こんなにも晴れやかな気持ちで、新年度の朝を迎えることができるなって、いつ振りのことだろう。
去年までの俺なら、こんなことは絶対になかった。朝の情報番組の左上に表示されている時刻が通学時間に近づくたびに嫌な気分になり、毎日の星座占いの結果を見て(そういう時は大体順位も低い……)、ため息をつきながら一人ぼっちで学校へと向かっていた。
しかし、そこから一年経ち、高校二年生となった今は──。
「よっ」
「よ。おはよう、海」
「ん。おはよ、真樹。なんだ、まだ頭ボサボサのだらしないパジャマ姿だとばかり思ってたのに、意外とピシッとしてるじゃん。感心感心」
「まあ、春休みはバイトの日以外ずっとだらしなかったから、さすがにね。お湯沸かしてるけど、コーヒーでいい?」
「うん。あ、朝だからミルクたっぷりで」
「はいよ」
この二人きりの朝の時間をほんの少しでもゆっくりと過ごす、この時間が好きだ、海と一緒に居られる時間が何物にも変え難い大切な時間だ。
これで後は、新しいクラスとなっても、一年次と同じく海と一緒のクラスになれれば、ひとまず今日については言うことはないのだが。
「海、一緒のクラスになれるといいな」
「ね。私はほぼ間違いなく進学クラスになっちゃうから、夕たちとは離れ離れになっちゃうのは覚悟してるけど……でも、さすがにいきなり一人ぼっちってのは寂しいし」
これまでの定期試験の成績を見る限り、海と一緒のクラスになる可能性があるのは俺だけだ。俺と海が中心となった勉強会のおかげで、天海さんや新田さん、望の赤点ギリギリ三人衆の学力は目に見えて改善したけれど、それでもまだまだ下から数えたほうが早い。
難関私立・国公立大学の合格を目指すための進学クラスである11組の定員は約三十名──学年トップ5に入る成績の海のクラス入りは確実だが、俺の方は果たしてどうだろうか。
「大丈夫だよ。今、真樹が勉強を頑張っているのは私が一番知ってるし。それに、結果にだって目に見える形で出てるんだから、先生だってきっと推薦してくれるよ」
「そうかな……まあ、仮に別クラスになっても日中ずっと会えないわけじゃないし、そうなったらまた二人で色々相談すればいいか」
「うん。二人で……ね?」
「……うん」
そうして、俺たちはいつものように手を繋ぎ、指を絡ませ合って出発までの時間を惜しむようにいちゃつく。
もし天海さんたちが目の前でこのやり取りを聞いていたら、きっと『お前らは離れてるぐらいがちょうどいい』と言われてしまうだろうが……それでも、可能な限りは一緒の空間と時間の中で、お互いの存在を確かめていたいと思う。
ともかく、結果は数十分後のお楽しみだ。
いつものように通学路の途中で天海さんと合流し学校へ向かうと、すでに昇降口前には大きな人だかりができていた。
昇降口のガラス戸に直接貼り出されていたのは、もちろん、新クラスのメンバーの名前が記された名簿。ここで何組の所属になったかを確認し、これから新しい一年を過ごすことになる教室へ移動する。
クラス表の確認のため、人だかりの最後尾で順番をゆっくりと待っていると、背後からぽんと肩を叩かれた。
「よう、真樹」
「あ、おはよう望。望は何組かもう確認した?」
「ああ、4組だった。顔ぶれもざっと見たけど、まあ、だいたい運動部組が集められた感じだな」
「そっか……」
なんとなく予想はしていたが、望とは二年以降は別クラスになるだろう。二年から三年の際にもクラス替えは行われるが、進学の際、スポーツ推薦なども併せて狙っていくクラスの場合、顔ぶれはそう変わらないと話を聞いたことがある。
「はあ……覚悟はしてたけど、天海さんと別々のクラスになるのかぁ……せっかく席替えで近くの席になって毎日が楽しかったのに……」
「はは……まあ、また何かあったら連絡するから」
「本当か? 本当だな? 聞いたからな? 夏の大会、絶対天海さん連れて応援に来てくれよな? 俺、待ってるからな?」
「う、うん。それは皆に声かけて行くようにするから……あの、あんまり肩を強く握らないでくれると嬉しいなって……」
そうして面倒な彼女みたいになっていた望をなんとか宥めた後、いよいよ自分のクラスの確認へ。
ウチの学校は各学年そこそこ人数が多く、クラスは11組まである。4組でないことは望の話で確定しているから、残りのどれかということになるが。
「は~、なんか緊張する~……どうか海と一緒のクラスになってますように、海と同じクラスになってますように……」
「あのね夕……どれだけ願っても叶わない夢ってのはあるのよ」
「あ~ん、わかってるけど言わないで~!」
「夕ちん、まだ私と一緒になれる可能性はあるから。ほら、一緒に見に行こ?」
「う~……」
一足先に名前を見つけた二人の表情を見るに、どうやら天海さんは新田さんとも離れ離れになってしまったらしい。同じクラスに海や新田さんの名前がないことを確認して落ち込んでいる天海さんを、新田さんがなにやら必死に慰めている。
「……ねえ、真樹」
「うん」
「一緒のクラスに、なりたいね」
「……うん」
きゅっと俺の手を握ってきた海を見て、俺は頷いた。
前にいた生徒たちの数が少なくなってきたところで、俺と海は手を繋いだまま、成績優秀者のみが集められる2年11組のクラス表の前へ。
海はほぼ間違いなくここのクラスだろうが、果たして俺の状況はどうなっているか。
出席番号順に、上から確認していく。五十音順なので、海の名前はすぐに見つかった。
1番 朝凪海
「ここはまあ、予想通りだな」
「まあ、さすがにね。後は真樹の名前さえあれば完璧なんだけど・・・・えっと、前原真樹、前原真樹・・・・・・」
見落としがないよう、慎重に一人一人順番に確認していく。
2番、3番、そして10番。前原なので、名前が載っているとすれば後半になるはずだが。
25番 前原真樹
「あった!あったよ真樹!」
「うん!あったよ海!」
海とまた同じクラスになれた。
「真樹っ、すごい、えらいっ」
「ありがとう。海が勉強見てくれたおかげだよ」
「えへへ、それほどでも〜。それじゃあせっかくだからご褒美貰わないと」
そう言って、海は俺の胸の中に飛び込んできた
「ちょ・・・海、周りに人もいるんだし、いきなり抱きつくのは・・・・」
「だって嬉しいんだもん、また真樹と一緒のクラスになれたのが」
そんな可愛い事を言ってくる海を俺も力いっぱい抱きしめた
周りからの視線や天海さん新田さんの圧を感じるけど、今は目の前の海だけに集中する
「へへ、真樹を堪能した事だし、そろそろ教室に向かいますか」
海の差し出して来た手を恋人繋ぎで、握り返し
「ふっふっ、なんだか真樹と一緒のクラスで安心してより楽しくなって来たな〜」
「俺も海と同じクラスになれて一安心だよ」
「きっと楽しい1年になるね」
そんな会話を続けながら2人で新しい教室に向かう
新しい11組進学クラスは30名、そのうち3分の2が女子生徒という事に気づいたらしく、海が途中から不安モードに入り、腕を組みながら教室に向かう。
顔を真っ赤にしながら「最初のインパクトが・・・」など呟いているが、そんな不安にならなくても俺は海だけのものなのに。
そんな海の不安を少しでも和らげる事が出来るのならと、海の思うがままにしてあげている。
そんな状態のまま11組に入る。
俺たちが入った瞬間、既に教室にいた生徒たちがコチラを確認し色めいた。やはり女子生徒が多いので、この手の話題には敏感なようだ。
「じゃあ真樹、また後で」
「うん、また」
予鈴がなったので、それぞれの席に別れた。出席番号順ということもあり、海とは中々離れた席であったが、直ぐに席替えも行われるだろうから、またなるべく近い席になりたいものだ。
席についたがまだ先生は来そうにない、そんな時視線に気がついた。
隣席の女子生徒からだった、黒縁メガネに、長い髪を後ろにまとめている。
一見、真面目そうな外見の人だが。
「おやおやおや〜、すごい美人さんと、イチャイチャしながら入って来たから、どんなプレイボーイかと思いきや、なかなか優しそうな彼氏君ではないか〜」
「あっ、えっと・・・どうも」
「なになに?とりあえず俺の彼女可愛いだろ?俺のものだから、誰にも挙げないぞ〜って牽制?」
どちらかといえば、アレは海が行った牽制だったんだけど、今ここで言ってもしょうがないと諦めていた所で前の席から
「もう、うちの澪がごめんなさい。でも、初日からとても仲の良いカップルが入って来て、ちょっとテンションがおかしくなってしまったみたい。あ、剣道部の早川涼子です。よろしく」
「おっと、これは失礼!人のことをとやかく言う前に、まずは名乗らないと不公平だったね。私の名前は中村澪。分かってると思うけど、11組トップを務めさせて頂いている女だよ。」
「あっ、ご丁寧にどうも、前原真樹です。こちらこそ、なんかお騒がせしてしちゃったみたいで」
そんな感じに軽い自己紹介を行ない、暫く会話をしていると
「は〜い、遅れてごめんね。それでは最初のHRを始めますよ」
担任の先生がやってきて、先生の自己紹介を行っている時、海よりLINEが届いた
「(海)うわきもの」
どうやら先程の中村さん、早川さんとのやりとりを浮気判定されてしまったらしい、どうやって海のご機嫌を良くしようかと考え始めた時、先生から
「それじゃあ簡単に自己紹介を済ませていきましょうか、とりあえず出席番号順ってことで、朝凪さんからお願いできますか」
「はい、朝凪海です。1年の時と同じクラスメイトが1人しかいませんので、ちょっと緊張していますが、気軽に話しかけてくれると嬉しいです、あと25番前原真樹は『私の彼氏』ですので、よろしくお願いします」
思わず顔が熱くなるのを感じて机に突っ伏してしまった。
周囲は騒然としているし、先生は海に軽く注意して、次の生徒を指名した。
隣の中村さんはニヤニヤとしてコチラを見ている。
自己紹介が進んでいく中、LINEを海に送った
「(真樹)あの〜海さん?」
「(海)何かな真樹さん」
「(真樹)先程の自己紹介は何でしょうか?」
「(海)私何か間違った事言った?私の彼氏、前原真樹くん何も間違えてないよね?」
「(海)それともさっきみたいに、色んな女の子と仲良くしたいから黙っていて欲しかった?」
「(真樹)いいえ、何も間違えておりません、俺の彼女、朝凪海さん」
「(海)なら宜しい、あと自己紹介でちゃんと紹介してね」
そんな海からのやりとりをしている間に、自分の番まで後少しの所まで来てしまっていた。自己紹介は苦手なのに、さらに海からの無茶振りに目が回りそうだ
「次は前原真樹くん」
ついに自分の番になってしまった、海の紹介で呼ばれてしまったから、周りが騒ついている。
「前原真樹です、よろしくお願いします。えっ〜と出席番号1番、朝凪海は大事な最愛の『俺の彼女』なので、今日みたいなお騒がせを2人でしてしまうと思いますが、温かく見守ってください、よろしくお願いします。」
またやってしまった(バカ正直)
クラスの女子はキャーキャー騒ぎ、先生もこめかみを抑えてる、海の方向を向けない
「(海)真樹のバカ」
そんな海からのLINEも届いている
中村さんもニヤニヤしながら「今年のこのクラスの主役は決まったね〜、退屈せずに済みそうだ」など呟いてるし
A.互いに思いが強すぎて暴走しました