FINAL FANTASY Ⅶ Revengers 作:オレンジⅩⅢ
Chapter.1 疑惑 と 任務
神羅ビル地下3階
タークスのオフィスがあるフロアまでたどり着く。
時刻は9時。主任であるツォンと会うまでは、まだ時間がある。
所属人員の動態を確認する。
秘匿すべき内容が秘匿され、隠語やフェイクを織り交ぜられたそれを見る限り、やはり今は人手が少ない。
先日まで任務に赴き、数日の休みを貰ってからの出勤であったが、やはりタークスは忙しい。
……ある意味で、タークスは
表向きは総務部の下にある部署であるが、実態は異なる。
神羅カンパニーを支えるものは、科学技術でも、開発能力でもない。武力である。
圧倒的な武力による、実効支配。それを担う治安維持部門の組織下に、タークスは存在する。
なんなら、部門統括を超えて、社長直属と半ば化している面も有している。
部門統括であるハイデッカーは、典型的なイエスマンである。ハイデッカーを飛び越えて社長の勅命を受けることもあるが、彼としては『自らの部下が社長に多大な貢献をしている!』と喜んでいる状態だ。
今回の任務は無茶振りにならなければ良いなぁ、とぼんやり考えていると
「早かったな、ジュリアス」
タークス主任であるツォンから、声をかけられる。
その後ろに、あまり関わりのない、関わりを持ちたくはない人物がいる。
科学部門統括、宝条
科学部門の中でも、トップクラスにイカれたマッドサイエンティストであり、暗い噂は後を絶たない。
間違いなく面倒なことが待っている。
その確信を持つが、それを表情に出さないよう、気をつける。
「おはようございます。珍しい客人がいますが…….」
「ああ、おはよう。取り敢えず、部屋まで来たまえ」
2人を追って、主任の執務室へ入る。
デスクに座ったツォンから、“指令”と“特秘”のスタンプが押印された封筒を受け取る。
「時間は早いが、始めよう。今回の指令は、科学部門から治安維持部門への依頼に対する支援だ」
「詳しくは話せないが……まぁ離反者が出てしまってね。その処理のために治安維持部門には協力をしてもらっていたのだが……」
クククッ、と嫌な笑みを浮かべる宝条をなるべく視界に入れないよう、封筒の中身を取り出す。
「どうも、抵抗が激しくてね。なんでも、元ソルジャーがいては、通常兵力では歯が立たないのさ」
複数の書面が入れられており、1枚目の作戦概要を速読する。
辞令を受領後、速やかに行動することが決定済みであった。ご丁寧に、輸送ヘリまで既に用意されている。
やはり面倒な案件か……と、紙を捲る。
(馬鹿な……!)
ターゲットに関する情報が書かれた紙を見て、思わず、目を見開いてしまう。
「ターゲットは2名。元ソルジャー・クラス1stのザックス・フェア。元警備兵のクラウド・ストライフ。
両名の処分が、こちらからの依頼だ」
クラウドの顔写真は、5年前、ニブルヘイムで
ザックスというソルジャーも、確か同様であったと記憶している。
訓練兵時代の、既に死んだはずの同期の
「……なるほど、ターゲットにクラス1stのソルジャーがいるのであれば、タークスの出番ということですか」
「えぇ、えぇ。“お友達”のほうも含めて、しっかりと処分してもらいたい」
「ーーッ」
(こいつっ! 知っていて俺を指名したか!?)
思わず、敢えて今まで見なかった宝条を見る。
恐らく、睨みつけてしまっただろう。
宝条は、相変わらず厭らしい笑みを浮かべ、さっさと居なくなった。
こちらとしては、都合が良い。
奴がいるだけで、こちらの思考が乱される。
「……旧知の仲だったか」
手を組み、こちらを窺うツォンの発言に、表情を引き締める。
「ええ。訓練兵時代の同期です」
「やれるか?」
「当然」
努めて仮面が剥がれないよう、冷酷に返事をする。
心臓が、ぎゅっと軋む音がするのを、聞かなかったふりをして。
「では、準備ができ次第、出立--」
「いや、待て。私から、まだ話がある」
確認済みの書類を入れた封筒を、ツォンのデスクに置いたタイミングで、ツォンに止められる。
「……現在、神羅では極秘に内偵が行われている。我々タークスも、その対象だ」
「タークスまで? 本来は内偵を行う側の我々まで?」
思ってもいない発言に、目を丸くする。
「ウータイとの戦争から早数年。神羅への対抗心、反発心は、未だ広がるばかりだ。先日のプレジデント襲撃もある。神羅は今、排除すべき対象を徹底的に叩くつもりだ」
「それで内偵……。スパイを疑っていると?」
「その通り。余りにも情報が漏れている。しかも、極秘レベルまでな」
「由々しき問題ですね」と同意、思考を分割させて高速回転させる。
「現状、“スペンサー”、“ジャック”及び“コードG”の3箇所にたどり着いている。が、それ以降の流れは不明だ。この3箇所も、繋がりがあるのかも掴めていない」
「……そこまで、対象である私に話して良かったのですか?」
「私も身内は疑いたくはない」
想定以上に悪い状況を、分割した思考で処理しつつ、落ち着いた返事に努める。
「……踏み絵、と捉えても?」
「そこまで深く考えなくても良い。我々はタークスだ。どんな汚れ仕事も請け負う、神羅の隠された最後の砦。いつもの如く、我々は我々の仕事をすればいい」
(はぐらかしたな……。相変わらず、油断できない男だ)
話は以上だとツォンから言われ、部屋を後にする。
(クソッ、クソッ! クソッ!!!!)
ヘリポートまでの道のりの中、心中穏やかでないことを自覚するも、昂る感情のせいで思考が整理しきれない。
(ジャックは俺ではない、コードGは問題ないとして……スペンサーまで特定されているだと!? クソッ、何処で漏洩した!?)
神羅という仇に身を置いて、この一大企業の恐ろしさは身に染みて分かっていた。
だから、時間をかけ、身を削り、尊厳を捨て、周到に準備を進めてきたはずだ。
各所に偽名と架空の人物を当てがい、慎重に段階を踏んで進めてきたのだ。
それが、どうだ。
既に、神羅という死神の鎌は、自分自身の喉元に届きうるところまで迫っている。
幸い、最も自分に近い“ゼロ”までは辿り着いていないことは確認できた。それでも、その下で動かしていた“スペンサー”まで辿り着いていたのは予想外だ。
ツォンの言う、タークス全体が内偵対象かどうかも怪しい。
確かに、ここ最近、同僚達は嫌な任務を負っていると嘆いていた。
しかも、普段であれば黙認されるような独断を、許さないかのような采配でだ。
これが、本当に全体への内偵なのか、自分にかかる嫌疑を確認するための布石なのかは、判断がつかない。判断するための情報が少なすぎるのだ。
そもそも、ツォンの考えは読みにくい。
リーダーとしての資質があるのは間違いない。敢えて嫌われ役を演じ、タークスという汚れ仕事をも負うメンバーを鼓舞し、運用する采配は見事だと思う。
ただ、余りにも言動が悪役じみていて、誤解を受けやすいのも問題ありだが。
その特性が、今回も悪く作用している。
本当に疑われているのかどうか……
(いや、ここで出ない結論に振り回されるより、最悪を想定して行動するのが建設的だ。建設的、なんだ……)
結論を先送りにして、今行うべき指令を思い出す。
思い出して、また、心臓が締め付けられるような痛みを感じる。
いや、心臓だけではない。義手の付け根がまた、今朝と同じように疼く。
また、失うのか。また、奪われるのか。
いや、今度は自ら、自らの過去を奪うのか。
思わず立ち止まり、左肩のすぐ下にある、義手の接合部をさする。
幻肢痛のような、喪失を意識させる痛みは、消えてはくれなかった。
==========
フライトするヘリの中で、同行する上級警備兵から、現在の現場の状況を伝えられる。
ターゲットの通過予想地点に配置した兵力は、既にコンタクト、戦闘中であった。
ターゲットの1人であるザックス・フェアの猛攻により、神羅側の戦力は次々と削られている。
しかし、もう1人のターゲットであるクラウド・ストライフは、目視では確認できないとのこと。
ザックス・フェアも、神羅の包囲を突破するような行動を見せず、兵の数を減らすような戦い方をしていると聞かされた。
(単独であれば、包囲を突破して逃げることを優先するはず。なのにそれをしない。
ということは、クラウドはどこかに隠れている……いや、動けないから隠されているということか。
恐らく生きてはいるが、動けないといったところだろう)
集まった情報を整理しつつ、あと1時間後には辿り着く戦場のことを考える。
ザックス・フェアは、クラス1stのソルジャーだ。タークスとはいえ、近接戦闘能力の劣る自分が、真っ向からの戦闘で勝てるかは怪しいだろう。というより、ほぼ不可能だと考えるべきだ。
そもそも、自分の戦闘スタイルは、魔法による後方支援、広域制圧、隠蔽・偽装工作が主である。
それを踏まえて、ツォンは自分を指定している、と考えるべきだ。
となれば、ターゲットは十全の力を発揮できない何かがあるのか、数の暴力で押せるのか。
あるいは、ただの人手不足か。
確かに、近接戦闘能力の高い同僚たちは、軒並み別任務中だ。人手不足なのは間違いないだろう。
さて、どうするか……
どうすべきか……
本当は、どうしたいのか……
非情にも、悩む時間はさほど残されていないのだ。
ヘリの機長に指示を出して、上空から戦場を確認する。
確かに、クラウドらしき人物は見当たらない。目立つチョコボ頭がトレードマークである彼は、直接確認できるところにはいなかった。が、それらしき人物が、岩陰に横たわっているのだろう、下半身だけは確認できた。
対して、黒いボムのような髪型の男ーーザックス・フェアは、すぐに見つかった。
疲労困憊とまではいかずとも、ソルジャーとしての脅威を感じるような動きは見えない。
しかしながら、既に事切れている神羅警備兵の数が、多すぎた。
いっそ清々しいほどにやられている。
たかが2名の処理に、どれだけの人員を割いているのかと、頭が痛くなる光景だ。
(なるほど……タークスを使う理由には十分だ。というか、最低一度は小規模勢力を当てて失敗しているな、これは?)
この作戦に用いられている兵力は、100人を超える。戦闘員だけで、ゆうに1個中隊以上の規模を投入して、未だに処理できていないのだ。
ザックスがこちらのヘリを見上げている。
増援と判断したのだろう、物凄く嫌そうな表情をしているのが分かる。
全く、こちらも同じ気持ちだというのに。
(とはいえ、部隊を後退させて、話をする時間は作れるか……)
「機長、ここで降りる」
「ちょっと、まだ上空ですよ!?」
「問題ない。俺が降下したら、部隊の後方で着陸、待機しろ。下手したら、広域爆破するからな」
「りょ、了解しました!!」
ヘリのドアを開け放つとともに、義手の左手で自らの装備である本型魔晄演算器“グリモア”を起動する。
「演算開始……数値固定……擬似回路再現開始……」
義手を通してグリモアに魔力を流し込む。
幾何学的な文様を蒼く光らせ、グリモアの擬似ページがパラパラと開く。
「演算結果、“身体強化”起動」
開いたグリモアのページが固定され、蒼く光るとともに、自らの身体に補助魔法による強化が張られるのを確認する。
「お気をつけて!」
自分の後方にいた整備員の声に、右手を軽くあげるだけで答える。
そのまま、ヘリから飛び出し、自由落下のまま地上へと降り立つ。
「タークスだ!」
「増援が来たぞー!」
周囲から聞こえる歓喜の声が煩わしい。
一目でわかる、タークスの制服とも言えるスーツを見て、兵達の士気が上がる。
……上がるのは分かるのだが、いくらなんでも、この状況は頂けない。
もはや誰が指揮官なのかも怪しく、組織的戦闘が出来ているようには思えない。
恐らく、ハイデッカーの適当さなのか、その下の無能な部下のせいか、数だけ集めてぶつけるという雑なやり方が目に余る。
「……ここの指揮官は?」
「ハッ! 現在、私が指揮を委任されています。名前はーー」
「兵を500後方まで後退させろ。いくらなんでもやられすぎだ」
名乗り出た兵の顔を見ることなく、淡々と指示を出す。
「いえ、しかしーー」
「500後方で再編成して、指揮系統を整理しろ。奴らは私が倒す」
「奴は危険です!お一人ではーー」
「邪魔だと言っているんだ。最悪、広域爆破して奴らを処分する。これ以上死傷者を出して、統括の機嫌を損ねさせたいか?」
左手に持つグリモアを意味なく光らせる。
その光景に、自分が誰なのかを再認識させる。
ちらりと兵を見れば、青い顔をしてこちらに敬礼し、「後退! 後退!!」と指揮を取り始める。
……タークスとして、個人の能力が大っぴらになっているのは問題だが、今回は都合が良い。
そもそも、元は諜報員・戦略分析官としてスカウトされたはずなのに、今やその活動よりも鉄火場のほうが出番が多い。どうしてこうなった。
周囲に兵の姿はなくなったが、一部、遠方から監視を続ける兵がいる。
全く、ままならないものだ。
「さて、ザックス・フェアで間違いないな?」
グリモアに魔力を込めつつ、ターゲットに対して問いかけをする。
静かになったため、多少距離が離れていても、声は届いたようだ。
「さて、誰のことでしょう?」
すっとぼけてみせるザックスは、手に持つ大剣を杖のように地面に突き刺し、息を整える。
「今更惚けなくていい。全く、ソルジャーにタークスを当てがう理由はわかるが、英雄相手は荷が重すぎる」
「……見逃してくれたりしない?」
「残念ながら、これも仕事でな。
一思いに殺してやろう」
自分の声に、戦闘体制になるザックスより早く、グリモアを通して魔法を発動する。
「標高指定、範囲制限解除、“プチメテオ”」
とたんに、空から幾多の小隕石が降り注ぐ。
「おいおい、マジかよ!!」
ザックスが上空に気を取られている隙に、右手をグリモアの背表紙に伸ばし、触れる。
そこから、剣を抜くように手を離せば、魔力により形成された青い片手剣が現れる。
それと同時に、四周を確認する。
プチメテオは、まるで無造作に見えるように地面に降り注ぎ、次々と着弾する。
ザックスの退路を塞ぐとともに、監視していた兵諸共吹き飛ばし、土煙をあげる。
これで、この戦いを観測できるものはいない。
一つ条件をクリアしたことを確信して、右手の剣でザックスに切り掛かる。
「あぶな! めちゃくちゃな奴だな!」
「軽々しく受け止めておいて、よく言う!」
こいつ、こっちがほぼ全力で切り掛かっても、しっかりと対応してくる!
やはり、自力が違うのだろう。だが、それくらい体力がまだ残っているのは、こちらとしても助かるのだが。
鍔迫り合いになったタイミングで、次の手を打つ。
「確認する。クラウド・ストライフはまだ生きているか?」
「は!? 突然なんーー」
「良いから質問に答えろ。あと、もう少し手を抜け、こっちも本気にならざるを得ない!」
こちらの言葉に、ザックスが目を見開く。
恐らくこっちの意図をある程度汲んだのだろう。切り結びの圧が、少しだけ弱まる。
「生きている。ただ、魔晄中毒みたいに! なってて、自力での行動は、無理!」
「そう、か! あそこの岩陰に、いるんだな?」
「ああ、あそこ、に!」
彼が視線で示す先は、先ほど上空から見た場所と一致する。
ならば、手は打てる。彼らを救う手を。
(焼きが回ったな……)
本来なら、指令を遂行すべきだ。
既に裏工作がバレつつある今、ここでリスクを取るべきではない。
しかし……
(これ以上、奪われてたまるか!!)
自分の原動力は、怒りだ。
その怒りが、突き進めと燃え上がるのだ。
果たすべき野望はある。だが、それを超えて、今後悔しない選択をしろと、燃え上がるのだ。
自分にとって、大事だと思っているものを奪われる怒りは、自覚している以上に強いものだったのだろう。
なら、超えていくまでだ。
反省も、後悔も。全てを飲み込んで、燃え上がるまでだ。
速やかに条件整理を見直し、必要な手を修正する。
大規模な魔法は、そうポンポンとうてるものではない。
今の自身の魔力量と、待機中の魔晄濃度を計算して、最短かつ妥当なルートを計算する。
どうしようもないリスクを比較検討して、その処置が可能か分析する。
(……よし、いくぞ)
策士として、奪う戦いではなく、救う戦いをしてみせよう。