FINAL FANTASY Ⅶ Revengers 作:オレンジⅩⅢ
Side バレット
エレベーターが、重い音を立てて下降していく。
狭い箱の中、沈黙が支配していた。
ザックスは腕を組んだまま、天井を睨んでいる。エアリスも、レッドⅩⅢも、それぞれ押し黙ったままだった。
(――落ち着かねぇな)
内心でバレットは独りごちる。たった今目にしたものが、まだ頭の中で消化しきれていなかった。
プレジデントの隠し子。復讐者。タークス。裏でアバランチ本流と繋がっていたスパイ、“ゼロ”。
あのジュリアスという男の正体が、次々と明らかになっていく。
最初に会った時から、得体の知れない野郎だとは思っていた。だが、まさかここまでのものを抱え込んでいたとは。
「――なぁ、聞きたいんだが」
沈黙を破るように、バレットが口を開く。
「あのジュリアスってやつ、本当に信用できるのか?」
問いかけに、ザックスとエアリスが顔を見合わせる。
「まぁ、色々あるやつだとは思うけどよ」
ザックスが頭の後ろで手を組みながら答える。
「あいつには、命を助けられてる。ニブルヘイムから逃げる時も、その後も、ずっとな。事情を隠されてたのは、正直面白くはねぇけど……あいつが俺達を裏切るとは思えねぇんだ」
「情に絆されてるだけじゃねぇのか」
バレットが皮肉げに返す。
「そうかもな。でも、それの何が悪い? 命の恩ってのは、そう軽くねぇもんだぜ」
ザックスが真っ直ぐに、こちらを見返す。その目に迷いは無かった。
「私も、同じ」
エアリスが静かに続ける。
「ジュリアスはタークスだったから、それなりに世間話をするくらいの知り合いだった。理由は知らなかったけど……いつも、少し辛そうな顔をしてた。今日、助けに来てくれたのを見て、確信した。あの人は色んな事情を抱えてるだろうけど、悪い人じゃない」
「でも、実の父親を、ああも容赦なく……」
言いかけて、バレットは、言葉を飲み込む。
「ジュリアスの気持ちも、分からなくはねぇ。俺だって、神羅にどれだけ憎しみをぶつけても足りねぇくらいだ。だが、あいつの抱えてる業の深さは、俺の比じゃねぇ気がする」
「業、か」
ザックスが、小さく笑う。
「あいつ、いつも一人で色々背負い込んでるからな。誰にも相談しねぇで勝手に決めて、勝手に動く。危なっかしいところはある。でもよ、危ない橋を渡る時は、いつも自分から先に渡ろうとする野郎なんだ」
短い付き合いだけどな、と付け加えるザックスの言葉に、バレットはしばし黙り込む。
(――そんなもんか)
自分よりも遥かに長く、ジュリアスという男を見てきた二人がそう言うのだ。今は、それを信じるしかないのだろう。
隣で、これまで無言だったレッドⅩⅢが静かに口を開く。
「私も、あの男の目に嘘は無いと見た。もっとも、噓と信念の区別は、人間よりも獣の方が得意なのかもしれんがな」
皮肉げな物言いに、思わず口の端が緩む。
「――にしても、プレジデントの隠し子ってのは、な」
ザックスが腕を組みながら天井を仰ぐ。
「あいつの中じゃ、色々整理がついてねぇだろうよ。十年以上、憎しみ一つで、生きてきたようなもんだからな」
「復讐の相手が、自分の父親だった、か……。想像もしたくねぇ話だ」
低くバレットが呟く。神羅への憎しみなら自分にも覚えがある。だが、その根の深さが血の繋がりにまで及んでいるとなれば話はまた別だ。
「まぁ、あいつがクラウドを見捨てるとは思えねぇしな……」
低く呟き、バレットは腕を組み直す。
その時だった。
エレベーターが、大きく揺れる。
「――なんだ!?」
けたたましい警報が狭い箱の中に鳴り響いた。
「シャフトに、何か来る!」
ザックスが叫ぶ。
エレベーターの天井、非常口の隙間から巨大な金属の腕が覗いた。
(マジかよ……!)
内心で舌打ちする。
エレベーターの壁面に、大型の砲台じみた兵器が次々と取り付いていくのが見えた。
シャフトの内壁を這うようにして無数の脚と腕を器用に使い、ぐんぐん上へと登ってくる。
複数の砲塔と無骨な装甲。全身が殺意の塊のような機体だった。
「くそったれが、退路まで塞ぐ気か!」
咆哮と共にバレットの銃腕が火を噴く。
「――待て、ここじゃ狭すぎる!」
エレベーターの扉を力任せにこじ開ける。ザックスが大剣で隙間をさらに広げた。
その先、非常用の足場に飛び移る。
「エアリス、レッドⅩⅢ、下がってろ!」
叫びながら砲台へと銃口を向ける。
『――ハンドレッドガンナー、起動。対象を、確認。排除する』
機体そのものから発せられた、無機質な音声だった。
「ハンドレッドガンナー、ね。物騒な名前つけやがって!」
吐き捨てるように、名を、口の中で繰り返す。
複数の砲塔が、一斉に、火を噴いた。
足場の縁が、次々と削り取られていく。
「くっ……! しぶとい野郎だ!」
銃弾を浴びせるが、分厚い装甲に阻まれ、大した傷にはならない。
「エアリス、援護を頼む!」
「任せて!」
エアリスの魔法が、被弾したザックスの傷を、淡い光で包み込む。
「レッドⅩⅢ、右の脚部だ! 装甲が薄い!」
「承知した!」
跳躍したレッドⅩⅢの牙が機体の関節部へと深く食い込む。
『――侵入者、排除に、失敗中。出力を、増強する』
無機質な声と共に、機体の砲塔が更に二基、追加で展開される。
「――マジかよ、まだ増えるのか!」
ザックスが、悪態をつく。
追加された砲塔から、収束したビームが放たれる。
「散れ!」
叫びながら足場を蹴り、横へと跳ぶ。着弾した箇所が大きく抉れた。
「そこだ、畳み掛けろ!」
ザックスの大剣が、露出した機構へと深く叩き込まれる。
『――警告。損傷率、上昇』
機体が体勢を崩しながらも、残る砲塔からなおも砲撃を続ける。
「もう一丁だ!」
銃撃を集中させる。装甲に亀裂が走り、内部の機構が露わになる。
「今だ!」
レッドⅩⅢが露出した機構へと鋭い一撃を叩き込んだ。
『機能、停止……』
耳障りな駆動音と共に、機体が大きく傾ぐ。そのまま、シャフトの底へと落下していった。
「――片付いたか」
肩で息をしながらバレットが呟く。
「なんつー化け物、送り込んでくんだよ、神羅も」
ザックスが、うんざりしたように剣を鞘へと戻す。
「あれで、対テロ用って言うんだから、笑えねぇ話だぜ」
肩を回しながら、バレットが吐き捨てる。
エアリスが、荒く息をつく仲間達を見渡し、回復魔法の残量を確かめるように杖を握り直した。
「油断するな。まだ、下まで距離がある」
短く、釘を刺す。
一同は、開いた出入口から、地上フロアへと飛び降りた。
広々としたエントランスホールに、着地する。
その先に待ち構えていたのは、大量の警備兵と、その先頭に立つ恰幅の良い男だった。
「――何者だ、あれ」
低く、バレットが呟く。
「よくも、我が社を、ここまで引っ掻き回してくれたなァ!」
男が大仰な身振りで叫ぶ。
「全隊、包囲しろォ! 一人残らず、仕留めるのだァ!」
号令と共に、警備兵達が一同をじりじりと取り囲んでいく。銃口の数は数える気も失せるほどだった。
(――囲まれたか)
内心で、バレットは素早く状況を整理する。
数は、少なくとも五十。統制の取れた包囲網だった。武器を構え直すも、正面突破は、容易ではない。
「クソ……こんなところで、終わってたまるかよ」
低く吐き捨てる。銃腕を油断なく構え直す。
エアリスも、レッドⅩⅢも、ザックスも、それぞれ戦う姿勢を崩さない。だが、この人数差では長くは保たないだろう。
(――誰か、力を貸してくれ)
胸中でそう願った、その時だった。
遠くから、二つのエンジン音が次第に近づいてくるのが聞こえた。
「――なんだ?」
視線を向ければ、エントランスの奥、破壊された壁の向こうから一台のバイクと一台のトラックが猛スピードで突っ込んでくる。
「――待たせたな!」
バイクを駆るのは、クラウドだった。
「クラウド! お前ら、無事だったのか!」
「ああ、なんとかな!」
トラックの運転席にはティファが座り、その荷台には――グリモアを掲げた、ジュリアスの姿があった。
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ルーファウスを退けた後、時間を無駄にはしなかった。
社長端末から割り出した非常用の資材搬入路を使い、階段を駆け下りる。地上三階、展示品のバイクとトラックが動くものであると判明したのは、幸運としか言いようがない。
「――このまま、正面から突っ切るぞ」
ティファに、短く告げる。
「エントランスに、みんながいるはずだ」
エンジン音を頼りに最短距離で駆け抜けてきた結果が今だった。
荷台から、包囲の中央に立つ、恰幅の良い男の姿が見えた。
(――ハイデッカーか)
治安維持部門統括。過去、幾度か護衛任務で顔を合わせたことのある男だった。あの適当な采配で知られるイエスマン。
包囲を、崩す。
内心で即座に算段を組む。焦って動けば、いずれかが犠牲になりかねない。
「クラウド、そのままバイクで、包囲の薄い場所を突っ切れ!」
「――了解!」
短く応じたクラウドが、エンジンを唸らせる。
「バレット、エアリス、こっちだ! 荷台に乗れ!」
叫びながら荷台の縁へと手を伸ばす。バレットとエアリス、ザックス、レッドⅩⅢが次々と、トラックの荷台へと乗り込んできた。
「ティファ、頼む!」
「了解!」
運転席から、ティファの声が応える。
義手を通し、グリモアへ魔力を込める。
正面の警備兵達へ向け風の刃を放つ。
「演算開始――擬似エアロ!」
薙ぎ払われた警備兵達が次々と後退する。
「――ッ、まだだ! いくらでも湧いてきやがる!」
荷台の隅からバレットが銃撃を加勢する。
「今だ、抜けるぞ!」
クラウドのバイクが開いた活路を一気に駆け抜ける。トラックもそれに続いた。
エントランスホールを抜け、外へと飛び出す。
夜のミッドガルの街並みが、視界に広がった。
「――追ってきてるぞ!」
荷台から後方を振り返れば、複数のバイクと装甲車が猛追してきているのが見えた。
「ハイウェイに、入るぞ!」
運転席からティファの声が響く。
トラックが大きく旋回する。高架道路へと乗り上げた。
その頃には、追手の数は、更に増していた。
「クラウド、こっちに来い!」
叫びながら荷台の縁から身を乗り出す。
クラウドが、バイクの速度をトラックへと合わせる。
「――失礼するぞ!」
タイミングを見計らい、バイクの後部座席へと飛び移った。
「おい、いきなりかよ!」
「文句は後だ! 俺が、後方を潰す!」
義手を通し、グリモアを後方へと向ける。
「演算開始――擬似サンダー!」
放たれた雷撃が、追走する装甲車の一台を直撃した。爆炎が夜の高架道路を赤く染める。
「バレット、エアリス! 援護を頼む!」
荷台から二人の声が応える。
「言われなくてもな!」
バレットの銃撃が追手のバイクを次々と撃ち落としていく。
「こっちも、加勢するね!」
エアリスの杖から放たれた光弾が精密に敵の車両を狙い撃つ。
レッドⅩⅢも、荷台の縁に踏ん張りながら、飛びかかってきた一台の兵に鋭い爪を叩き込んだ。
「くっ……ザックス、そっちは!」
「任せろ! こっちの荷台には、指一本触れさせねぇ!」
荷台の前方でザックスが大剣を振るい、側面から近づこうとするバイクを次々とはね除けていく。
「にしても、そんな本一つで、そこまで撃てるとはな!」
背後から、クラウドが感心したように声を上げる。
「褒めている場合か。前を見ろ」
素っ気なく返しながらも、次弾の演算を、絶やさない。
(――上出来だ)
内心で僅かに口の端を上げる。
遠距離攻撃が可能な三人の連携により、追手の勢いは着実に削がれていった。
「前方に、バリケードだ!」
クラウドの声に、視線を、前へと向ける。
高架道路の中央、幾重にも積まれた装甲車が、行く手を、塞いでいた。
「――突っ切るしかない!」
クラウドが、速度を、緩めない。
「援護する! 演算開始――擬似エアロ、連続展開!」
放った風の刃が、バリケードの一角を吹き飛ばす。開いた隙間へ、バイクとトラックが同時に飛び込んだ。
「ぎりぎりだったな!」
「軽口を叩く余裕があるなら、まだ大丈夫そうだな」
高架道路を、幾つも走り抜ける。
やがて、視界の先に、巨大な金属製の門が見えてきた。
(――あれが)
内心でそう呟く。ミッドガルの外縁、都市を囲む巨大なゲートだった。追手の姿は、いつの間にか絶えていた。
だが、ゲートに近づくにつれ言いようのない違和感が肌を刺す。
風が、無い。
あれほど激しかったエンジン音すら、今はやけに遠く感じられた。
「――なんか、変じゃない?」
荷台の上、エアリスが不安げに辺りを見渡す。
その時だった。
夜空を覆うように、無数の朧げな影が四方から一気に湧き上がる。
「――ッ!」
影の群れは、瞬く間にゲートの上空へと収束していく。渦を巻きながら巨大な黒い壁となって、行く手を完全に塞いだ。
「な、なんだよ、これ……!」
「止まれ!」
叫びながらクラウドが、バイクを急停止させる。トラックも大きくブレーキ音を立てて止まった。
見上げるほどの黒い壁。その表面を、無数の朧げな靄が絶えず蠢いている。まるで意志を持つ巨大な生き物のようだった。
低い地鳴りのような音が、壁の奥から絶えず響いてくる。まるで無数の囁き声が幾重にも重なり合っているようだった。
バイクを降り、警戒しながらその光景を見据える。
壁の中心が、ゆっくりと裂けるように開いていく。
舞い散る、黒い羽根。その隙間から、銀髪の男が、静かに、歩み出てきた。
「セフィロス……!」
クラウドの声に、緊張が滲む。
夜風に長い髪をなびかせる様は、先程あの部屋で見た時と寸分違わなかった。
「――随分と、賑やかな逃走劇だったな」
セフィロスが抑揚のない声で告げる。
「お前達は、決められた道の外へ、踏み出そうとしている」
視線が、ゆっくりとクラウドへと向けられる。それから、隣に立つザックスへも同じように注がれた。
「知りたくは無いか。この先に、何が待つのか。お前達が、何者なのか」
「――何が、言いたい」
低く、クラウドが問う。大剣を握る手に、力が籠るのが分かった。
「なぁ、俺にも、聞かせてくれよ」
ザックスも、剣の柄に手をかけたまま油断なく、セフィロスを見据えていた。
セフィロスは、二人の問いには直接答えなかった。ただ、静かに口の端を上げただけだった。
「運命に、抗うつもりならば――ついてこい。私が、その真実を、見せてやろう」
それだけ言い残し、男の姿は舞い散る黒い羽根と共に、揺らめくように消え失せた。
「――待て!」
クラウドが叫ぶが、既に気配は無かった。
目の前の黒い壁だけが、変わらずゆっくりと蠢き続けている。
「ジュリアス、あれは……」
ティファが運転席から、こちらを窺うように見る。
「分からん。だが、あいつが、ただの幻影ではないことだけは確かだ」
短く答える。
その時、隣でエアリスが小さく息を呑んだ。
「――待って」
エアリスの声に緊張が滲む。
「この先に行ったら……もう、後戻りは、できないと思う」
「――どういうことだ」
「上手く、言えないけど……。この道の先は、何か、大きな分かれ道になってる気がするの。今のセフィロスの言葉も、多分、そういう意味」
エアリスの言葉に一同が顔を見合わせる。
(――エアリスには、何か見えているのか)
内心で素早く思考を巡らせる。古代種の血を引く彼女には自分達には感じ取れない何かが見えているのかもしれない。
「あの黒い壁みたいなの……フィーラー、って呼ばれてる」
エアリスが静かにその名を呼ぶ。
「知っているのか」
「詳しくは、分からない。でも……あれは、運命を守ろうとしてる存在だと思う。定められた筋書きから外れようとするものを、正そうとする」
エアリスの説明に一同が息を呑む。
「――正す、ってのは、具体的に、どうするんだ」
低く問いかける。詳細が分からないまま進むのは危険だ。少しでも情報を引き出しておきたかった。
「分からない……でも、多分、力ずくで。あの人達――昔から、街の各所で、時々、見かけてたの。誰かが、決められた道から外れそうになると、そっと、引き戻すみたいに」
エアリスが記憶を辿るように視線を落とす。
「今回は、それが……“そっと”、じゃ済まない、ってことだと思う」
その言葉に、内心で僅かに眉を寄せる。
(――厄介だな)
見た目からして、生半可な力では無いだろう。だが、ここで引き返すという選択肢は既に無かった。
「――つまり、俺達が、運命とやらに逆らおうとしてるから、あいつらが出てきた、ってことか」
バレットが低く唸る。
「多分ね。ミッドガル全体を、囲むように現れてる。まるで……この先に行かせないための、壁みたいに」
エアリスの声に微かな不安が滲む。
「行くも戻るも、あいつらが黙ってないってことか……面倒な話だぜ」
ザックスが、ため息混じりに剣の柄を握り直す。
沈黙が一同を包む。
目の前の黒い壁は、依然として道を完全に塞いだままだった。まるで、こちらの覚悟を試すかのように。
やがて、口を開いたのはクラウドだった。
「――関係ない」
低く、しかしはっきりとした声だった。
「運命だか何だか知らないが、それを、越える必要があるなら、越えるまでだ。俺は、俺の意志で前に進む」
その言葉に迷いは無かった。
(――そうだな)
内心で静かに頷く。
「俺も、同じだ」
短く告げる。
「運命だろうと、神羅だろうと、世界そのものだろうと――俺は、俺の目的のために、立ち止まるつもりはない」
十年間、積み上げてきた復讐の道だ。今更、得体の知れない存在に怯むつもりは無かった。
「私も、行く」
ティファが静かに頷く。
「俺も、覚悟は決まってる」
バレットが銃腕を構え直す。
「俺だってよ、ここで引き返す理由はねぇ」
ザックスが快活に笑う。
レッドⅩⅢも、無言のまま、小さく頷いた。
「無論、私にも、確かめたいことがある。ここで、引き下がる理由には、ならない」
金色の瞳が、静かに黒い壁を見据える。
「私も……皆と、一緒に行く」
エアリスの声に確かな決意が滲む。
一同の顔を順に見渡す。
誰の瞳にも、迷いは無かった。
「――なら、行くぞ」
短く告げる。
バイクを、その場に停めたまま降りる。トラックのエンジンも、ティファの手で静かに切られた。
「――歩いて、行くのか?」
バレットが怪訝そうに、こちらを見る。
「機動力に頼るような相手じゃない。それに――」
目の前の、黒い壁を、見据える。
「これは、俺達の意志で、越えるべきものだ。乗り物に、頼るべきじゃない」
クラウドが無言のまま、大剣を担ぎ直し、歩き出す。ティファがその隣に並んだ。
ザックス、バレット、エアリス、レッドⅩⅢも次々と後に続く。
最後に、グリモアを懐に収め、一同の後を追う。
無数のフィーラーが、渦を巻くようにゲートの周囲を蠢いていた。だが、まるで一同の意志をはねのけられないとでもいうように、その黒い壁が僅かに震え始める。
一歩、また一歩と、黒い靄へ向けて歩みを進める。
触れた瞬間、黒い靄が、悲鳴じみた音を立てて、渦を巻く。全身に、粘つくような、悪寒が走った。
それでも、足を、止めなかった。
隣を見れば、クラウドも、ティファも、他の面々も皆、同じように前だけを見据えている。
誰も、振り返らなかった。
黒い靄の中へ、一同は迷いなく足を踏み入れていった。
背後で、ミッドガルの明かりが少しずつ遠ざかっていく。
まだ、何も終わってはいない。
これから先、待ち受けるものが、何であれ。
自分の道を、進むだけだ。