ロックマンゼクス&はぴねす!〜バディ・コネクション!!〜 作:騎士誠一郎
瑞穂坂中央総合病院、最上階に位置する特別病棟。
窓から差し込む眩しい朝差しが、白を基調とした室内を穏やかに照らし出していた。激闘から数日——あの悪夢のような「新生モデルV」とDIN000「アポカリプス」との死闘を戦い抜いた適合者たちは、揃ってこの病室で静養の日々を送っていた。
「あー……! 動くとまだ体の節々が痛むわね……。あのアポカリプスの重力波、どんだけ重かったのよ」
ベッドの上で大きく背伸びをしたのは杏里だった。全身に巻かれた包帯を気にしつつも、持ち前の元気さはすでに戻っているようだ。
「杏里さん、あまり急に動いては駄目ですわ。傷口が開いてしまいます」
隣のベッドから優しく嗜めたのは小雪だ。彼女自身も腕に痛々しいギプスを嵌めているが、その表情にはかつての悲壮感はなく、どこか澄み切った穏やかさが戻っていた。
「でもさぁ、本当にみんな助かって良かったよぉ。街のみんなも無事に元に戻ったし……」
パイプ椅子に腰掛け、リンゴの皮を綺麗に剥いていたすももが、ほっとしたように胸を撫で下ろす。
「うん……本当に良かった」
包帯だらけの体でベッド背もたれに体を預けていた雄真は、自らの掌を見つめた。あの時、イザナミの怨念とアポカリプスのバリアを打ち砕いた右拳には、今もまだ微かな痺れと熱が残っている。
『フン、我らがついていながら、主(ぬし)にこれほどの傷を負わせるとは……不覚であった』
『何言っているモデルP、結果はむしろ上出来だ。雄真のあの一撃、最高だったな』
枕元に置かれたケースの中で、モデルPとモデルZが念話で軽口を叩き合っている。モデルXやモデルH、モデルL、そしてモデルAも、それぞれ静かに彼らの回復を見守っていた。
「まあまあ、何はともあれ一件落着ってわけだ! これで俺らの日常も元通り……いやー、一時はどうなるかと思ったけど、俺のあの『超絶アルバート演劇』が効いたのも大きかったよね! ね、モデルA?」
「自画自賛すんじゃねえよ八輔! 実際にビビりながら叫んでただけだろ!」
八輔とモデルAの相変わらずの掛け合いに、病室内にどっと温かな笑い声が弾けた。
あの恐ろしい復讐劇は去った。
瑞穂坂の街は少しずつ復興へと歩み出し、奪われた人々の生命も完全に肉体へと還元された。自分たちが護り抜いた平和な日常が、すぐそこまで戻ってきている——誰もがそう信じ、安らぎの時間を噛み締めていた。
だが、その平穏な空気は、病室の扉が勢いよく開かれたことによって破られることとなる。
パンッ! と乾いた音を立てて扉が開いた。
息を切らせて駆け込んできたのは、瑞穂坂学園大学の学園長と、魔法省および政府の黒塗りのスーツを着た高官たちの集団であった。
「が、学園長……? それに、そんなぞろぞろと大勢でどうしたんですか?」
春姫がベッドの上で驚きに目を見開く。
いつもは厳格な学園長の手が、見たこともないほど激しく震えていた。その顔は朱に染まり、興奮と困惑が入り混じった複雑な表情を浮かべている。
「小日向君……神坂君……いや、適合者の諸君! 大変なことになった……! 政府から……いや、国から直々の『特使』が到着されたのだ!」
「え……? 政府から……?」
雄真たちが顔を見合わせる。
スーツを着た高官のトップが、一歩前へ出ると、慇懃無礼なまでに深く頭を下げた。そして、恭しく黄金の装飾が施された羊皮紙の書状をうやうやしく掲げ持ち、朗々と声を張り上げた。
「告ぐ! 小日向雄真殿、神坂春姫殿、柊杏里殿、高峰小雪殿、小日向すもも殿、そして八輔殿! 貴方方六名に、日本国政府ならびに最高評議会より、緊急の公式通達を言い渡す!」
病室内に緊張が走る。
「今般、瑞穂坂市および周辺地域を襲った未曽有の国家的存亡の危機……旧瑞穂坂学園の陰謀に端を発する極秘超テクノロジー暴走事件において、自らの危険を省みず、奇跡的な連携と圧倒的な英雄的献身をもって、数万の国民の命を救い、世界の破滅を阻止した真の功績を称え……」
高官は一呼吸置くと、胸を張って最大の決定を告げた。
「——政府は、貴方方六名に対し、**『国民栄誉賞』**を授与することを正式に決定いたしました!!」
「……え?」
雄真の口から、間抜けた声が漏れた。
「こ……こ、こ、国……!? **国民栄誉賞ぉぉぉぉぉっ!??**」
八輔が叫び声を上げてベッドから転げ落ちた。
「国民栄誉賞って……あの、歴史の教科書とかニュースでしか見たことない、あのすごい賞!?」
杏里が目を丸くして自分の顔を指さす。
「はい……! 瑞穂坂の街を護った皆様の戦いは、政府だけでなく、意識を取り戻した全世界の市民の知るところとなりました。今やあなた方は、この国を……いや、世界を救った『伝説の六人』として、時の人となっております!」
高官の言葉を裏付けるように、病院の窓の外から、地鳴りのような歓声が響き渡り始めた。
「小日向くーん! ありがとうー!」
「瑞穂坂のヒーローたちー!」
「感謝してるぞー!」
窓下に目をやると、病院をぐるりと取り囲むように、数千、数万もの瑞穂坂の市民たちが集まっていた。手には色とりどりの花束や「ありがとう」と書かれた横断幕が掲げられ、街全体が感動と祝福の渦に包まれていたのだ。
「街のみんな……」
すももが窓辺に寄り添い、胸を熱くしてその光景を見つめる。
自分がかつて足を引っ張り、泣いてばかりいた少女が、仲間とともに街を救い、今や国から、そして人々から感謝される存在となった。その事実が、胸の奥を温かく満たしていく。
「ふふ……国家から賞をいただくなんて、少し大仰で面痒いですわね」
小雪が誇らしげに微笑む。
「でも……あたしたちが頑張った証が、こうやってみんなの笑顔に繋がったなら……悪くないわね!」
杏里が鼻をこすりながら力強く頷いた。
「ええ……! 私たちが守ったものは、ただの街じゃない……この温かな人々の『明日』だったんだね」
春姫が優しく目を細め、モデルHの入ったケースに触れた。
高官は微笑みながら、雄真へと歩み寄った。
「式典は来月、都内にて執り行われます。どうか傷を癒やし、栄誉ある姿で国民の前に立ち給え、若き英雄たちよ」
特使たちが深々と一礼し、嵐のように去っていった後、病室には再び穏やかな、しかしどこか晴れやかな静寂が訪れた。
雄真は窓の外、青く澄み渡る瑞穂坂の空と、自分たちを呼ぶ人々の笑顔を見つめた。
『雄真……最高の結末になったね』
モデルXが誇らしげに語りかける。
『フン、国民栄誉賞か。まあ、俺たちの適合者に相応しい称号だな!』
モデルZも高らかに笑う。
「みんな……本当に、ありがとう」
雄真は仲間たちを見返し、ゆっくりと拳を握りしめた。
十六夜美奈子の怨念を打ち砕いた右拳。それは今、誰かを傷つけるためのものではなく、この温かな平和と仲間たちを未来へ繋ぐための「誇り」となっていた。
過去の因縁を越え、狂気の陰謀を打ち破り、自分たちの手で掴み取った輝かしい明日。
傷だらけの英雄たちの胸には、賞の栄誉以上に温かく尊い「希望」が、どこまでも眩しく輝き続けていたのだった——。
(完)