FINAL FANTASY Ⅶ Revengers 作:オレンジⅩⅢ
翌朝、日が昇りきる前に野営地を発った。
坑道での一件から誰も深くは触れてこなかった。それがかえって気楽でもあり、同時に少しだけ息苦しくもあった。
朝靄の中を歩きながら、ふと隣を歩くティファに目をやる。彼女もまた何も言わずただ前を見据えて歩いていた。誰もがそれぞれの形で昨日の出来事を心の内に抱えたままなのだろう。
「――見えたぞ」
先頭を歩くバレットがそう声を上げる。
岩肌の道を抜けた先、崖下に広がる港町が視界に飛び込んでくる。木造りの桟橋と雑然と並ぶ露店。頭上高くにはジュノン本体を支える巨大な支柱と金属製の橋脚がそびえ立っていた。
「あれが、アンダージュノンだ」
短く告げる。
「本体は、あの上か……」
クラウドが支柱の遥か上を見上げながらそう零す。
「軍港ジュノンは上層と下層に分かれている。上に住めるのは、神羅の息のかかった人間だけだ。下は、その恩恵に与れない連中の吹き溜まりだな」
淡々と説明しながら坂道を下っていく。潮の匂いが鼻先を掠めた。
「格差が露骨なんだね……」
ティファが崖の上を見上げながら、そう呟く。その声には、七番街の暮らしを思い出しているような複雑な色が滲んでいた。
「神羅のやり方はいつもこうだ。恩恵は上に集め、皺寄せは下に押し付ける」
淡々と付け加えながら、内心で上層への潜入経路を組み立て始める。正規の門は、身分証の確認が徹底されているはずだ。タークス時代の経験からすれば、軍需物資の搬入路や、点検員用の裏口の方が、まだ付け入る隙があるだろう。
選別という神羅の思想は、こんな辺境の軍港にすら、律儀に根を張っている。改めて、その徹底ぶりに、内心で苦笑する。
町へ足を踏み入れれば行き交う人々の視線が一瞬こちらへと向く。よそ者には慣れているのか、すぐにそれぞれの用事へと戻っていった。露店の隙間からは、荷揚げ場で働く人足達の怒声じみた掛け声が、絶えず聞こえてくる。
「せっかくだ。宿を探す前に海岸沿いを見ておくか。搬入経路の当たりもつけておきたい」
そう告げれば誰も異論を挟まなかった。
港の一角、荷揚げ場の様子を、それとなく観察する。積み上げられた木箱には、軍需品らしき刻印が押されていた。出入りする作業員の数、警備の配置、巡回の間隔。頭の中で、それらを、丹念に、拾い集めていく。
「ジュリアス、何、見てるの?」
エアリスが、こちらの視線の先を、覗き込んでくる。
「上層への潜入路を、探っている。表から入るにせよ、裏から回るにせよ、下調べは、多いに越したことはない」
短く答えれば、エアリスは「相変わらず、抜かりないね」と、感心したように呟いた。
(――正面は、無理だな)
やはり、身分証を持たない状態での正規突破は、現実的ではない。だが、搬入路の警備は、思っていたよりも、手薄だった。夜間、あるいは、荷の積み下ろしが集中する時間帯であれば、紛れ込む余地は、十分にあるだろう。
得た情報を、頭の中で、大まかに整理する。詳しい算段は、後で詰めればいい。
潮風に吹かれながら桟橋沿いの道を進む。波の音に混じって遠くから悲鳴のようなものが聞こえた気がした。
「――今の」
レッドⅩⅢが耳を立ててそう呟く。獣特有の、鋭敏な感覚だった。
音のした方向へ視線を巡らせる。沖合、小さな浮き具に掴まった人影が大きく揺さぶられているのが見えた。
「誰か、溺れてる!?」
エアリスが真っ先に声を上げる。
「――行くぞ!」
短く叫び、砂浜へと駆け出す。他の面々も、迷わず、後に続いた。
海面が不自然に大きく盛り上がった。
次の瞬間、巨大な水柱とともに異形の姿が姿を現す。
「――ッ、なんだ、あれは!」
分厚い皮膚に覆われた蛙にも似た巨躯。幾つもの触腕が波間を鞭のようにしなっていた。
「ボトムスウェルか…… 厄介な相手だ」
以前タークスの資料で目にした魔物の名を思わず口にする。
浮き具に掴まっていた人影が悲鳴を上げて海中へと引きずり込まれかける。
「――迷ってる時間は無い!」
短く叫び、義手にグリモアを繋ぐ。
「クラウド、ティファ、まずはあの子を引き上げろ! バレット、援護しろ!」
「了解!」
クラウドが迷わず海へと飛び込む。ティファもそれに続いた。波は、思っていたより荒く、二人の動きも、僅かに、鈍っているように見えた。
みやぶるマテリアへ魔力を通す。仮想モニターに次々と数値が浮かび上がった。
「――弱点は雷だ。触腕の付け根が急所になっている!」
「エアリス、回復の準備を! レッドⅩⅢ、陸から牽制しろ!」
指示を飛ばしながら演算式を組み上げていく。
ボトムスウェルの触腕がクラウド達へと鞭のように振り下ろされる。
「――ッ、危ない!」
咄嗟に障壁の魔法を割り込ませる。蒼い光が直撃寸前で一撃を防いだ。
「今のうちだ!」
叫べばクラウドが海中の人影をしっかりと抱え上げる。ティファも素早くそれを支えた。
「バレット、頭を狙え!」
「言われなくてもな!」
バレットの銃撃がボトムスウェルの顔面へと次々と撃ち込まれる。怯んだ隙を逃さずレッドⅩⅢが岸から鋭い遠吠えとともに援護の一撃を放った。
「演算開始――擬似サンダガ!」
グリモアへ限界近くまで魔力を注ぎ込む。放たれた雷が海面を伝って触腕の付け根を正確に貫いた。
「グォォォ……!」
苦悶の咆哮とともに巨躯が大きくよろめく。
「クラウド、ティファ、そのまま上がってこい! 残りはこっちで片付ける!」
叫びながら追撃の雷撃を幾度も放つ。エアリスの光弾が傷口を的確に射抜き、レッドⅩⅢの爪が露出した弱点へと深く食い込んだ。
ボトムスウェルが、最後の抵抗とばかりに、残った触腕を、闇雲に振り回す。狙いの定まらない一撃だったが、それでも、直撃すれば、無事では済まない威力だった。
「油断するな、まだ暴れるぞ!」
短く叫びながら、追加の障壁を、展開する。
「今だ、畳み掛けろ!」
一同の攻撃が一気に集中する。断末魔の叫びを残しボトムスウェルの巨体が海の底へと沈んでいった。
飛び散った海水が、夕日を受けて、束の間、赤く煌めく。誰もが、そのまま、肩で息をしながら、光景を、無言で見つめていた。
「――片付いたか」
ようやく、そう零す。肩で息をしながら、周囲を確認する。
クラウドとティファが砂浜へと助け出した人影を横たえていた。黒髪を短く切り揃えた若い娘だった。
「げほっ……! ご、ごほっ……!」
咳き込みながら娘が目を開ける。
「大丈夫か」
クラウドが心配そうに声をかける。
「あ、あんたら……助けてくれたの?」
娘は身体を起こしながら、一同をまじまじと見渡す。
「あたし、ユフィ! ウータイのマテリアハンター、ユフィちゃんだ!」
弱々しい声色から一転、胸を張ってそう名乗る。切り替えの早さに、思わず片眉が動いた。
「命拾いしたな。礼くらい言ったらどうだ」
淡々とそう告げれば、ユフィは決まり悪そうに頬を掻いた。
「あ……う、うん。助けてくれて、ありがとな」
殊勝な態度も束の間、彼女の視線がこちらの荷物へと素早く走る。
「――にしても、あんたら、良いマテリア持ってそうじゃん」
「――ッ」
一同が揃って脱力する。
「命の恩人に向かって、その態度はどうなんだ」
呆れ混じりにそう指摘すれば、ユフィは悪びれもせず笑ってみせた。
「これはこれ、それはそれ! マテリアハンターとして見過ごせないんだよね!」
「――理屈になっていない」
短く切り捨てる。だが、彼女に、それ以上絡んでいる時間は無かった。日も傾き始めている。
「――お前、命拾いした自覚はあるのか。ボトムスウェルは、単独じゃ、まず勝てない相手だぞ」
念のため、そう釘を刺しておく。この手の相手には、多少、脅しておく方が、後々、御しやすい。
「う…… わ、分かってるって! 次は、ちゃんと、対策してから潜るし!」
「潜る、というと?」
「あ、いや、なんでもない! 忘れて!」
慌てて誤魔化す様子に、内心で、小さく息を吐く。詰めの甘さは、相変わらずだった。
「とりあえず宿を探すぞ。話の続きは、そこでだ」
そう告げればユフィはあっさりとついてくる。図太いというより単に警戒心が薄いのだろう。
雑踏を進み、看板の目立つ宿を一軒見つける。
「人数分の部屋を借りたい」
「あいよ。今日は空いてるからね」
女将らしき人物が鍵の束を差し出してくる。
食堂に落ち着くと、ユフィは当然のように席に加わった。
「それで、あんたらは何者なわけ? あんな化け物、あっさり倒しちゃうしさ」
興味津々といった様子で身を乗り出してくる。
「旅の一行だ。それより、お前の話を聞かせろ。ウータイの工作員が、こんな場所で何をしている」
「べ、別に、工作員とか、そんなんじゃ……!」
慌てて両手を振るユフィに、内心で小さく目を細める。
(この隙だらけの反応……)
ジュノンへ向かう道中、脳裏を過ぎった記憶があった。エアリス救出のため神羅ビルに忍び込んだあの夜。ウォールマーケットで洗った情報の中に地下施設への不審な侵入があったという一文が確かにあった。ウータイ系と思われる、と。
先程の身のこなし、そして今の動揺の仕方。答えは既に出ていた。
「――神羅ビルの地下に忍び込んだだろう」
「なっ…… なんで、それを!?」
顔色を変えるユフィに、内心で僅かに頭が痛くなる。
(――なるほど。ウータイの上層部は一体何を考えて、こんな不確定要素を外に放っているんだか)
ここまで自由な活動ができる……いや、強行していることを考えると、彼女はわがままな振る舞いが黙認されているくらいの立ち位置だろう。
国のトップに近い人間ほど身内の見立てが甘くなるものなのかもしれない。真剣にそう思わざるを得なかった。
「証拠は無い。今のは鎌をかけただけだ」
「ぐ…… 性格、悪くない?」
半眼で睨んでくるユフィに、素っ気なく肩をすくめる。
「褒め言葉として受け取っておく」
「あんた、絶対、性格悪いって言われるでしょ」
「よく言われる」
悪びれもせず即答すれば、ユフィは毒気を抜かれたように、肩を落とした。
「なんか、調子狂うなぁ、あんた」
「褒め言葉として受け取っておく、と言っただろう」
「二回目は皮肉に聞こえるし!」
その後もユフィはあれこれと突拍子もない主張を繰り広げた。マテリアは世界中の宝を集める趣味だとか、ウータイの復興のために独自に動いているだとか、話す端から辻褄が合わなくなっていく。挙句には、いつか自分の名前が歴史書に載るはずだ、とまで言い出す始末だった。
「歴史書、というと」
「あたしが、いつか、ウータイを立て直すんだよ! 戦争なんてくだらないこと、あたしが止めてやるんだから!」
拳を握りしめ、力強く、そう宣言する。その瞳には、確かな熱があった。突拍子も無い割に、根っこにある想いだけは、存外、本物なのかもしれない。
(子供だな……)
内心でそう結論づける。悪意は感じられない。だが、それだけに扱いづらい相手でもあった。この少女の顔立ちを、記憶の奥に、丁寧にしまい込んでおく。発信機を仕込んだ以上、この先、何らかの形で、再び交差することになるだろう。
会話が一区切りついた、その隙を突く。義手の指先に小さな発信機を滑り込ませる。他愛のない相槌を打ちながらユフィの上着の裾に、それをさりげなく貼り付けた。
「ん? どしたの?」
「いや、何でもない。荷物が当たっただけだ」
素知らぬ顔でそう答える。これで、いつでも彼女の居場所を追える。狩人が、狩られる側に回っているとも知らず、ユフィは、のんきに、パンを頬張っていた。
夜も更け、それぞれが割り当てられた部屋へと散っていく。ユフィも一同と別れの挨拶もそこそこに慌ただしく宿を出ていった。忙しない娘だった。
翌朝。
けたたましいエンジン音が宿の外から鳴り響いた。
「マーイフレーンド! 出てこないと突撃しちゃうぞォ!」
聞き覚えのある大声に思わず小さく息を吐く。窓の外を覗けば、案の定、あの男の姿があった。
「――また、あいつか」
クラウドがうんざりした様子で身支度を整える。
「知り合いか?」
バレットが、怪訝そうに、問いかけてくる。
「腐れ縁、というやつだ。ミッドガルで一度戦ってから、顔と名前を覚えられたようだ……」
クラウドが短く、かつげんなりしながら説明し、共に部屋を出る。
一同で宿の外へと出れば大型のバイクに跨ったローチェが満面の笑みで手を振っていた。
「おう、マイフレーンド! やっぱりここにいたか!」
「相変わらず騒々しいな」
クラウドが嫌味で短く応じればローチェは豪快に笑う。
その後ろから静かにもう一人の人影が進み出る。
冷たい威圧感を纏った女性のソルジャーだった。
「……久しぶりね、クラウド」
低く抑えた声だった。
「――アマンダ」
クラウドの声が僅かに強張る。
その名を、記憶の奥から、引っ張り出す。訓練兵時代、確かに、その名を耳にした覚えがあった。座学、実技、共に、常に上位を争っていた優等生。ソルジャーへの推薦候補として、名を挙げられていた一人でもある。
「訓練兵時代、大勢いた候補生の中で、私はあなたのことだけを一番気に入っていたの」
アマンダの瞳がまっすぐにクラウドを射抜く。真剣そのものの、揺るぎない視線だった。
「いつか共にソルジャーとして戦って、私のものにするつもりだったのに……」
静かな声色に不穏な熱が滲む。
「まさか、アバランチなんかに与するなんてね」
一歩、また一歩と距離を詰めてくる。
「私の告白を振り切っていっただけでも許せないのに、神羅に敵対するというのなら――」
アマンダの瞳が、すっと細まる。
「次は容赦しないから」
その一言に場の空気が一段と張り詰めた。
誰も、割って入れなかった。アマンダの纏う気迫が、それを、許さなかった。
視線が一瞬こちらへと向く。値踏みするような冷ややかな一瞥だった。だが、それだけで何を言うでもなく視線は再びクラウドへと戻っていく。
「ここでは戦わないわ、命拾いしたわね。――行くわよ、ローチェ」
「イエス、フェアレディ! 次はちゃんと決着つけようぜ、マイフレーンド!」
豪快に手を振りながらローチェも彼女に続いて去っていった。バイクのエンジン音が、遠ざかっていく。
嵐のような二人が去った後、しばらく誰も口を開かなかった。潮風だけが、やけに、大きく聞こえた。
「――クラウド」
静かに、しかし確かな圧をもって口を開いたのはティファだった。
「今の、どういうこと?」
「い、いや、待ってくれ」
クラウドが慌てて両手を上げる。
「告白、って言われても……俺、そんなの受けた記憶が、そもそも無いんだが」
その一言に、場の空気が僅かに止まった。
「――は?」
バレットが、素っ頓狂な声を上げる。
「いやいや、さっきの、どう聞いても告白されてた側の反応だろうが」
「言われてもだな…… 訓練兵時代の記憶をいくら辿っても、そういうやり取りをした覚えが本当に無いんだ」
至極真剣な顔で、そう言い切るクラウドに、思わず笑いが込み上げる。
「――くくっ」
堪えきれず、小さく吹き出した。
「ジュリアス……笑うところか、それ」
クラウドが、恨めしそうに、こちらを見る。
「悪い。だが、お前が言うのも無理はないと思ってな」
込み上げる笑いをどうにか抑えながら、そう続ける。
「あの台詞、思い返してみろ。『気に入っていた』『自分のものにするつもりだった』――言葉だけ聞けば確かに、それらしい響きだ。だが文脈次第では、いくらでも別の意味に取れる」
「――別の意味?」
ティファが、怪訝そうに、問い返してくる。
「訓練兵時代の評価というのは、そのまま部隊配属の優先権に直結する。『気に入っている』『自分のものにする』は、優秀な人材を自分の班へ引き抜きたいという意味でも、十分に成り立つ台詞だ。
彼女の告白もそんな感じでな……。聞こえていた連中も半信半疑だったし、彼女もまた、意思疎通できたか確認せずにいなくなったからな」
淡々と、そう解説する。あながち的外れな見立てでもないはずだった。
「――そう、なの?」
「まぁ、そう聞こえなくもないという程度の話だ。当人がどういうつもりで言ったかは、また別の話だがな」
正直に補足しておく。誤解を招くのは本意ではなかった。
もっとも、アマンダのクラウドへの執着は、過去を知る自分からしても、異常なまでに強くなっている。次に会うときは、本当に敵として戦うことになるだろう。
「にしても、クラウドがそこまで鈍いとはな……」
バレットが呆れたように頭を掻く。
「鈍いわけじゃない。純粋に、そういう文脈で受け取らなかっただけだ」
クラウドが、むきになったように反論する。
「それを鈍いって言うんだよ」
「言うな、バレット」
情けない声で、そう反論するクラウドに、一同から、小さな笑いが漏れる。張り詰めていた空気が、ようやく、和らいでいくのが分かった。
「へぇ〜、クラウドって昔から、こういうところあったんだ〜?」
そこへ、ニマニマとした笑みを浮かべたエアリスが、割り込んでくる。
「エアリス、揶揄うなよ」
「揶揄ってないよー。ただ、貴重な発見だなって」
くすくすと笑うエアリスに、クラウドは、頭を抱える。
「呆れてるだけだ。朝から、修羅場とはな」
レッドⅩⅢが、金色の瞳を細めながら、そう付け加える。その声にも、微かな笑いが、滲んでいた。
「まぁ、これではっきりしただろう」
一同の視線が、こちらへと集まる。
「クラウドに他意は無い。当人が気付いていなかった以上、責める筋合いはそもそも無いということだ」
短くそうまとめれば、ティファが僅かに頬を緩める。
「――そう、だね。分かった」
得心したように、ティファが頷く。その表情から、先程までの硬さが、すっかり抜け落ちていた。
「ありがとな、ジュリアス」
クラウドが、ほっとしたように、そう零す。
「礼を言われる筋合いは無い。事実を整理しただけだ」
素っ気なくそう返しながらも、内心では少しだけ愉快な気分になっていた。復讐者としての自分には、あまり縁の無い類の他愛の無い茶々だった。
「でも……次は容赦しないって言われてたよね」
ティファが心配そうに、そう零す。
「敵として向き合うだけだ。それ以上でも、それ以下でもない」
クラウドがきっぱりと、そう言い切る。クラウドをしる自分でも少しだけ意外なほど、迷いの無い声だった。
「まぁ、修羅場は、これくらいにしといてやるか」
バレットがあくびを噛み殺しながら、そう締めくくる。
「腹が減った。飯にしようぜ」
「うん、賛成」
エアリスが、あっさり話を切り替える。その切り替えの早さに、クラウドは僅かに拍子抜けしたような顔をしていた。
* * *
朝の喧騒が少しずつ、落ち着きを取り戻していく。
懐から改造した端末を取り出し、発信機の反応を確認する。
(――上層に、移動したか)
信号は既に、ジュノン本体の方角へと移動していた。仕事の早い娘だ。
(あの跳ねっ返りの小娘…… 上層で一体何をやらかすつもりだ)
内心で小さく息を吐く。呆れる一方で、頭の中では既に別の算段が動き始めていた。
ウータイの息がかかった人間が単身、上層に潜り込んでいる。使いようによっては、これほど都合の良い駒もない。正規の身分証を持たない自分達にとって、彼女の存在は、思わぬ抜け道になり得るだろう。
(上層への潜入路、そして、あわよくば――)
まだ輪郭の定まらない計画を、頭の中で静かに練り上げていく。ルーファウスという男の顔が、ふと脳裏をよぎった。
「――ジュリアス、準備はいいか?」
クラウドの声に、我に返る。
「ああ。行くぞ」
短く答えながら端末を懐へとしまう。
崖の上、ジュノン本体が朝日を受けて鈍く輝いていた。荘厳さと威圧感を、同時に纏ったその威容に思わず目を細める。
あの支柱の先にあるものが、単なる軍港なのか、それとも、もっと大きな何かの布石なのか。今は、まだ、判然としない。
それでも、一つずつ駒を揃えていくしかない。ユフィという不確定要素も、使い方次第では悪くない一手になるはずだ。
(――それにしても、クラウドの奴、本当に覚えていなかったんだろうな)
先程のやり取りを思い返し、内心で小さく苦笑する。鈍いのか、それとも、それだけ周囲に無頓着だったのか。おそらく両方なのだろう。
そういう不器用さが、あいつの人徳の一つなのかもしれない。柄にもなく、そんなことを考える。
上層への道は、まだ遠い。だが、手掛かりは揃いつつある。
潮騒を背に、ジュノンでの新たな一日が、静かに、始まろうとしていた。
アマンダはオリジナルキャラクターです。
嫉妬するティファを描きたかったから出しました(ゲス顔)