FINAL FANTASY Ⅶ Revengers   作:オレンジⅩⅢ

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Chapter.12 それでも なお 足掻く

ウォールマーケットの安宿に居を構えたその日のうちから、慎重に、情報収集を進めていた。

タークスとしての立場を失った今、正規の情報網は、既に使えない。だが、この街には、この街なりの情報の流れがある。裏路地の酒場、非合法の武器商、質の悪い情報屋――金さえ積めば、それなりのものは、拾い集めることができた。

 

グリモアを介した外部端末への接続も、頻度は絞りつつ、続けている。神羅の内部網には、もう入れない。だが、市中に張り巡らされた、防犯カメラや公共の通信網程度であれば、痕跡を消しながら、細く繋ぐことは可能だった。

宿の一室、埃っぽい壁に背を預けながら、仮想モニターに映し出される、断片的な情報を、丹念に読み解いていく。

 

(プレジデントの演説は、相変わらず、白々しいものだな)

 

繰り返し流される公式発表を、皮肉げに眺める。テロ組織の脅威、ウータイの影、そして、断固たる対処――使い古された文言が、判で押したように並べられていた。

 

得られた情報を、頭の中で、逐一、整理する。

 

(現状、プレートが落ちたことに対する不安を扇動して、アバランチに対する批判的意見が大半か……)

 

白々しい演説であっても、情報統制に長けた神羅である。ウォールマーケット内だけでも、アバランチに否定的な発言が聞こえることが多かった。

奴らの戦意高揚作戦は成功と評価して良いだろう。

ただ、目的が見えない。神羅にとって、戦意を高揚させると共に、自らの信頼を厚くする理由は何だろうか……。

ミッドガル住民、というより、親神羅側の目を逸らすためか? とまで考え、仮説として一度思考を中断し、別のことを考える。

 

(クラウド達が、この街に流れ着いている可能性も、ゼロではないな)

 

 

ウォールマーケットは、身を隠すには、都合の良い場所だ。神羅の目が届きにくく、堅気の統制も緩い。自分と同じ判断に至る人間がいても、おかしくは無かった。

夜が更けるまで、拾い集めた情報を、一つずつ、精査する。裏路地の情報屋から仕入れた、断片的な噂も、幾つかあった。だが、いずれも、決め手には欠けるものばかりだった。

外を歩き回った疲労からか、思考が、僅かに鈍っているのが分かる。それでも、手を止めるわけにはいかなかった。

 

(焦っても、仕方が無いか)

 

自分に、言い聞かせる。今は、地道な積み重ねが、何よりも重要だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日。

 

朝から、変装用の帽子とマフラーで、顔を隠しながら、市場を巡る。表通りではなく、裏路地、露店の隙間、人目につかない一角を、丹念に確認していく作業だった。

けばけばしい看板の下、朝から、既に大勢の人が行き交っている。物売りの声、値切り交渉の応酬、どこからか漂う、揚げ物の匂い。プレートの上とも、七番街のスラムとも違う、独特の喧騒が、この街には満ちていた。

 

その喧騒に紛れながら、視線だけを、鋭く巡らせる。

昼過ぎ、市場の外れ、資材の積まれた裏通りで、聞き覚えのある声が、耳に飛び込んできた。

 

「――こっちの瓦礫、どかせばいいんだな。任せろ」

 

(――この声)

 

思わず、足を止める。声の方向へ、視線を向ければ、崩れた屋根材を運び出す、見覚えのある背中があった。

チョコボ頭。背中に括り付けられた、大剣。

 

「クラウド、ありがとうね。おかげで、だいぶ片付いたよ」

 

隣で瓦礫の分別を手伝っているのは、ティファだった。近くの住民に、気さくに声をかけながら、てきぱきと、作業を進めている。

 

「重いのは、俺が運ぶ。危ねぇから、下がってな」

 

太い腕で、大きな木材を、軽々と担ぎ上げているのは、バレットだった。強面のまま、それでも、住民に対する物言いは、存外、丁寧だった。

七番街のスラムが、崩落したプレートの下敷きになった。その事実を、三人が、誰よりも重く、受け止めているのだろう。作業に向かう表情には、義務感とも、贖罪とも取れる、複雑な色が滲んでいた。

 

(――そういうことか)

 

内心で得心する。何でも屋という体裁を取りながら、実際にやっていることは、被災した住民の手助けだ。自分達の起こした爆破が、めぐりめぐって、この惨状を招いた。その負い目を、少しでも軽くしようとしているのだろう。

金にもならない仕事に、バレットまでもが、進んで手を貸している。その光景に、少なからず、意外の念を覚える。

 

「クラウド」

 

呼びかければ、三人揃って、こちらを振り返る。

 

「――ジュリアス!?」

 

驚いたように、クラウドが、こちらへと歩み寄ってくる。

 

「本当に、ジュリアスだ。こんなところで、会うなんてね」

 

ティファも、手を止め、笑みを浮かべながら、近づいてくる。驚きと、親しみの入り混じった表情だった。

 

「あんたか。ティファとクラウドから話には聞いてたが、思ったより、早く会えたな」

 

バレットも、木材を下ろし、こちらへと視線を向けた。

 

「まさか、こんなところで会うとはな。何でも屋、まだ続けていたのか」

「まぁ、そんなところだ」

 

軽く混ぜっ返せば、バレットは、居心地悪そうに、鼻を鳴らした。

 

「私達の活動が、関係ない人を巻き込んだのは間違いない。だから、少しでも困っている人を助けているの」

 

ティファが、静かに、言葉を継ぐ。

三人の表情に、内心で、小さく頷く。責任の所在は、単純には割り切れない。それでも、こうして目の前の人々のために、汗を流す姿勢は、重くのしかかった精神負担を軽くする上で、悪くないと思えた。

それほどまでに、彼らは追い詰められているのだろう。特にティファには、はっきりと目の下にクマができている。

 

「積もる話はあるが……。ここで、立ち話もなんだな」

 

周囲を、それとなく見渡しながら、告げる。人通りの多い裏通りとはいえ、いつ、誰が耳を澄ませているとも限らない。

 

「そうだな。少し、場所を変えるか」

 

クラウドの提案に、三人と共に、その場を後にする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

市場から、幾つか路地を折れた先、人気の少ない裏道に、足を止める。

崩れかけた壁と、放置された資材に囲まれた、目立たない一角だった。誰かに、聞かれる心配は、少ないだろう。

 

「――他の連中は」

 

素早く、周囲を見渡しながら問いかける。指名手配により自分が知っている他のメンバーであるジェシー、ビッグス、ウェッジの姿が、無い。

 

「……分からねぇ」

 

答えたのは、バレットだった。低く、絞り出すような声だった。

 

「支柱の周りにいた仲間のうち、大半は無事だった。けれど、支柱の上にいたメンバーは、生きてるかどうか……」

 

その言葉に、内心で、小さく息を呑む。

 

(そうか……)

 

無事を信じたいところだが、今は、それを口にする段階ではないだろう。

 

「探す手立ては」

「他の連中と一緒に探してる。だが、今の街の状況じゃ、思うようにはいかねぇ」

 

苦々しい表情で、バレットが、吐き捨てる。仲間を思う気持ちは、本物なのだろう。それでも、今、動ける手立てが限られていることに、苛立ちを隠せないでいるようだった。

こちらへと向けられる視線には、隠しきれない、猜疑が滲んでいた。

 

「――で、あんたは何者だ」

 

低く、探るような声で、バレットが、問いかけてくる。

 

「クラウドの知り合い、以上のことは、ほとんど聞いてねぇ。ジェシーの情報源である“スペンサー”と繋がりがある、ってくらいだ。あんたが何を考えてるのか、俺にはさっぱりだ」

「今は、詳しく話す時間が無い。信用するかどうかは、お前の判断に任せる」

 

淡々と、言葉を返す。今、素性を全て明かすのは、得策ではない。ジェシーとの繋がりを含め、話すべきことは、いずれ、機会を見て、伝えるべきだろう。

 

「おい、それで納得できるかよ」

「バレット」

 

低い声で、たしなめたのは、クラウドだった。

 

「こいつは俺達を、何度も助けてくれた。今は、それだけで十分だろう」

 

クラウドの言葉に、バレットは、しばし、値踏みするように、こちらを睨みつけていたが、やがて、小さく舌打ちして、視線を外した。

 

「……クラウドが信じてるなら、今は、それでいい。だが、後で、洗いざらい話してもらうぞ。

だが、一つだけ言っておく」

 

バレットの声が、僅かに低くなる。

 

「俺達は、神羅を恨んでる。それは、絶対に、揺るがねぇ。だが、それで、仲間を危険に晒す真似は、許さねぇ。あんたが何を企んでようが、こっちを利用するだけの駒として扱う気なら――」

「そのつもりは無い」

 

言葉を遮り、静かに、答える。

 

「利害が一致しているんだ。今は、それで十分だろう」

 

その返答に、バレットは、僅かに目を細めた。それ以上、何かを言うことは無かった。

正直、今までの関係だけであれば、切り捨てることも辞さない。しかし、こうして直接関わり、クラウドを通じた縁ができてしまった。こうなったら、自分は彼らに甘くなる……。復讐者としての甘さがあることを自覚し、内心でため息をつく。

まぁ、彼らとの一時的な関係性を維持するための方便としておこうと、自らを納得させる。

 

短く応じ、クラウドへと視線を戻す。

 

「――で、そっちは、どうする気だ」

 

一通りを聞き終え、クラウドが、こちらの意図を問いただしてくる。

 

「今後の動き方によっては、協力もできる。だが、その前に――」

「エアリスが、連れて行かれた」

 

こちらの言葉を遮ってのクラウドの言葉に、思わず動きが止まる。

 

「――なんだと」

「詳しく話すね」

 

暗い声で、ティファが口を開く。

 

「プレートが落ちた時、私達は支柱の上で、神羅と戦ってた。エアリスに、私のお店にいるマリン……バレットの娘を助けてもらうよう、お願いしたの」

 

(――マリンを、エアリスに)

 

内心で、頷く。話の先が見えてくる。

クラウドが続ける。

 

「支柱の上で、タークスの連中が待ち構えてた。そいつらのせいで、支柱が破壊された。その時、上にあった端末のモニターで、タークスの長髪の男と話したんだ。男と一緒にエアリスが居て、マリンは無事だと教えてくれた」

 

長髪の男ということは、ツォン自ら動いたことになる。

 

「ここからは憶測だけど、エアリスはマリンの安全を条件に、取引したんだと思う。マリンは、五番街にあるエアリスの家に居たんだ」

 

ティファが、悔しそうに、後を継ぐ。

 

「私が、エアリスにマリンを頼んだせいで……。でもなぜ、そこまでして、エアリスを……」

 

呟くように、思考が、口をついて出る。

 

(――大人しく、ついていった、か)

 

内心で素早く、これまでの情報を繋ぎ合わせる。タークスが、常にエアリスを監視していたという事実。

 

(古代種、か……)

 

以前、耳にした噂が、脳裏をよぎる。神羅が、密かに追い続けているという、古代種の血統。エアリスが、その対象だとすれば、取引を餌に彼女を連れ去った執着にも、説明がつく。あるいは、エアリス自身も、その可能性に、薄々気づいていたのかもしれない。抵抗せず、取引に応じたか持ち出したのは、いずれ、逃れられないと、悟っていたからか。

 

(――憶測に過ぎんが)

 

今は、それ以上、深追いする材料が無い。頭の片隅に、留め置くだけにする。

 

「彼女を、助けに行く」

 

クラウドの声には、迷いが無かった。

 

「神羅ビルに、忍び込んで、エアリスを取り戻す。そのつもりだ」

「――無謀だとは、思わないのか」

「思う。だが、それでも、行く」

 

真っ直ぐな視線に、思わず、鼻を鳴らす。相変わらず、こういうところは、変わらない男だ。

 

「バレットとティファも、それでいいのか」

「マリンを助けてもらった借りもある。それに、神羅のお膝元に殴り込む機会なんざ、そうそう無いからな」

 

不敵に笑うバレットの表情には、覚悟が滲んでいた。

 

「私も、行く」

 

ティファが、静かに、そう告げる。

 

「エアリスのことは、私の責任。だから、放っておけない」

 

その言葉に、迷いは、無かった。

 

(――なるほど)

 

内心で、素早く、算段を組み立てる。神羅ビルへの侵入。それは、危険極まりない賭けだ。だが、同時に、こちらにとっても、悪くない機会かもしれない。

 

「分かった。俺も、力を貸そう」

「本当か!」

 

クラウドの表情が、僅かに、緩む。

 

「ただし、条件がある。俺は、単独で先行する」

「単独って……」

「タークス時代に使っていた、裏の経路がある。それを使えば、神羅ビル周辺まで、気取られずに近づける。近くにセーフハウスの当てもある。そこに潜り込んで、神羅のネットワークから、内部情報を洗う」

 

淡々と、告げる。

 

「警備の配置、シフトの時間帯、エアリスが囚われている場所――お前達が、無防備に飛び込んで、無駄死にする姿は、見たくない。情報を固めた上で、計画を立てる」

「……ネットワークに、潜り込むって、そんなことできるのか」

「タークスの端末には、それなりの権限を持たせてもらっていたのでな。全てが筒抜けというわけにはいかないだろうが、多少の手がかりは掴めるはずだ」

「……頼りにしてる」

 

クラウドの言葉に、小さく頷く。

 

「それ、俺たちは使えねぇのか?」

「後で説明するが、俺も含めてここにいるのは神羅のお尋ね者だ。なるべく分散して動いたほうが、行動は察知されにくい」

 

バレットの問いに答えれば、彼も納得したように頷く。

 

「ただし、過度な期待はするな。内偵が動いていた以上、俺のアカウント権限は、既に失効させられている可能性が高い。裏口として仕込んでおいた経路も、どこまで生きているか、正直分からん」

「それでも、やってくれるんだろ?」

「他に、手立てが無いのでな」

 

淡々と答えれば、クラウドは、小さく笑った。

 

「お前達は、神羅ビルの付近まで来たら、連絡を入れろ。合流の段取りは、その時に詰める」

「分かった」

「それと――」

 

一拍、置いてから、続ける。

 

「ザックスにも、同じ話を伝える。あいつも、エアリスのことなら、協力は惜しまないはずだ」

「ザックスも? ……そういえば、エアリスと一緒に居た時に、ザックスについて聞かれた。あの時は、咄嗟のことだったから、友人とだけ答えて、今はどこにいるか分からないって伝えたが」

「ほう、お前にしては妥当な判断だ。それであれば、捕らえられたエアリスから、ザックスの生存については漏れないだろう」

 

素直にクラウドの判断を賞賛する。彼にとっては咄嗟の判断だろうが、今になっては好都合だ。

褒められたことに気がついたクラウドは、照れ隠しか、明後日の方向を見る。その様子を見て、ティファとバレットが笑う。

良い傾向だ。笑顔が出るくらいの余裕があったほうが、今は良い。

 

「ザックスがいれば、心強いね」

 

ティファも、静かに、頷いた。

彼女とザックスは、ニブルヘイムで知り合いだと聞いている。彼女もまた、ザックスの実力を知っているのだろう。

必要な取り決めを終え、その場を後にする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

裏道を出て、人気のない路地に入ったところで、懐から、端末を取り出す。

ザックスへの発信音が、数回、鳴った。

 

『――もしもし?』

「俺だ。動きがあった」

「動き?」

「クラウド達と、合流した。ウォールマーケットにいる。ティファもバレットも、無事だ」

『マジか! 良かった……!』

 

安堵の滲む声に、内心で、僅かに頬が緩む。

 

「詳しくは話せないが、これから、神羅ビルへの潜入計画を進めることになる。エアリスが、連れて行かれたそうだ」

『――は? エアリスが!?』

 

ザックスの声が、途端に、切迫する。

 

「落ち着け。今、詳しい状況を追っている。お前にも、協力してもらうことになる」

『当たり前だ! 俺も、行く! あいつを、放っておけるかよ!』

 

激昂するザックスの声を、努めて、冷静に受け止める。

 

「気持ちは分かる。だが、頭に血を上らせて動けば、お前も、彼女も、危険に晒すだけだ」

『……分かってる。分かってるけど、な』

 

一呼吸置いて、ザックスの声が、少し落ち着きを取り戻す。

 

「俺はタークス時代の裏経路を使って、一足先に神羅ビル周辺へ向かう。セーフハウスから、内部情報を洗って、計画を立てる」

『OK、頼むぞ。それで、俺は、どうすればいい』

「お前も、クラウド達と同じだ。神羅ビル付近まで来たら、連絡を入れろ。合流地点は、その時に詰める」

『分かった。いつでも、動けるようにしておく』

「カンセルの方は、どうだ。何か、掴めそうな情報はあるか」

『あー…… それとなく、探ってはみるけど、あんまり期待はすんな。あいつも、あいつなりの立場があるからな』

「それで構わない。無理はさせるな」

 

短いやり取りの後、通話を切る。

 

(さて――)

 

夕暮れの空を、見上げる。

 

エアリスの行方。神羅ビルへの侵入。そして、自分自身の目的。全てが、一つの流れに、収束しようとしている。

 

(――好機か、それとも、無謀か)

 

判断は、まだ、つかない。だが、少なくとも、動くべき時が来たことだけは、確かだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

必要な連絡を終えてすぐ、ウォールマーケットを離れ、地下水路へと降りる。

かつて、タークスとしての立場を利用し、密かに確認しておいた経路の一つだ。神羅ビルの地下にまで通じる、いわば、裏の通用口だった。

薄暗い通路を、幾つも、抜けていく。埃と、錆びた金属の臭いが漂う中、迷わず、目的地へと足を進められるのは、かつて、幾度となく、この道を使ってきたからだ。

ハシゴが長いのは億劫だが、こればかりはしかたがない。

 

足元を照らすのは、魔力によってグリモアを浮遊・発光させた光源のみ、僅かな灯りだけだった。周囲の闇に、目を凝らしながら、慎重に、歩を進める。

かつては、裏工作の一環として、この道を使っていた。誰にも知られず、神羅ビルへと近づくための、秘密の経路。それが、今や、自分自身の逃走路であり、同時に、反撃のための足掛かりにもなろうとしている。

 

(皮肉なものだな)

 

自嘲気味に、内心で呟く。

途中、幾つかの分岐を、慎重に選び取る。誤った道を進めば、閉鎖された区画に迷い込み、時間を無駄にしかねない。頭の中に刻んだ地図と、目の前の光景を、逐一、照らし合わせながら、歩を進めた。

たどり着いたのは、神羅ビルからほど近い地下、既に使われなくなった、古い事務所の跡地だった。

 

ミッドガルという街を無理やり拡張した名残で、表向きは放棄したことになっている部屋だ。だが、内部には、密かに、簡易的な生活設備と、演算用の端末一式を、隠しておいた。

 

(――さて、久しぶりだな)

 

埃を被った端末の前に、腰を下ろす。義手を接続し、起動を試みる。

古い型式の端末だが、演算能力自体は、悪くない。慎重に、痕跡を消しながら、神羅の内部ネットワークへの侵入を試みる。

 

(正面から、正規の権限で入るのは、無理だな)

 

案の定、自分のアカウント情報は、既に、失効させられていた。当然の措置だろう。だが、それも、想定の内だ。

裏口として仕込んでおいた、幾つかの抜け道を、一つずつ、試していく。

一つ目は、既に塞がれていた。二つ目も、同様だった。

 

(――さすがに、警戒されているか)

 

冷や汗が、僅かに滲む。用意していた抜け道の大半が、既に、封じられているとすれば、想定以上に、厳重な対策が取られているということだ。

三つ目の抜け道――末端の、警備管理システムに繋がる、目立たない経路に、ようやく糸口を見つける。

 

権限は限られているが、それでも、無いよりは遥かにましだった。

慎重に、痕跡を消しながら、シフト表、巡回記録、フロア別の警備配置――集められる情報を、一つずつ、拾い集めていく。

 

モニターに、次々と、データが表示されていく。

 

(表の警備は……やや、厳重になっているな)

 

正面ゲート、地上フロアの巡回頻度。以前と比べ、明らかに、人員が増やされている。

理由を探るべく、共有された内部通達を、丹念に洗う。

 

――『地下施設への不審者侵入事案発生。侵入者は、ウータイ系と思われる。全館、警備レベルを一段階、引き上げること』

 

(――ウータイの人間、か)

 

内心で、独りごちる。時期が時期だけに、無関係とは思えない。おそらく、あの一連の騒動で、混乱に乗じて、何者かが動いたのだろう。もしくは、こちらの提供した情報を無視した人間の暴走か。

 

(忌々しいな……)

 

苦々しく、呟く。ただでさえ、内偵の影響で、自分自身の抜け道が塞がれかけているところに、余計な警戒強化が重なった。侵入の難易度は、想定より、確実に上がっている。

 

(それでも、進めるしかないか)

 

気を取り直し、集められる限りの情報を、拾い集めていく。エアリスが囚われている場所についても、断片的な手がかりしか、得られなかったが、上層フロアの動きに、幾つかの不審な点が見受けられた。

 

(――もう少し、時間が要るな)

 

義手の付け根に、鈍い疲労が滲む。長時間の演算作業は、身体にも、それなりの負荷をかける。それでも、手を止めるつもりは無かった。

一通りの情報を洗い終えたところで、端末の隅、暗号化された通信欄を、開く。

滅多に使うことのない、専用の回線だった。表向きの用件では、決して繋がることのない、神羅内部の人間との、直通の連絡手段。

 

(――久しぶりに、使うか)

 

躊躇いを、振り払う。呼び出し音が、数回、鳴った後、抑えた声が、応答する。

 

『――こちらに連絡してくるとは、珍しいな。指名手配中のスパイが、何の用だ』

「頼みたいことがありまして。貴方にも、悪い話ではないかと」

 

淡々と、切り出す。

 

「近く、神羅ビルへの、内部からの手引きが必要になります。それと――俺に繋がる痕跡が、万が一、表に出た場合は、洗いざらい、消してもらいたい」

『……随分と、大きく出たな。お前の立場も、聞き及んでいる。危険を承知の上か』

「承知の上です。それだけの見返りは、いずれ。」

 

回線の向こうで、しばし、沈黙が流れる。

 

『――分かった。詳細が決まり次第、連絡をよこせ。できる範囲で、力を貸そう』

「感謝します。損はさせないことを約束しましょう。」

 

短いやり取りの後、通信を切る。

窓の無い、狭い部屋の中、端末の明かりだけが、静かに、瞬き続けていた。

必要な仕込みを整えていきながら、救出作戦を練り上げる。可能であれば、その先にある復讐へ、手を伸ばす作戦も入れ込みつつ。

 




バレットがウェッジ生存について話さないのは、ジュリアスがウェッジのことを知っていると思っていないからです。なので、リメイク同様生存しています。
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