FINAL FANTASY Ⅶ Revengers   作:オレンジⅩⅢ

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Chapter.18 運命を 超えて①

黒い靄に、足を踏み入れた瞬間。

音が消えた。

風の音も、仲間達の足音も、何もかもが一瞬にして遠のいていく。

まるで、水の中に沈んでいくような感覚だった。

 

視界が白く染まる。次の瞬間には、見知らぬ場所に立っていた。

 

「――どこだ、ここは」

 

思わず声が漏れる。

足元には、地面と呼べるものすら無い。淡い光を放つ幾何学的な結晶のようなものが、宙に浮かんでいた。

その先には、果てが見えないほど広がる、白と灰色の狭間のような空間がある。

重力の感覚だけは、辛うじて保たれている。それだけが唯一の救いだった。

耳を澄ませても風の音一つ聞こえない。ただ時折、遠雷のような音が空間の奥から響いてくるだけだった。

 

割れたガラスの破片にも似た結晶が、幾つも宙に浮遊している。触れれば崩れてしまいそうな、ひどく不安定な世界だった。

自分自身の輪郭すら、この場所では、どこか曖昧に感じられた。魔晄を扱う演算にも、僅かな違和感がある。慣れた計算式が、いつもより、ほんの少し重い。

 

(――ここは、現実と地続きの場所じゃないのかもしれないな)

 

内心で、そう独りごちる。だが、今は、それを検証している余裕は無かった。

 

「クラウド! ザックス!」

 

呼びかけるが返事は無い。

周囲を見渡しても、仲間達の姿はどこにも見当たらなかった。

 

(散り散りになったか……)

 

内心で素早く状況を分析する。あの黒い壁に足を踏み入れた直後、意識が一瞬途切れた。おそらく、その瞬間に、それぞれ別の場所へと弾き飛ばされたのだろう。

義手を確認する。損傷は無い。グリモアも懐の中で、無事のようだった。

 

「――ッ、あれは」

 

離れた場所に人影が見えた。

黒いボムのような髪型。見間違えるはずがない。

 

「ザックス!」

 

叫びながら駆け寄ろうとする。だが、その足が途中で止まった。

朧げな靄の群れが、ザックスを幾重にも取り囲んでいく。

 

「なんだ、お前ら……!」

 

ザックスが大剣を振るい、抗おうとする。だが靄は、切り裂いても切り裂いても、次々と湧き上がり、彼の両腕へと絡みついていった。

 

「うおっ……!」

 

引きずられる勢いに、握力が耐えきれなかったのだろう。大剣が、彼の手から離れる。

金属音を立てて、剣身が足元へと落ちた。

 

「ザックス!」

 

もう一度叫ぶ。義手に魔力を込め、駆け出そうとする。だが目に見えない壁のようなものが、行く手を阻んだ。

弾かれるように、身体が後ろへとよろめく。

 

「――ッ、くそ……!」

 

苛立ちを抑えきれない。

ザックスの身体が、靄の渦の中心へと、ゆっくりと引きずり込まれていく。

 

「離せ……! 離しやがれ……!」

 

抵抗する声が、次第に遠くなっていく。

 

「ザックス――!」

 

叫んだ声も、虚しく空を切るだけだった。

靄の渦が大きく脈打つ。それと同時に、ザックスの姿は闇の中へと、飲み込まれるように消えていった。

 

(――ッ!)

 

拳を強く握りしめる。

追いかけたい。だが、目に見えない壁は依然として行く手を阻んでいる。無理に押し通ろうとすれば、余計な消耗を招くだけだろう。

 

(落ち着け。今は感情に任せて動く時じゃない)

 

自分に言い聞かせる。

義手の付け根に、鈍い痛みが走った。だが、それを意識の外へと押しやる。

 

視線が、足元へと落ちる。

先程まで、ザックスの手にあった大剣が、光の結晶の上に静かに横たわっていた。

刀身の表面に、幾つもの傷跡が刻まれている。長年、彼が振るい続けてきたことを物語る傷だった。

 

(――バスターソード)

 

以前、話に聞いたことがある。ソルジャー最高峰と謳われた、かつての先輩ソルジャーから受け継いだ、彼にとって唯一無二の得物だと。

いつか、その名を誇らしげに語っていたことを思い出す。手放すはずのない一振りだった。それが、こうして無防備に転がっている光景が、余計に事態の異様さを物語っていた。

 

躊躇いは一瞬だけだった。

腰を屈め、両手で刀身を持ち上げる。想像していたよりも遥かに重かった。

 

「――必ず、持ち主の元へ戻す」

 

誰にともなく、そう呟く。

背負うには大きすぎる得物を、無理やり背中に括り付ける。歩くたびに鈍く重心が揺れた。

 

(まずは、現状の把握が先だ)

 

深呼吸を一つ。

ザックスを失ったことへの焦りを、無理やり思考の奥へと沈める。今は、それしかできなかった。

周囲を改めて見渡す。

遠くから地響きのような音と、複数の咆哮が聞こえてきた。

 

(――戦闘か)

 

音のする方向へと目を凝らす。

淡い光の空間の彼方、何かが激しく動いているのが微かに見えた。

 

(賭けだが、行くしかないな)

 

グリモアに魔力を込め、軽く身体を強化する。慣れない重さの得物を背負ったまま、音の方向へと駆け出した。

 

 

 

 

 

 

しばらく進んだ先、視界が開ける。

その光景に思わず足を止めた。

大剣を振るう、見慣れた後ろ姿。

 

「――クラウド!」

 

彼の周囲を二体の異形が取り囲んでいた。

一体は深緑色に発光する、鱗のような外殻を纏った靄の塊。もう一体は黄色く発光し、幾つもの棘を四方へと伸ばしている。

正体不明の相手に、闇雲に挑むのは危険だ。

義手を掲げ、グリモアの側面に装着した小さな球体――みやぶるマテリアへと魔力を通す。

 

「――解析、開始」

 

蒼い光が、二体の異形をそれぞれ包み込む。仮想モニターに、次々と数値と文字列が浮かび上がった。

 

(フィーラー=ヴェルデ、フィーラー=ジャッロ……。属性は、それぞれ土と雷か)

 

弱点まで含めて瞬時に読み取る。

 

「クラウド、右! 緑は雷が弱点、黄色は氷が弱点だ!」

 

叫びながら駆け寄る。

 

「ジュリアス!?」

 

驚いたように、クラウドがこちらを見た。

 

「無事だったか」

「お前もな。他のみんなは」

「まだ確認できていない。今は目の前を片付けるぞ」

 

短く答え、グリモアへ魔力を注ぎ込む。

深緑の異形が身体を大きく膨らませ、棘のような突起を無数に射出してきた。

 

「散れ!」

 

叫びながら身を翻す。数本が頬を掠めた。

 

「演算開始――擬似バリア!」

 

咄嗟に蒼い障壁を、二人の前に展開する。残りの突起が鈍い音を立てて弾かれた。

 

「助かった!」

 

クラウドが姿勢を低く沈め、間合いを詰める。振り上げた大剣が、深緑の異形の腹を下から掬い上げるように斬り上げた。

異形の身体が僅かに浮く。空中で体勢を崩したところへ、クラウドが追撃を叩き込んだ。

 

「今、隙が出来た!」

 

叫びながら雷撃の演算式を組み上げる。

 

「演算開始――擬似サンダラ!」

 

放たれた雷が、宙に浮いた深緑の異形を直撃した。

弱点を突かれた衝撃で外殻に亀裂が走る。異形の動きが、目に見えて鈍くなった。

 

「今だ、畳み掛けろ!」

「ああ!」

 

クラウドの連撃が、罅割れた外殻を次々と打ち砕いていく。

一方、黄色の異形がその隙を突くように、鋭い爪を振り上げた。

 

「そっちは俺が引き受ける!」

 

義手を掲げ、氷結の演算式を組み上げる。

 

「演算開始――擬似ブリザド!」

 

放たれた冷気が、黄色の異形を直撃した。

甲高い悲鳴のような音を上げながら、異形の身体が内側から凍りつき、大きく仰け反る。

だが絶命には至らない。凍りついたはずの腕が、無理やり氷を砕きながら、再びこちらへと迫ってきた。

 

「――しぶといな」

 

舌打ちを堪えながら身を横に翻す。爪の一撃が、すぐ傍らの結晶を粉々に打ち砕いた。

反撃の隙を探る。異形の凍りついた表面には、まだ幾つも罅が残っていた。

 

「そこか」

 

義手を掲げ直し、二撃目の氷撃を叩き込む。冷気を纏った拳のような一撃が、罅割れた表面を内側から一気に打ち砕いた。

 

「クラウド、今だ!」

「了解!」

 

跳躍したクラウドの一閃が、砕けた黄色の異形の中心を深く貫いた。

断末魔とも取れる音を残し、二体の異形は靄となって、宙へと霧散していく。

 

「――片付いたか」

 

肩で息をしながら周囲を確認する。

 

「ジュリアス、他のみんなは」

「まだ分からん。ザックスが……」

 

言いかけて一度、言葉を切る。

 

「――ザックスが、どうした」

 

クラウドの表情に緊張が走る。

 

「連れて行かれた。あの靄の群れに。追おうとしたが間に合わなかった」

 

淡々と事実だけを告げる。感情を込めれば、余計に動揺を招くだけだ。

 

「――そんな」

 

クラウドが拳を強く握りしめる。

背負っていた大剣を、静かに下ろす。

 

「代わりに、これを預かってきた」

 

差し出された得物を見て、クラウドの目が大きく見開かれた。

 

「これは…… バスターソード……。なんで、お前が」

「連れて行かれる寸前、手放したんだろう。近くに落ちていた」

 

短く答える。

 

「本人には必ず返す。だが、それまでは誰かが預かっておくべきだと思ってな」

 

その言葉に、クラウドはしばし無言のまま、バスターソードを見つめていた。

指先で刀身の傷跡を、そっとなぞる。まるで、そこに刻まれた記憶を確かめるように。

 

「――こいつは、アンジールから受け継いだ剣だって、言ってたな。あいつにとっては、命より大事な一振りだ」

 

呟くように、クラウドが続ける。

 

「知っている。だからこそ、必ず返さなければならない」

 

短く応じる。今は、それ以上、何を語る必要も無かった。

やがて、背負っていた自分の大剣を、静かに地面へと下ろす。

 

「――借りるぞ」

 

短くそう告げると、クラウドはバスターソードを構え、その重さを確かめるように、一度大きく振るった。

刃が空を切る音が、これまでとは明らかに違う重みを帯びていた。

 

「必ず、返すぞ」

 

低く、しかしはっきりとそう呟く。

その横顔に迷いは無かった。

 

(――そうだな)

 

内心で静かに頷く。今は、それ以上何も言う必要は無かった。

肩で息をつきながら、地面に残された自分の大剣を、クラウドが一瞥する。

 

「あっちも、後で回収しておかないとな」

「必要なら、俺が運んでおく」

「――いや、いい。荷物持ちにするには、勿体無い相手だろ、お前」

 

軽口めいたクラウドの言葉に、思わず、片眉が動く。

 

「軽口を叩く余裕があるなら、まだ大丈夫そうだな」

「そりゃ、こっちの台詞だ」

 

短いやり取りに、僅かに、肩の力が抜けた。だが、それも、長くは続かなかった。

その時だった。

 

「――クラウド! ジュリアス!」

 

呼びかける声に振り返る。

 

「ティファ!」

 

土埃を纏った姿で駆け寄ってくるティファの後ろに、バレット、エアリス、レッドⅩⅢの姿もあった。

 

「みんな、無事か」

「ああ、なんとかな!」

 

バレットが銃腕を軽く掲げる。

 

「私も大丈夫」

 

エアリスが頷きながら答える。その表情には、僅かな緊張が滲んでいた。

 

「――良かった。全員揃ったな」

 

思わずそう漏らす。だが、その安堵はすぐに消えることになる。

 

「ザックスがいない」

 

短く告げれば、三人の表情が一斉に強張った。

 

「――は? どういうことだ」

「靄に連れて行かれた。詳しい経緯は後で話す」

 

淡々と答える。今は、感傷に浸っている時間は無い。

 

「――くそ、あいつ……!」

 

バレットが低く吐き捨てる。

視線が、クラウドの手にある得物へと移る。

 

「――それ、ザックスの」

 

ティファが小さく息を呑む。

 

「ああ。取り戻すまで、俺が使う」

 

短く答えたクラウドに、ティファはそれ以上何も言わなかった。ただ、小さく頷いただけだった。

 

「今は探す手立ても無い。まずは、この場を乗り切ることが先決だ」

 

短く釘を刺す。誰も反論しなかった。

 

(見つけ出す。必ず)

 

内心で強く誓う。だが、今それを口には出さない。

 

「この場所……なんだか変な感じがする」

 

エアリスが周囲を見渡しながら呟く。

 

「変、というと」

「上手く言えないけど……。世界そのものが、まだ出来上がってないみたいな。時間の流れも、少しおかしい気がする」

 

その言葉に、内心で僅かに眉を寄せる。詳しいことは分からない。だが、彼女の勘は、これまでも当たり続けてきた。頭の片隅に留めておく必要があるだろう。

 

「みんなが揃うまで、私も、少し不安だったの。誰かが、まだ、この靄の中に取り残されてるんじゃないかって」

 

エアリスが、そう続けながら、遠くを見つめる。

 

「その勘は、間違っていない。ザックスが、まだ、この向こうのどこかにいる」

 

短く答えれば、エアリスの表情に、僅かな決意が滲んだ。

地響きが、一段と大きくなる。

 

「――なんだ、あれ」

 

バレットの声に視線を向ける。

空間の彼方、白い靄が渦を巻きながら、巨大な竜のような輪郭を形作っていくのが見えた。

金色に発光する幾つもの目。無数の翼のような突起。全身から放たれる威圧感は、これまでの異形とは明らかに格が違った。

義手を掲げ、みやぶるマテリアへ再び魔力を通す。

 

「解析、開始」

 

蒼い光が竜の巨体を包み込んでいく。仮想モニターに、次々と膨大な情報が流れ込んできた。

 

(――フィーラー=バハムート。核は頭部と胸部の二箇所。魔法耐性は高い。物理は通る……)

 

読み取った情報を、頭の中で素早く整理する。

 

「なんつー化け物だよ……!」

 

バレットが思わず後ずさる。

 

「怯むな。名前と弱点は分かった。あれの核は頭部と胸だ。魔法よりも物理での連続攻撃が効く」

 

短く告げる。

 

(――ここで足を止めるわけにはいかない)

 

ザックスを取り戻すためにも。そして、先へと進むためにも。

 

「クラウド、ティファ、バレット。それぞれ核を狙って攻め込め。エアリスは回復と援護、レッドⅩⅢは機動力を活かして隙を作れ」

 

義手にグリモアを繋ぎながら指示を飛ばす。

 

「俺は後方から、弱点属性で援護する」

「――了解!」

 

クラウドがバスターソードを構え、真っ先に駆け出した。

竜の顎から、白い光が収束していく。

 

「散れ!」

 

叫びながら放たれたブレスを避ける。着弾した地点が大きく抉れた。

クラウドが地を蹴り、跳躍する。空中で身体を捻りながら、竜の側頭部へとバスターソードを叩き込んだ。

 

「重い……! だが、これなら――」

 

言葉半ばに二撃目を続けざまに打ち込む。竜の巨体が僅かに揺らいだ。

 

「バレット、頭を狙え! 物理が効く!」

「言われなくてもな!」

 

銃撃が竜の頭部へと次々と撃ち込まれる。着弾のたびに外殻が細かく罅割れていった。

 

「私は回復に回るね!」

 

エアリスの杖から淡い光が、クラウドとバレットを包み込んだ。

 

「レッドⅩⅢ、胸元から!」

「承知した!」

 

跳躍したレッドⅩⅢの牙が、竜の胸部へと深く食い込む。

 

「ティファ、今だ!」

 

叫べば、ティファの拳が竜の胸の中心へと連続で叩き込まれた。

 

「グァァァ……!」

 

咆哮とともに、竜の巨体が大きく仰け反る。

外殻の罅割れが、頭部と胸部、二箇所で同時に限界を迎えつつあった。

 

(――ここだ)

 

義手を通じ、竜の魔晄反応が大きく乱れているのを感じ取る。

 

「今なら雷が通る! 演算開始――雷撃、収束!」

 

グリモアへ限界近くまで魔力を注ぎ込む。

放たれた雷が、罅割れた頭部と胸部を同時に貫いた。

だが、それで終わりではなかった。

咆哮とともに、竜の巨体が大きく浮き上がる。四方の靄が次々と渦を巻きながら収束し、無数の光の塊へと姿を変えていった。

 

「――ッ、来るぞ!」

 

叫んだ直後、光の塊が隕石のように次々と降り注ぐ。

 

「散れ、固まるな!」

 

叫びながらグリモアを掲げ、範囲障壁を展開する。

 

「くっ……!」

 

バレットが間一髪で着弾を避ける。ティファも跳躍しながら身を捩り、直撃を免れた。

 

「エアリス、みんな無事か!」

「うん、大丈夫……!」

 

答える声に、僅かな安堵を覚える。だが休んでいる暇は無かった。

竜が再び地上へと降り立つ。翼状の突起を大きく広げ、無数の光弾を四方八方へと解き放った。

 

「囲まれるぞ、散開しろ!」

 

叫びながら障壁の演算を組み上げる。展開しきれない分は、自らの身を挺して受け止めた。

 

「ジュリアス!」

 

ティファの声に、軽く手を上げて答える。心配している暇は無かった。

 

(――もう少しだ)

 

自分に言い聞かせながら、再び雷撃の演算式を組み上げていく。

 

「バレット、頭部の発光部を狙え! あそこが核だ!」

 

グリモアを通し、竜の構造を改めて解析しながら叫ぶ。

 

「おーし、やってやらぁ!」

 

一点に、銃撃と魔法が集中する。

竜の頭部が大きく罅割れる。内側から漏れ出す光が、一段と強くなった。

 

「クラウド、胸だ! 仕上げに行くぞ!」

「分かってる!」

 

クラウドが竜の懐へと一気に踏み込む。

バスターソードを大きく振りかぶり、罅割れた胸部の中心へと渾身の一撃を叩き込んだ。

 

「――ッ、これで終わりだ!」

 

刀身が竜の核を深々と貫く。

耳をつんざくような咆哮を最後に、竜の巨体は靄となって崩れ、宙へと拡散していった。

静寂が戻る。

肩で息をしながら周囲を見渡す。誰もが立っている。それだけで十分だった。

 

「――終わった、のか」

 

バレットが呟く。

 

「油断するな。この場所自体が、まだ何を仕掛けてくるか分からない」

 

短く答えながら義手の状態を確認する。演算の連続使用で、僅かに発熱していた。

 

「ザックス……」

 

ティファが呟く。誰もが同じ名前を、胸の中で繰り返していたのだろう。

 

「ザックス、大丈夫かな」

 

クラウドが遠くを見つめながら、小さく呟く。その声には、隠しきれない不安が滲んでいた。

背負ったバスターソードに、右手を添える。

 

「――必ず、見つける」

 

短く、しかしはっきりと告げる。誰にともなく、自分自身に言い聞かせるように。

 

「今は、無事を信じて前に進むしかない」

 

その言葉に、クラウドが小さく頷いた。ティファも、バレットも、エアリスも、それぞれ覚悟を決めたような表情を見せる。

レッドⅩⅢだけが静かに、周囲の気配を窺っていた。

 

「――何か感じるのか」

 

低く問いかければ、金色の瞳がこちらを向く。

 

「まだ遠くだ。だが、何かがこちらを見ている気がする」

 

その言葉に、内心で僅かに緊張が走る。頭の片隅に留めておくべき情報が、また一つ増えた。

 

「セフィロス、か」

 

クラウドが低く呟いた。誰に問うでもなく、確信めいた響きだった。

 

「分からん。だが、備えておいて損は無いだろう」

 

短く答える。今は、それ以上の推測をしても意味は無かった。

 

「――ザックスの気配、まだ、微かに感じる」

 

不意に、エアリスが、そう呟いた。

 

「本当か」

「うん。はっきりとは、分からないけど……。この靄の向こう、どこか、遠い場所にいる気がする」

 

その言葉に、内心で、僅かに安堵する。生きている、という確証には至らない。だが、少なくとも、完全に消え去ったわけではない、という証だった。

 

「その感覚、頼りにさせてもらう」

 

短く告げれば、エアリスは、小さく頷いた。

一同の顔を、順に見渡す。誰もが、疲労の色を隠せずにいた。それでも、その瞳の奥には、確かな覚悟が滲んでいる。

 

(――この面子なら、まだ進める)

 

内心で、そう判断する。装備を確認し、義手の演算負荷を、改めて確かめた。まだ、余力は残っている。

 

「行くぞ。ザックスを、必ず取り戻す」

 

短く告げれば、誰からともなく、頷きが返ってきた。

背負ったバスターソードの重みを、クラウドが、改めて確かめるように、肩を回す。その仕草に、以前とは違う、確かな覚悟が滲んでいるように見えた。

 

(借り物の剣一つで、これほど、人は変わるものか)

 

内心で、そう思う。だが、それを口に出すつもりは無かった。今は、余計な感傷に浸っている時間は無い。

義手の演算負荷を、改めて数値で確認する。まだ、限界には至っていない。だが、余裕がある、とは言い難かった。

 

(この調子で、いつまで保つか……)

 

不安を、頭の隅に押しやりながら、一同とともに、歩き出す。

 

(――さて)

 

内心で静かに息を吐く。

この場所の正体も、ザックスの行方も、まだ何一つ分かっていない。だが、立ち止まっている時間は、もう残されていなかった。

まだ見ぬ先に何が待ち受けているのか。それは、まだ誰にも分からなかった。




あのバトルシーンについては、これが限界……
みやぶるマテリアは、クラウドのバトルレポート入手分を受け取ってます。もっと早めに出せば良かった(後悔)

ザックスの扱いをどうするか、悩みに悩んだ結果、一時離脱してもらうことにしました。
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