ロックマンゼクス&はぴねす!〜バディ・コネクション!!〜 作:騎士誠一郎
瑞穂坂の街に、異様な「音」が満ち始めていた。
最初は、ラジオのノイズのような小さな不快音に過ぎなかった。だが、その音波は瞬く間に街中の電子インフラへと侵食し、人間には認識しきれない高周波のマイクロウェーブとなって散乱し始める。
バリバリバリ……!
「な、なにこれ!? スマホの画面が勝手にバグり始めたんだけど!?」
「キャアァァァッ! 自動販売機が突然コインを噴き出してるわ!」
「信号機が全部青に!? 止まって! 事故になる!!」
街の至る所で叫び声が上がった。
自動ドアが狂ったように開閉を繰り返し、街頭のホログラムビジョンはノイズ混じりの不気味な色彩を撒き散らす。さらには、治安維持用の防犯ドローンや清掃用ロボットたちが赤い警告灯を明滅させ、周囲の市民に向かって暴走を開始したのだ。
その混乱の渦中、市街地の中心にある立体駐車場の屋上。
狂った電子音の源に立っていたのは、鳥類を思わせる歪で武骨な装甲を纏ったフォルスロイド——**コンドロック・ザ・バルチャロイド**であった。その手には、不気味な紫色の発光ラインが走る巨大な「V字型エレキギター」が握られている。
『ケハハハハ! 鳴れ、響け! 我がソウルフルな重低音のマイクロウェーブよ! 街中の機械どもを狂わせ、この生ぬるい瑞穂坂をロックなパニックの坩堝に落とし込んでやるぜええぇッ!』
コンドロックが激しい手つきでギターの弦を掻きむしると、増幅された高周波パルスが同心円状に広がり、周囲の変電設備が次々と火花を散らして爆発した。
そして、その惨状から逃げ惑う群衆の中に——かつて雄真たちの学友であり、今は瑞穂坂学園で静かに日常を送っていた雄真の義妹、**すもも**の姿があった。
「きゃあっ!? な、なに……どうなっちゃってるの……!?」
暴走した清掃用ロボットが、火花を散らしながらすももへ向かって突進してくる。
すももは持っていた鞄をかばうように胸に抱きかかえ、恐怖に足をすくませながら必死に後退りした。
「嫌……誰か、助けて……っ!」
『 逃げ惑え雑音のオーディエンスども! 俺様のライブの観客にしては、歓声が足りねえぞぉッ!』
コンドロックの狂気の眼光が、逃げ遅れたすももの姿を捉えた。
「そこまでだッ!!」
爆音とともに、赤の装甲を纏った雄真——ロックマンZX、緑の翼を広げた春姫——ロックマン・モデルH、そして重装甲から熱気を吹き出させる杏里——ロックマン・モデルFの三人が現場へ駆けつけた。
「街をこれ以上荒らさせないわ! ギターのノイズを止めなさい!」
春姫がダブルセイバーを構え、疾風の構えを取る。
「おいおい、鳥頭! あたしの炎でそのダサいギターごと黒焦げにしてやろうかしら!?」
杏里が両腕のナックルバスターを打ち鳴らし、威嚇する。
『ケヒヒッ! お出ましだな、噂のロックマンども! だが……甘いんだよッ!』
コンドロックが口の端を吊り上げ、素早い動きで手元のギターから極太のワイヤー針を放出した。
ワイヤーは一直線に伸び、腰を抜かしていたすももの身体をガチガチに拘束し、力任せに上空へと引きずり上げた。
「きゃあぁぁぁぁぁっ!?」
「すもも!?」
雄真の顔から血の気が引く。
コンドロックはすももの首元にギターの鋭利なヘッドを突きつけ、爪を立てるように喉元を押さえつけた。
『動くなよぉ……? ひと暴れでもしてみろ、この娘の首筋に超高熱のマイクロウェーブを叩き込んで、脳ミソごと沸騰させてやるぞ?』
「くっ……卑怯な真似を……!」
雄真が歯を食いしばる。
『ヒヒッ! 命が惜しければ、今すぐその変身を解除しろ! ライブメタルの適合者からただの丸腰のガキに戻るんだよ! 3秒数える……1、2……!』
「待て! 解除する……変身を解くから、その子に手を出すな!」
雄真が制止の声を上げ、変身を解除しようとモデルXへと手を伸ばしかけた、その時——
「甘いわねぇ……油断大敵って言葉、教えてあげるわ!」
上空の暗雲を突き破り、甘ったるくも残忍な声が響き渡った。
ドスッ! ドスッ!
高空から降り注いだのは、超高温の「毒針」の雨だった。
地面に突き刺さった針から強烈な熱波が噴き出し、雄真たちの足を払う。
空からゆっくりと舞い降りてきたのは、巨大なコンテナをぶら下げたハチの姿をしたフォルスロイド——**カイゼミーネ・ザ・ワスプロイド**であった。
『ホホホ! コンドロック、手こずっているようね? セルパン様のお言いつけ通り、私も助っ人に来てあげたわ!』
「フォルスロイドが二体も……!?」
杏里が熱波をナックルバスターの炎で吹き飛ばしながら、吐き捨てるように叫ぶ。
『さあ、どうするのぉ? 命乞いをするかしら? それとも、お友達が蜂の巣になるのを指を加えて見ているかしらぁ!?』
コンドロックの人質劇に加え、空中からのカイゼミーネの毒針攻撃。
すももを盾にされた雄真たちは、反撃はおろか、防御姿勢を取ることすら許されない絶対の「詰み」へと追い込まれてしまった。
「う……兄さん……春姫ちゃん……杏里さん……っ」
人質となったすももの目から、涙がこぼれ落ちる。
自分が捕まったせいで、大好きな友達が殺されようとしている。自分の弱さが、みんなを死地へと追いやっているのだと。
『ケハハハ! タイムアップだ! 丸腰になって死ねぇぇぇッ!』
コンドロックがすももの首元へ熱線を放とうとし、カイゼミーネが空中から無数の炎針を雄真たちへ向けて解き放った——
その、極限の瞬間。
——**『水よ……静寂へと誘いなさい』**——
どこからともなく、清冽で涼やかな声が響き渡った。
ザザァァァァァァンッ!!!!!
突如として、何もない空間から巨大な「水の渦流」が爆発的に噴き出した!
その激流は一瞬にしてカイゼミーネの毒針を飲み込み、その威力を完全に相殺したばかりか、重密度の水圧となってコンドロックの巨体を力任せに吹き飛ばしたのだ!
『グガァァァッ!? な、何だこの大量の水はぁぁぁっ!?』
コンドロックの手からすももの身体が離れ、宙へと放り出される。
「すもも!」
雄真が叫ぶよりも速く、青い閃光が空を舞った。
透き通るような蒼と白の気品ある装甲を纏い、背中に巨大な水流の羽をなびかせた新たな存在——ロックマン・モデルLが、落下するすももの身体を優しくその腕の中に受け止めたのだ。
「……もう大丈夫ですよ、すももさん」
水底の静けさを思わせる、温かく気品に満ちた声。
モデルLのクリアバイザー越しに見えたのは、紛れもなく大和撫子——**高峰小雪**の凛とした微笑みであった。
「こ……小雪さん……!?」
すももは息をのんだ。
小雪は軽やかに地上へと舞い降りると、すももをそっと物陰の安全な場所へとおろした。
「小雪さん!? あなた……モデルLと……!」
春姫が感嘆の声を上げる。
「皆様、お待たせいたしました。……これ以上、瑞穂坂の平和と私たちの友を傷つけること、この高峰小雪が許しません!」
小雪は両手に巨大なハルバード(長柄の斧槍)型のライブメタルウェポンを構え、鋭い眼光で二体のフォルスロイドを射抜いた。
「モデルLの力……深海の冷徹さと、包み込む包容力……見せて差し上げます!」
「みんな! 今よ!」
小雪の参入により人質が解放された瞬間、雄真たちの反撃の狼煙が上がった。
「よしっ! ダブル・ロックオンッ!」
「風よ、吹荒れなさい!」
「あたしの炎で黒焦げになりなさいッ!」
青、緑、赤、そして蒼。四つの光が瑞穂坂の空に交差し、圧倒的な連携攻撃が始まった。
小雪のモデルLが解き放つ水流の刃がカイゼミーネの飛行ユニットを凍てつかせて叩き落とし、杏里のモデルFの爆炎がコンドロックのギターを爆砕する。雄真と春姫の鮮やかな連撃が二体のフォルスロイドを完璧に追い詰め、激しい爆破音とともに撃破してみせた。
見事なまでの勝利。
四人のロックマンたちは変身を解除し、互いの無事を確かめ合うように笑顔を交わし合っている。
「小雪さん、本当に助かったよ! まさか小雪さんまでロックマンになるなんて思わなかったけど!」
「ふふ、雄真さんたちの力に少しでもなれたのなら、光栄ですわ」
輝かしい仲間たちの姿。
だが……その光景を、物陰から見つめていたすももの胸の中にあったのは、安心感ではなかった。
(すごい……みんな、あんなに強いんだ……。魔法を超える力を持って、街を護って……)
すももは自らの小さな手を、ギュッと強く握りしめた。
指先が震えている。
(私……何にもできなかった。ただ捕まって、足手まといになって……みんなの命を危険に晒して……)
雄真たちが自分に駆け寄り、「すももちゃん、怪我はない!?」と優しく声をかけてくれる。その温かい笑顔が、今のすももには痛いほど眩しく、そして惨めだった。
自分の無力さ。何もできない自分への悔しさ。
みんなが遠い場所へ行ってしまったかのような孤独感が、すももの胸を深く深く締め付けていたのだった。
その頃。
セルパンカンパニー本社・最上階。
「ククク……ハハハハハ! ついに五つ目……モデルLまでもが覚醒したか!」
モニターに映し出された小雪の戦闘データを眺めながら、セルパン社長(DIN001)が狂喜の高笑いを上げていた。
「モデルX、Z、H、F、L! 五つのライブメタルが揃い、互いに共鳴し合っている! 『プロジェクト・ヘヴン・ネオ』の完成は目前だ!」
「ええ……セルパン様」
その背後で、イザナミ(十六夜美奈子)が妖しく、冷たく微笑んでいた。
「光が強くなればなるほど、その影に弾き出された『無力な者』の絶望は深まります……。守られるだけの羊が抱く嫉妬と絶望……それこそが、ライブメタルの秩序を崩壊させる最高の毒となるのですわ」
美奈子の瞳が、暗闇の中で紫色に怪しく輝く。
「さあ……見せて戴きましょう。絆という名の脆い幻想が、内側から崩れ去る、最高に惨烈な悲劇を……」
絶望の芽が、静かに、しかし確実に瑞穂坂の街に根を張ろうとしていた——。
前日の惨劇から一夜明けた
青く澄み渡る夏空の下、瑞穂坂臨海エリアに位置する大規模テーマパーク「瑞穂ベイサイド・ファンタジア」は、大勢の家族連れやカップルたちの歓声で賑わっていた。巨木を模した観覧車、水しぶきを上げるジェットコースター、そして色とりどりの着ぐるみたちが街並みを練り歩いている。
「ほら、すもも! あっちのショコラ・チュロス、焼きたてだってさ。買いに行こうよ!」
前を歩く雄真が振り返り、弾んだ声で手を振った。
「あ……うん。待って、兄さん……」
少し後ろを歩くすももは、無理に作った小さな笑顔を浮かべ、小さな歩幅で雄真の後に続いた。
昨日の事件の後、すももの沈み切った様子を心配した雄真が、「たまには二人で羽を伸ばそう」と半ば強引に連れ出したのだった。
焼きたてのチュロスを受け取り、ベンチに腰掛ける二人。
「美味しい? すもも」
「うん、すごく甘くて……美味しいよ、兄さん」
すももはチュロスを一口かじり、膝の上に視線を落とした。
言葉とは裏腹に、その表情はどこか遠くを見つめている。雄真はチュロスを口にくわえたまま、すももの肩を優しく突いた。
「すもも。昨日のこと、まだ気にしてるんだろ?」
「……っ」
すももの身体が小さく強張った。
「私のせいで……みんなが危険な目に遭ったから。……兄さんも、春姫ちゃんも、杏里さんも、小雪さんも……みんな、あの凄い力を手に入れて、街を守るために戦ってるのに……。私だけ、何もできなくて……ただ捕まって、足を引っ張って……」
ギュッと、膝の上で小さな拳が握りしめられる。
「私……みんなの友達だって思ってたのに。本当は、私だけ置いていかれてるんだ……」
ポロポロと、すももの瞳から大粒の涙が零れ落ち、チュロスの袋を濡らした。
ずっと胸の奥に溜め込んでいた「無力感」と「取り残される恐怖」。それが、大好きな兄の前で溢れ出してしまったのだ。
「すもも……」
雄真は優しく、すももの頭に手を置いた。
「置いていってなんかいないよ。俺たちが戦うのはね、特別なヒーローになりたいからじゃないんだ。すももや、街のみんなが……こうして普通に笑って、美味しいものを食べられる『日常』を守りたいからなんだよ」
雄真の温かい掌のぬくもりが、すももの髪を通して伝わってくる。
「すももが泣いてたら、俺たちが戦う意味がなくなっちゃうだろ? だからさ……自分を責めないでくれ」
「兄さん……」
すももは涙を拭い、照れくさそうに、けれど心から安心したような笑みを漏らした。
兄妹水入らずの時間。温かな日差しの中で、すももの凍りついていた心は、少しずつ解きほぐされていくようだった。
——しかし、その平穏は唐突に打ち砕かれた。
ドバァァァァァンッ!!!!!
テーマパークの中央広場に設置されていた巨大な噴水が、突如として激しい爆破音とともに吹き飛んだ!
「キャアァァァッ!?」
「な、何だ!? 爆発か!?」
逃げ惑う客たちの悲鳴が響き渡る。
水煙が舞う広場の中央、鋭い旋風を全身に纏って現れたのは、巨大なイタチのような姿をしたフォルスロイド——**ハリケンヌ・ザ・ウルバロイド**であった。
その両腕には真空の刃を形成する巨大なチャクラムが装備され、背中のスラスターから吹き出す暴風が周囲の売店やベンチを力任せに吹き飛ばしていく。
『ケヒヒヒ! 発見したぞ、適合者『小日向雄真』! 妹と呑気にデートとは余裕だなあッ!』
ハリケンヌの狂暴な眼光が、ベンチにいた雄真とすももを直接射抜いた。
「っ!? フォルスロイド……こんなところで!?」
雄真は咄嗟にすももを背中に庇い、身構えた。
ポケットの中のモデルXとモデルZが激しく脈動し、『雄真、変身しろ!』と念話を送ってくる。
だが——雄真は変身の動作に入ることができない。
(くそっ……! こんな距離で、すももの目の前でダブル・ロックオンなんてしたら……! 変身の衝撃波やすももを狙われた時、庇い切れない……!)
大勢の一般客、そして何よりすぐ後ろにいる「ただの人間」であるすもも。
守るべき存在が近すぎるがゆえに、雄真は最大の武器であるロックマンへの変身を封じられてしまったのだ。
『ハハハ! 変身できまい! 人質を背負ったまま、アタシの真空刃の錆となるがいいわッ!』
ハリケンヌが超高速で地表を滑空し、両腕のチャクラムを回転させながら襲いかかってきた!
「くっ……! すもも、離れるなよ!」
雄真はすももの手を強く引き、迫り来る真空の刃を間一髪で紙一重かわした。
ドガガガガッ!
直後、二人がいたベンチが真ん中から綺麗に両断され、粉砕される。
「きゃあああっ!」
「ハッ! 逃げ足だけは速いな! だが、いつまで生身で避け続けられるかなぁッ!?」
ハリケンヌの連続攻撃が襲いかかる。雄真はすももを庇いながら必死に回避を重ねるが、生身の肉体には限界があった。擦り傷が増え、雄真の息が荒くなっていく。
(私のせいだ……!)
雄真の背中で、すももの心が激しく痛んだ。
(私が……私がここにいるから、兄さんは変身できない! また私だ……また私が、兄さんを死に追いやってる……!)
悔しさと絶望で、胸が破裂しそうだった。
また守られるだけなのか。また誰かの足を引っ張って、涙を流すことしかできないのか。
「嫌……嫌だよぉぉぉっ!! 私だって……私だって、大好きな兄さんを守りたいよぉぉぉっ!!」
すももが叫んだ、その時だった。
——**『その意志、見事なり』**——
すももの脳内に、低く静かな、だが研ぎ澄まされた刃のような男の声が響き渡った。
「え……?」
すももがハッと足元を見ると、自分の「影」の中から、紫色の光を放つ小さな菱形の金属結晶が静かに浮上してきた。
極限まで無駄を削ぎ落とした洗練されたフォルム。
ツインアイの装飾が、闇の中で怪しく、かつ気高く輝いている。
「我が名は『モデルP』……影に生き、死角から悪を断つ『隠密』のライブメタル。少女よ……兄を護るため、己の影を解き放つ覚悟はあるか?」
「モデル……P……! 兄さんを……守れるの!?」
「左様……。拙者と適合せよ。そなたの秘められた素養……『忍』の芽を開花させてみせよ!」
すももは躊躇わなかった。
涙を拭い、差し出されたモデルPを力強く握りしめた。
「
「適合者、確認。R.O.C.K・システム、起動開始!!!」
紫色の光の柱が、すももの全身を包み込んだ!
『何だぁぁぁっ!?』
ハリケンヌが驚愕して足を止める。
光が弾けたそこには——
深紫(ダークパープル)と漆黒の隠密装甲を纏い、背中に巨大な十字手裏剣を背負った、凛々しき忍の姿——**ロックマン・モデルP**となったすももが立っていた!
「す……すもも……!?」
雄真が目を見開く。
「兄さん……今まで守ってくれて、ありがとう。今度は、私が兄さんを守る番だよ!」
すももは軽やかに跳躍すると、疾風のごとき速度でハリケンヌの頭上へと舞い上がった。
『ハッ! 小娘がロックマン気取りか! アタシが斬り殺してやるッ!』
ハリケンヌが真空刃を撒き散らす。だが、すももの身体は残像を残して空中で消失した。
「遅いよ! 『十字手裏剣』っ!」
背中の巨大手裏剣が投擲され、紫の光軌を描きながらハリケンヌの旋風を力任せに切り裂いた。
『グハッ!? なんなのよこの機動性は……目にも留まらないわ!?』
「影から影へ……逃がさない! 『すもも忍法・
すももが印を結ぶと、上空から無数の暗器——漆黒のクナイが雨のように降り注いだ!
ドスドスドスドスッ!!
「ギャアァァァっ!?」
モデルPの精密な連続射撃がハリケンヌの装甲の継ぎ目を的確に穿ち、その機動力を完全に奪い去った。
「兄さん、今だよッ!」
「よしっ! すもも、最高だッ!」
すももが作ってくれた完璧な隙。雄真はすももが距離を取ったのを見逃さず、両手にモデルXとZを掲げた。
「ダブル・ロックオンッ!!」
青と赤の閃光が駆け抜け、ロックマンZXが降臨する。
雄真はスラスターを全開にし、地表を滑るようにハリケンヌの懐へと突進した。
「よくもすももを恐怖に陥れてくれたな……! これで終わりだぁぁぁっ!!」
セイバーではなく、魂を込めた『右ストレート』——チャージバスターのエネルギーを右拳に収束させた一撃が、ハリケンヌの顔面に炸裂した!
ドッゴォォォォォォォンッ!!!!!
『セルパン様ぁぁぁぁぁっ!?』
ハリケンヌの巨体が空中へ吹き飛び、木っ端微塵に爆砕したのだった。
一方、同じ瑞穂坂の喧騒から少し離れた、下町の路地裏にある怪しげな骨董品店「古物堂」。
「へいへい、毎度ありー! お客さん、お目が高いねぇ!」
「え、ちょっと待ってよ店主さん! 僕、ただの『古い文房具』を探しに来ただけなんだけど……なんでこんな変な金属買わされてるの!?」
頭を抱えて叫んでいるのは、雄真たちの友人である**八輔(はちすけ)**であった。
八輔の手には、骨董品店の店主から「超レアなアンティーク」と騙されて押し付けられた、銀色と朱色の奇妙な金属塊が握られていた。
「だってさぁ、三万円って……俺の今月のバイト代が……」
トボトボと路地裏を歩く八輔。
その時、手の中の金属塊が、ピクッと動いた。
『おいおい、ガッカリした顔すんなって! 3万ごときでこのオイラを手に入れられたんだ、お前は世界一の幸運男だぞ!』
「うわあああああっ!? 金属が喋ったぁぁぁぁっ!?」
八輔は飛び上がり、モデルAを地面に落としそうになった。
『危ねえな! 落とすなよ! オイラは『モデルA』! 最高にクールなライブメタルだ!』
「も、モデルA……!? 喋る金属……怪奇現象だぁぁぁっ!」
『うるせえな! だから喋る金属じゃなくてモデルAだって言んだろ! ……まあいいや、お前、名前は?』
「は、八輔です……」
『そうか八輔! 今日からお前はオイラの相棒だ! よろしくな!』
「ええぇぇぇっ!? 勝手に決めないでよ!」
パニックになる八輔。しかし、モデルAの気さくで破天荒な口調に、どこか調子を狂わされていく。
だが——
この『モデルA』の存在は、セルパンも、そして裏で全てを操るイザナミ(十六夜美奈子)すらも完全に把握していない、異界からの「絶対的なイレギュラー」であった。
モデルAの中央レンズが、八輔には聞こえない静かな周波数を発していた。
(……くくく、見つけたぞ。この世界の歪みと、あのイザナミとかいう女の企み。オイラという『究極のカード』が、この茶番劇を根底からひっくり返してやるぜ……!)
青、赤、風、炎、氷、陰……そして、異端の「A」。
すべての適合者が出揃い、運命の歯車はセルパンたちの思惑をも超えて、破滅と希望の混沌へと加速していくのだった——。