FINAL FANTASY Ⅶ Revengers 作:オレンジⅩⅢ
翌朝。
昨夜のうちに、スカーレットの部屋に仕込んでおいた盗聴・記録装置から、有益な情報を拾うことができていた。
定期的な整備という名目で通ううち、少しずつ、部屋の各所に配置を進めてきた成果だ。発見されれば、それだけで、全てが終わる。
だからこそ、一つ設置するごとに、細心の注意を払ってきた。
雑音混じりの音声を、繰り返し再生し、聞き取れなかった部分を、可能な限り補完する。
――『ねぇ、“例マテリア”の件、進捗はどう?』
――『相変わらず、手がかりすら掴めていないわ。ミッドガル周辺の魔晄炉、一通り調べ尽くしたけど、それらしいものは無し』
――『外部の調査は?』
――『来月から、順次始める予定よ。でも、正直、期待はしていないの。あれば、とっくに神羅が見つけてるはずでしょう』
会話の相手は、恐らく、科学部門の人間だろう。声色までは特定できないが、内容から察するに、スカーレット自身も、この件にはある程度関与しているらしい。
(――やはり、か)
内心で、独りごちる。
以前、スカーレットから聞き出した情報と、今回の会話。二つを照らし合わせれば、答えは一つだ。
(ミッドガル周辺には、無い)
科学部門が、これだけ大々的に、しかも長期間にわたって探し続けているにもかかわらず、成果が出ていない。ミッドガル内で完結する話であれば、とうに見つかっていておかしくない。
(本流に、報告するか)
これ以上、確度を上げるのは、現状では難しい。伝えるべき情報は、既に固まっている。憶測を交えず、事実だけを、簡潔に。
昨夜のうちに、暗号化されたチャットを開き、“ゼロ”の名で、文字を打ち込んでおいた。
『“究極マテリア”の件。神羅内部の情報源によれば、ミッドガル周辺には存在しない可能性が高い。外部調査も、来月から本格化する予定とのことだ』
短く、核心だけを伝える。余計な憶測は、混ぜない。これで、本流との関係も、多少は繋ぎ止められるはずだ。“スペンサー”の線を切った分、“ゼロ”としての信頼を、地道に積み上げていくしかない。
義手の付け根には、まだ、鈍い痛みが残っていた。生身の方も、あちこちに、青痣ができている。しばらくは、激しい戦闘は避けたいところだ。
(この身体で、今日の任務に支障が出なければいいが)
自嘲気味に、内心で呟く。策士としての自分と、消耗品のように扱われる自分。その二つが、同じ身体の中に同居している現状に、今更ながら、苦笑いが漏れた。
出勤前、支給品の端末に、新たな通知が届いていることに気づく。
タークス内の情報共有チャンネルからだった。
『五番魔晄炉、アバランチによる爆破予告あり。実行は明日と推定。各員、通常任務の傍ら、周辺警戒に留意されたし』
短い一文に、思わず、眉を寄せる。
(随分と、性急だな)
壱番魔晄炉の一件から、まださほど日も経っていない。それにもかかわらず、次の作戦を決行するとは。
前回の反省を活かしているのか、それとも、内偵の目を意識して、動きを早めているのか。判断材料が少なすぎる。
(それに、あの話も、まだ引っかかっている)
先日、ツォンから聞かされた言葉が、脳裏をよぎる。神羅上層部は、次のテロを、事前に阻止する意思がない。むしろ、被害の規模次第で、対外プロパガンダに転用するつもりだ、と。
今回の五番魔晄炉も、その“利用される側”に回るのだとすれば。
(分流の連中は、まんまと踊らされているだけかもしれないな)
そう思うと、胸の奥に、苦いものが広がる。伝えるべきかどうか、迷う。だが、確たる証拠もないまま、警告を重ねれば、かえって不信を招きかねない。
(クラウドは、今回も絡んでくるのか……?)
胸の内に、僅かな不安がよぎる。壱番魔晄炉の際、想定以上の爆発規模になっていたこと。ジェシーが、その原因に首を捻っていたこと。あの一件以来、拭いきれない違和感が、まだ胸の奥に残っていた。
(今回も、同じことが起きなければいいが)
だが、今の自分にできることは、多くない。
身支度を整えながら、今日一日の段取りを考える。
(この身体では、現場に出るのは難しいか)
スカーレットに痛めつけられた影響は、思いのほか、色濃く残っていた。腕を上げるだけでも、鈍い痛みが走る。無理をすれば、演算魔法の精度にも影響が出かねない。
ツォンは、自分とスカーレットの間で何が行われているかを察しているのだろう。今日のような義手整備の翌日は、午前中に半日休みを与えられる。ありがたい限りだが、出勤後に顔を合わせれば、哀れみの視線を向けてくる。
(となれば、今回は、本社でのデータ取得役に回るのが妥当だな)
戦力としてではなく、情報処理要員として、後方支援に徹する。幸い、その手の任務は、これまでも何度もこなしてきた。不自然な動きにはならないはずだ。むしろ、身体の不調を理由にすれば、誰も疑問には思わないだろう。
(ツォンには、それとなく伝えておくか)
出勤したら、早々に、体調不良を理由に、後方支援を志願しておく。無理に前線へ出て、支障をきたす方が、よほど不自然だ。幸い、この手の判断に関しては、ツォンも合理的に対応してくれる。
出勤前に、寄っておきたい場所があった。
四番街の外れ、目立たない一角にある、小さな診療所。ザックスを預けている、かつての同期の実家だ。
自分の治療も兼ねて、足を運ぶことにする。診療所の扉を開けば、薬品と消毒液の混じった、独特の匂いが鼻をつく。
「よぉ、久しぶりだな」
診療所の一室、簡易ベッドに座っていたザックスが、こちらに気づき、片手を挙げる。顔色は良く、以前のような、熱に浮かされた様子は、もう無かった。頬にも赤みが戻り、目にも力がある。
「思ったより、元気そうだな」
「おかげさんでな。もうすっかり、動けるようになったぜ。……ってか、お前が言うことか? 顔色、悪すぎだろ」
呆れたような視線を向けられ、内心で、小さく苦笑する。
「仕事だ。詮索するな」
「相変わらず、頑ななやつだな」
肩をすくめるザックスに、軽く応じながら、傍らにいた医師に、自分の身体を診てもらう。応急的な処置と、湿布や鎮痛剤を受け取り、簡易ベッドの端に腰掛け、一息つく。
「診てもらってもいいか。こっちも、色々とガタが来ていてな」
医師に診断を受けるのを見ていたザックスは、思わず言葉を漏らす。
「うわ、酷い痣だな。……仕事、ってレベルじゃないだろ、これ」
「気にするな」
素っ気なく返せば、ザックスは、それ以上追及してこなかった。踏み込まれたくない領域があることを、ある程度、察してくれているのだろう。
治療を終え、シャツを直していると、ザックスが、声を潜めて切り出してくる。
「なぁ、聞いたか? アバランチが魔晄炉を爆破したとかいう話」
「……知っている。俺の耳にも入ってきている」
正直に答える。既に本人が把握しているのなら、隠す必要もない。
「そうか。……クラウドの奴、大丈夫かな」
心配そうに眉を寄せるザックスに、頷きを返す。
「今のところ、無事は確認している。だが、次がどうなるかは、分からん」
「だよな……」
しばし、沈黙が落ちる。窓の外から、遠く、街の喧騒が聞こえてきた。
「なぁ、俺が動ける状態だったら、手伝いに行けたのにな」
悔しそうに呟くザックスに、内心で、小さく首を振る。
「今のお前が下手に動けば、余計に厄介事が増えるだけだ。大人しくしていろ」
「わーってるよ。分かってるけど、な」
もどかしそうな表情を浮かべるザックスの気持ちも、分からなくはない。だが、今は、それぞれが、それぞれの立場でできることをするしかない。
「ザックス、お前も、五番街には近寄るなよ。まだ本調子じゃないんだろう」
「分かってるって。俺だって、無茶して寝込んだのは、こりごりだからな」
苦笑しながら、両手を挙げるザックスに、小さく息を吐く。
「それに、エアリスの件も、一応、片は付いた。手紙も渡してある」
「おう、そういえば…… なぁ、あいつ、なんて言ってた?」
「詳しくは知らん。渡しただけだ」
「そこはもうちょい、粘って聞き出せよ!」
不満げなザックスの声に、思わず、口の端が緩む。
「情報屋に、そこまで求めるな」
「情報屋なら、なおさら聞き出せるだろうが!」
軽口を交わしながらも、頭の片隅では、明日の作戦のことを考えていた。
(五番魔晄炉、か……)
クラウドが、どこまで関わることになるのか。それによって、こちらの動き方も変わってくる。ジェシーという情報源が、今どこまで動いているのかも、気にかかるところだった。
「なんか、また面倒事考えてる顔だな」
ザックスの指摘に、内心で、僅かに舌打ちをする。
「気のせいだ」
「そういうことにしといてやるよ」
以前にも、似たようなやり取りをした記憶がある。ザックスの勘の良さは、相変わらずのようだ。
軽くあしらわれながらも、そのやり取りに、少しだけ、肩の力が抜けるのを感じた。
診療所を後にし、本社へと向かう足取りは、それでも、重かった。
日の光が、スラムの隙間から、僅かに差し込んでいる。いつもと変わらない光景のはずなのに、今日はやけに、遠く感じられた。
(五番魔晄炉、次はどう転がる……)
壱番魔晄炉での一件が、脳裏をよぎる。想定を超えた爆発規模。誰かの作為。あの時感じた違和感が、今もまだ、拭いきれずにいる。
止めるつもりは、無い。分流の連中がどうなろうと、それは、彼らが選んだ道の結果でしかない。むしろ、魔晄炉が二つ、続けて機能を失うことは、神羅にとって、決して小さくない痛手だ。復旧にかかる時間と費用を考えれば、こちらとしては、むしろ歓迎すべき事態だろう。
(問題は、その後、だな)
思考を巡らせるべきは、爆破そのものではない。壱番の時、ツォンは言っていた。次のテロは、事前に阻止する意思がない。むしろ、被害の規模次第で、対外プロパガンダに転用する、と。
(魔晄炉を二つ失った上で、神羅は、次に何を仕掛けてくる)
ウータイとの関与を仄めかし、戦意高揚に使う――それだけで、済ませるつもりなのか。それとも、もっと踏み込んだ手を、既に用意しているのか。
アバランチという存在を、単なる口実として利用するのなら、その規模は、これまでの比ではないはずだ。テロ組織の壊滅を大義名分に、住民ごと切り捨てるような真似も、あの上層部なら、十分にあり得る。
(……嫌な想像だな)
だが、可能性として、頭の片隅に置いておく必要はあるだろう。神羅という組織の狂気は、自分が思っている以上に、底が知れない。
歩きながら、頭の中で、今日一日の動き方を組み立て直す。
(まずは、通常業務をこなしながら、上層部の反応を注視するか)
タークスとしての立場を利用すれば、ある程度の情報にはアクセスできる。不自然にならない範囲で、慎重に。
(それと、本流への警告も、必要になるかもしれないな)
五番魔晄炉が落ちた後、神羅が何を仕掛けてくるのか。それが読めた時には、また、“ゼロ”として、然るべき相手に、然るべき情報を流すことになるだろう。
クラウドの無事だけを、静かに祈りながら、本社ビルへと足を進める。今日も、長い一日になりそうだった。
翌日。
予告通り、五番魔晄炉は爆破された。
デスクで、次々と更新される現地報告に目を通しながら、内心で、複雑な感情が渦巻いていた。
(今度は、どの程度の被害になる……)
壱番の時のような、規模の異常な拡大が、再び起きていないかどうか。それを確認することが、今の自分にできる、数少ないことの一つだった。
幸い、報告されてくる被害状況は、想定の範囲内に収まっているようだった。魔晄炉本体は完全に機能を停止し、周辺への延焼や、二次被害の報告が、やはり起きている。
フロア中央の大型モニターに、緊急放送が映し出されたのは、爆破からさほど時間が経たない頃だった。
プレジデント神羅が、記者団を前に、壇上に立っている。
「――このような蛮行を、我が神羅カンパニーは、断じて許さない」
抑揚のない声で、淡々と、しかし重々しく告げる。その隣で、ハイデッカーが、これでもかというほど、大仰な身振りで頷いていた。
「アバランチなる卑劣なテロリスト集団は、罪なき市民の生活を、二度にわたって脅かした! 我々治安維持部門は、断固たる姿勢で、これに対処する所存であります!」
芝居がかった口調で、ハイデッカーが声を張り上げる。記者団のざわめきが、僅かに大きくなった。
「加えて、判明した情報によれば――」
一度言葉を切り、ハイデッカーは、勿体つけるように、会場を見渡す。
「このアバランチなる組織、その背後には、かねてより我々と敵対関係にあるウータイの支援が、存在するとの見方が強まっております! 罪なき市民を巻き込む蛮行の裏に、他国の影がちらつく――由々しき事態と言わざるを得ません!」
その一言に、記者団のざわめきが、一段と大きくなる。
(――出たか)
内心で、静かに独りごちる。案の定、というべきだろう。ツォンから聞かされていた通りの筋書きが、早くも動き出したらしい。
(相変わらず、口だけは達者だな)
内心で、冷ややかに評する。治安維持部門統括としての体面を保つことにしか、興味の無い男だ。今回の一件でも、保身と点数稼ぎしか、頭に無いのだろう。だが、その口から語られた“筋書き”そのものは、明らかに、上層部の描いた絵図に沿ったものだった。
(証拠も無いだろうに、よく言えたものだ)
ウータイの支援など、少なくとも、自分が把握している限りでは、根も葉もない話だ。だが、真偽など、この場では問題ではないのだろう。大衆に植え付けるべきは、事実ではなく、印象なのだから。
(“断固たる姿勢”、か……)
プレジデントの言葉を、頭の中で反芻する。この演説そのものが、これから本格化する対外プロパガンダの、明確な第一歩だった。魔晄炉を二つ失った失態を、外敵の存在にすり替える。実に、分かりやすい構図だ。
演説と前後して、現場から届いた戦闘記録の映像データが、こちらの端末にも共有される。
情報処理要員としての役割上、当然、目を通しておく必要があった。
映像には、見慣れない大型の人型兵器が、映し出されていた。
(――新型か)
装甲越しにも分かる、重厚な作り。単なる警備用の量産機とは、明らかに一線を画す仕様だ。恐らく、兵器開発部門が投入した、実戦試験機の類だろう。
(“エアバスター”…… 登録名か)
現地部隊からの報告書に記された名称を、頭の中に刻み込む。
映像の中で、その兵器は、アバランチの残党と思しき一団と、激しく交戦していた。銃が片腕の男、格闘技により兵器と戦うティファ、そして……
(クラウド)
いた。彼もまた、ザックスのように大剣を振るい、兵器の破壊を試みる。
エアバスターの装甲の厚さ、攻撃パターン、稼働時間。得られる情報は、全て頭に叩き込んでおく。こうした兵器のデータは、いつ、どこで役に立つか分からない。
最終的に、その兵器は、機能を停止させ、爆散する。アバランチ側が、どうにか撃破したということだろう。
(……厄介な連中だ。あの図体を相手に、よくやる)
その後、クラウドは爆発の影響で落下し、ティファの片腕が銃の男が逃げる姿を確認して、重いため息をついた。
(クラウドは、無事だろうか)
祈るような気持ちで、現場周辺の映像記録を、更に密かに洗い出す。今回もまた、目当ての姿は、どの記録にも見当たらなかった。
(好都合だ)
安堵する一方で、頭の片隅では、別の思考も動いている。
魔晄炉が、これで二つ、機能を停止した。神羅にとって、決して小さくない痛手だ。復旧には、莫大な時間と費用がかかるだろう。それに、対外的な体面も、大きく傷つくはずだ。
(もっと、混乱してくれても構わないんだがな)
内心で、皮肉げに呟く。神羅という組織が、内側から軋みを上げていく様は、自分にとって、決して悪い光景ではなかった。
その翌日。
出勤するなり、フロア中に貼り出された指名手配書が、目に飛び込んでくる。
“アバランチ”を名乗る勢力の主要メンバーとして、数名の顔写真が、大々的に掲示されていた。
一枚一枚、注意深く確認していく。
(――いない、な)
クラウドの顔は、その中に無かった。おそらく、落下により既に処理済みと判定されたのだろう。
安堵の息を、誰にも気づかれないよう、そっと吐き出す。
だが、指名手配というやり方そのものに、内心で、僅かな違和感を覚える。
(随分と、大々的にやるものだな)
これまでの神羅であれば、こうした裏工作は、もっと静かに進めてきたはずだ。それが、これほど公然と、住民の目に触れる形で発表するとは。
(プロパガンダの一環、というやつか)
ツォンの言葉を思い出す。対外的な戦意高揚。ウータイとの関与を仄めかす算段。この指名手配も、その布石の一つなのだろう。
その日の夕方、私物の端末に、着信が入る。
ザックスからだった。
「もしもし」
『ジュリアスか? ちょっと、話したいことがある。今、大丈夫か』
声色に、以前のような緊張感は無い。だが、何か、思い詰めたような響きが混じっていた。
「構わない。どこにいる」
『診療所だ。まだ、ここに世話になってる』
「分かった。今から向かう」
通話を切り、鞄を手に取る。今日の業務は、既に一区切りついていた。
診療所に着くと、ザックスは、簡易ベッドの上で、腕を組んで待っていた。
「悪いな、急に呼び出して」
「構わない。それで、話とは」
単刀直入に切り出せば、ザックスは、真剣な表情で、こちらを見据えた。
「五番魔晄炉の件、指名手配まで出たよな。あれ、どう思う」
「随分と、大々的にやるものだと思っている」
「だよな。……俺は、あれを見て、ちょっと嫌な予感がしてる」
ザックスの声が、僅かに低くなる。
「神羅の上層部、まともな思考してねぇんじゃねぇかって、な。魔晄炉を二つも爆破されて、それでも大人しく黙ってる組織じゃねぇだろ、あそこは」
その指摘に、内心で、小さく唸る。ザックスの勘の良さは、想像以上のようだった。
「お前の言う通りだ。連中は、この状況を利用するつもりでいる。アバランチを口実に、何かしらの大規模な行動を起こす可能性が高い」
「やっぱりか……」
苦い表情で、ザックスが頷く。
「なら、俺にも、何かできることがあるはずだ」
「――何を考えている」
「信用できるソルジャーに、コンタクトを取る。俺の知り合いに、まだ神羅に残ってる奴がいる。あいつなら、内部の情報も、多少は掴めるはずだ」
思いがけない申し出に、思わず、眉を寄せる。
「危険が伴うぞ。お前の存在自体、神羅にとっては、既に消えたはずの人間だ」
「分かってる。それでも、このまま何もせずにいる方が、俺には耐えられねぇんだよ」
真っ直ぐな視線に、返す言葉が、一瞬、見つからなかった。
(……もう、止められないか)
ザックスの意志は、固い。以前のように、無理やり押しとどめることも、できなくはないだろう。だが、それも長続きはしないだろう。最悪、勝手に行動され、こちらの作戦に悪影響が出る可能性がある。
ならば……発想を転換する。
あえて彼を解放し、制御できないジョーカーとして整理可能か、思考を巡らせる。
「――好きにしろ」
「……いいのか?」
意外そうな顔をするザックスに、小さく頷く。
「その代わり、無茶はするな。単独行動で、勝手に消えるような真似だけは、許さない」
「分かった。約束する」
「あと、俺への連絡はするな。俺が連絡した時だけにしろ」
「は? どうして」
ザックスにとって予想外の言葉だったのだろう。
「実は、神羅内で内偵が行われている。タークスすら対象だ。俺も、いつバレるか定かではない。
そもそも、騙し切ること自体は不可能だと思っていたが、できるだけ時間は稼ぎたい。そのためにも、リスクは減らしておきたいからだ。
その分、お前は好きに動け。さっきの条件の中でな」
「そういうことなら、分かったぜ!」
力強く頷くザックスの表情には、以前には無かった、確かな覚悟が滲んでいた。
(さて――)
診療所を後にしながら、内心で、静かに息を吐く。
ジョーカーが、自らの意思で動き出そうとしている。それを、良しとするべきか、否か。
答えは、まだ出ない。だが、少なくとも、今の自分には、それを止める理由は無かった。
夕暮れの空を見上げながら、明日への不安と、僅かな期待を、同時に抱えていた。
戦意高揚作戦についての外部発信は、妄想です。
多分これくらいやるやろ