FINAL FANTASY Ⅶ Revengers 作:オレンジⅩⅢ
ザックスから、セーフハウスに到着した旨の連絡を受けてから、2日後。
残務処理をささっと終わらせ、帰宅する。
ザックス達と合流するため、部屋のクローゼットから、変装用の衣装を取り出す。
膝下丈でスリットの入っているデニムスカートに、ニットセーターと革ジャンを取り出し、身につける。
軽く化粧をして、赤毛のロングのカツラを装着する。
義手を隠すため、アームカバーと手袋を着ける。
首に変声機のついたチョーカーを着ける。鏡には、おおよそ自分とは似つかない美女が出来上がる。
そう、女装である。
いくら服装を変えようとも、サングラスやマスクで姿を変えれば、逆に目立つ。
いっそ、女装してしまえば良いのでは? と試した結果、これが上手くいった。
カツラやインナーを変えて、体型や髪型を工夫するだけで、特定を回避することは割と容易なのだ。
過去、潜入任務の際に、同僚のルードが全く気が付かずにいたほどだ。分かりにくいが、口説かれたような気がするほどに。
……いや、ルードは女性関係になると、ややポンコツになる面があるから、そのせいの可能性もあるが。
ともかく、裏の活動をするのに、女装は効果的なのだ。
クラウドとザックスを預ける先も、ある程度リストアップできた。
あとは、彼らがどれだけ協力的かで、行き先を決めればいい。
クラウドに渡すためのプリペイド端末も用意してある。
必要な荷物を確認して、家を出る。
4番街の郊外、彼らがいるセーフハウスへ向け、歩みを進める。
その中で、彼らが協力してくれるかについて、思考を整理する。
ザックスは、積極的な協力は難しいだろう。
クラウドは、果たしてどうだろうか。
ソルジャーを目指していた彼にとって、神羅の裏切りは、許せるものではないはずだ。
ただ、その怒りがどの程度なのかは、確認出来ていない。
もし協力的だとしても、その行き先は鉄火場になる。
同期を地獄に送り込むことに、多少の申し訳なさを感じるが、仕方がない。
受け入れ先も多くはないのだ。内偵のことを考えれば、こちらも大々的に動くことが出来ないためである。
結局、偽造IDも用意することが出来なかった。このため、鉄道による移動や、プレートの上部での生活は諦めてもらうしかない。
幸いにも、ミッドガル各所のスラムは、贅沢さえ諦めれば普通に生活することができる。
なにしろ、神羅所属の平社員すら、スラム生活という状態なのだ。
生きていけるだけマシだと思ってもらうしかない。
予め、ザックスの持つ端末にメールを送る。
セーフハウスの扉をノックすれば、クラウドが警戒するように出てくる。
こちらを見て、目を丸くするクラウドに、変声機のスイッチを切って話しかける。
「どうやら、しっかりと休めたみたいだな」
「……まさか、ジュリアスか!?」
「今の私はジュリエットよ。ジュリアスとは誰のことかしら?」
右手を口に当てつつ変声機を起動して、ホホホと上品に笑って見せる。
その様子を見たクラウドは、片手で顔を覆い、視線を下に落とす。
肩が完全に震えており、笑いを堪えているのだろう。
彼を押し除けて中に入れば、簡易ベッドに横になり、やや赤い顔をしたザックスがいた。
彼もやり取りを聞いていたのだろう。必死に笑いを堪えていた。
「プッ、クク……ジュ、ジュリエット……だめだ、あははははは!! ゲッホ!」
「笑うか寝込むか、どちらかにしてほしいものですわ」
咽せるザックスに、苦言を呈する。わざとらしい口調で追撃すれば、更に笑って咽せる。
彼は度重なる疲労からか、熱を出していた。
メールでその旨は聞いていたため、鞄から市販薬を取り出して、放り投げる。
ヒーヒー言っていたザックスも、薬を受け取って、少し呼吸を落ち着かせた。
「悪い、助かった。まさか俺が寝込むなんてなぁ……」
「無理が祟ったんだろう。無理せず休め」
口調を元に戻し、変声機をオフにする。
「なんなら、お前たちのぶんのドレスも用意してやろうか?」
「「遠慮する」」
残念ながら、彼らにはこの変装の優位性は分からないらしい。
もっとも、自分も積極的に女装をしたいわけではないが。
鞄から続けて取り出した水のペットボトルを、ザックスへと手渡す。
「悪い、恩に着る」
「礼はいい。それより、大人しく寝ていろ。抗生剤じゃないから、根本的な治療にはならない。無理をすれば長引くだけだ」
「わーってるよ、姉御肌かよ」
軽口を叩きつつも、ザックスは素直に薬を飲み込み、簡易ベッドに横たわる。頬は赤らみ、額には汗が滲んでいた。ここ数日の緊張と逃走の疲労が、休息を得たことで、一気に噴き出したのだろう。気を張っていた分だけ、反動も大きい。
「今日はクラウドだけを連れていく。お前は、大人しく休んでいろ」
「あー……そうだな。正直、今の体調じゃ足手まといだ。悔しいが、大人しくしとくわ。頼んだぞ、クラウドのこと」
「約束は違えない主義でな」
ザックスの視線が、部屋の隅で荷物を整えるクラウドへと向く。何か言いたげな顔をしていたが、結局、小さく笑うだけに留めた。友の門出を、素直に見送ることにしたのだろう。
「……行ってくる」
「おう、気をつけてなー。ジュリエットちゃんも」
「良いから、おとなしく休んでいろ」
軽く睨みつけるも、効果はないようで、ザックスはひらひらと手を振るだけだった。熱で朦朧としながらも、軽口を叩く元気だけはあるらしい。
「なぁ、本当に俺は行かなくていいのか? 仮にも、あっちの連中とは初対面だろ」
「熱があるやつを連れて行って、倒れられる方が困る。それに、お前が動けないほうが、こちらとしても都合がいい」
「なんだよそれ、扱い雑じゃねぇか?」
「事実だ。ソルジャー、しかもクラス1stが同席すれば、警戒されて、まともな話し合いにならない可能性がある。今回は、クラウド単独のほうが、話は早い」
「……なるほどな。策士は考えることが違うぜ」
納得したように頷いたザックスを置いて、クラウドと共にセーフハウスを後にする。
セーフハウスを出て、クラウドと二人、住宅街の外れを歩く。夜間の暗闇は、街灯程度しか光源がない。周囲に人気はまばらで、密談にはちょうどいい。
「なぁ」
しばらく無言で歩いていたクラウドが、口を開く。
「聞きたいことがある」
「なんだ」
「お前は、神羅への復讐のために、こんなことをしてるんだろ。俺のことも、駒として使うつもりなのか?」
直球な物言いに、思わず苦笑する。相変わらず、こういうところは不器用なままだ。訓練兵時代から、駆け引きよりも真正面から問う質だった。
「否定はしない。俺の目的は、神羅を内側から食い破ることだ。お前たちを助けたのも、その目的と無関係ではない」
「……だよな」
「ただ、それだけでもない。訓練兵時代の同期を、見捨てたくなかった。それも本当だ。お前は知らないだろうが、俺たちの同期も、もう半分くらいしかいない」
しばし、沈黙が続く。クラウドは、視線を前に向けたまま、言葉を選ぶように口を開いた。
「俺にも、恨みはある。神羅には、故郷を、大切な人を、めちゃくちゃにされた。忘れられるはずがない」
「……だろうな」
「でも、それだけを原動力にはしたくないんだ」
意外な言葉に、思わず隣を見る。クラウドは、まっすぐ前を見据えたまま、続けた。
「子供の頃、幼馴染と約束したことがある。もし彼女がピンチになったら、絶対に助けに行くって。……無理やり約束させられたようなものだったけど」
「幼馴染、というと」
「……多分、もう死んでる。ニブルヘイムが焼かれた時に」
言葉の端々に、抑え込んだ痛みが滲む。それでも、クラウドの声は、思いのほか静かだった。
「セフィロスがおかしくなった夜、村のみんなは、ほとんど助からなかったと思う。あの人が生きてる可能性は、限りなく低い。分かってる。分かってるけど……」
一度言葉を切り、クラウドは拳を握る。
「あの約束だけは、忘れたくないんだ。だから、これは、これからの目標にする。誰かの、ピンチに駆けつけられる人間になる。俺みたいに、神羅に大事なものを奪われる奴を、これ以上増やしたくない」
「――復讐ではなく、か」
「復讐だけじゃ、多分、俺は保たない。ソルジャーにもなれなかった、ただの一般兵だ。恨みだけを支えにして戦い続けられるほど、俺は強くない。それでも、誰かを守れる人間にはなりたい」
その言葉に、返す言葉が、一瞬見つからなかった。
(死んだ人間との約束に、縋っているだけかもしれないな)
冷静に分析すれば、そう見える。もういない人間との約束を、生きるための目標に変換する。それは、ある種の逃避であり、自己欺瞞でもあるだろう。叶わない約束ほど、都合よく美化されるものだ。
だが、それを口にするほど、自分は無粋ではない。
誰だって、縋るものがなければ、立っていられない時がある。
自分自身、復讐という縋りものがなければ、とうに壊れていたかもしれないのだから。他人の縋りものを、笑う資格などない。
「悪くない目標だ」
短く、それだけを返す。
「……ただ、一つ言っておく」
「なんだ?」
「守りたいという気持ちは、時に、自分自身を追い詰める。守れなかった時、その反動は、想像以上に重い」
自分自身の左肩――義手の付け根に、無意識に触れる。喪失の痛みは、幻肢痛という形で、未だに自分を苛み続けている。
「それでも、その覚悟があるなら、止めはしない。目標があるだけ、お前は強くなれるだろう」
「なんか、実感こもってるな」
クラウドの指摘に、思わず内心で舌打ちをする。相変わらず、勘のいいところは、変わっていないらしい。
「気のせいだ」
「そういうことにしといてやる」
「昔の話はいい」
素っ気なく返しながらも、内心では、少し面食らっていた。
自分の過去も、動機も、この男に語れる範囲は限られている。復讐という言葉の裏にある、本当の理由――この世界への恨みの根源は、まだ誰にも明かしていない。
(俺にも、似たような“約束”があったら、どうなっていただろうな)
詮無いことを考えている自分に、気づく。
母を、妹を奪われた10年前のあの日から、自分を動かしているのは、怒りだけだ。誰かとの約束などという、温かいものは、ついぞ持ち得なかった。
(羨ましい、というほど単純な感情でもないが……)
自分でも判然としない感情を、意識の隅に押しやり、歩みを進める。
「相手は、荒っぽい連中だという噂もある。粗野な物言いをされても、いちいち突っかかるなよ」
「気をつける」
素直な返事に、少しだけ安堵する。
(アバランチ分流……いわゆる、バレットという男が率いる過激派だったか)
事前に集めた情報を、頭の中で反芻する。魔晄炉破壊計画を掲げ、神羅への武力闘争も辞さない集団だ。本流とは一線を画し、より直接的な行動に出る傾向がある。
そのせいで、本流から追放されたわけだが。
もっとも、自分が実際にやり取りしていたのは、リーダーであるバレットではない。情報のやり取りを一手に担っていたのは、ジェシーという女だった。こちらが“スペンサー”を含めて意図的に流していた情報を巧みに使う人間だ。以前、魔晄炉の爆破計画の素案が送られてきたが、しっかりと情報を活用しているようだった。
(今日、姿を見せるのも、恐らくジェシーだろうな)
漠然と、そう見当をつける。
「先に言っておく。お前のことは、任務中に神羅から裏切りに遭った、元ソルジャーとして紹介してある。それと、俺の協力者――“スペンサー”という名前で、な」
「スペンサー……偽名か。それに、元ソルジャーって……」
「その魔晄を浴びた特有の瞳の色を誤魔化すためだ。それに、実力は申し分ないとザックスから聞いている。まぁ、それはいい」
一度、言葉を切る。ここから先が、今日、最も重要な話だった。
「それと、もう一つ。今日以降、お前にはこれから会うアバランチ分流に、正式に合流してもらう」
「合流って……仲間になれ、ってことか?」
「ああ。連中は、魔晄炉の破壊など、過激な行動も辞さない組織だ。神羅から見れば、正真正銘のテロリストだろう。お前も、その一員と見なされることになる」
淡々と告げる。事の重大さを、誤魔化すつもりはなかった。
「……テロリスト、か」
クラウドの声に、僅かな動揺が滲む。当然の反応だろう。
「もちろん、どこまで協力するかは、お前次第だ。命じられるがまま、全てに従う必要はない。破壊活動に加担したくなければ、断る権利もあるだろう」
「拒否したら、どうなる?」
「行き場が無くなるだけだ。今の神羅で、お前の居場所は無い。連中の庇護下に入る以上、多少のリスクは避けられないと思ってくれ」
身も蓋もない現実に、クラウドは、しばし黙り込む。
「……分かった。やれることは、やる。やりたくないことは、断る。それでいいんだよな?」
「それでいい。お前の意思は、尊重する」
覚悟を決めたような声に、小さく頷く。
「とにかく、今日は引き渡しだけだ。細かいことは、あとから決めればいい」
「引き渡しって……俺は捕虜か?」
クラウドの呟きを無視して、再び歩みを進める。目的地は、六番街と七番街の間にある、小さな公園だった。
かつては、子供達の遊び場として賑わっていたであろうその場所も、今はプレートの影に沈み、寂れた印象を拭えない。
錆びついたブランコと、色褪せたベンチ、そして雑草に埋もれかけた砂場が、わずかに残る面影だ。街灯の明かりも半分は切れており、薄暗さがかえって密談には都合が良かった。
「ここが、待ち合わせ場所だ」
公園の入り口へと目をやれば、そこには既に、人影があった。
黒髪の、若い女性だった。
着崩したシャツの上に、動きやすさを重視したであろう軽装。腰には、格闘用と思しきグローブが下げられている。物陰から現れたその立ち姿には、隙が無い。恐らく、それなりの実戦経験を積んでいるのだろう。
その顔立ちに、見覚えがある――記憶の中の、幼さの残る面影と重なる。
隣で、クラウドの息を呑む音が聞こえた。
「……ティファ?」
掠れた声で、クラウドが呟く。
(ティファ……? ジェシーではないのか)
想定していた人物とは違う相手の登場に、内心で軽く眉を寄せる。
ティファもまた、こちらの顔ぶれを認めて、驚いたように目を見開いていた。だが、その驚きは、クラウドが纏う緊張と比べると、明らかに温度差があった。
「え……? クラウド……? 嘘、本当にクラウドなの!?」
一瞬、言葉を失った後、指折り数えるように、少し考えるそぶりを見せる。
「7年ぶり、くらいだよね……? あなたが、村を出てから」
驚きつつも、どこか懐かしむような声色。深刻な影のようなものは、そこには感じられなかった。
(――ん?)
その反応に、僅かな違和感を覚える。
てっきり、ティファもまた、ニブルヘイムでの一件を経て、クラウドと死線を彷徨った仲だとばかり思っていたが……どうやら、そういう空気ではないらしい。
(ティファは、クラウドがあの夜、ニブルヘイムにいたことを、知らないのか……?)
一方のクラウドは、覚束ない足取りで、ティファへと歩み寄っていく。
まるで、幻でも見ているかのような、危うい足取りだった。
「――生きて、たのか」
震える声で、絞り出すようにそう言うと、クラウドはティファの手を、両手で包み込むように掴んだ。
「え、あ、うん……生きてるけど……」
面食らったように、ティファの声が上擦る。7年ぶりの再会に、これほど深刻な反応をされるとは、想定していなかったのだろう。
「クラウド……? どうしたの、そんな、思い詰めたような顔して……」
戸惑うティファの声も耳に入らない様子で、クラウドの目から、堪えきれなかったものが、一筋、こぼれ落ちる。
「良かった……本当に、良かった……!」
大の男が、人目もはばからず、涙をこぼす。
「ちょ、クラウド……? ねぇ、大丈夫? 何かあったの……?」
予想外の反応に、ティファは戸惑いを隠せない様子で、それでも、崩れ落ちそうになるクラウドの身体を、咄嗟に支えた。
その光景を、少し離れた場所から、静かに見つめる。
(この様子だと、ティファは、ニブルヘイムの一件で、クラウドが命の危機にあったことすら、知らないようだな)
推測が、確信に変わっていく。二人の間に横たわる認識の差は、決して小さくない。
クラウドにとっては、7年という歳月の重みに加え、“死んだと思っていた相手が、実は生きていた”という衝撃が重なっているのだろう。だが、ティファにとっては、あくまで、久方ぶりの再会でしかないらしい。
このギャップを、今この場で埋めるべきかどうか。
(――いや、今は、放っておくのが得策か)
余計な情報を今与えれば、クラウド自身の口から語られるべき事情が、歪んで伝わりかねない。しばらくは、黙って見守ることにする。
数十秒か、あるいは数分か。しゃくり上げるクラウドの背を、ティファはただ、戸惑いながらもさすり続けていた。
ようやく落ち着きを取り戻したのか、クラウドが、涙を拭いながら、ティファから一歩、身を引く。
「悪い……取り乱した」
「ううん、いいけど……。本当に、大丈夫? 何かあったんじゃ……」
心配そうに眉を寄せるティファに、クラウドは力なく笑ってみせる。
「いろいろ、あった。……話すと長くなる」
「そう、なんだ……」
歯切れの悪い返答に、ティファは、それ以上踏み込むことなく、小さく頷いた。彼女なりに、今は聞くべきではない空気を、察したのだろう。
頃合いを見て、変声機のスイッチが入っていることを確認し、二人の間に割って入る。
「取り込み中悪いけど、本題に入らせてもらえるかしら?」
「あ、はい……。えっと、あなたが――」
「“スペンサー”の協力者。ジュリエットといいます。」
ティファが、こちらをまじまじと見つめる。
その様子から、女装であることはバレていないだろう。
「ジェシーさんが来るとばかり思ってましたが」
「いえ、ジェシーは外せない用事があるから、私が代理で来ました」
「そうですか。では、あとは任せても?」
こちらの問いに、ティファは頷く。
あまり長居をしたくないため、素直にありがたい。
「クラウド、私…… バレットって人が率いてる、アバランチの分流にいるの。ジェシーから、話は聞いてる。危ないこともするグループだけど……」
「ああ……。俺で良ければ、力になる」
涙の跡が残る顔で、それでも、クラウドはしっかりとした声でそう答えた。
その様子を見て、密かに息を吐く。
(悪くない滑り出しだ)
策士としての自分と、同期を案じる自分。その両方が、静かに満足していた。
(それにしても――ティファは、本当に何も知らないのか)
胸の奥に、小さな疑問符が残る。ニブルヘイムで何があったのか、彼女がどこまで知っていて、どこから、どうやってここまで辿り着いたのか。今は問い質す場面ではないが、いずれ、確かめる必要があるかもしれない。
と、クラウドがティファに断りを入れて、こちらに歩み寄る。
「ジュリ……エット。ありがとう、おかげでティファと会えた」
「随分と感動的でしたね。もしかして」
「ああ。彼女が幼馴染だ。それで……」
そこまで言って、クラウドは視線を落とす。
まるで叱られる前の子供のようであり、彼が何を言いたいのかが、手に取るように分かる。
「本当のことを、彼女にだけは言いたい。ってところかしら?」
「……良いのか?」
クラウドの耳元に、そっと顔を寄せる。
ティファに聞こえないよう、注意を払いながら。
「彼女の口が固いのが条件だ。そもそも、お前は隠し事に向かないんだ、そこも含めて相談しておけ」
「……素直に納得できないが、分かった」
不機嫌そうな表情で、クラウドは承知する。
ちらりとティファをみれば、顔を赤くしてこちらを見ている。
おそらく、自分とクラウドの距離が近いからだろう。
「……俺が女装していることも話しておけ。彼女、多分勘違いしているぞ?」
「勘違い?」
「……後で聞いておけ」
必要なことを話し、クラウドから距離をとる。
「では、ティファさん。クラウドさんのこと、よろしくお願いしますね」
「……え、あ、はい!」
……あの様子だと、間違いなく勘違いしている。
側から見れば面白いのだろうが、クラウドのことを思えば、それは可哀想だろう。
くるりと踵を返し、セーフハウスへ移動することにする。
部屋でおとなしく待っているザックスを、どこに預けるべきかを考えながら。