ロックマンゼクス&はぴねす!〜バディ・コネクション!!〜 作:騎士誠一郎
瑞穂坂の街に、二度の嵐が吹き荒れた。
一度目は広場を崩壊させた巨鳥の化け物と、それを打ち砕いた「青いヒーロー」。
そして二度目は、市街地に突如として現れた鋼鉄の怪蛇と、それを一閃の下に切り裂いた「紅いヒーロー」。
二度にわたる未曽有の危機と、それを救った正体不明の存在たちの登場に、瑞穂坂の街はかつてないほどの熱狂と混乱の渦の中にあった。テレビのニュース番組は連日この話題をトップニュースで報じ、SNSには市民が撮影した荒い動画や写真が溢れかえっている。魔法省や警察当局が「未確認の超高出力デバイス」についての調査を進める一方で、街の人々の関心はもっぱらその「ヒーローたちの正体」へと向いていた。
——私立瑞穂坂学園の近くにある、落ち着いた雰囲気の喫茶店「カフェ・ド・ブラン」。
カランコロン、とドアに取り付けられた真鍮のベルが涼やかな音を鳴らす。
「いらっしゃいませー! 空いているお席へどうぞ!」
テキパキとした明るい声を響かせているのは、私服の上に黒いエプロンを身にまとった柊杏里だった。
学園を卒業し、それぞれの道を歩み始めた仲間たち同様、杏里もまた学園生活の合間を縫ってこの喫茶店でアルバイトに励んでいた。勝気で面倒見のよい性格はバイト先でも発揮されており、マスターや常連客からの信頼も厚い。
トレーを手にテーブルの間を巡りながら、杏里はふと客たちの会話に耳を傾けた。
「ねえ、昨日のニュース見た? あの赤いやつ!」
「見た見た! 青いヒーローだけじゃなくて、今度は赤いヒーローまで出たんでしょ!?」
「光る剣で、あのドデカい蛇の化け物を真っ二つにしたんだって! めっちゃカッコよくない!?」
「でもさ、青いヒーローと同一人物なのかな? それとも別のチームなのかな?」
店内はどこを見渡しても、昨日の「紅いヒーロー」の噂話でもちきりだった。
「はぁ……どこもかしこも、あの話ばっかり」
杏里はトレーを胸に抱え、小さく息を吐いた。
(でも……無理もないわよね。あたしたちの『魔法』がまったく効かなかったあの気味の悪い化け物を、あっさりと撃破しちゃうんだから……)
杏里の脳裏に、昨日の「割烹あきは」での打ち上げの光景が蘇る。
雄真と春姫。無事を喜び合い、いつも通りの笑顔を見せていた二人。だが、杏里の胸の奥には、拭い去れない小さな違和感が刺さっていた。
(雄真も春姫も『全然見えなかった』って言ってたけど……本当にかしら? あの二人の空気、どこか何かを隠してるような……ううん、あたしの考えすぎかしら)
「柊さーん、3番テーブルのお会計お願いねー」
「あ、はい! ただいま伺います!」
マスターの声にハッと我に返り、杏里は表情を作ってレジへと向かった。
しかし、噂話の渦の中に身を置けば置くほど、胸の中のざわつきは大きくなっていくばかりだった。
夕方、アルバイトのシフトを終えた杏里は、エプロンを外して店の裏口から外へ出た。
オレンジ色に染まり始めた夕空を見上げる。瑞穂坂の街並みは一見すると平和そのものだが、昨日の戦いで崩落した建物の周辺には工事用のシートが被せられ、魔法警察の捜査官たちが物々しい雰囲気で立ち立ち立ち代わっていた。
「……ハァ」
溜息をつきながら歩き出すと、前方から見慣れたシルエットが歩いてくるのが見えた。
「あら、杏里。バイト終わり?」
声をかけてきたのは、渡良瀬準だった。
私服姿の準は、相変わらず街行く誰もが振り返るほどの美貌を漂わせている。だが、その瞳にはどこか観察者としての鋭い光が宿っていた。
「準……ええ、ちょうど今終わったところよ。準も大学の帰り?」
「うん。ちょっと買い出しのついでにね。……それにしても、街中すごい噂だね。『紅いヒーロー』の」
準は周囲の通行人たちが掲げるスマホの画面を横目に、苦笑いを浮かべた。
「ええ……バイト先でもその話ばっかり。魔法警察のメンツも丸潰れね。あたしたちが瑞穂坂で習ってきた魔法の常識が、根底から覆されちゃったみたいで……なんだか落ち着かないわ」
「ふふ、杏里らしいね。でも……落ち着かない理由は、それだけじゃないんじゃない?」
準の言葉に、杏里はピクリと足を止めた。
「どういう意味よ、準」
「昨日、あきはで雄真たちと話した時のこと。覚える?」
準は立ち止まり、夕日を背にして杏里を見つめた。
「雄真と春姫ちゃん……二人の演技、上手だったけど、ちょっと出来すぎてたと思わない? 現場の真ん中にいて、あんな目立つ光と爆発があったのに『何も見てない』『覚えてない』なんて」
「……準も、そう思ってたの?」
杏里の瞳に緊張が走る。自分の胸の中にあった違和感を、準もまた同じように感じ取っていたのだ。
「あの二人は優しいからね。もし自分たちが何かに巻き込まれているとしたら、あたしたちを心配させないために……絶対に隠そうとするはずだわ」
「あいつら……っ! あたしたちを仲間だって思ってないわけ!?」
杏里はカッと頬を染め、拳を握りしめた。
「そうじゃないよ、杏里。仲間だからこそ、守りたいからこそ隠すんだ。……でも、あたしたちだって黙って守られてるだけの存在じゃない。そうでしょ?」
準の言葉に、杏里はハッと息をのんだ。
瑞穂坂学園時代、数々のトラブルを仲間全員で乗り越えてきた。雄真一人に重荷を背負わせるわけにはいかない。
「……そうね。あいつらが何を抱え込んでいるのか、今度会った時に問い詰めてやるわ!」
そう強がる杏里だったが、その足元……路地裏の影に、不気味な「熱」が忍び寄っていることに、まだ誰も気づいていなかった。
瑞穂坂の喧騒から遥か離れた、セルパンカンパニー本社・最上階。
プレジデントルームの冷徹な空気の中で、ホログラムのモニターが赤く明滅していた。そこに映し出されているのは、昨日ギガアスピスを爆破・粉砕した「ロックマンZX」の戦闘データである。
「……ほう。『ダブル・ロックオン』か」
重厚な革張りの椅子に腰かけたセルパン社長が、薄い笑みを浮かべた。
「モデルXとモデルZの融合。単体でも厄介なライブメタルが二つ重なり合うことで、これほどの出力を叩き出すとはな。……イザナミよ、ギガアスピスの損失は惜しくないのか?」
部屋の壁際に佇む謎の女性秘書・イザナミは、漆黒のドレスを揺らしながら、静かに首を振った。
「くすくす……滅そうもございません、セルパン様。ギガアスピスは最初から、彼らの『限界値』を測定するための捨て石に過ぎません。モデルXのみならず、モデルZまでもが同じ適合者に与した……このデータこそが、我が社にとって最高の収穫ですわ」
イザナミの瞳に、妖しい紫の光が宿る。
「彼が真の『適合者』として覚醒すればするほど、ライブメタルに蓄積されたエネルギーと歴史のデータは極限まで高まります。……それを最後に丸ごと刈り取ればよいのです」
「ククク、違いない。だが……少し刺激が足りんな」
セルパンは立ち上がり、手元の操作パネルに手をかざした。
「青と赤のヒーロー気取りに、真の恐怖というものを教えてやらねばならん。……おい、出番だぞ。フランマール」
セルパンの声に応じるように、部屋の影からズシン……ズシンと、地響きのような重い足音が響いた。
闇の中から現れたのは、巨大な火炎放射器と溶岩を思わせる灼熱の装甲を纏ったフォルスロイド——**フランマール・ザ・モルロイド**であった。
『……呼びましたか、セルパン様』
重苦しい合成音が部屋に響く。全身から発せられる熱気によって、部屋の空気そのものが歪んで見えた。
「瑞穂坂へ向かえ、フランマール。モデルXとモデルZを持つ適合者を炙り出せ。……手段は問わん。街ごと焼き尽くしても構わんぞ」
『ハハハハハ! 願ってもない命令や! あの小生意気なライブメタルの適合者どもを、俺様の灼熱の炎で黒焦げの灰に変えてやったるで!』
フランマールは巨大な両腕のバーナーを打ち鳴らし、狂暴な高笑いを上げた。
「イザナミ、奴のバックアップを怠るな」
「御意に……セルパン様。瑞穂坂の街に、最高に美しく惨烈な『業火の宴』をお届けいたしましょう」
イザナミの冷徹な笑みとともに、新たな刺客が瑞穂坂の街へと解き放たれようとしていた。
夜の帳が降りた瑞穂坂。
アルバイトを終えた杏里は、準と別れ、一人で自宅への夜道を歩いていた。
街灯が照らすアスファルトを見つめながら、昼間の準との会話を反芻する。
(雄真……春姫……。あんたら、一体何と戦おうとしてるの?)
胸の中に広がるのは、もどかしさと少しの恐怖だった。
魔法が効かない怪物たち。そして、それを倒す謎のヒーロー。もし、その渦中に雄真たちがいるのだとしたら、自分には何ができるのだろうか。
その時だった。
不意に、夜の冷たい風が止んだ。
「……え?」
杏里は足を止めた。
季節は春。夜風は肌寒いはずだった。しかし、周囲の空気が急激に、異常なまでの「熱気」を帯び始めている。
じわじわと皮膚を焼くような不快な暑さ。街角の植え込みの葉が、乾燥してカサカサと音を立て、焦げた匂いが漂い始める。
「な……なにこれ……? 急に暑く……!?」
杏里が周囲を見回した瞬間——
ドゴォォォォンッ!!!!!
通りから一本外れた倉庫街の方向から、空を突くような巨大な「火柱」が立ち上った!
夜空が真っ赤に染まり、激しい爆風と熱波が杏里の髪を吹き荒らす!
「きゃあぁぁぁっ!?」
「ハハハハハ! 燃えろ! 燃えろぉぉぉっ! 適合者『小日向雄真』! 出てこなければ、この街を隅々まで灰にしてやるでええぇッ!」
炎の奥から響き渡る、地獄の 底から湧き出たような狂暴な叫び声。
「な……何なのよ、あの化け物は……!? 雄真の名前を呼んでる……!?」
杏里は目を見開き、恐怖に身体を震わせながらも、炎の渦巻く現場へと視線を向けた。
新たな絶望の炎が、瑞穂坂の街を飲み込もうとしていた——!
夜空を赤黒く染め上げる惨劇の火柱。
倉庫街の建物を包み込む業火は、周囲のアスファルトすらドロドロに溶かし、吹き荒れる熱波が深夜の瑞穂坂を灼熱の地獄へと変えつつあった。
「ハハハハハハ! どないした! 姿を現さなければ、この区画ごと人間どもを黒焦げの炭にしてやるでええぇっ!」
炎の渦の中央で、巨大な火炎放射器を打ち鳴らすフランマール・ザ・モルロイドが狂乱の高笑いを上げる。
燃え盛る木材や鉄骨が瓦礫となって崩れ落ち、逃げ惑う人々の悲鳴が途絶えていく。
「ひ……う、あ……っ……!」
その極限の熱流の直前、崩れかけたコンクリート壁の陰で、杏里は激しい腰の抜けた感覚と全身を襲う激痛に身を縮めていた。
炎から逃れようと走り出した矢先、爆風で飛んできた熱鉄管が足をかすめ、激痛で動けなくなってしまったのだ。
迫り来る炎の壁。酸素が焼かれ、呼吸すらままならない。
「嫌……誰か……助けて……っ!」
死の恐怖が、勝ち気な彼女の心を挫く。
涙が目元に浮かんだその瞬間、頭上から灼熱の鉄骨が崩れ落ちてきた。
「危ないっ!!」
旋風のような声とともに、赤の疾風が乱入した。
ドカァァァンッ!!
鮮烈な真輝を放つエネルギーの刃——ゼクスセイバーが一閃され、頭上から降り注ぐ何トンもの鉄骨が瞬時に両断され、左右へと弾き飛ばされた。
「……え……?」
杏里が薄く目を開くと、目の前に背中を向けた人物が立っていた。
洗練された赤い装甲、背中にたなびく黄金の光。
昨日、街を大騒ぎさせたあの「紅きヒーロー」——ロックマンZXだった。
「杏里! 大丈夫か!?」
「な……なんで、あたしの名前を……っ!?」
バイザーの奥から響いたのは、聞き慣れすぎた、どこか情けなくも温かい青年の声だった。
「雄……真……!? 嘘でしょ、雄真なの……!?」
杏里は絶句した。
噂のヒーロー、魔法を凌駕する存在。その正体が、自分たちが「無力で大雑把だ」と笑っていた、あの小日向雄真だったのだから。
「話は後だ! 杏里、俺の後ろから離れるな!」
雄真は即座にゼクスセイバーをゼクスバスターモードに変形させてから構え、迫り来る炎の弾丸を連続ショットで相殺した。
『ケヒヒヒッ! 現れたもんやな、モデルXとモデルZを宿した生ぬるい適合者め!』
フランマールが小柄で重厚な体を揺らし、両腕のバーナーの出力を最大へと引き上げた。
『余計な雑草ごと、消し飛ぶがいいで! 熱いでッ、ギガ・ヴァルカンッ!!』
超高熱の溶岩弾が、放射状に連射される。一弾一弾が小さめの爆弾ほどの威力を秘め、周囲の空間を破壊し尽くす。
「くっ……! 『シールド・ブーメラン』!」
雄真は円形シールドを展開させ、杏里を庇うように前面へかざした。
激しい火花と炸裂音が響き渡り、雄真の装甲に過負荷の警告アラートが鳴り響く。
(くそっ……! 攻撃を防ぎ切ることはできる……! だけど、杏里を背負ったままじゃ、こちらから踏み込んでセイバーを叩き込む隙が作れない……!)
「雄真……あたしのせいで……っ!」
杏里が悔しさに唇を噛み締める。
自分の足が動かないばかりに、雄真は反撃の機会を奪われ、防戦一方に追い込まれている。自分の無力さが、雄真を追い詰めているのだ。
『ハハハハハ! どうした! 護りながらでは自慢の機動性も無駄だな! そのまま二人まとめて灰になれぇぇぇっ!』
フランマールの両胸の装甲が開かれ、超高熱の超巨大火炎放射が放たれた。地表を焼き尽くす圧倒的な炎の波が、二人を飲み込もうと迫る!
「させるかぁぁぁぁっ!」
雄真は歯を食いしばり、シールド出力を全開にした。だが、後ろの杏里へ熱気を逃がさないため、その足元はジリジリと後退を余儀なくされていた。
絶体絶命の、その瞬間。
「——そこまでよっ!!」
澄み渡る声が、爆音を切り裂いて夜空に響き渡った。
ドォォォォォンッ!!
上空から猛烈な「暴風」が吹き荒れた。
旋風の刃が炎の波を左右へと力任せに切り裂き、広場に渦巻いていた灼熱の熱気を一瞬で吹き飛ばしたのだ。
「な……なんやと!?」
フランマールが驚愕して天を見上げる。
炎と煙の合間から降り立ったのは、翠緑(エメラルドグリーン)と白の気品ある装甲を纏い、背中のスラスターユニットから巨大な光の翼を羽ばたかせる新たな存在だった。
その両手には、可憐な薄紅の光を放つ二本の剣——『ダブルセイバー』が握られている。
「モデル……H……!?」
雄真の手の中で、モデルXが感嘆の声を漏らした。
「遅くなってごめんね、雄真くん!」
その緑のロックマンが振り向いた。
クリアグリーンのバイザー越しに見えたのは、亜麻色の髪をなびかせ、凛とした笑みを浮かべる女性——神坂春姫の姿だった。
「は……春姫ぃーーっ!?」
雄真のみならず、後ろで蹲っていた杏里の目が、これ以上ないほど見開かれた。
「嘘……春姫まで……!? なにそれ、どうなってるのよぉぉぉっ!?」
混乱の極みに達する杏里をよそに、春姫——ロックマン・モデルHは、優雅にダブルセイバーを構えてフランマールと正対した。
「杏里ちゃん、待たせてごめんね。あたしたちの秘密……驚かせちゃったかな」
「驚くどころじゃないわよ! あんたたち、いつの間にそんな変身ヒーローみたいな力手に入れてたのよ!?」
「ふふ、後できちんと説明するから!……雄真くん、あの化け物はわたしが倒す! 杏里ちゃんをお願い!」
「春姫! 無茶だ、あいつの火力は……!」
雄真の制止を遮るように、春姫の脳内にモデルHの優美な声が響いた。
(春姫。オレの特殊機能『エネミー・アナライジング』を起動しろ。敵の構造、エネルギー流動……すべてを解析できるはずだ!)
(うん……お願い、モデルH!)
春姫のバイザーに、高度なデータ描画が瞬時に展開された。
フランマールの全身を走る熱エネルギーのバイパス、装甲の密度、可動部の負荷状態が、色鮮やかなターゲットサイトとして視界へ投影されていく。
「解析完了……! 見えた!」
春姫の瞳に、絶対の自信が宿る。
「あの化け物の背中……高熱エネルギーを循環させている冷却コアがある! そこが貴方の唯一の弱点よ!」
『知ったような口を叩くなや、こんの青小娘がぁぁぁっ!』
フランマールが怒狂い、両腕のバーナーから無数の火炎弾を撒き散らした。
「遅いっ!」
モデルHの背中のスラスターが閃光を放った。
「風のロックマン」たる機動力が爆発する。春姫の身体は重力を無視したかのように空中を滑空し、残像を残しながら火炎弾の隙間を軽やかに疾走していった。
「すごい……あんなスピード……魔法の飛翔術でもあり得ない……!」
杏里は息をのんで、空を舞う春姫の姿を見つめた。
「風よ……切り裂け!」
空中から急降下した春姫は、二本のダブルセイバーを交差させ、舞うような連続剣撃を放った。
シナジー・スラッシュ!!
サクッ! サクサクッ!!
薄紅の光の刃がフランマールの体を切り刻む。
アンチマジック装甲すら切り裂く最高度の高周波エネルギー刃が、フランマールの腕部銃座を瞬時に切断し、地面へと転がした。
『グガァァァァッ!? 俺様の装甲が……切り刻まれるやとぉぉっ!?』
「これで終わりよ! 雄真くん、合わせて!」
「了解っ!」
雄真は即座にゼクスバスターモードでチャージし、フランマールの足元へ強烈なチャージショットを叩き込んだ。
ドカンッと爆風が上がり、フランマールの体勢が大きく崩れる。弱点である背中の冷却コアが、無防備に空中へと曝露された。
「決めるわ……! プラズマ・サイクロン!!」
春姫が二本のセイバーを旋風のごとく回転させ、空中から一直線に突撃した。
双刃から放たれる巨大な竜巻が、フランマールの背中を貫く!
ズドォォォォォォォンッ!!!!!
『セルパン様ぁぁぁぁぁっ! ライブメタル……モデルHまでもが……グアァァァァァッ!! ゴメンちゃいっ!!』
背中の冷却コアが穿たれたフランマールは、体内の高熱エネルギーが逆流し、内側から大爆発を起こした。
巨大な火柱とともに、その機体は完全に破砕され、夜空に消え去っていった。
静寂が、焼け野原となった倉庫街に戻ってきた。
春姫が着地すると、全身を包んでいた緑の装甲が光の粒子となって消え、元の私服姿に戻った。雄真もまた、ダブル・ロックオンを解除し、肩で息をつきながら駆け寄ってくる。
「春姫! 無茶しやがって……でも、助かったよ!」
「ふふ、言ったでしょ? あたしは雄真くんのパートナーなんだから」
微笑み合う二人。
しかし、その二人の背後から、引きつったような声が響いた。
「ちょっと……二人とも……」
振り返ると、足を痛めた杏里が、両手を地面についたまま二人を激しく見つめていた。
「説明……しなさいよ。……一体全体、何がどうなってるのよぉぉぉぉっ!?」
「あ、あはは……」
苦笑いするしかない雄真と春姫。
雄真は杏里の前にかがみ込み、優しく手を差し伸べた。そして、ポケットから青いモデルX、赤のモデルZを取り出し、春姫もまた手の中の緑のモデルHを見せた。
「驚かせてごめん、杏里。……僕たちは、この『ライブメタル』っていう未来の力を使って、街を襲う化け物と戦ってたんだ」
「ライブメタル……? 魔法じゃ、ないの……?」
「ええ。世界の外側……別のテクノロジーから来た存在よ。警察や魔法省に言ったら大騒ぎになっちゃうし、みんなを巻き込みたくなくて……隠してたの」
春姫が静かに頭を下げた。
杏里は二人と、その手の中で静かに光る三つの結晶を交互に見つめた。
怒り、戸惑い、恐怖……様々な感情が渦巻いた末に、杏里の口から漏れたのは、大きな、大きな溜息だった。
「……ハァぁぁぁぁ。バカじゃないの、あんたら」
「え?」
「仲間でしょ!? 水臭いわよ! こんな命がけの戦い、二人だけで抱え込もうとするなんて……!」
杏里は目元に溜まった涙を乱暴に拭うと、雄真の手を払いのけるようにして、自力で立ち上がろうとした。
「痛っ……」
「無理するなよ、杏里」
雄真が慌てて肩を貸す。杏里は顔を真っ赤にしながらも、素直に雄真の肩に捕まった。
「……助けてくれて、ありがとう、雄真、春姫。あたし、何も知らなくて……二人を疑ったりして、ごめん」
「いいのよ、杏里ちゃん。……これからは、隠し事なしね」
春姫が柔らかく微笑み、杏里の反対側の手を握った。
街を襲う脅威、魔法を超えた恐怖。しかし、それを乗り越えた先で、仲間たちの絆はより強く、固く結ばれようとしていた。
その頃。
セルパンカンパニー本社の最上階。
暗闇に包まれたプレジデントルームで、セルパン社長はグラスの酒を一口あおり、モニターに映し出された戦果を見つめていた。
「ククク……ハハハハハ!」
冷徹な高笑いが、静寂を破る。
「素晴らしい……実に素晴らしいぞ! モデルX、モデルZのみならず、モデルHまでもが適合者を獲得し、目覚めたか!」
モニターには、フランマールを撃破した春姫と雄真の姿が克明に記録されていた。
「セルパン様……想定以上の速度で、ライブメタルの回収準備が整いつつありますわね」
影から現れた女性秘書・イザナミが、妖艶な笑みを深める。
「ええ。ひとつの領域にこれほどのライブメタルが集うなど、千載一遇の好機」
「……イザナミよ、次の刺客の準備をしろ。奴らに息つく暇を与えるな」
セルパンの眼光が、冷酷な殺意とともに輝く。
「生ぬるい愛と絆でどこまで抗えるか……我がセルパンカンパニーの全力を以て、その魂ごと粉砕してやるわ!」
暗雲立ち込める瑞穂坂の空。
少女たちの絆が芽生えたその裏で、更なる絶望の刺客が、確実に街へと忍び寄っていた——。