想に。彼はまだ、自分が何を咬んでいるのか分かっていない』
「構わん」
ライオットは興味なさそうに吐き捨てると、己の右手を前に掲げた。
その掌の上に、禍々しい赤黒い波動を放つ『暴』の原典文字が浮かび上がる。
「理由も、正義も、奴の覚悟もどうでもいい。真実を知れば……奴は自ら壊れる」
ライオットの目が、暗闇の中で凶悪に光った。
「俺様たちが破壊するのは、肉体ではない。『言葉』によって作られた奴らの世界そのものだ」
その言葉に応じるように、闇の奥から重厚な威圧感が二つ、さらに押し寄せてきた。
一つは、巨大な沈黙を纏う巨影。
禍々しく口に該当する部位が完全に塞がれ、全身から一切の音を消し去る波形を放つ者
――サイレンス・ジャーク
もう一つは、無数の黒いチェーン――文字で編まれた言語の鎖を全身に巻きつけ、蠢かせる異形
――バインド・ジャーク
【暴】のライオット。
【偽】のファルス。
【黙】のサイレンス。
【縛】のバインド。
かつて文明を崩壊へと導いた四つの原典、災厄の象徴たる
世界を覆う「言葉」の歪みが、加速度的に満ちていく。
ライオットは座していた瓦礫から立ち上がり、暗黒の虚空に向けてその太い拳を固く握りしめた。
「始めるぞ」
四幹部の放つ絶望的な圧力が合一し、空間そのものが悲鳴を上げて軋む。
「人間どもが“言葉”と呼ぶ幻想を――ここで終わらせる」