ロックマンゼクス&はぴねす!〜バディ・コネクション!!〜   作:騎士誠一郎

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第5話 プロジェクト・ヘヴン・ネオの恐怖!

真夜中のセルパンカンパニー本社地下数百メートル。

地上にあるガラス張りの超高層ビルとは打って変わり、そこは外界のいかなる探知魔法も届かない、冷たい鋼鉄と巨大なサーバーの群れに囲まれた絶対の暗黒空間であった。

巨大なホログラムの球体が、青白く不気味な光を放ちながら回転している。

球体の内部に表示されているのは、瑞穂坂の完璧な三次元地図と、そこに点在する「魔力脈」、そして……散らばる四つの強烈なエネルギー反応——モデルX、モデルZ、モデルH、モデルFの位置情報であった。

「……見事なものだな、イザナミよ」

重厚な足音とともに、セルパン社長が暗闇の中から姿を現した。

その視線の先、制御コンソールの前には、漆黒のドレスを纏った秘書・イザナミが佇んでいる。彼女の細い指先がコンソールに触れるたび、幾重もの巨大なコードが書き換えられ、世界を再構築するかのような膨大なデータが吸い上げられていく。

「ふふ……セルパン様。これが、かつてこの世界と異なる領域で企てられた計画の進化系……『プロジェクト・ヘヴン・ネオ』の全貌の一部に過ぎませんわ」

イザナミが滑らかに振り向いた。その瞳には、光を一切反射しない深い闇と、冷酷な知性が揺らめいている。

「プロジェクト・ヘヴン・ネオ……。旧時代の『プロジェクト・ヘヴン』は、ライブメタルの力を以て人間とレプリロイドの肉体を融合・選別し、世界を再構築する試みであった。……だが、我が社が進める『ネオ』は違う」

セルパンは狂暴な笑みを浮かべ、巨大なホログラム地図を鋭い目で見据えた。

「この領域を満たす未知のエネルギー『魔法』……その根源たる概念構造そのものをライブメタルのデータと融合させ、全世界の生命の『精神回路』ごと我が支配下に置く! 魔法という不確定な混沌を廃し、真の絶対秩序をもたらす究極の再創生計画……!」

「ええ……。ですがセルパン様、そのためには『条件』が揃わねばなりません」

イザナミの声は静かだった。まるで、全てをあらかじめ知っている神の告告のように。

「四つのライブメタル——モデルX、Z、H、Fがそれぞれの適合者と固く同調し、極限の感情とエネルギーを放出すること。そして……瑞穂坂という土地に眠る『ある記憶』を完全に覚醒させること」

イザナミの口元に、どこか歪んだ、惨烈な冷笑が浮かんだ。

「瑞穂坂学園……。あの、平和で生ぬるい『魔法のゆりかご』。あそこに集う愚かな人間たちが紡ぐ親愛と絆……それらすべてが『プロジェクト・ヘヴン・ネオ』を完成させるための、極上の苗床となるのです」

「くくく……イザナミ。お前の計画には、私的な『怨恨』も混ざっているように聞こえるな?」

セルパンの問いかけに、イザナミは静かに目口を細めただけだった。

言葉には出さない。だが、彼女の胸の奥底には、瑞穂坂学園という存在そのものに対する「静かなる報復」の火が灯っていた。かつて学園が育んできた魔法の理、そして人を想う心——それら全てが偽りであることを証明し、自らの手で踏みにじること。

セルパンすらも自らの計画の「駒」として裏で巧みに操りながら、イザナミは闇の計画を更なる深淵へと押し進めていたのだった。

 

翌日。瑞穂坂学園のキャンパスは、心地よい初夏の風に包まれていた。

連続する奇妙な怪獣・怪人の襲撃事件により、警察や魔法省の警備は強化されていたものの、学生たちの日常は失われていなかった。中庭のベンチでは学生たちが談笑し、カフェテラスからは楽し気な笑い声が聞こえてくる。

その中庭の一角に、雄真、春姫、そして杏里の三人が集まっていた。

「——でね、モデルFのやつたら『戯けが! 俺の爆炎を御せるか!』とか言っちゃってさ! 買い取ったあたしに向かって上から目線で説教してくるのよ! 信じられる!?」

杏里がジュースのストローを咥えながら、大袈裟な身振り手振りでぷんぷんと怒ってみせた。

「あはは……でも杏里、昨日の戦いではモデルFと完璧に呼吸が合ってたじゃない。グランドブレイク、すっごくカッコよかったよ!」

春姫がフォローするように柔らかく微笑む。

「ふん! あたしがモデルFをねじ伏せたのよ! まあ……あいつの火力がないと、あのデカいワニは倒せなかったかもしれないけどさ……」

照れくさそうに顔を背ける杏里。その胸元では、洋服のポケットに潜ませたモデルFが『ぬおっ、素直にならんか杏里!』と念話を送ってきているのか、杏里がポケットの上からペシッと叩いていた。

それを見つめながら、雄真はそっと自分の胸に手を当てた。

(モデルX、モデルZ、モデルH……そしてモデルF。僕たち三人で四つのライブメタルの力を手に入れた。だけど……)

雄真の心には、晴れ切らない雲が広がっていた。

昨日のバイフロストとの戦い。相手は明らかに僕たち「ライブメタルの適合者」を狙って現れ、属性の相性まで計算し尽くして攻撃してきた。

「どうしたの、雄真? 難しい顔して」

春姫が覗き込んでくる。

「いや……僕たちの力が強くなればなるほど、相手もそれ以上の悪意をもって襲ってくるんじゃないかって思ってさ。……それに、あの『イザナミ』って奴やセルパンカンパニー。彼らの本当の目的は何なんだろう」

「考えすぎても始まらないわよ、雄真!」

杏里がポンッと雄真の背中を叩いた。

「敵が来たら、あたしたち三人でバチコーンと返り討ちにする! それだけでしょ! あたしたちは瑞穂坂の平和を護るチームなんだから!」

「……そうだな。ありがとな、杏里」

苦笑いしながらも、雄真は仲間たちの温かさに救われる思いだった。

しかし、その会話を、少し離れた廊下の影からじっと見つめている人物がいた。

 

私立瑞穂坂学園大学の高級感溢れる特別応接室。

そこに佇んでいたのは、高峰小雪であった。

老舗の和菓子メーカーおよび魔法具の権威たる高峰家の令嬢である彼女は、瑞穂坂学園全体においてもその佇まいと品格で一目置かれる存在だった。

小雪は静かに茶を点てながら、窓の外の中庭を見下ろしていた。

視線の先には、賑やかに笑い合う雄真、春姫、杏里の姿がある。

(雄真さん……春姫さん……そして杏里さん……)

小雪の瞳には、ほんの少しの寂しさと、隠しきれない懸念が宿っていた。

小雪の並外れた洞察力と、高峰家に代々伝わる繊細な「魔力感知能力」は、隠しきれない違和感を察知していた。昨日今日と、三人が纏う雰囲気が劇的に変わっていること。彼らの周囲の空間から、従来の魔法とは根本的に異なる、透き通るように強大な「何か」の波動が漏れ出していること。

「皆様……何かとても危険な、そして大きな宿命を背負い込まれているのですね……」

小雪はそっと溜息をついた。

自分がその輪に入り、力になりたい。けれど、理由を問い詰めて彼らに余計な心労をかけたくもない。そんな葛藤が、和の令嬢の胸を締め付けていた。

コンコン。

静かなノックの音が、応接室に響いた。

「失礼いたします、小雪様」

扉を開けて入ってきたのは、小雪の学友であり、高峰家とも古くから交流のある良家の令嬢——渡良瀬(わたらせ)グループに繋がる知人、名門の留学生・シスター風の淑やかな制服を着た少女であった。

「あら……ごきげんよう。どうされたのですか、そんなにお急ぎになって」

小雪がおっとりと微笑むと、その少女はどこか緊張した面持ちで部屋の鍵を閉め、小雪の目の前へと歩み寄ってきた。

「小雪様……誰にも見られていないでしょうね? 実は……あなたにどうしてもお渡ししなければならない『品』がございますの」

「お渡しするもの……? 私に、ですか?」

小雪が首をかしげると、少女は制服の懐から、重厚な絹の布に包まれた「小さな包み」を取り出した。

「我が家に代々伝わる宝物庫の奥深く……先日、旧校舎の地下遺構の調査を行った際に、父の発掘隊が発見したものですわ。どのような鑑定魔法をかけても反応せず、しかし……見る者を惹きつけてやまない、不思議な光を放つ品です」

少女はそっと絹の布を開いた。

そこに現れたのは——

深海のような、静謐で美しい蒼(アイスブルー)の光を放つ、菱形の金属結晶であった。

流線型の優美なフォルム。表面には水の波紋を思わせる繊細なラインが刻まれており、中央の透き通るレンズの奥では、まるで生きて息づいているかのように、冷たくも温かい「光の雫」が揺らめいていた。

「これは……ッ!?」

小雪の息が止まった。

その金属体を目にした瞬間、小雪の全身の血が、静かに、しかし激しく波打ったのだ。

魔力ではない。だが、まるで自らの魂の深層……深い海の底に眠っていた記憶が叩き起こされたかのような、圧倒的な「懐かしさ」と「共鳴感」。

「この品を見つけた時、なぜか……『これを高峰小雪に渡さねばならない』という、抗いがたい確信が胸に湧き上がったのです。小雪様……これをお受け取りください」

少女は静かに頭を下げ、その青き結晶を小雪の手に委ねた。

 

少女が立ち去った後、静まり返った応接室で、小雪は一人、掌の上の蒼き結晶——モデルLを見つめていた。

ひんやりとした質感。だが、その内部からは、まるで母なる海の懐に抱かれているかのような、深い安らぎと、凛とした強さが溢れ出してくる。

小雪がそっと指先でそのレンズに触れた、その時だった。

——ザザーーッ……。

静かな波の音が、小雪の脳内に直接響き渡った。

「——目覚めなさい……深海を統べる者よ……」

透明感溢れる、澄み渡った女性の声。

「な……誰……? 私の頭の中に……?」

小雪は驚き、手の中の結晶を見つめた。

「私は氷のライブメタル『モデルL』。かつて『妖将』と呼ばれた者の記憶と、水と氷を統べる力を宿したライブメタルです」

「ライブメタル……!? それでは、雄真さんたちが纏っていたあの未知の力の波動は……」

小雪の頭の中で、全ての点と線が繋がった。

雄真たちが街を護るために手に入れた力。そして、自分のもとへ引き寄せられるように現れたこの『モデルL』。

「小雪……あなたには、静かなる水の如き強き心と、大切な者を護るための深い慈愛があります。……この世界に迫る巨悪の影から、あなたの愛する者たちを護るため、私に力を貸してくれますか?」

モデルLのレンズが、青く清らかな光を放ち、小雪の視界を包み込んでいく。

小雪はそっと目を閉じ、自らの胸に手を当てた。

畏れはなかった。あるのは、大和撫子としての静かな覚悟と、仲間たちの隣に立ちたいという、誇り高き情熱だった。

「はい……モデルL。私でよろしければ……どうぞ、よろしくお願いいたします」

小雪が微笑むと、モデルLは光の粒子となって彼女の身体へと溶け込み、その手首に蒼い綺麗な数珠のような紋章を刻んだ。

一方その頃。

瑞穂坂の街を遠く見下ろす高台の上で、黒いドレスを風になびかせたイザナミが、不敵な笑みを浮かべていた。

「くすくす……『モデルL』までもが目覚めたか。青、赤、風、炎、そして氷……全ての欠片が揃っていく。……さあ、始めましょうか、セルパン様。瑞穂坂学園を絶望の底へと叩き落とす……『プロジェクト・ヘヴン・ネオ』の幕開けを!」

夜の闇が、瑞穂坂の街を静かに、しかし確実に覆い尽くそうとしていた——。

 

私立瑞穂坂学園高等部の資料保管庫——その最深部に眠る、二十年前の閲覧制限区域。

埃をかぶったマイクロフィルムの中に、一人の少女の記録が記されていた。

——**十六夜美奈子(いざよい・みなこ)**。

当時、瑞穂坂学園史上最高の天才と謳われた少女。彼女が学園で打ち立てた数々の理論は、現在の最新魔法工学の基礎すら凌駕するほど突出していた。だが、彼女の名は学園の公式な歴史から完全に抹消されている。

二十年前の卒業課題発表会。

美奈子は自身の最高傑作である「魔法回路内蔵型自律戦闘デバイス」を披露した。それは従来の魔法具の領域を遥かに超えた、画期的な軍用ロボットの試作品であった。しかし、演武の最中、不可解な「事故」によってデバイスの制御回路が暴走。発表会場を崩壊させ、多数の生徒と教師を重軽傷に追い込む惨事となった。

学園上層部と魔法省は、事態の収束と保身のため、暴走の原因を「美奈子の個人的な失策と暴走」と断定。彼女を学園から即刻退学処分とし、その研究成果のすべてを没収・封印したの小細工を行ったのだ。

……だが、誰も知らなかった。

その暴走事故こそが、学園内の権力闘争と権威主義的な教師たちによって「意図的に仕組まれた罠」であったことを。

冤罪を背負わされ、夢も名誉も奪われて学園を追われた美奈子。彼女の胸の中で育まれたのは、学園という歪んだ温床と、そこに集う「ぬるま湯の魔法使いども」に対する、底知れない激しい憎悪であった。

「……瑞穂坂学園。あなたたちが奪った私の未来、私の……、すべてを倍にして返して差し上げますわ」

高台の上で、イザナミ——十六夜美奈子は、冷たい夜風に漆黒の髪をなびかせながら、眼下に広がる母校の全景を見下ろしていた。

彼女の瞳の奥に宿るのは、人間としての温かみをとうに捨て去った、狂気の科学者としての冷徹な光であった。

 

「イザナミよ! 報告を聞こうか!」

セルパンカンパニー本社・最上階のプレジデントルーム。

ホログラムの映像に映し出された最新データを見つめながら、セルパン社長が重厚な声で叫んだ。

「モデルX、Z、H、F、そしてLまでもが瑞穂坂の適合者どもに宿った! 計画は完璧だ! 私の『プロジェクト・ヘヴン・ネオ』によって、私はこの世界の唯一無二の神となり、全生命を統べる絶対者となるのだ!」

高笑いを上げるセルパン。その姿は、自らの完璧な野望と力に酔いしれる「絶対的な覇王」そのものであった。

「……ええ、セルパン様。すべてはあなたの仰せのままに……」

イザナミは静かに恭順の礼を執り、深々と頭を下げた。

だが、その伏せられた顔に浮かんでいたのは、憐れみと嘲笑が混ざり合った、酷く歪んだ笑みであった。

(……哀れなサイバーエルフ。自分を『セルパン社長』という肉体を持った全能の覇者だと信じ込んでいる人形が)

真実は、まったく異なる場所にあった。

かつて別の世界で破滅し、ただのデータ精神体——「サイバーエルフ」へと成り果てていたセルパンの断片。それを次元の狭間から拾い上げ、擬似的な肉体と偽りの記憶を与えて「復活」させたのは、他ならぬ十六夜美奈子本人であった。

彼女の手によって生み出された自律型フォルスロイド「イザナミナンバーズ—」—その第一号、**DIN(ドクターイザナミナンバー)001**。

それこそが、「セルパン社長」の本当の正体であった。

セルパンが自らの意志で進めていると信じ込んでいる「プロジェクト・ヘヴン・ネオ」も、ライブメタルの回収も、すべては美奈子が彼の思考回路に組み込んだ「プログラムされた欲望」に過ぎない。

セルパンは、自らが世界を支配する王であると疑いもしないまま、美奈子の復讐のシナリオ通りに動かされている「踊り子」に過ぎなかったのだ。

「フハハハハ! 待っていろ、瑞穂坂の虫ケラども! このセルパンが、至高の裁きを下してやるわ!」

高らかに笑い叫ぶDIN001(セルパン)の背後で、美奈子はそっと漆黒の爪を唇に当てた。

「くすくす……そうよ、セルパン様。もっと暴れて、もっとライブメタルの出力を高めてちょうだい。あなたがその偽りの野望を燃やし尽くした時……私の二十年越しの『復讐の宴』が完成するのですから……」

 

瑞穂坂の夜が、静かに深まっていく。

学園の寮で、自らの手首に浮かんだ蒼い紋章を見つめながら、静かな覚悟を固める高峰小雪。

研究室で、未来の平和のために論文と向き合い続ける小日向雄真と神坂春姫。

自室で、モデルFの荒々しい念話に「うるさいわね!」と悪戦苦闘しながらも、拳を握りしめる柊杏里。

五つのライブメタル——青、赤、風、炎、氷。

選ばれし適合者たちの絆が固く結ばれようとしているその裏で、二十年前の怨念と、偽りの王を操る天才科学者の罠が、瑞穂坂学園の全体を逃げ場のない網のように絡め取っていた。

自らを英雄と信じる者たち。

自らを覇王と信じる狂気の傀儡。

そして、闇の底で全てを嘲笑う真の支配者。

重なり合う誤解と運命のギアが、破滅という名の美しい交響曲を奏でながら、激しく回転を始める。

「さあ……舞台は整いましたわ。瑞穂坂学園……あなたたちの愛する『平和』を、形なしに破砕して差し上げます」

イザナミの冷たい呟きとともに、戦いは激動期に入った

 

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