FINAL FANTASY Ⅶ Revengers 作:オレンジⅩⅢ
クラウドの呟きに、辺りの空気が一段と重く沈んだ。
瓦礫の隙間から滲み出していた黒い靄が、その声に応えるかのように蠢きを速める。人の輪郭を保ったまま実体を持たないそれらが、足音もなく包囲を狭めてきていた。
「クラウド、しっかりして......!」
ティファが、震える肩にもう一度手を添える。つい先刻も同じように支えたばかりだというのに、今度は明らかに様子が違っていた。呼吸が浅く、堪えるように歯を食いしばっている。
(――またなのか)
一度は治まったはずの発作が、間を置かず再発している。それが意味するところを、深く考える余裕はなかった。グリモアの紋様に指先を這わせ、周囲の魔晄濃度を測る。数値は跳ね上がり続けている。この気配自体は、間違いなくフィーラーのものだった。
だが――
「この気配......フィーラーだ。だが、いつもと動きが違う......!」
得体の知れない胸騒ぎだけが、警鐘のように頭の奥で鳴り続けていた。
「油断すんな。何が引き金かはわかんねえが、キリがねえぞ......!」
バレットが銃口を構え直し、周囲を睨め回す。エアリスとユフィが左右に展開し、ケット・シーとレッドⅩⅢも、崩れかけた足場の端で身構えた。
手当ての済んでいない擦り傷が、動くたびに鈍く痛む。スカーレットとの激戦の疲労は、まだ抜けきっていなかった。それでも、今は休んでいる場合ではない。
黒い靄は、数を減らすどころか、じわじわと膨れ上がっていた。人の形を保ったまま輪郭だけを揺らめかせるそれらが、瓦礫の隙間という隙間から、絶え間なく染み出してくる。
張り詰めた空気の中、クラウドだけが、誰も踏み込めない場所に囚われていた。手を伸ばしたところで、届く距離ではないことが、痛いほどわかった。
====================
Side クラウド
視界が歪んでいた。
黒い靄が渦を巻き、その奥から声が響く。低く、凪いだ水面のように静かな声。逆らうことを許さない、絶対的な重さを持った声だった。
――見ろ、クラウド。
――お前の隣にいるその女は、本当に「本物のティファ」か?
クラウドは奥歯を噛みしめた。頭の中に直接響くその声から、逃げる術はなかった。
――ニブルヘイムで死んだはずの彼女が、なぜいま息をしている? それはジェノバが見せる幻影だ。お前を惑わすための、都合のいい夢だ。
脳裏に、燃える村の光景がちらつく。灰の匂い。崩れ落ちる家々。あの夜、確かに失ったはずのものが、なぜ目の前で笑っているのか。そう囁かれるたび、頭の芯が軋むように痛んだ。視界の端で、炎の残像が何度も明滅する。
――ザックスも、そうだ。死んだはずの男が、なぜ生きている? お前の知る世界は、とうに壊れている。何を信じるつもりだ。母の記憶さえ、都合よく書き換えられているとは思わないのか。
――「リユニオン」。その言葉の意味を、お前はまだ知らない。知らぬまま、うすっぺらな絆にしがみつくつもりか。
脳裏に響いたその単語だけが、やけに冷たい異物感を伴っていた。意味は掴めない。だが、その響きの奥に潜む底知れなさだけは、はっきりと感じ取れた。
畳みかけるような声に、意識の底が軋む。過去の全てを疑わせようとする、粘つくような誘導。だが、それ以上に強く浮かび上がってくるものがあった。
振り払うように、瞼の裏に浮かぶのは別の記憶だった。カームの夜風。すれ違いながらも、互いに歩み寄ろうとした時間。届かなかった言葉の代わりに交わした、不器用な約束。地獄へでも共に落ちると誓った、あの一言。ゴンガガへ向かう道中、何気なく交わした軽口の一つ一つ。どれも、色褪せることのない実感を伴っていた。
思い返すのは、それだけではなかった。カームで初めて顔を合わせた仲間たちの、ぎこちない自己紹介。花畑で笑ったエアリスの横顔。ジュノンの潮風。コスタでの束の間の休息。積み重なった時間の一つ一つが、脳裏を巡っていく。
どれも、色褪せることのない実感を伴っていた。作られた記憶に、これほどの重みが宿るはずがない。
幻影などではない。積み重ねてきた七年と、その先で紡ぎ直した今この瞬間は、紛れもなく本物だ。それだけは、誰にも――たとえ星の意志を騙る声であっても、否定させはしない。
――違う。
喉の奥から、声を絞り出す。押し寄せる圧力に負けまいと、足を踏ん張るように。
――ティファは、偽物なんかじゃない。俺たちの思い出も、絆も――本物だ。
声にならない叫びが、意識の奥深くで反響した。
====================
「......違う......!」
クラウドの声が、震えながらも周囲に届く。
「ティファは偽物なんかじゃない......! 俺たちの思い出も、絆も......本物だ!」
誰に向けた言葉なのか、この場の誰にもわからなかった。ただ、その声に宿った確信だけは、痛いほど伝わってきた。
「クラウド......」
ティファが、息を詰めて見守っている。その横で、エアリスも祈るように両手を組んでいた。
「よし、やった......!」
ユフィが、安堵の声を漏らしかけた。
(拒絶、したか)
安堵しかけた、その直後だった。
クラウドの体が、大きくよろめいた。両手で頭を抱え込み、膝から崩れ落ちる。
「だめだ、やめろ......セフィロス」
絞り出すような声だった。歯を食いしばり、目を固く閉じたまま、見えない何かと押し合っているかのように全身が震えている。額に浮かぶ脂汗が、次々と滴り落ちていった。
「クラウド......!」
ティファが駆け寄ろうとするのを、咄嗟に制した。今、下手に触れれば、何が起こるかわからない。
苦悶の表情のまま、クラウドが顔を上げる。焦点の定まらない目が、一瞬だけティファを捉えた。額から伝う汗が、顎先から滴り落ちる。
「みん、な......逃げろ。俺、が......消、え......」
言葉の途中で、声が掠れて消えた。拒絶した「はず」の意志が、内側から食い破られていく。抗おうとするほどに、何かが軋むような音が聞こえた気がした。
「クラウド、負けるな......!」
届くはずのない声を、それでも張り上げずにはいられなかった。
次の瞬間、クラウドの体から、一切の抵抗の気配が消えた。
だらりと下がっていた首が、ゆっくりと持ち上がる。見開かれた双眸に宿っていたのは、もはやクラウドの色ではなかった。深く沈んだ緑を、さらに濃く塗り潰したような、あの男とまったく同じ光。何度となく対峙してきた、あの瞳そのものだった。
「......ならば、言葉はいらんな」
声色も変わっていた。クラウドのものでありながら、クラウドのものではない、凪いだ冷たさを孕んだ声。瞳の奥から滲み出すのは、黒い殺意そのものだった。
「まさか......意識を乗っ取られたのか!?」
叫んだところで、届く距離ではなかった。数値でも理屈でもない。ただ、あの瞳を見た瞬間、背筋を這い上がる悪寒だけが、何よりも雄弁に危機を告げていた。
「クラウド! しっかりしろ!」
バレットの怒声にも、応える気配はない。虚ろな双眸が、ゆっくりと周囲を睥睨する。獲物を値踏みするような、感情の抜け落ちた視線だった。
迷っている暇はなかった。グリモアの術式を最速で組み替え、拘束系統の呪を叩き込む。淡い光の鎖が虚空に走り、クラウドの両足に絡みついた。
一瞬、動きが止まる。
(――効いてる......!)
だが、それも束の間だった。鎖は軋む音を立てながら、あっさりと引きちぎられる。人ならざる膂力の前では、時間稼ぎにすらならなかった。全身から、冷たい汗が噴き出す。
「ジュリアス、どうすんのさ......!」
ユフィの声が、珍しく震えていた。答えを持ち合わせていないことが、これほど歯痒く思えたことはなかった。
「クラウド、お願い......! 戻ってきて......!」
エアリスの声にも、応える気配はない。
抜き放たれたバスターソードが、下層の薄闇の中で鈍い光を放つ。刀身を這う黒い靄が、まるで意志を持つ蛇のように刃へ絡みついていた。
クラウドの、否、セフィロスに乗っ取られた肉体の一撃は、常軌を逸した速度と圧を伴っていた。それは、これまで幾度となく背中を預けてきた剣とは、まるで別物だった。
だが、振り上げられた切っ先が、一瞬だけ止まった。眉根が微かに寄せられ、握り込む柄に迷いのような震えが走る。まるで、己の内側から誰かが手を伸ばし、刃を押し留めようとしているかのようだった。
「クラウド......!」
淡い希望を見た誰かの声が上がる。だが、それも刹那のことだった。止まっていた切っ先が、再び意志を取り戻したように動き出す。
「やめろクラウド! 正気に戻れ!」
叫びながらグリモアを展開し、拘束の術式を組み上げる。だが、術式の構築が完了するより早く、刃は振り下ろされていた。
咄嗟に割り込んだレッドⅩⅢが弾き飛ばされ、瓦礫の上を転がる。
「レッドⅩⅢ......!」
ケット・シーが慌てて駆け寄るが、それ以上動く余裕は誰にもなかった。
「クラウド、てめえの敵はこっちだ......!」
バレットが銃腕を唸らせ、肉薄する。捕獲を狙った掴みかかりは、しかし人並み外れた膂力に弾き返され、大きく後方へ吹き飛ばされた。受け身も取れずに転がった巨体が、瓦礫に埋もれかける。
「バレット......!」
叫んだところで、加勢に回る余地すらなかった。拘束の術式は未完成のまま、あと一手が足りない。焦燥だけが、喉の奥に苦く滞留していた。
振り上げられていた刃が、不意にぴたりと止まった。クラウドの腕が、小刻みに震えている。狙いを定めきれず、剣先が虚空をさまよっていた。
「く......そ......! 動くな、この、体......!」
しゃがれた声で、絞り出すように吐き捨てる。瞳の奥に、一瞬だけ見慣れた青が戻った気がした。
「クラウド、そのまま堪えろ......!」
叫んだ瞬間、震えていた腕が、ゆっくりと持ち上がっていく。抗う様子は、まだそこにあった。だが、それも長くは続かなかった。
白目を剥くようにして、再び瞳から光が消える。堪えていた反動が溜まったのか、次に振り抜かれた一撃は、これまでよりもさらに苛烈だった。
振り抜かれた斬撃が、空間そのものを叩き割るような衝撃波を放つ。
下層に張り巡らされた老朽化の激しい足場と鉄骨が、悲鳴じみた音を立てて崩れ始めた。轟音とともに床が波打ち、全員が体勢を崩す。
「うわっ......!」
「きゃあっ......!」
視界が傾ぐ。掴む場所を求めて伸ばした手は、空を切るばかりだった。粉塵と共に舞い上がる鉄片が、頬を掠める。
「くそったれ......! これじゃあ手が出せねえ......!」
バレットが吐き捨てる。銃口を向けたところで、当てれば当てただけクラウド自身の体を傷つけることになる。誰もが同じ葛藤に、動きを縛られていた。
崩壊は、止まる気配を見せなかった。
足場が次々と剥がれ落ちていく。下層の底、深緑に渦巻くライフストリームの開口部――かつてウェポンが姿を見せた、あの魔晄だまりが、大きく口を開けていた。生命の奔流が放つ光が、崩落する瓦礫の隙間から逆光のように差し込んでくる。
意志を失ったままのクラウドが、なおも剣を振り上げようとする。その刃の下、崩れかけた巨岩が、あろうことかクラウドの頭上へ落ちかけていた。
「クラウドっ......!」
真っ先に動いたのは、ティファだった。
ワイヤーガンを撃ち放ち、崩れゆく足場を蹴って跳ぶ。細い体が、寸分の迷いもなく、クラウドめがけて一直線に突っ込んでいった。呼び止める声すら、間に合わなかった。
(――待て、ティファ。その距離は......!)
制止の言葉すら、声にならなかった。
「クラウド......!」
体当たりに近い勢いで、クラウドの体を安全な足場へと突き飛ばす。落下してくる巨岩は、僅かに逸れてすんでのところでクラウドの肩を掠めるだけで済んだ。
だが、その反動で、ティファ自身の足場が崩れた。
「ティファ!」
伸ばした手は、あと僅かに届かなかった。全身の力を振り絞るようにして跳んでも、その距離は埋まらない。エアリスも同時に手を伸ばしていたが、結果は同じだった。指先が虚しく宙を掴む。
「ティファぁぁっ......!」
ユフィの絶叫が、崩落の轟音にかき消される。
咄嗟にグリモアへ意識を集中し、光の鎖を放つ。だが、崩れゆく足場との間を阻むように舞い散る鉄片が、術式の軌道を狂わせた。狙いを僅かに逸れた鎖が、虚しく瓦礫を打つ。
(――届け......!)
願いも虚しく、為す術もなく、ティファの体が宙に投げ出される。深緑の光を湛えたライフストリームが、その体をゆっくりと呑み込んでいくのが見えた。まるで、時間の流れだけがそこで緩やかになったかのようだった。
輝きの中に、彼女の姿が沈んでいく。
その時だった。深緑の底で、何か巨大なものが蠢いた。かつて目の当たりにした、あの輪郭。ウェポンが、緩慢な動きで鎌首をもたげる。閉じかけていた顎が、獲物を捉えるようにゆっくりと開かれていった。
「――やめろ......!」
声にならない叫びだった。沈んでいくティファの体は、抗う術もなく、その顎の奥へと呑み込まれていく。輝きが一瞬強く瞬いたかと思うと、次には何事もなかったかのように、深緑の水面が閉じていた。
それと同時に、クラウドの体から力が抜けた。糸の切れた人形のように、その場に崩れ落ちる。乗っ取っていた気配は消えていたが、代わりに意識も失っていた。
「.........ティファ......」
誰の声だったのか、もはや判然としなかった。
(間に合わなかった――)
崩壊し続ける魔晄炉の中、深緑の水面がゆっくりと静けさを取り戻していく。その不気味な静寂だけが、後に残った。
崩落が止まった後も、しばらくの間、誰も動けずにいた。
張り詰めていた気力が、糸が切れたように緩む。誰もが肩で息をつき、言葉を発する余力すら残っていないようだった。
舞い上がった粉塵が、緩慢に沈んでいく。崩れた足場の縁に片膝をつき、深緑の魔晄だまりを凝視する。ウェポンが沈んでいったはずの水面に、それらしき影はもう見えない。目を凝らしても、深く沈んだ緑が緩やかに脈打つばかりで、手掛かりらしきものは何一つ浮かんでこなかった。
「......ティファ......」
バレットが、拳を握りしめながら呻く。頑丈な体軀が、初めて頼りなく見えた。
「なんで......なんでこんなことに......」
ユフィが膝から崩れ落ち、両手で顔を覆う。声にならない嗚咽が、瓦礫の間に響いていた。エアリスは何も言わず、ただ開口部の縁にしゃがみ込み、祈るように両手を組んでいる。その横顔には、涙の跡が光っていた。
「......また、守れなかった」
バレットが、絞り出すように呟く。その声には、北コレルで負った古い傷の疼きが、確かに滲んでいた。誰かを守れなかったという痛みは、彼にとって初めてのものではない。だからこそ、その重みを誰よりも知っている。
崩れ落ちたままのクラウドへ、視線を落とす。意識を失った顔には、先ほどまでの黒い気配は残っていない。だが、それが安堵につながる状況では、決してなかった。
「バレット。クラウドを安全な場所へ運べ。今は、それしかできない」
「......ああ」
絞り出すような返事だった。抱え上げるバレットの手は、微かに震えていた。意識のないクラウドの顔は、穏やかとさえ言えるほど、静かだった。その落差が、なおさら痛ましく映る。
沈黙に耐えかねたように、ケット・シーが口を開く。
「......あの図体や。いくらウェポンでも、丸呑みにした獲物をそう易々とは消化できひんはずや。まだ間に合う見込みは、十分にある」
「そもそも、ウェポンに食べるって機能があるかもわからない......。ウェポンの中でも、必ず無事だって信じる」
エアリスの声には、震えを押し殺した強さがあった。その言葉の裏に、何かを堪えるような陰があることに、気づかないふりをした。未来を視る力が失われていることを、この場で問い質すには、あまりに空気が張り詰めすぎていた。
「......奴が再び姿を見せるとしたら、この魔晄だまりしかない。浮上した瞬間を狙う。腹を裂いてでも、吐き出させる」
ユフィが顔を上げ、赤く腫れた目のまま頷く。
「アタシも行く。じっとしてらんない」
「ああ。頼りにしてる」
誰もが動き出そうとした、その時だった。
傍らに横たえられていたクラウドの瞼が、ぴくりと震える。
「う......ぐ......」
小さな呻きと共に、クラウドがゆっくりと目を開けた。焦点の合わない視線が、宙をさまよう。
「......ここ、は......? みんな......?」
身を起こそうとするクラウドへ、真っ先に駆け寄ったのはバレットだった。
「クラウド、気がついたか......!」
「バレット......? 俺は、いったい......」
言いかけて、クラウドの表情が凍りついた。周囲を見渡した視線の先に、ティファの姿がないことに、遅れて気づいたのだろう。
「......ティファは? ティファは、どこだ」
誰も、すぐには答えられなかった。その沈黙こそが、何よりの答えだった。
「まさか......まさか、俺が......」
震える声で紡がれた言葉は、最後まで形にならなかった。クラウドの顔から、みるみる血の気が引いていく。両手で頭を抱え込み、その場に崩れ落ちた。
「俺が......俺のせいで......!」
自らを責め続けるその姿に、これ以上ない絶望が滲んでいた。
歩み寄り、震えるその肩を、躊躇なく掴む。
「いつまで、そうしているつもりだ」
冷たいほど平坦な声だった。びくりと肩を震わせたクラウドが、驚いたように顔を上げる。
「膝をついている暇があるなら、その頭を働かせろ。お前が今為すべきことは、悔やむことじゃない」
「だが......俺が、ティファを......」
「恐らく、お前を操ったセフィロスのせいだが、な。だが、終わったことをいくら悔やんだところで、あいつは戻ってこない。それより、まだやれることがある」
視線を、静まり返ったライフストリームの方へ向ける。
「あの化け物は、ティファを丸呑みにしただけだ。まだ消化されちゃいないし、そもそも消化器官があるかも分からん。奴が再び浮上した瞬間を狙って、腹を裂いてでも取り戻す。お前が本当に悔やんでいるなら、今すぐ立って、その力を貸せ」
クラウドが、息を呑む。震えていた瞳に、僅かながら光が戻っていくのがわかった。
「......ああ。そうだな」
拭うように顔を上げたクラウドの表情には、まだ拭いきれない苦さが残っていた。それでも、そこに宿る意志の光だけは、確かなものだった。
誰も、楽観的な言葉を口にはできなかった。それでも、立ち止まったままではいられないという一点だけは、全員が共有していた。タークス仕込みの冷静さで、努めて崩さぬよう息を整える。感情を優先すれば、判断を誤る――それだけは、経験が教えてくれていた。
弾き飛ばされたレッドⅩⅢが、痛みを堪えながら身を起こす。脇腹の毛並みが赤く滲んでいた。
「私のことは構うな。それより、早く手を打つべきだ」
強がった声色の下に、隠しきれない痛みが滲んでいる。バレットも肩を軽く回し、脱臼しかけた関節を無理やり嵌め直していた。誰の体も、満身創痍と呼ぶにふさわしい有様だった。それでも、足を止めようとする者は一人もいない。
(――必ず、取り戻す)
深緑に静まり返るライフストリームを見下ろしながら、その一点だけを、揺るがぬ答えとして自分に刻みつける。培ってきた冷徹さも、参謀としての立ち回りも、今この瞬間だけは、ただ一つの目的のためにある。
ゴンガガに来てからの短い日々を、思い返す。ザックスの実家で見た、両親の切ない表情。廃れた村の静けさ。ようやく手繰り寄せかけた希望の糸が、今また一つ、闇の底へ引きずり込まれようとしている。
それでも、立ち止まる選択肢は、最初からなかった。全員が武器を構え直し、なおも魔晄だまりの水面を凝視していると、その時だった。
深緑の水面が、不意に揺らいだ。さざなみのように広がる波紋の中心から、幾筋もの靄が立ち上る。だが、それは今まで目にしてきた黒い靄ではなかった。清められたような、白い靄だった。
「......な、なんだよ、あれ......」
ユフィが、震える声で呟く。
白い靄の群れに導かれるようにして、水面の奥から巨大な影が、緩慢な動きで浮かび上がってくる。
ウェポン――ティファを呑み込んだ、あの姿だった。
「来た......!」
叫ぶと同時に、グリモアの紋様が一斉に輝きを帯びる。今この瞬間を逃せば、次はいつ巡ってくるかわからない。全員の視線が、浮かび上がるその巨体へと突き刺さった。
クラウドの暴走シーンは、ゲーム版から変えてます。