FINAL FANTASY Ⅶ Revengers 作:オレンジⅩⅢ
黒い靄に、足を踏み入れた瞬間。
音が消えた。
風の音も、仲間達の足音も、何もかもが一瞬にして遠のいていく。
まるで、水の中に沈んでいくような感覚だった。
視界が白く染まる。次の瞬間には、見知らぬ場所に立っていた。
「――どこだ、ここは」
思わず声が漏れる。
足元には、地面と呼べるものすら無い。淡い光を放つ幾何学的な結晶のようなものが、宙に浮かんでいた。
その先には、果てが見えないほど広がる、白と灰色の狭間のような空間がある。
重力の感覚だけは、辛うじて保たれている。それだけが唯一の救いだった。
耳を澄ませても風の音一つ聞こえない。ただ時折、遠雷のような音が空間の奥から響いてくるだけだった。
割れたガラスの破片にも似た結晶が、幾つも宙に浮遊している。触れれば崩れてしまいそうな、ひどく不安定な世界だった。
自分自身の輪郭すら、この場所では、どこか曖昧に感じられた。魔晄を扱う演算にも、僅かな違和感がある。慣れた計算式が、いつもより、ほんの少し重い。
(――ここは、現実と地続きの場所じゃないのかもしれないな)
内心で、そう独りごちる。だが、今は、それを検証している余裕は無かった。
「クラウド! ザックス!」
呼びかけるが返事は無い。
周囲を見渡しても、仲間達の姿はどこにも見当たらなかった。
(散り散りになったか……)
内心で素早く状況を分析する。あの黒い壁に足を踏み入れた直後、意識が一瞬途切れた。おそらく、その瞬間に、それぞれ別の場所へと弾き飛ばされたのだろう。
義手を確認する。損傷は無い。グリモアも懐の中で、無事のようだった。
「――ッ、あれは」
離れた場所に人影が見えた。
黒いボムのような髪型。見間違えるはずがない。
「ザックス!」
叫びながら駆け寄ろうとする。だが、その足が途中で止まった。
朧げな靄の群れが、ザックスを幾重にも取り囲んでいく。
「なんだ、お前ら……!」
ザックスが大剣を振るい、抗おうとする。だが靄は、切り裂いても切り裂いても、次々と湧き上がり、彼の両腕へと絡みついていった。
「うおっ……!」
引きずられる勢いに、握力が耐えきれなかったのだろう。大剣が、彼の手から離れる。
金属音を立てて、剣身が足元へと落ちた。
「ザックス!」
もう一度叫ぶ。義手に魔力を込め、駆け出そうとする。だが目に見えない壁のようなものが、行く手を阻んだ。
弾かれるように、身体が後ろへとよろめく。
「――ッ、くそ……!」
苛立ちを抑えきれない。
ザックスの身体が、靄の渦の中心へと、ゆっくりと引きずり込まれていく。
「離せ……! 離しやがれ……!」
抵抗する声が、次第に遠くなっていく。
「ザックス――!」
叫んだ声も、虚しく空を切るだけだった。
靄の渦が大きく脈打つ。それと同時に、ザックスの姿は闇の中へと、飲み込まれるように消えていった。
(――ッ!)
拳を強く握りしめる。
追いかけたい。だが、目に見えない壁は依然として行く手を阻んでいる。無理に押し通ろうとすれば、余計な消耗を招くだけだろう。
(落ち着け。今は感情に任せて動く時じゃない)
自分に言い聞かせる。
義手の付け根に、鈍い痛みが走った。だが、それを意識の外へと押しやる。
視線が、足元へと落ちる。
先程まで、ザックスの手にあった大剣が、光の結晶の上に静かに横たわっていた。
刀身の表面に、幾つもの傷跡が刻まれている。長年、彼が振るい続けてきたことを物語る傷だった。
(――バスターソード)
以前、話に聞いたことがある。ソルジャー最高峰と謳われた、かつての先輩ソルジャーから受け継いだ、彼にとって唯一無二の得物だと。
いつか、その名を誇らしげに語っていたことを思い出す。手放すはずのない一振りだった。それが、こうして無防備に転がっている光景が、余計に事態の異様さを物語っていた。
躊躇いは一瞬だけだった。
腰を屈め、両手で刀身を持ち上げる。想像していたよりも遥かに重かった。
「――必ず、持ち主の元へ戻す」
誰にともなく、そう呟く。
背負うには大きすぎる得物を、無理やり背中に括り付ける。歩くたびに鈍く重心が揺れた。
(まずは、現状の把握が先だ)
深呼吸を一つ。
ザックスを失ったことへの焦りを、無理やり思考の奥へと沈める。今は、それしかできなかった。
周囲を改めて見渡す。
遠くから地響きのような音と、複数の咆哮が聞こえてきた。
(――戦闘か)
音のする方向へと目を凝らす。
淡い光の空間の彼方、何かが激しく動いているのが微かに見えた。
(賭けだが、行くしかないな)
グリモアに魔力を込め、軽く身体を強化する。慣れない重さの得物を背負ったまま、音の方向へと駆け出した。
しばらく進んだ先、視界が開ける。
その光景に思わず足を止めた。
大剣を振るう、見慣れた後ろ姿。
「――クラウド!」
彼の周囲を二体の異形が取り囲んでいた。
一体は深緑色に発光する、鱗のような外殻を纏った靄の塊。もう一体は黄色く発光し、幾つもの棘を四方へと伸ばしている。
正体不明の相手に、闇雲に挑むのは危険だ。
義手を掲げ、グリモアの側面に装着した小さな球体――みやぶるマテリアへと魔力を通す。
「――解析、開始」
蒼い光が、二体の異形をそれぞれ包み込む。仮想モニターに、次々と数値と文字列が浮かび上がった。
(フィーラー=ヴェルデ、フィーラー=ジャッロ……。属性は、それぞれ土と雷か)
弱点まで含めて瞬時に読み取る。
「クラウド、右! 緑は雷が弱点、黄色は氷が弱点だ!」
叫びながら駆け寄る。
「ジュリアス!?」
驚いたように、クラウドがこちらを見た。
「無事だったか」
「お前もな。他のみんなは」
「まだ確認できていない。今は目の前を片付けるぞ」
短く答え、グリモアへ魔力を注ぎ込む。
深緑の異形が身体を大きく膨らませ、棘のような突起を無数に射出してきた。
「散れ!」
叫びながら身を翻す。数本が頬を掠めた。
「演算開始――擬似バリア!」
咄嗟に蒼い障壁を、二人の前に展開する。残りの突起が鈍い音を立てて弾かれた。
「助かった!」
クラウドが姿勢を低く沈め、間合いを詰める。振り上げた大剣が、深緑の異形の腹を下から掬い上げるように斬り上げた。
異形の身体が僅かに浮く。空中で体勢を崩したところへ、クラウドが追撃を叩き込んだ。
「今、隙が出来た!」
叫びながら雷撃の演算式を組み上げる。
「演算開始――擬似サンダラ!」
放たれた雷が、宙に浮いた深緑の異形を直撃した。
弱点を突かれた衝撃で外殻に亀裂が走る。異形の動きが、目に見えて鈍くなった。
「今だ、畳み掛けろ!」
「ああ!」
クラウドの連撃が、罅割れた外殻を次々と打ち砕いていく。
一方、黄色の異形がその隙を突くように、鋭い爪を振り上げた。
「そっちは俺が引き受ける!」
義手を掲げ、氷結の演算式を組み上げる。
「演算開始――擬似ブリザド!」
放たれた冷気が、黄色の異形を直撃した。
甲高い悲鳴のような音を上げながら、異形の身体が内側から凍りつき、大きく仰け反る。
だが絶命には至らない。凍りついたはずの腕が、無理やり氷を砕きながら、再びこちらへと迫ってきた。
「――しぶといな」
舌打ちを堪えながら身を横に翻す。爪の一撃が、すぐ傍らの結晶を粉々に打ち砕いた。
反撃の隙を探る。異形の凍りついた表面には、まだ幾つも罅が残っていた。
「そこか」
義手を掲げ直し、二撃目の氷撃を叩き込む。冷気を纏った拳のような一撃が、罅割れた表面を内側から一気に打ち砕いた。
「クラウド、今だ!」
「了解!」
跳躍したクラウドの一閃が、砕けた黄色の異形の中心を深く貫いた。
断末魔とも取れる音を残し、二体の異形は靄となって、宙へと霧散していく。
「――片付いたか」
肩で息をしながら周囲を確認する。
「ジュリアス、他のみんなは」
「まだ分からん。ザックスが……」
言いかけて一度、言葉を切る。
「――ザックスが、どうした」
クラウドの表情に緊張が走る。
「連れて行かれた。あの靄の群れに。追おうとしたが間に合わなかった」
淡々と事実だけを告げる。感情を込めれば、余計に動揺を招くだけだ。
「――そんな」
クラウドが拳を強く握りしめる。
背負っていた大剣を、静かに下ろす。
「代わりに、これを預かってきた」
差し出された得物を見て、クラウドの目が大きく見開かれた。
「これは…… バスターソード……。なんで、お前が」
「連れて行かれる寸前、手放したんだろう。近くに落ちていた」
短く答える。
「本人には必ず返す。だが、それまでは誰かが預かっておくべきだと思ってな」
その言葉に、クラウドはしばし無言のまま、バスターソードを見つめていた。
指先で刀身の傷跡を、そっとなぞる。まるで、そこに刻まれた記憶を確かめるように。
「――こいつは、アンジールから受け継いだ剣だって、言ってたな。あいつにとっては、命より大事な一振りだ」
呟くように、クラウドが続ける。
「知っている。だからこそ、必ず返さなければならない」
短く応じる。今は、それ以上、何を語る必要も無かった。
やがて、背負っていた自分の大剣を、静かに地面へと下ろす。
「――借りるぞ」
短くそう告げると、クラウドはバスターソードを構え、その重さを確かめるように、一度大きく振るった。
刃が空を切る音が、これまでとは明らかに違う重みを帯びていた。
「必ず、返すぞ」
低く、しかしはっきりとそう呟く。
その横顔に迷いは無かった。
(――そうだな)
内心で静かに頷く。今は、それ以上何も言う必要は無かった。
肩で息をつきながら、地面に残された自分の大剣を、クラウドが一瞥する。
「あっちも、後で回収しておかないとな」
「必要なら、俺が運んでおく」
「――いや、いい。荷物持ちにするには、勿体無い相手だろ、お前」
軽口めいたクラウドの言葉に、思わず、片眉が動く。
「軽口を叩く余裕があるなら、まだ大丈夫そうだな」
「そりゃ、こっちの台詞だ」
短いやり取りに、僅かに、肩の力が抜けた。だが、それも、長くは続かなかった。
その時だった。
「――クラウド! ジュリアス!」
呼びかける声に振り返る。
「ティファ!」
土埃を纏った姿で駆け寄ってくるティファの後ろに、バレット、エアリス、レッドⅩⅢの姿もあった。
「みんな、無事か」
「ああ、なんとかな!」
バレットが銃腕を軽く掲げる。
「私も大丈夫」
エアリスが頷きながら答える。その表情には、僅かな緊張が滲んでいた。
「――良かった。全員揃ったな」
思わずそう漏らす。だが、その安堵はすぐに消えることになる。
「ザックスがいない」
短く告げれば、三人の表情が一斉に強張った。
「――は? どういうことだ」
「靄に連れて行かれた。詳しい経緯は後で話す」
淡々と答える。今は、感傷に浸っている時間は無い。
「――くそ、あいつ……!」
バレットが低く吐き捨てる。
視線が、クラウドの手にある得物へと移る。
「――それ、ザックスの」
ティファが小さく息を呑む。
「ああ。取り戻すまで、俺が使う」
短く答えたクラウドに、ティファはそれ以上何も言わなかった。ただ、小さく頷いただけだった。
「今は探す手立ても無い。まずは、この場を乗り切ることが先決だ」
短く釘を刺す。誰も反論しなかった。
(見つけ出す。必ず)
内心で強く誓う。だが、今それを口には出さない。
「この場所……なんだか変な感じがする」
エアリスが周囲を見渡しながら呟く。
「変、というと」
「上手く言えないけど……。世界そのものが、まだ出来上がってないみたいな。時間の流れも、少しおかしい気がする」
その言葉に、内心で僅かに眉を寄せる。詳しいことは分からない。だが、彼女の勘は、これまでも当たり続けてきた。頭の片隅に留めておく必要があるだろう。
「みんなが揃うまで、私も、少し不安だったの。誰かが、まだ、この靄の中に取り残されてるんじゃないかって」
エアリスが、そう続けながら、遠くを見つめる。
「その勘は、間違っていない。ザックスが、まだ、この向こうのどこかにいる」
短く答えれば、エアリスの表情に、僅かな決意が滲んだ。
地響きが、一段と大きくなる。
「――なんだ、あれ」
バレットの声に視線を向ける。
空間の彼方、白い靄が渦を巻きながら、巨大な竜のような輪郭を形作っていくのが見えた。
金色に発光する幾つもの目。無数の翼のような突起。全身から放たれる威圧感は、これまでの異形とは明らかに格が違った。
義手を掲げ、みやぶるマテリアへ再び魔力を通す。
「解析、開始」
蒼い光が竜の巨体を包み込んでいく。仮想モニターに、次々と膨大な情報が流れ込んできた。
(――フィーラー=バハムート。核は頭部と胸部の二箇所。魔法耐性は高い。物理は通る……)
読み取った情報を、頭の中で素早く整理する。
「なんつー化け物だよ……!」
バレットが思わず後ずさる。
「怯むな。名前と弱点は分かった。あれの核は頭部と胸だ。魔法よりも物理での連続攻撃が効く」
短く告げる。
(――ここで足を止めるわけにはいかない)
ザックスを取り戻すためにも。そして、先へと進むためにも。
「クラウド、ティファ、バレット。それぞれ核を狙って攻め込め。エアリスは回復と援護、レッドⅩⅢは機動力を活かして隙を作れ」
義手にグリモアを繋ぎながら指示を飛ばす。
「俺は後方から、弱点属性で援護する」
「――了解!」
クラウドがバスターソードを構え、真っ先に駆け出した。
竜の顎から、白い光が収束していく。
「散れ!」
叫びながら放たれたブレスを避ける。着弾した地点が大きく抉れた。
クラウドが地を蹴り、跳躍する。空中で身体を捻りながら、竜の側頭部へとバスターソードを叩き込んだ。
「重い……! だが、これなら――」
言葉半ばに二撃目を続けざまに打ち込む。竜の巨体が僅かに揺らいだ。
「バレット、頭を狙え! 物理が効く!」
「言われなくてもな!」
銃撃が竜の頭部へと次々と撃ち込まれる。着弾のたびに外殻が細かく罅割れていった。
「私は回復に回るね!」
エアリスの杖から淡い光が、クラウドとバレットを包み込んだ。
「レッドⅩⅢ、胸元から!」
「承知した!」
跳躍したレッドⅩⅢの牙が、竜の胸部へと深く食い込む。
「ティファ、今だ!」
叫べば、ティファの拳が竜の胸の中心へと連続で叩き込まれた。
「グァァァ……!」
咆哮とともに、竜の巨体が大きく仰け反る。
外殻の罅割れが、頭部と胸部、二箇所で同時に限界を迎えつつあった。
(――ここだ)
義手を通じ、竜の魔晄反応が大きく乱れているのを感じ取る。
「今なら雷が通る! 演算開始――雷撃、収束!」
グリモアへ限界近くまで魔力を注ぎ込む。
放たれた雷が、罅割れた頭部と胸部を同時に貫いた。
だが、それで終わりではなかった。
咆哮とともに、竜の巨体が大きく浮き上がる。四方の靄が次々と渦を巻きながら収束し、無数の光の塊へと姿を変えていった。
「――ッ、来るぞ!」
叫んだ直後、光の塊が隕石のように次々と降り注ぐ。
「散れ、固まるな!」
叫びながらグリモアを掲げ、範囲障壁を展開する。
「くっ……!」
バレットが間一髪で着弾を避ける。ティファも跳躍しながら身を捩り、直撃を免れた。
「エアリス、みんな無事か!」
「うん、大丈夫……!」
答える声に、僅かな安堵を覚える。だが休んでいる暇は無かった。
竜が再び地上へと降り立つ。翼状の突起を大きく広げ、無数の光弾を四方八方へと解き放った。
「囲まれるぞ、散開しろ!」
叫びながら障壁の演算を組み上げる。展開しきれない分は、自らの身を挺して受け止めた。
「ジュリアス!」
ティファの声に、軽く手を上げて答える。心配している暇は無かった。
(――もう少しだ)
自分に言い聞かせながら、再び雷撃の演算式を組み上げていく。
「バレット、頭部の発光部を狙え! あそこが核だ!」
グリモアを通し、竜の構造を改めて解析しながら叫ぶ。
「おーし、やってやらぁ!」
一点に、銃撃と魔法が集中する。
竜の頭部が大きく罅割れる。内側から漏れ出す光が、一段と強くなった。
「クラウド、胸だ! 仕上げに行くぞ!」
「分かってる!」
クラウドが竜の懐へと一気に踏み込む。
バスターソードを大きく振りかぶり、罅割れた胸部の中心へと渾身の一撃を叩き込んだ。
「――ッ、これで終わりだ!」
刀身が竜の核を深々と貫く。
耳をつんざくような咆哮を最後に、竜の巨体は靄となって崩れ、宙へと拡散していった。
静寂が戻る。
肩で息をしながら周囲を見渡す。誰もが立っている。それだけで十分だった。
「――終わった、のか」
バレットが呟く。
「油断するな。この場所自体が、まだ何を仕掛けてくるか分からない」
短く答えながら義手の状態を確認する。演算の連続使用で、僅かに発熱していた。
「ザックス……」
ティファが呟く。誰もが同じ名前を、胸の中で繰り返していたのだろう。
「ザックス、大丈夫かな」
クラウドが遠くを見つめながら、小さく呟く。その声には、隠しきれない不安が滲んでいた。
背負ったバスターソードに、右手を添える。
「――必ず、見つける」
短く、しかしはっきりと告げる。誰にともなく、自分自身に言い聞かせるように。
「今は、無事を信じて前に進むしかない」
その言葉に、クラウドが小さく頷いた。ティファも、バレットも、エアリスも、それぞれ覚悟を決めたような表情を見せる。
レッドⅩⅢだけが静かに、周囲の気配を窺っていた。
「――何か感じるのか」
低く問いかければ、金色の瞳がこちらを向く。
「まだ遠くだ。だが、何かがこちらを見ている気がする」
その言葉に、内心で僅かに緊張が走る。頭の片隅に留めておくべき情報が、また一つ増えた。
「セフィロス、か」
クラウドが低く呟いた。誰に問うでもなく、確信めいた響きだった。
「分からん。だが、備えておいて損は無いだろう」
短く答える。今は、それ以上の推測をしても意味は無かった。
「――ザックスの気配、まだ、微かに感じる」
不意に、エアリスが、そう呟いた。
「本当か」
「うん。はっきりとは、分からないけど……。この靄の向こう、どこか、遠い場所にいる気がする」
その言葉に、内心で、僅かに安堵する。生きている、という確証には至らない。だが、少なくとも、完全に消え去ったわけではない、という証だった。
「その感覚、頼りにさせてもらう」
短く告げれば、エアリスは、小さく頷いた。
一同の顔を、順に見渡す。誰もが、疲労の色を隠せずにいた。それでも、その瞳の奥には、確かな覚悟が滲んでいる。
(――この面子なら、まだ進める)
内心で、そう判断する。装備を確認し、義手の演算負荷を、改めて確かめた。まだ、余力は残っている。
「行くぞ。ザックスを、必ず取り戻す」
短く告げれば、誰からともなく、頷きが返ってきた。
背負ったバスターソードの重みを、クラウドが、改めて確かめるように、肩を回す。その仕草に、以前とは違う、確かな覚悟が滲んでいるように見えた。
(借り物の剣一つで、これほど、人は変わるものか)
内心で、そう思う。だが、それを口に出すつもりは無かった。今は、余計な感傷に浸っている時間は無い。
義手の演算負荷を、改めて数値で確認する。まだ、限界には至っていない。だが、余裕がある、とは言い難かった。
(この調子で、いつまで保つか……)
不安を、頭の隅に押しやりながら、一同とともに、歩き出す。
(――さて)
内心で静かに息を吐く。
この場所の正体も、ザックスの行方も、まだ何一つ分かっていない。だが、立ち止まっている時間は、もう残されていなかった。
まだ見ぬ先に何が待ち受けているのか。それは、まだ誰にも分からなかった。
あのバトルシーンについては、これが限界……
みやぶるマテリアは、クラウドのバトルレポート入手分を受け取ってます。もっと早めに出せば良かった(後悔)
ザックスの扱いをどうするか、悩みに悩んだ結果、一時離脱してもらうことにしました。