――この世界にダンジョンが現れてから、十数年が経過した。
少し離れたところに、鼻垂れたシカみたいな、ガゼルみたいな生き物がいる。
一点おかしなところがあって、それはそいつらの角がとても凶悪な形状をしているということ。あれが刺さったら人は容易に死ねる。
その生き物はグロウホーンサイガという名前で呼ばれている。
今回の獲物だ。
そんな化け物みたいな生き物たちの群れを、僕と先輩は樹上から眺めていた。
「知ってる、ヒロ? あれ角光るんだよね」
先輩が小声で話しかけてきた。
群れを眺めていた僕の様子に気付いたらしい。
ヒロ、というのは僕のあだ名だ。
周囲の人は大体そう呼ぶ。
「なんか前に動画上がってたの見ました。端から見る分には綺麗ですよね」
「夕暮れ時とかね。あんな鼻垂れのシカもどきなのに」
修学旅行の消灯後、先生に見つからないよう話すみたいに、僕らは声を潜めて会話する。
この木の下には罠が設置してあって、サイガがうまくかかってくれるのを待っている最中の雑談だからだ。
サイガは下にある草木を食べる。
だからあまり上方向には意識を向けない生き物だ。
頭上のちょっとした物音や動きには反応が鈍い。
とはいえ、堂々と話していたら気付かれるのでこうして小声で話しているという訳だった。
そもそも雑談するなという話でもあるんだけど、狩猟は待つことが多い。
釣りと同じだ。
スマホがあれば時間を潰せる現代っ子でも、電波が入らないと中々難しいのでこうして雑談している。
先輩はちら、と下に視線を向け、続ける。
「にしても、なんで今更サイガの膜が値上がりしたんかね」
「ああー」
数日前からサイガの鼻腔内膜――サイガは鼻の中にフィルターみたいな膜があるのだ――の値上がり傾向が出ていた。
だから僕らも今日サイガを狙っているわけなんだけど。
「なんかまた、平成製薬が研究するらしいですよ?」
「どこ情報よ、それ」
「さっき休憩時間のめぐさんが教えてくれました」
めぐさんというのは役所の職員のお姉さんだ。そして仕事柄なのか色々知ってて、たまに教えてくれる。
鼻膜値上がりの原因を僕が教えると、先輩は呆れたように肩を竦めた。
「めぐさんヒロには甘いな〜」
「僕には、というかそもそもみんなに甘いですよめぐさん」
「分かってないなぁお子ちゃまだなぁヒロくんは」
別に僕だけ特別扱いされた覚えはない。
値上がりの話だって偶々休憩時間に入っためぐさんが僕と遭遇して今日の獲物の話になったから教えてくれただけなのだ。
「そういうのじゃないと――先輩」
「しっ」
物音。
草木を踏み分ける足音だ。
重なるような足音。四足獣っぽい。
恐らく狙っていたサイガが来た。
息を潜める。
やがて樹上から見える範囲に鼻垂れのシカのなり損ない――グロウホーンサイガが姿を現した。
こちらに気付いた様子もなく、鼻をヒクヒクさせながら呑気に生えた草を貪っている。
それでいい。
そのまま進め。
サイガの進行方向上に、しっかりとトラバサミがある。
先輩の予想していた動きが当たっている。
このトラバサミはそれなりに高かった。
態々今日のために買い直したのは、いつものように補助的に使うのではなく確実に拘束したかったからだ。
あと数歩の距離に来た。
大体2メートルくらい。
進む。
あと1メートル。
進む。
あと数十センチ。
進め。
進め。
いけ、踏め、踏め――!
「状況開始! 打ち合わせどおりで!」
ガシャ、と金属音を立てて閉じるトラバサミとサイガの甲高い悲鳴。
それらが聞こえるかどうかのタイミングで僕は相棒――M16A4を発砲していた。
サイガのバイタルパートは脳、心臓、そして――魔臓と呼ばれる特殊な臓器。
そのうち脳は狙いの部位を破壊するおそれがあるので除外。
撃っていいのは胴体前部にある心臓か魔臓のみ――!
僕の放った銃弾は心臓を射抜いた。
……はず。多分。
「……先輩、あれ心臓当たってましたかね」
「狙いはちゃんと合ってた。後で答え合わせするか」
しっかり心臓を射抜いたはずのサイガはまだまだ元気そうに暴れていて、なんだったら逃げられそうな勢いだった。
流石野生生物。バイタリティがすごい。
僕と先輩は樹から滑るように降りて、サイガの後方に回る。
「おいこら逃げんな逃げんな」
先輩が発砲した。
僕の相棒とは違う轟音が響いて、サイガの自由な方の後脚が砕ける。
サイガは血を噴き出しながら、それでも藻掻いていた。
……楽にしてやろうな。
これは人間のエゴによる狩猟だ。
だからこそ、彼に無用な苦しみを与えるべきではない。
僕はナイフを抜き、角を避けながらサイガの首の側面へ回る。
……こいつっ、頭をっ、めちゃくちゃ振り回しやがる!
「ええい大人しくしろ」
危なすぎる形状の角が当たらないように気をつけながら、ナイフでサイガの首を深く切り裂く。
こういう時、下手に遠慮したり力を緩めたりしてはいけない。
感謝と謝罪ともう暴れるんじゃないという強い気持ちで深く深く刃を突き立て、裂くのがお互いのためだ。
裂かれた首から血が噴き出し、辺りにツンとした鉄錆臭が漂う。
魔物の血にもヘモグロビンは含まれているらしい。
やがてサイガは身体の痙攣を止めて、完全に沈黙した。
「成仏してくれよ、サイガ……」
「成仏してくれよー?」
僕らは二人して仏となったサイガに手を合わせた。
サイガからしてみれば急に襲われて殺されたわけだから成仏もクソもないとは思う。
だからこれもやっぱり人間のエゴなのだ。
――まあ、結局こいつらは被捕食者側だからどうせ僕らが狩らなくてもいつか食われて死んでたと思うけどね。
「よし、やるか」
「やりますか」
樹上に置いたままだったバックパックから解体用の手袋とナイフ、それから折りたたみ式の骨鋸を取り出す。
このナイフもそろそろ買い替えないといけないかもしれない。
今回のメインターゲットたる鼻は僕よりも慣れてる先輩にお願いして、僕は角の方の解体に回る。
……やっぱりか。
「やっぱ角片方ぼろぼろですね。売れそうにないです」
「やっぱりか。角一本だと結構下がるよな?」
「確か今だと2万くらいじゃなかったですかね」
「しゃーない。そっちはダメ元だったからな」
とはいえ運が良ければもう数万稼げていたと思うと、惜しい気持ちはなくならない。
僕が恨めしげに切り離した角を見ていると、先輩の嫌そうな声が上がる。
「うえ、鼻水ついた」
「べっとりいっちゃってますね」
「サイガの鼻ねちょねちょしてて嫌なんだよね」
「汚いですよね」
サイガの不満が聞こえそうな会話だが、仕方ない。
酷い花粉症の人よりずるずるの鼻なのだ。
解体は手間がかかる。
先輩がやった鼻を初め、角、皮、肉の商品価値がある順に解体していく。
それだけで2時間近くかかった。
「石なかったですね」
「サイガのは商品価値もそんなないから気にしなくていいでしょ」
売れる部分は保冷袋や密封袋に丁寧にパッキングして、売れない内臓や骨はビニール袋に入れて折りたたみの移動カートに載っけていく。
こういう内臓とかを持ち帰るのは義務ってほどじゃないけど、推奨されている行為だ。
他の魔物への影響が出てしまうのを極力防ぐための協力要請。
とはいえ、状況なんかから不可能と判断したら簡易的に焼却したり砕いたりして置いとくだけでもいいとされている。
先輩や僕はキャンプ用の折りたたみカートを使ってこういうのをベースキャンプまで持って帰って、そこの焼却炉に突っ込むまでするようにしている。
「ヒロ、準備いいか?」
「薬莢よし、罠よし、残置物よし。おっけーです」
「じゃ帰ろう。周辺警戒頼むな」
「はーい」
いらない部分を載っけたカートを引いていくのが先輩。
周辺警戒をするのが僕。
先輩は何かとこういう警戒行動を僕にさせたがる。多分経験を積ませようとしてくれている。
「サイガは鳥獣系が好き好んで食うから上もちゃんと警戒しろよ?」
「竜でも来ない限り僕の相棒の餌食にしてやりますよ」
「亜竜とか飛んできたりしてな」
「そんなまさか」
――そのまさかだった。
なんてことはなかった。
そもそもサイガたちだって食われないようにしているし――上への警戒が薄いことに間違いはないが――僕らもこの辺にいる群れを狙うと決めたのは、横槍が入らないよう周囲に別の魔物の目撃がまだされていないことを確認したからだ。
よっぽどじゃない限り、狩りにイレギュラーな事態は起きない。
モンスターでハンターなゲームみたいにぽんぽん別の目標が出てくるのはゲームだからであって。
というかあのゲームは拠点となる村とかから近い場所の危険生物を間引きならともかく、どうして遠そうな火山とかの狩りで乱入予想されているものを狙いにいくのか。
これは僕が探索者となったが故の見方なのかもしれないが。
それはともかく。
男二人による草原ツアーは無事に終わり、テントが乱立するベースキャンプまで戻ってこれた。
僕ら以外の探索者も同じように戻ってきた組、これから出かける組とが各々のやるべきことをやっている。
「おっ、ヒロくん今戻りかい?」
「ええ、狙いのがうまく狩れたので。そういう香田さんはこれからですか?」
僕らが焼却炉にサイガの残り滓を放り込んでいると、声を掛けられた。
知り合いの探索者。
香田さんだ。
眼鏡をかけた気の良いおじさんで、普段は会社役員をしているらしい。すごい。
「向こうの沼までちょっとね」
「これから向かうってことは……」
時計を見る。
時刻は11時くらいで、周囲は陽が落ちかけている。
沼かぁ……
「ナマズですか?」
「おお、正解だ。流石、よく仕込んでるね先輩くん」
「ヒロは飲み込み早いですからねー」
香田さんが取り出したのはごっつい釣り竿とこれまたごっついリール。糸なんてもはや針金みたいだ。
そんな話をしている間にカートの中は空になっていた。
サイガの痕跡はもはや僕らのバックパック内にある部位だけだ。
「それじゃ香田さん、僕ら先に上がります。沼の方にハウリングオウルが飛び立っていったって話あったのでお気を付けて」
「あちゃあ、ハウリングオウルか。うちで戦えるの若林くんだけなんだけどな……教えてくれてありがとう」
事前に調べた情報があっても、実際現場では刻々と状況が変わっていく。
そういう、リアルタイムの生情報はこうして探索者同士が交換するしかない。
仲間内で相談しにいった香田さんを見送る。
香田さんの反応からすると狙いを変えるか、今日は諦めて帰るのかもしれない。
折りたたみカートをしまい込んだ先輩がバックパックを背負い直した。
そして指差し確認を始める。
僕も一緒になって確認する。
「マガジン引き抜き」
「よし」
「薬室確認」
「よし」
「セーフティ確認」
「よし」
「危険物収納」
「よし」
「成果物梱包」
「よし」
「「今日もご安全に!」」
ヨシ!
これはダンジョンから地球に帰る前のちょっとした確認作業。
ダンジョン回りには色々ルールがあって、それを破ると最悪資格剥奪になる。たまに他所のどこそこでこういう人が剥奪になりましたよ、という掲示がされている。
僕と先輩だとこんな感じでやっているけど、他の人はもっと緩かったりそもそもやらなかったりだ。
よっぽど悪質だったり常習的じゃなければ剥奪までいかないけど、普通に職員さんに怒られるし、そんなことで目を付けられるのも馬鹿らしいので僕らはこうしてルーティン化している。
「じゃあ、遠足終了ということで」
「帰りましょか」
ダンジョンと地球を繋いでいるのはなんというか、空間の揺らぎ? のようなぼんやりと歪んだ部分。
穴と呼んだり量子もつれの世界間通路と呼んだりまあ色々言われているけど、一般的には穴とだけ呼ばれている。
穴の向こう側にはダンジョン管理棟の中が見える。今はちょうど誰も入ってこようとしていないみたいだ。
管理棟の方が狭いせいで、入る人たちがいると帰る人たちが結構待つことになる時もある。
まず先輩が先に穴を通って、僕が続く。
穴に入る感覚は形容しがたい。
粘性の低反発クッションみたいな感じといえばいいのだろうか。最初は弱い押し出す力を感じるけど、すぐに吸い込む力に変わる。
景色が一転する。
自然豊かな草木と硝煙の香り……硝煙の香りが具体的にどれって言われるとちょっと分からないけど、とにかくそれが混じった匂いだったのが、木材とインクの混じった匂いに切り替わる。
戻ってすぐに全マガジンから残弾を抜き、紙箱に詰める。
銃器と紙箱、それから弾薬使用数報告兼銃器入庫確認申請書を窓口に提出する。
この時に使用済み薬莢があると確認が楽なので、僕らは薬莢をなるべく拾うようにしている。
確認はすぐ終わったのでそのまま回収資源確認・引取窓口に向かう。
僕らのバックパックから取り出した回収物をカウンターに乗せていく。あまりにも大きいものは奥の方で対応してもらうことになるが、今回の僕らはカウンターで十分だ。
僕のバックパックから飛び出していた棒状のもの――新聞紙を巻いていた角だ。うまく運ぶ方法がなくて仕方なくバックパックから突き出る形で入れた――を見た瞬間に職員さんも獲物の察しがついたらしい。
中年太りのこの職員さんはここの経験が長く、丸眼鏡の奥の小さな目が鋭い光を放っている。
「サイガですか。この肉量だと中々いい個体だったみたいですね」
「年は食ってそうでしたね。見る目のない雌にフラレてたみたいですけど」
先輩が気安そうに職員さんと話している。
先輩も探索者歴が長いので、付き合いが長いこの職員さんとよく話している姿を見かける。
僕は僕で角に傷がつかないよう慎重にカウンターへ置く。一本しかないから余計に査定額が気になる。
回収物を全て置いたら、職員さんから呼び出し番号の印字された紙を受け取って待合の長椅子に2人で腰掛ける。
「ヒロ、お前今回いくらくらい使った?」
「えぇと、罠と弾一発、それに消耗品で……三万弱くらいですかね」
「俺は弾一発と細々したので一万くらいだから……いいとこ一人五万くらいになるか?」
「内膜の値上がり幅が読めないですからねえ。もう少し行くかも」
……呼び出しのアナウンスだ。
先輩の持っていた番号券が前のモニターにも表示されている。
「終わったか」
「角がどれくらいか気になりますね」
「まだ言ってたんだそれ」
買取査定額は思いの外高かった。
特に鼻腔内膜。
やはり値上がり傾向はまだ続いていたらしい。
逆に角はやっぱり安くて、落胆と納得。
問題なのは。
「サイガ肉1kgってこんなもんだったっけ……」
肉の方。
ダンジョンに入る前に確認した額よりかなり安い。
「鼻腔内膜需要でむしろ肉の方はダブついてきてるみたいですよ」
「かぁーそういうことか」
「肉、どうしましょうか」
先輩は少し考える仕草を見せて、目線を彷徨わせた。
「この額なら和王グループとかに売ったほうがいいっしょ」
「じゃあそうしましょ」
先輩がにこにこしてる職員さんに方針を伝える。
「たぬさん、肉は民間に卸すのでそれ以外買取で。分配は俺に六万、ヒロに八万で」
「分かりました。じゃあこの書類書いてね」
「ヒロもそれでいいか?」
「大丈夫です」
金額確認と所有権移譲同意書にサインする。
この辺ペーパーレスになってほしいけど、後で言った言わないが起こるから無くせないんだろうなあ。
「……はい。記載確認できました。それじゃあ分かっているとは思うけど、こちらの入金はひと月くらい先にね、なるのでね」
「はい、ありがとうございます」
「では、またのご利用お待ちしております」
職員さんに見送られて2人で管理棟を出る。
初夏の熱気が途端に身体を包みこんだ。
「あっつー……夏の間ずっとダンジョン籠もってようかな」
「いいですねえそれ……ほんとにできたら」
管理棟から出ても、まだ周囲は普通の街中じゃない。異界管理区域内だ。
周囲には探索者向け装備店や銃砲店が並び、回収物買い取りを目的とする民間企業が買取窓口を仮設店舗で建てている。
……前はもっと限られた企業しかいなかったはずなのに増えたな。
やっぱりこの前の規制緩和がきっかけか。
「和王、和王、和王は……あったあった」
「いくら保冷バッグに入れててもなんで、肉が駄目になる前にさっさと売り払っちゃいましょ」
「こんなに暑いとなぁ」
それぞれで抱える保冷バッグ内の肉も鮮度がいいうちに使われたいに違いない。
和王グループは国内の飲食店チェーン大手のグループ企業だ。
それもあってプレハブ小屋には人が集まっていた。
受付に座る疲れた顔のおじさんに近付く。
「いらっしゃいませ。買取ですか?」
「ええ。肉なんですけど、いけますかね?」
「サイガ肉ですね?」
何故分かった、と言いたいが多分。
僕らと同じ考えのやつが他にもいたな。
「只今サイガ肉の買取が増えておりまして、価格は多少お安くなってしまうのですが……」
おじさんが示した手書きの買取表は何度か書き直され、回収資源確認・引取窓口で提示された金額とあまり大差ないくらいにまでなっていた。
「先輩、多分どこも同じです」
「だよなぁ……考えることは皆同じ、か。」
先輩は汗を滴らせながら、おじさんへ頷いた。
「それで構いません。あ、現金で貰えますか?」
「分かりました。現金ですね」
先輩、暑くて考えるの面倒になったな。
とはいえそれも悪いわけではない。
……今日のお昼はちょっと奮発しちゃうか。
「ではこちらにご記入を。併せて探索者資格証のご提示もお願いします」
「はい」
2人揃って資格証――マイナンバーカードみたいな顔写真つきカードだ。ちなみに身分証明書として普通に使える――を提示し、おじさんは顔写真と僕らの顔を見比べる。
「あ、申し訳ないのですが前髪を少し上げてもらって……はい、すみません。ありがとうございます。確認できましたのでお返しいたします」
こちらの書類記入も終わった。
おじさんが書類と肉の現物を確認し、奥に引っ込んだかと思うと現金を持って戻ってくる。
「それではこちらですね。金額の方、お確かめください」
「1、2、3……ちょうど確かに。ありがとうございました」
「こちらこそ、ご利用ありがとうございました。弊社グループではサイガ肉以外の肉類、魚、植物なども喜んで取引させていただいておりますので、是非ご検討ください」
「はは……」
企業の人って大変なんだなあ。
和王グループから離れ、あたりの飲食店グループを見てみると先ほどの僕らと同じような光景が繰り広げられていた。
……仕方がないよな。
サイガ一頭から取れる肉に対して需要のある鼻膜の少なさたるや、だから。
「ヒロ、ほれ」
「ありがとうございます先輩」
先輩が渡してくれる現金を確認し、財布に入れる。小銭入れ部分がぱんぱんだった。
計算が面倒だから、という理由でいつも先輩が押し付けてくるせいだ。
別の小銭入れでも買うか……?
「先輩この後どうします? ご飯とか行くなら奢りますけど」
「あーもうそんな時間か……いや、やめとくわ。銃のメンテしておきたいし」
「じゃまた今度ってことで」
何の気なしに歩いていた結果また管理棟前まで戻ってきていた。
先輩はこれから整備室を借りて点検整備をするらしいが、僕は普通に帰るとする。
「それじゃお疲れ様でしたー」
「お疲れー」
管理棟に入っていく先輩を見送る。
……あ、めぐさんだ。
受付のところに立っている美人な職員、めぐさんがこちらに気付いて小さく手を振ってくれる。
僕もまた小さく振り返す。
「んー……それじゃあ、帰るか」
先に更衣室に寄って、着ていたシャツやズボンを着替えていく。
暑い中に出たせいでびちゃびちゃだ。洗うの大変なのに。
気休めに消臭スプレーをかけて、デイバッグの中に詰め込む。
「一時出場ですか? 帰宅ですか?」
「帰宅でーす」
「分かりました。資格証拝見いたします」
管理区域の入口に立っている警備員の人に資格証を見せて金属網ゲートを開けてもらう。
このゲートを過ぎればそこはもう普通の渋谷だ。
普通の街中に鉄条網で囲まれた管理区域がしれっと存在しているこの光景を、今の日本は当たり前のものとして受け入れている。
渋谷駅は相変わらずの混雑具合。
もうちょっと遅らせるか迷う。
……暑いし、さっさと帰るか。
こうやって僕は日常に帰っていく。
そしてまた、ダンジョンへ向かってお金を稼ぐ。
――僕らは、探索者をしている。
小説の書き方分からんね