FINAL FANTASY Ⅶ Revengers   作:オレンジⅩⅢ

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Chapter.4 そこに いた人は

ザックスから、セーフハウスに到着した旨の連絡を受けてから、2日後。

残務処理をささっと終わらせ、帰宅する。

 

ザックス達と合流するため、部屋のクローゼットから、変装用の衣装を取り出す。

膝下丈でスリットの入っているデニムスカートに、ニットセーターと革ジャンを取り出し、身につける。

軽く化粧をして、赤毛のロングのカツラを装着する。

義手を隠すため、アームカバーと手袋を着ける。

首に変声機のついたチョーカーを着ける。鏡には、おおよそ自分とは似つかない美女が出来上がる。

 

そう、女装である。

 

いくら服装を変えようとも、サングラスやマスクで姿を変えれば、逆に目立つ。

いっそ、女装してしまえば良いのでは? と試した結果、これが上手くいった。

カツラやインナーを変えて、体型や髪型を工夫するだけで、特定を回避することは割と容易なのだ。

 

過去、潜入任務の際に、同僚のルードが全く気が付かずにいたほどだ。分かりにくいが、口説かれたような気がするほどに。

……いや、ルードは女性関係になると、ややポンコツになる面があるから、そのせいの可能性もあるが。

 

ともかく、裏の活動をするのに、女装は効果的なのだ。

クラウドとザックスを預ける先も、ある程度リストアップできた。

あとは、彼らがどれだけ協力的かで、行き先を決めればいい。

クラウドに渡すためのプリペイド端末も用意してある。

必要な荷物を確認して、家を出る。

 

4番街の郊外、彼らがいるセーフハウスへ向け、歩みを進める。

その中で、彼らが協力してくれるかについて、思考を整理する。

ザックスは、積極的な協力は難しいだろう。

クラウドは、果たしてどうだろうか。

ソルジャーを目指していた彼にとって、神羅の裏切りは、許せるものではないはずだ。

ただ、その怒りがどの程度なのかは、確認出来ていない。

もし協力的だとしても、その行き先は鉄火場になる。

 

同期を地獄に送り込むことに、多少の申し訳なさを感じるが、仕方がない。

受け入れ先も多くはないのだ。内偵のことを考えれば、こちらも大々的に動くことが出来ないためである。

結局、偽造IDも用意することが出来なかった。このため、鉄道による移動や、プレートの上部での生活は諦めてもらうしかない。

幸いにも、ミッドガル各所のスラムは、贅沢さえ諦めれば普通に生活することができる。

なにしろ、神羅所属の平社員すら、スラム生活という状態なのだ。

生きていけるだけマシだと思ってもらうしかない。

 

予め、ザックスの持つ端末にメールを送る。

セーフハウスの扉をノックすれば、クラウドが警戒するように出てくる。

こちらを見て、目を丸くするクラウドに、変声機のスイッチを切って話しかける。

 

「どうやら、しっかりと休めたみたいだな」

「……まさか、ジュリアスか!?」

「今の私はジュリエットよ。ジュリアスとは誰のことかしら?」

 

右手を口に当てつつ変声機を起動して、ホホホと上品に笑って見せる。

その様子を見たクラウドは、片手で顔を覆い、視線を下に落とす。

肩が完全に震えており、笑いを堪えているのだろう。

 

彼を押し除けて中に入れば、簡易ベッドに横になり、やや赤い顔をしたザックスがいた。

彼もやり取りを聞いていたのだろう。必死に笑いを堪えていた。

 

「プッ、クク……ジュ、ジュリエット……だめだ、あははははは!! ゲッホ!」

「笑うか寝込むか、どちらかにしてほしいものですわ」

 

咽せるザックスに、苦言を呈する。わざとらしい口調で追撃すれば、更に笑って咽せる。

彼は度重なる疲労からか、熱を出していた。

メールでその旨は聞いていたため、鞄から市販薬を取り出して、放り投げる。

ヒーヒー言っていたザックスも、薬を受け取って、少し呼吸を落ち着かせた。

 

「悪い、助かった。まさか俺が寝込むなんてなぁ……」

「無理が祟ったんだろう。無理せず休め」

 

口調を元に戻し、変声機をオフにする。

 

「なんなら、お前たちのぶんのドレスも用意してやろうか?」

「「遠慮する」」

 

残念ながら、彼らにはこの変装の優位性は分からないらしい。

もっとも、自分も積極的に女装をしたいわけではないが。

鞄から続けて取り出した水のペットボトルを、ザックスへと手渡す。

 

「悪い、恩に着る」

「礼はいい。それより、大人しく寝ていろ。抗生剤じゃないから、根本的な治療にはならない。無理をすれば長引くだけだ」

「わーってるよ、姉御肌かよ」

 

軽口を叩きつつも、ザックスは素直に薬を飲み込み、簡易ベッドに横たわる。頬は赤らみ、額には汗が滲んでいた。ここ数日の緊張と逃走の疲労が、休息を得たことで、一気に噴き出したのだろう。気を張っていた分だけ、反動も大きい。

 

「今日はクラウドだけを連れていく。お前は、大人しく休んでいろ」

「あー……そうだな。正直、今の体調じゃ足手まといだ。悔しいが、大人しくしとくわ。頼んだぞ、クラウドのこと」

「約束は違えない主義でな」

 

ザックスの視線が、部屋の隅で荷物を整えるクラウドへと向く。何か言いたげな顔をしていたが、結局、小さく笑うだけに留めた。友の門出を、素直に見送ることにしたのだろう。

 

「……行ってくる」

「おう、気をつけてなー。ジュリエットちゃんも」

「良いから、おとなしく休んでいろ」

 

軽く睨みつけるも、効果はないようで、ザックスはひらひらと手を振るだけだった。熱で朦朧としながらも、軽口を叩く元気だけはあるらしい。

 

「なぁ、本当に俺は行かなくていいのか? 仮にも、あっちの連中とは初対面だろ」

「熱があるやつを連れて行って、倒れられる方が困る。それに、お前が動けないほうが、こちらとしても都合がいい」

「なんだよそれ、扱い雑じゃねぇか?」

「事実だ。ソルジャー、しかもクラス1stが同席すれば、警戒されて、まともな話し合いにならない可能性がある。今回は、クラウド単独のほうが、話は早い」

「……なるほどな。策士は考えることが違うぜ」

 

納得したように頷いたザックスを置いて、クラウドと共にセーフハウスを後にする。

 

 

 

 

 

 

セーフハウスを出て、クラウドと二人、住宅街の外れを歩く。夜間の暗闇は、街灯程度しか光源がない。周囲に人気はまばらで、密談にはちょうどいい。

 

「なぁ」

 

しばらく無言で歩いていたクラウドが、口を開く。

 

「聞きたいことがある」

「なんだ」

「お前は、神羅への復讐のために、こんなことをしてるんだろ。俺のことも、駒として使うつもりなのか?」

 

直球な物言いに、思わず苦笑する。相変わらず、こういうところは不器用なままだ。訓練兵時代から、駆け引きよりも真正面から問う質だった。

 

「否定はしない。俺の目的は、神羅を内側から食い破ることだ。お前たちを助けたのも、その目的と無関係ではない」

「……だよな」

「ただ、それだけでもない。訓練兵時代の同期を、見捨てたくなかった。それも本当だ。お前は知らないだろうが、俺たちの同期も、もう半分くらいしかいない」

 

しばし、沈黙が続く。クラウドは、視線を前に向けたまま、言葉を選ぶように口を開いた。

 

「俺にも、恨みはある。神羅には、故郷を、大切な人を、めちゃくちゃにされた。忘れられるはずがない」

「……だろうな」

「でも、それだけを原動力にはしたくないんだ」

 

意外な言葉に、思わず隣を見る。クラウドは、まっすぐ前を見据えたまま、続けた。

 

「子供の頃、幼馴染と約束したことがある。もし彼女がピンチになったら、絶対に助けに行くって。……無理やり約束させられたようなものだったけど」

「幼馴染、というと」

「……多分、もう死んでる。ニブルヘイムが焼かれた時に」

 

言葉の端々に、抑え込んだ痛みが滲む。それでも、クラウドの声は、思いのほか静かだった。

 

「セフィロスがおかしくなった夜、村のみんなは、ほとんど助からなかったと思う。あの人が生きてる可能性は、限りなく低い。分かってる。分かってるけど……」

 

一度言葉を切り、クラウドは拳を握る。

 

「あの約束だけは、忘れたくないんだ。だから、これは、これからの目標にする。誰かの、ピンチに駆けつけられる人間になる。俺みたいに、神羅に大事なものを奪われる奴を、これ以上増やしたくない」

「――復讐ではなく、か」

「復讐だけじゃ、多分、俺は保たない。ソルジャーにもなれなかった、ただの一般兵だ。恨みだけを支えにして戦い続けられるほど、俺は強くない。それでも、誰かを守れる人間にはなりたい」

 

その言葉に、返す言葉が、一瞬見つからなかった。

 

(死んだ人間との約束に、縋っているだけかもしれないな)

 

冷静に分析すれば、そう見える。もういない人間との約束を、生きるための目標に変換する。それは、ある種の逃避であり、自己欺瞞でもあるだろう。叶わない約束ほど、都合よく美化されるものだ。

だが、それを口にするほど、自分は無粋ではない。

誰だって、縋るものがなければ、立っていられない時がある。

 

自分自身、復讐という縋りものがなければ、とうに壊れていたかもしれないのだから。他人の縋りものを、笑う資格などない。

 

「悪くない目標だ」

 

短く、それだけを返す。

 

「……ただ、一つ言っておく」

「なんだ?」

「守りたいという気持ちは、時に、自分自身を追い詰める。守れなかった時、その反動は、想像以上に重い」

 

自分自身の左肩――義手の付け根に、無意識に触れる。喪失の痛みは、幻肢痛という形で、未だに自分を苛み続けている。

 

「それでも、その覚悟があるなら、止めはしない。目標があるだけ、お前は強くなれるだろう」

「なんか、実感こもってるな」

 

クラウドの指摘に、思わず内心で舌打ちをする。相変わらず、勘のいいところは、変わっていないらしい。

 

「気のせいだ」

「そういうことにしといてやる」

「昔の話はいい」

 

素っ気なく返しながらも、内心では、少し面食らっていた。

自分の過去も、動機も、この男に語れる範囲は限られている。復讐という言葉の裏にある、本当の理由――この世界への恨みの根源は、まだ誰にも明かしていない。

 

(俺にも、似たような“約束”があったら、どうなっていただろうな)

 

詮無いことを考えている自分に、気づく。

母を、妹を奪われた10年前のあの日から、自分を動かしているのは、怒りだけだ。誰かとの約束などという、温かいものは、ついぞ持ち得なかった。

 

(羨ましい、というほど単純な感情でもないが……)

 

自分でも判然としない感情を、意識の隅に押しやり、歩みを進める。

 

「相手は、荒っぽい連中だという噂もある。粗野な物言いをされても、いちいち突っかかるなよ」

「気をつける」

 

素直な返事に、少しだけ安堵する。

 

(アバランチ分流……いわゆる、バレットという男が率いる過激派だったか)

 

事前に集めた情報を、頭の中で反芻する。魔晄炉破壊計画を掲げ、神羅への武力闘争も辞さない集団だ。本流とは一線を画し、より直接的な行動に出る傾向がある。

そのせいで、本流から追放されたわけだが。

 

もっとも、自分が実際にやり取りしていたのは、リーダーであるバレットではない。情報のやり取りを一手に担っていたのは、ジェシーという女だった。こちらが“スペンサー”を含めて意図的に流していた情報を巧みに使う人間だ。以前、魔晄炉の爆破計画の素案が送られてきたが、しっかりと情報を活用しているようだった。

 

(今日、姿を見せるのも、恐らくジェシーだろうな)

 

漠然と、そう見当をつける。

 

「先に言っておく。お前のことは、任務中に神羅から裏切りに遭った、元ソルジャーとして紹介してある。それと、俺の協力者――“スペンサー”という名前で、な」

「スペンサー……偽名か。それに、元ソルジャーって……」

「その魔晄を浴びた特有の瞳の色を誤魔化すためだ。それに、実力は申し分ないとザックスから聞いている。まぁ、それはいい」

 

一度、言葉を切る。ここから先が、今日、最も重要な話だった。

 

「それと、もう一つ。今日以降、お前にはこれから会うアバランチ分流に、正式に合流してもらう」

「合流って……仲間になれ、ってことか?」

「ああ。連中は、魔晄炉の破壊など、過激な行動も辞さない組織だ。神羅から見れば、正真正銘のテロリストだろう。お前も、その一員と見なされることになる」

 

淡々と告げる。事の重大さを、誤魔化すつもりはなかった。

 

「……テロリスト、か」

 

クラウドの声に、僅かな動揺が滲む。当然の反応だろう。

 

「もちろん、どこまで協力するかは、お前次第だ。命じられるがまま、全てに従う必要はない。破壊活動に加担したくなければ、断る権利もあるだろう」

「拒否したら、どうなる?」

「行き場が無くなるだけだ。今の神羅で、お前の居場所は無い。連中の庇護下に入る以上、多少のリスクは避けられないと思ってくれ」

 

身も蓋もない現実に、クラウドは、しばし黙り込む。

 

「……分かった。やれることは、やる。やりたくないことは、断る。それでいいんだよな?」

「それでいい。お前の意思は、尊重する」

 

覚悟を決めたような声に、小さく頷く。

 

「とにかく、今日は引き渡しだけだ。細かいことは、あとから決めればいい」

「引き渡しって……俺は捕虜か?」

 

クラウドの呟きを無視して、再び歩みを進める。目的地は、六番街と七番街の間にある、小さな公園だった。

かつては、子供達の遊び場として賑わっていたであろうその場所も、今はプレートの影に沈み、寂れた印象を拭えない。

錆びついたブランコと、色褪せたベンチ、そして雑草に埋もれかけた砂場が、わずかに残る面影だ。街灯の明かりも半分は切れており、薄暗さがかえって密談には都合が良かった。

 

「ここが、待ち合わせ場所だ」

 

公園の入り口へと目をやれば、そこには既に、人影があった。

黒髪の、若い女性だった。

着崩したシャツの上に、動きやすさを重視したであろう軽装。腰には、格闘用と思しきグローブが下げられている。物陰から現れたその立ち姿には、隙が無い。恐らく、それなりの実戦経験を積んでいるのだろう。

 

 

その顔立ちに、見覚えがある――記憶の中の、幼さの残る面影と重なる。

 

 

隣で、クラウドの息を呑む音が聞こえた。

 

「……ティファ?」

 

掠れた声で、クラウドが呟く。

 

(ティファ……? ジェシーではないのか)

 

想定していた人物とは違う相手の登場に、内心で軽く眉を寄せる。

ティファもまた、こちらの顔ぶれを認めて、驚いたように目を見開いていた。だが、その驚きは、クラウドが纏う緊張と比べると、明らかに温度差があった。

 

「え……? クラウド……? 嘘、本当にクラウドなの!?」

 

一瞬、言葉を失った後、指折り数えるように、少し考えるそぶりを見せる。

 

「7年ぶり、くらいだよね……? あなたが、村を出てから」

 

驚きつつも、どこか懐かしむような声色。深刻な影のようなものは、そこには感じられなかった。

 

(――ん?)

 

その反応に、僅かな違和感を覚える。

てっきり、ティファもまた、ニブルヘイムでの一件を経て、クラウドと死線を彷徨った仲だとばかり思っていたが……どうやら、そういう空気ではないらしい。

 

(ティファは、クラウドがあの夜、ニブルヘイムにいたことを、知らないのか……?)

 

一方のクラウドは、覚束ない足取りで、ティファへと歩み寄っていく。

まるで、幻でも見ているかのような、危うい足取りだった。

 

「――生きて、たのか」

 

震える声で、絞り出すようにそう言うと、クラウドはティファの手を、両手で包み込むように掴んだ。

 

「え、あ、うん……生きてるけど……」

 

面食らったように、ティファの声が上擦る。7年ぶりの再会に、これほど深刻な反応をされるとは、想定していなかったのだろう。

 

「クラウド……? どうしたの、そんな、思い詰めたような顔して……」

 

戸惑うティファの声も耳に入らない様子で、クラウドの目から、堪えきれなかったものが、一筋、こぼれ落ちる。

 

「良かった……本当に、良かった……!」

 

大の男が、人目もはばからず、涙をこぼす。

 

「ちょ、クラウド……? ねぇ、大丈夫? 何かあったの……?」

 

予想外の反応に、ティファは戸惑いを隠せない様子で、それでも、崩れ落ちそうになるクラウドの身体を、咄嗟に支えた。

その光景を、少し離れた場所から、静かに見つめる。

 

(この様子だと、ティファは、ニブルヘイムの一件で、クラウドが命の危機にあったことすら、知らないようだな)

 

推測が、確信に変わっていく。二人の間に横たわる認識の差は、決して小さくない。

クラウドにとっては、7年という歳月の重みに加え、“死んだと思っていた相手が、実は生きていた”という衝撃が重なっているのだろう。だが、ティファにとっては、あくまで、久方ぶりの再会でしかないらしい。

このギャップを、今この場で埋めるべきかどうか。

 

(――いや、今は、放っておくのが得策か)

 

余計な情報を今与えれば、クラウド自身の口から語られるべき事情が、歪んで伝わりかねない。しばらくは、黙って見守ることにする。

数十秒か、あるいは数分か。しゃくり上げるクラウドの背を、ティファはただ、戸惑いながらもさすり続けていた。

ようやく落ち着きを取り戻したのか、クラウドが、涙を拭いながら、ティファから一歩、身を引く。

 

「悪い……取り乱した」

「ううん、いいけど……。本当に、大丈夫? 何かあったんじゃ……」

 

心配そうに眉を寄せるティファに、クラウドは力なく笑ってみせる。

 

「いろいろ、あった。……話すと長くなる」

「そう、なんだ……」

 

歯切れの悪い返答に、ティファは、それ以上踏み込むことなく、小さく頷いた。彼女なりに、今は聞くべきではない空気を、察したのだろう。

頃合いを見て、変声機のスイッチが入っていることを確認し、二人の間に割って入る。

 

「取り込み中悪いけど、本題に入らせてもらえるかしら?」

「あ、はい……。えっと、あなたが――」

「“スペンサー”の協力者。ジュリエットといいます。」

 

ティファが、こちらをまじまじと見つめる。

その様子から、女装であることはバレていないだろう。

 

「ジェシーさんが来るとばかり思ってましたが」

「いえ、ジェシーは外せない用事があるから、私が代理で来ました」

「そうですか。では、あとは任せても?」

 

こちらの問いに、ティファは頷く。

あまり長居をしたくないため、素直にありがたい。

 

「クラウド、私…… バレットって人が率いてる、アバランチの分流にいるの。ジェシーから、話は聞いてる。危ないこともするグループだけど……」

「ああ……。俺で良ければ、力になる」

 

涙の跡が残る顔で、それでも、クラウドはしっかりとした声でそう答えた。

その様子を見て、密かに息を吐く。

 

(悪くない滑り出しだ)

 

策士としての自分と、同期を案じる自分。その両方が、静かに満足していた。

 

(それにしても――ティファは、本当に何も知らないのか)

 

胸の奥に、小さな疑問符が残る。ニブルヘイムで何があったのか、彼女がどこまで知っていて、どこから、どうやってここまで辿り着いたのか。今は問い質す場面ではないが、いずれ、確かめる必要があるかもしれない。

 

と、クラウドがティファに断りを入れて、こちらに歩み寄る。

 

「ジュリ……エット。ありがとう、おかげでティファと会えた」

「随分と感動的でしたね。もしかして」

「ああ。彼女が幼馴染だ。それで……」

 

そこまで言って、クラウドは視線を落とす。

まるで叱られる前の子供のようであり、彼が何を言いたいのかが、手に取るように分かる。

 

「本当のことを、彼女にだけは言いたい。ってところかしら?」

「……良いのか?」

 

クラウドの耳元に、そっと顔を寄せる。

ティファに聞こえないよう、注意を払いながら。

 

「彼女の口が固いのが条件だ。そもそも、お前は隠し事に向かないんだ、そこも含めて相談しておけ」

「……素直に納得できないが、分かった」

 

不機嫌そうな表情で、クラウドは承知する。

ちらりとティファをみれば、顔を赤くしてこちらを見ている。

おそらく、自分とクラウドの距離が近いからだろう。

 

「……俺が女装していることも話しておけ。彼女、多分勘違いしているぞ?」

「勘違い?」

「……後で聞いておけ」

 

必要なことを話し、クラウドから距離をとる。

 

「では、ティファさん。クラウドさんのこと、よろしくお願いしますね」

「……え、あ、はい!」

 

……あの様子だと、間違いなく勘違いしている。

側から見れば面白いのだろうが、クラウドのことを思えば、それは可哀想だろう。

 

くるりと踵を返し、セーフハウスへ移動することにする。

部屋でおとなしく待っているザックスを、どこに預けるべきかを考えながら。

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