ロックマンゼクス&はぴねす!〜バディ・コネクション!!〜 作:騎士誠一郎
瑞穂坂で起きた三度にわたる異次元級の襲撃事件は、ついに一地方都市の事件という枠組みを完全に突破していた。
事件発生から数日。大手報道機関は連日、未確認の特殊装甲を身に纏う二人の存在——「赤のヒーロー」と「風を纏う緑のヒーロー」を大々的に報じ続けていた。魔法省のみならず、日本政府や安全保障局までもが緊急事態条項の適用を検討し始め、現場周辺には連日、警察の特別捜査本部と政府の調査チームが派遣されるという、異常事態が続いていた。
魔法障壁を容易く無力化する謎の兵器、そしてそれを圧倒的な火力と機動性で砕く未知の超テクノロジー。国家規模の関心が集まるのも当然であった。
しかし、そんな世間の激震をよそに、私立瑞穂坂大学の工学部第3研究室では、いつもと変わらない静けさと論文のめくる音が漂っていた。
「……ふぅ。やっぱり、この『エーテル変換効率の補正計算』、モデルXの内部データを参考にすると一気に計算が繋がるね」
雄真は前髪をかき上げながら、ホログラムディスプレイに並ぶ膨大な数式を満足そうに眺めた。
「ちょっと雄真くん。研究に没頭するのはいいけれど、モデルXのデータをそのまま提出したら教授に目を付けられちゃうわよ?」
隣のデスクで、春姫がコーヒーカップを手に呆れたような、しかし愛おしそうな苦笑いを浮かべていた。
二人は大学進学後、表向きは「次世代魔法デバイスと物理エネルギーの統合研究」に打ち込んでいる。昨夜の激闘、そして杏里に正体が知れたあの日から、二人はより一層、日常の「研究者」としての仮面を強固に保つよう心掛けていなかった。
「分かってるって、春姫。ちゃんと既存の魔法理論の構文に書き直してカモフラージュしてるよ。……でもさ、モデルXやモデルHのシステムを知れば知るほど、この力がいかに完成されたものかが分かるんだ。魔法の未来を切り拓くヒントが、ここに全部詰まってる」
雄真はジャケットのポケットの温もりにそっと触れた。
「……ええ。でも、その力が大きすぎるからこそ、絶対に悪用させるわけにはいかないわね」
春姫もまた、自らの鞄に忍ばせた緑の結晶——モデルHの存在を感じ取り、表情を引き締めた。
二人は誓い合っていた。国家や研究機関の監視の目が強まろうとも、この「ライブメタル」の力を政治や兵器開発の道具にさせるわけにはいかない。自分たちの手で世界を守り、そしていつか、この力を平和な未来のための「科学と魔法の架け橋」にしてみせるのだと。
午後、大学の講義を終えた雄真と春姫は、リフレッシュを兼ねて瑞穂坂の駅前商店街へと足を運んでいた。
事件の痕跡は徐々に修復されつつあるものの、街にはどこか落ち着かない空気が漂っている。特に若者や学生たちの間では、SNS上で「ヒーロー目撃情報」のアカウントが爆発的なフォロワー数を叩き出していた。
「ねえ雄真くん、あそこのカフェの新作スイーツ、気になってたのよね。食べていかない?」
「いいね、春姫。研究で頭使ったから、甘いものが——」
雄真が足を進めようとした、その時だった。
「あ! すみませーん! ちょっとお時間よろしいですかー!?」
背後から派手なマイクを持った女性アナウンサーと、大型カメラを抱えた撮影クルーが猛スピードで距離を詰めてきた。
「うわっ!?」
「全国ニュース『イブニング・ナウ』です! 今、世間を騒がせている『瑞穂坂の謎のヒーローたち』について、地元の大学生にお話を伺っているのですが!」
マイクがズイッと雄真の口元へ突きつけられた。レンズの赤いランプが眩しく点滅している。
「え、あ、はい……ニュースですか?」
雄真は引きつった笑みを浮かべ、反射的に春姫の前に一歩出た。
「昨日の夜、倉庫街で『緑のヒーロー』が目撃され、炎の化け物を撃破したという映像がネット上で1000万回再生を超えているんです! お二人は、あのヒーローたちの正体についてどう思われますか!? 一説には、この瑞穂坂大学の極秘プロジェクトで作られた人造人間だという噂もありますが!」
「じ、人造人間!? いやいやいや! そんなわけないじゃないですか! 映画の観すぎですよ!」
雄真は大慌てで手を横に振った。
「そうですよー! わたしたちもニュースで見ただけですけど、きっとどこかの正義の魔法使いさんか、何かじゃないでしょうか……ねえ、雄真くん?」
春姫も完璧な「ただの女子大生」の笑みを張り付け、自然な動作でカメラの角度から少し身を引いた。
「なるほど! では、もしそのヒーローが目の前に現れたら、何と言いたいですか!?」
アナウンサーの熱血な追及に、雄真は苦笑いを深めつつ、ふと表情を柔らかくした。
「そうですね……『街を守ってくれてありがとう』、そして……『どうか無茶だけはしないでください』って、伝えたいですかね」
「おお……! 地元の学生さんらしい、温かいコメントをありがとうございます!」
クルーが次のターゲットを求めて去っていくと、雄真と春姫は一斉に「はぁぁぁぁ……」と深々と溜息をついた。
「冷や汗かいたわね……。あんな風に全国放送で問い詰められたら、心臓が持たないわ」
「本当だよ……。でも、世間の注目がここまで高まってると、ヘタに変身するのもリスクが高くなってきたな」
二人は顔を見合わせ、苦笑いを交わした。しかし、その瞳の奥には、忍び寄る国家と世間の「追跡」に対する警戒の色が強く刻まれていた。
同じ頃。瑞穂坂の賑やかなショッピングモールの一角にある、少し怪しげな雰囲気を漂わせた「アンティーク&中古ジュエリーショップ」の店内に、柊杏里の姿があった。
「うーん……やっぱり、こういうのは雰囲気に合わないかしら」
杏里はショーケースに並んだ指輪やネックレスを眺めながら、腕を組んでいた。
昨夜、雄真と春姫の「正体」を知り、二人を助けるために共に戦うと決めた杏里。しかし、自分はただの魔法使いに過ぎず、あの恐ろしいフォルスロイドたちに対してどこまで力になれるのか、という焦りと不安が胸の奥で渦巻いていた。
何か自分にも、二人をサポートするための「触媒」や「特殊な魔法具」が手に入らないか。そんな思いで、街の中古アクセサリー店を片っ端から巡っていたのだ。
「いらっしゃい、お嬢さん。何かお探しかな?」
店の奥から、眼鏡をかけた初老の店主が出てきた。
「あ、いえ……ちょっと珍しい金属とか、変わったデザインのアクセサリーがないかなと思って」
「珍しいもの、ねぇ……。それなら、ちょうど今朝、ガラクタの山から買い取ったばかりの『掘り出し物』があるんだがね」
店主はカウンターの奥から、埃を被った小さなベルベットの箱を取り出した。
「これだよ。魔法具の鑑定士に見せても『魔力反応がゼロのただのゴミ』って言われてね。買い取り価格もタダ同然だったんだが……どうにも捨てがたい存在感があってね」
パカッと箱が開けられた。
そこに鎮座していたのは——
赤と橙色を基調とした、ずっしりと重厚な菱形の金属結晶だった。
幾重にも重なった重装甲を思わせる武骨なフォルム。中央の顔の装飾は、まるで燃え盛るマグマの底のように、深く、熱く、不気味に蠢いていた。
「これ……っ!?」
杏里の息が止まった。
触れてもいないのに、肌を刺すような「熱気」が指先から全身へと伝わってくる。
昨日、雄真が見せてくれた「モデルX」や、春姫の「モデルH」と同質の——いや、それら以上に「荒々しく、破壊的な意思」を宿したあの気配。
(これ……ライブメタル……!? なんで、こんな中古ショップに……!?)
「お気に召したかな? 魔力は通らんが、ずっしりとしていてペーパーウェイトくらいにはなる。そうだな、三千円でどうだ?」
「買います!!」
杏里は店主の言葉が終わるのも待たずに、財布から野口英世を三枚叩きつけた。
「お、おいおい、そんなに急がなくても……」
「いいから! お釣りはいりません!」
杏里は赤き結晶——ライブメタルをひっつかむと、弾かれたように店を飛び出した。
誰もいない路地裏へ駆け込み、杏里は荒い息を吐きながら、手の中の赤い結晶を見つめた。
手に伝わるのは、圧倒的な「暴力の予感」。
冷たい金属のはずなのに、掌が焼け焦げそうなほどの熱量を放っている。
「これ……本当にライブメタルなの……? でも、雄真たちのみたく、優しくて綺麗な感じがしない……!」
杏里が息をのんだ、その時。
結晶の中央のレンズが、血のように赤くギラリと光った。
『——ぬおぉぉぉぉぉぉッ!!』
脳内を直接叩き割るような、野太く、荒々しい男の叫び声が響き渡った!
「きゃあッ!?」
『何だお前はッ! 俺をこのような安っぽい箱に閉じ込めやがって! モデルZたちはどこにいるッ!!』
暴風のような威圧感。
雄真のモデルXの静謐さ、春姫のモデルHの気品とは正反対の、戦いと破壊を狂おしいほどに求める魂。
(な……なにこのライブメタル!? 凄まじい口の悪さと破壊衝動……!)
「た、たた、立ち止めなさいよ! あたしはあんたを買い取った『持ち主』よ!」
杏里は持ち前の勝気さを振り絞り、赤い結晶に向かって怒鳴り返した。
『持ち主だとぉッ!? 戯けが! 俺は『モデルF』! お前のような細腕の小娘に、この俺の爆炎を御せるはずがねぇーだろうッ!』
「何ですってぇぇぇっ!? 小娘とは失礼ね! あたしは瑞穂坂学園を優秀な成績で卒業した、柊杏里よ! 舐めないでよね!」
『ハッ! 口だけは威勢が良いな! だが戦場は口舌の場じゃないぜ! ……ほう?』
モデルFのレンズが、杏里の瞳の奥を鋭く見つめた。
『お前のその目……仲間を守れず、己の無力に煮やされていた『悔しさと渇き』があるな。くくく……良い目だ! 単なる温室の咲き損ないではないらしいな!』
「な……っ!?」
『気に入ったぞ、小娘! 俺の力は『ナックルバスター』! 立ちふさがる全ての障壁を、圧倒的な火力で粉砕する拳だ! 俺を使いこなしたくば、その魂を燃やし尽くしてみせよッ!』
モデルFが激しく発光し、杏里の右腕へと吸い込まれるように光の粒子となって消えた。
右腕の皮膚の上に、炎を模した赤き紋章が浮かび上がる。
「あ……熱い……! でも……これなら……!」
杏里は自らの右拳を強く握り締めた。
雄真と春姫。二人の背中を追いかけるだけだった自分が、ついに手に入れた「戦うための翼」——炎のライブメタル・モデルF。
運命のギアが、また一つ、けたたましい音を立てて噛み合ったのだった。
その頃。
セルパンカンパニー本社・最上階。
ガラス窓から見下ろす夜景の中で、セルパン社長は不敵な笑みを浮かべながら、手元の通信用デバイスを操作していた。
「……そうか。モデルFが、あの街の別の人間に拾われたか」
「ええ、セルパン様」
影から現れたイザナミが、妖しく微笑んだ。
「モデルFはかつて『闘将』と呼ばれた猛き精神の塊。扱いを誤れば、適合者そのものを内側から焼き尽くす諸刃の剣……ですが、モデルX、モデルZ、モデルH、そしてモデルF。これほどのライブメタルが一堂に会するなど、まさに神の戯れ」
「ククク……面白い。適合者同士が傷つけ合い、ライブメタルのエネルギーが極限まで高まったその瞬間を刈り取るのが楽しみだな」
セルパンは立ち上がり、巨大なホログラム画面に新たなフォルスロイドのデータを呼び出した。
「イザナミよ。次の刺客を放て。……今度は、生ぬるい市街地戦ではない。あの街の『象徴』を焼き払い、奴らの絶望の悲鳴を響かせてやるのだ」
「御意に……」
イザナミの冷酷な呟きが、闇の中に溶けていく。
政府の監視、世間の熱狂、そして新たに覚醒した「炎の少女」。
次なる大嵐が、瑞穂坂の街を飲み込もうと、すぐそこまで迫っていた——。
瑞穂坂の街を包んでいた初夏の温かな風が、突如として死の冷気へと塗り替えられた。
空は不気味な鉛色に染まり、正午過ぎだというのに街全体が暗闇に呑み込まれていく。気温は急降下し、ショウウィンドウのガラスにはバリバリと白い氷の結晶が這い上がり、街路樹は一瞬にして凍りついて沈黙した。
「な、何だこの寒さは……!? 5月だぞ!?」
「見て! 道路が凍っていく……きゃあぁぁぁっ!?」
悲鳴が街に響き渡る。
市街地の主要交差点の中央。空間が歪み、空間そのものを凝固させるような圧倒的な冷凍エネルギーとともに、巨大な影が降り立った。
——**バイフロスト・ザ・クロコロイド**。
巨大なワニを思わせる超重量級のフォルスロイドだ。硬質化された濃紺の極寒装甲を纏い、巨大な顎にはあらゆる物質を噛み砕く氷の牙が並んでいる。そしてその体内には、セルパンカンパニーの最先端冷力技術の結晶である広域冷凍兵器『ギガフリーズ』が組み込まれていた。
『 ぬるい世界のぬるい生命体よ! 我が冷気で絶望の氷像となり、セルパン様のコレクションに加わるがいい!』
バイフロストが巨大な顎を開くと、胸部の絶対零度炉が不気味な青白い光を放った。
『喰らうがいい! 広域冷凍……**ギガフリーズ**ッ!!』
ズドォォォォォンッ!!
絶対零度の冷気波が、放射状に全方位へと爆発的に解き放たれた。
触れたアスファルトが白く破砕し、逃げ遅れた自動車や街灯が一瞬で凍結・砕裂していく。瑞穂坂の街は、文字通り「死の世界」へと変貌しようとしていた。
「みんな、下がって! 早く避難して!」
混乱の渦中へと飛び込んできたのは、赤い装甲を纏った雄真——ロックマンZXと、緑の翼を広げた春姫——ロックマン・モデルHだった。
「ひどい……一瞬で街が凍りついていく……!」
春姫が青ざめた顔で周囲を見渡す。
『お出ましだな、モデルXにモデルHの適合者ども! 待っていたぞ!』
バイフロストが巨大な尾を叩きつけ、氷床を激しく砕いた。
「これ以上、好きにはさせない! はぁぁぁぁっ!」
雄真が地面を蹴り、ゼクスセイバーを閃かせてバイフロストの首元へと飛びかかった。
キンッ!!!!!
だが、鋭い金属音が響くだけで、セイバーの光刃はバイフロストの極寒装甲の表面で弾かれた。
「何……っ!? セイバーが通らない……!?」
「ククク! 無駄だ! 我が極寒装甲はエネルギー分子すらも運動を停止させる! 生半可な斬撃など痛くも痒くもないわ!」
『ギガ・バイトッ!』
バイフロストの巨大な顎が迫る! 雄真は寸前でバスターモードに変形させ、至近距離からフルチャージショットを叩き込んだ。
バキィィィンッ!
しかし、青い光の弾丸も氷の装甲に触れた瞬間に急速に威力を減衰させられ、表面を薄く削るにとどまった。
「くっ……固すぎる……! モデルX、バスターの出力が上がらないぞ!」
「雄真、気をつけてください! 相手の放射する絶対零度の冷気が、私たちのエネルギー伝達系を直接冷却して阻害しています!」
「あたしが隙を作るわ! 風よ、旋風となれ!」
春姫が上空へ飛翔し、ダブルセイバーから放つ雷撃の混ざった旋風波を解き放った。
しかし——
バリバリバリッ……フッ。
春姫の放った雷の刃は、バイフロストが纏う極冷気のバリアに接触した途端、伝導率を強制的に遮断され、虚しく霧散したのだった。
「そんな……!? 雷撃が……届かない!?」
春姫が息をのむ。
「……くっ、不味いな。春姫のモデルHは『雷属性』の力を宿している。だが、相手の『氷属性』は雷のエネルギー伝達そのものを凍てつかせ、不活性化させてしまう相性だ……!」
雄真の脳内で、モデルZの警戒する声が響く。
『ハハハハハ! 察しが良いな! 雷は氷に勝てぬ! 属性の相性(ディスアドバンテージ)というものを教えてやるわ!』
バイフロストが全開の冷気を吹き荒らす。
『**クロコ・ダ・ホイール**ッ!!』
巨大な丸刃が無数に連射された。
属性の相性差と極冷気による出力低下により、雄真と春姫の動きは急激に鈍っていく。
「きゃあぁぁぁっ!?」
冷気の衝撃波を直接受けた春姫が、翼の光を失い、凍りついた路上へと力尽きて転がった。
「春姫っ!!」
雄真が駆け寄るが、バイフロストの巨大な脚が立ち塞がり、雄真を力任せに吹き飛ばした。
ズドォォォンッ!
「ぐわぁぁぁっ……!」
装甲の隙間から凍傷のような痛みが走り、雄真の変身が解けかける。
『これで終わりだ、弱き適合者ども! 二人まとめてカチコチの氷像にして、セルパン様への土産にしてやる!』
バイフロストが胸のギガフリーズを最大出力でチャージし始めた。
青白い死の光が、動けない二人を照らし出す。完全な詰み——属性の壁に阻まれた絶対のピンチだった。
「——誰がカチコチにするってぇぇぇぇッ!?」
爆音とともに、頭上から灼熱の「赤」が降り注いだ!
ドゴォォォォォォォンッ!!!!!
圧倒的な熱量を秘めた炎の渦が、バイフロストの放とうとしていた冷気波を正面から押し返し、周囲の氷床を一瞬で蒸発させた。激しい水蒸気が爆発的に噴き出す。
「な、何だぁぁぁっ!? この熱量は!?」
バイフロストが激しく咆哮し、後退した。
蒸気が風に吹き散らされる中、そこには深紅と橙色の重装甲を纏った新たなロックマンが仁王立ちしていた。
両腕には、武骨で巨大な重火器付きのナックル——『ナックルバスター』が装備されている。
「あ……杏里……!?」
地面に倒れていた雄真が、目を見開いた。
「ふん……遅くなって悪かったわね、雄真、春姫!」
バイザーの奥で、勝気な瞳をギラギラと燃え上がらせているのは、紛れもなく柊杏里だった。
『ぬおぉぉぉぉッ! 小娘、威勢だけは一人前だな! 俺の炎の力、存分に見せてやれッ!』
右腕のナックルから、武骨で荒々しいモデルFの歓声が響き渡る。
「ちょっと、モデルF! 勝手に仕切らないでよ! あたしのデビュー戦なんだから!」
「あ、杏里ちゃん……あなた、その姿……まさか、モデルFと適合したの!?」
春姫が驚愕の声を上げる。
「そういうこと! ふたりだけにカッコいい思いはさせないわよ! ……おい、化け物! あたしの友達を痛めつけてくれたお返し、倍にして払ってもらうわよ!」
『ケヒッ……何が出てきたかと思えば、火遊び好きの小娘か! 氷を相手に炎だと? 属性の優位に立ったつもりだろうが、ワシのギガフリーズの絶対零度はその程度の火種など一瞬で消し去るわ!』
バイフロストが再びギガフリーズを放射した。死の冷気が杏里へと襲いかかる!
「消せるもんなら、消してみなさいよぁぁぁっ!!」
杏里は逃げなかった。両腕のナックルバスターを前にかざし、内なる魂の熱量を全開にして引き金を引いた。
「**ナックルバスターッ!!**」
ドバァァァァンッ!!
放たれたのは、弾丸ではなく「圧縮された炎の塊」だった。
バイフロストの冷気と杏里の爆炎が正面から激突する。バリバリと空間が悲鳴を上げ、絶対零度の冷気が、杏里の放つ圧倒的な熱量に押され、みるみるうちに蒸発していく!
『バ、バカな!? 我が冷気が……押し戻されているだとぉぉぉっ!?』
「当然よ! あたしの炎はね……仲間を想う熱さで燃えてるのよッ!」
「春姫! 今よ!」
杏里が叫んだ。
「ええっ! モデルH……『エネミー・アナライジング』起動!」
春姫はモデルHの力を振り絞り、バイフロストの全身の構造データを即座にスキャンした。視界にターゲットサイトが高速で展開されていく。
(氷の装甲……内部の絶対零度炉……見えた!)
「杏里ちゃん! あの化け物の極寒装甲は全体が硬いけれど、胸のギガフリーズを射出する瞬間の『冷却ダクトの隙間』だけ、熱伝導の防御がゼロになるわ! そこが唯一の弱点よ!」
『フン! 見抜いたところで、我がギガフリーズの連射に割って入ることなど不可能!』
バイフロストが狂乱し、全身から氷の弾幕を撒き散らす。
「いいえ、可能よ! わたしと雄真がいればね!」
春姫が背中の翼を羽ばたかせ、風の旋風で氷の弾幕を左右へと逸らした。
「雄真くん、叩き込む隙を作るわよ!」
「了解だ! チャージ・セイバーッ!」
雄真がロックマンZXへと再び変身し、閃光のような踏み込みでバイフロストの足元を切り裂いた。巨体が大きく傾く!
「な……足元が……っ!?」
「杏里ちゃん! 今よっ!!」
春姫の叫びが響く!
「任せなさいッ! ……モデルF、一番大きいのを叩き込むわよ!」
『クハハハハ! 良いぞ小娘! 俺のマグマをすべて解き放てッ!』
杏里は地面に深く脚を踏みしめ、右腕のナックルバスターを大地へと突き立てた。
ナックル内部の炉心が限界を超えて赤熱化し、眩いマグマの光が装甲の隙間から漏れ出す。
「立ちふさがる全てのものを……打ち砕けぇぇぇぇっ!!」
「**グランドブレイクッッ!!!!**」
ズガガガガガガガガガッ!!!!!
大地が爆砕した。
地表を割って噴き出したのは、極熱のマグマと爆炎の柱だった。
地流を伝った激熱のエネルギー波が、バイフロストの足元から直撃し、胸部の冷却ダクトの隙間へと一直線に穿ち貫いた!
『グガァァァァァァァァッ!? 熱い……熱いぃぃぃぃぃっ!? 我が絶対零度炉が……溶けるぅぅぅぅぅっ!!』
バイフロストの体内で、冷気と超高熱のマグマが激しく中和・暴走を起こした。
「これで……決めるわぁぁぁっ!!」
杏里は空中へ跳躍し、左腕のナックルバスターから最大火力のチャージショットを、バイフロストの胸部へと直接叩き込んだ。
「メガトン・クラアアァァァッシュ!!」
ドカンッ!! チュドォォォォォォォンッ!!!!!
大爆発が瑞穂坂の空を赤く染め上げた。
バイフロストの巨体は氷の破片と炎の渦の中に粉砕され、二度と動き出すことはなかった。
黒煙が晴れ、静寂が戻る。
激しい熱気によって、街を覆っていた氷が一瞬で溶け去り、心地よい温かな風が吹き抜けていった。
「やった……やったわ、雄真、春姫!」
杏里は変身を解除し、ゼーゼーと肩で息をつきながら、ガッツポーズを作った。
「杏里……すごかったよ! 本当に助かった!」
雄真と春姫が駆け寄り、三人は互いに顔を見合わせて、心からの笑顔を弾けさせた。
青、緑、そして赤。三つの命と絆が重なり合い、瑞穂坂を護る新たな力がここに結実した瞬間だった。
数日後。東京・永田町の国会議事堂。
重苦しい空気の中、衆議院の特別安全保障委員会が開かれていた。
「——以上の映像が、先日瑞穂坂市で撮影された最新の戦闘記録です」
大型モニターに映し出されているのは、バイフロストを撃破した雄真、春姫、そして杏里の「3人のロックマン」の鮮明な映像だった。
「防衛省および魔法省の合同調査チームの報告によれば、彼らが使用している装甲および武器は、既存のいかなる魔法構文とも一致しません。また、一連の襲撃を引き起こしている『未知の機械生命体』に対し、自衛隊や警察の魔法部隊は一切の有効打を与えられていないのが現状です」
議員たちの間で、どよめきと怒号が巻き起こった。
「国家の警察権を無視して私闘を繰り返す存在など、容認できるか!」
「しかし、彼らがいなければ瑞穂坂はすでに二度壊滅していたのだぞ!?」
「問題はそのテクノロジーの正体だ! 国家主導で回収し、解析すべきではないか!?」
「彼らはヒーローなのか、それとも新たな脅威なのか……!?」
政府高官たちの議論は平行線をたどり、紛糾を極めていた。
国家という巨大なシステムが、謎のヒーローたちの存在を本格的に「脅威」あるいは「利権」として認識し始めた証であった。
そして同時刻。セルパンカンパニー本社・最上階。
「ククク……『モデルF』までもが芽吹いたか」
セルパン社長はグラスを傾け、冷徹な笑みを浮かべていた。
「モデルX、Z、H、そしてF。四つのライブメタルのエネルギーが順調に高まっている。……イザナミよ、適合者どもは自らが『世界を護る英雄』だと信じ切っているようだぞ」
影の中から、イザナミが妖しく微笑みながら歩み出た。
「ええ、セルパン様。希望が大きければ大きいほど、それが絶望へと裏返った時のエネルギーは極上となりますわ。……全てのライブメタルが揃うその時まで、彼らに束の間の『平和なごっこ遊び』を楽しんでいただきましょう」
「フハハハハ! 蠢く虫どもめ、躍らせてやるわ……我が手の平の上でな!」
悪意の冷笑が、高層ビルの闇の中に深く、不気味に響き渡っていた。
瑞穂坂の日常の裏で、国家の思惑とセルパンの巨大な陰謀が絡み合い、次なる未曽有の嵐へと向かって物語は加速していくのだった——。