ロックマンゼクス&はぴねす!〜バディ・コネクション!!〜   作:騎士誠一郎

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第7話 復活! 死神と魔女の輪舞曲

セルパンカンパニー本社の地下最深部。

そこは、プレジデントルームや「プロジェクト・ヘヴン・ネオ」の中枢メインサーバーすら遥かに下回る、絶対暗黒の特異領域であった。

壁面を満たす膨大なバイオチューブと冷却液の循環音だけが、不気味に低く響き渡っている。外部の検知魔法はおろか、セルパンの監視システムすら完全に遮断されたこの極秘工房こそ、十六夜美奈子——秘書イザナミの真の「聖域」であった。

「……フフ、素晴らしいわ。生命の波形、魔力と科学の融合作用……すべて計算通りの精度ですわね」

漆黒のドレスをなびかせ、イザナミは二つの巨大な円筒状バイオカプセルを見上げていた。

カプセルを満たす透明な培養液の中には、未だ起動前の「二体の装甲ボディ」が静かに浮遊している。

一つは、死神の如き大鎌を思わせる鋭利なシルエットと、漆黒に紅蓮の炎を配した極悪な装甲——プロメテの器。

もう一つは、冷徹な浮遊ビットと流線型の幾何学的な装甲を纏い、蒼白き絶対氷壁を思わせるフォルム——パンドラの器。

それらは、かつての世界において適合者たちを絶望の淵へと叩き落とし、最後に破滅した「運命の死神」たちの姿であった。

「あの男……アルバートが残した旧時代の設計思想は、あまりに不完全で非効率的でした。適合者としての精神に依存しすぎ、精神の摩耗とともにボディの出力が減衰する欠陥構造……」

イザナミの細い指先が、コンソールのホログラムキーを叩く。

「ですが、私の手によって再構築されたこの『DIN(ドクターイザナミナンバー)』のボディは違います。瑞穂坂の潤沢な魔力脈を直接吸い上げ、エネルギー変換率を高めました。あの男が与えた旧ボディなど比べ物にならない出力と、次元を超えた超高精度な『同調連携(リンク・アタック)』を可能とする究極の器……」

イザナミがコンソールの「転送実行」ボタンを静かに押し込む。

「さあ、お目覚めなさい。『DIN002』……プロメテ。そして『DIN003』……パンドラ」

カプセル内部が激しく明滅し、二つの青白い光の球体——「サイバーエルフ」と化した二人の魂が、新たなボディの胸部コアへと高速で吸い込まれていった!

 

ブワァァァッ!!

カプセルの強化ガラスが内側から砕け散り、大量の冷却液が床へと溢れ出した。

「ハァ……ハァ……ッ……!」

蒸気の中から、ゆっくりと大地を踏みしめた男の影——DIN002・プロメテ。

背中のスラスターから漆黒の炎を吹き出しながら、己の巨大な手裏剣状の鎌——『グラディウス』を握り締め、不機嫌そうに歪んだ顔を上げた。

「……ちっ。死んだはずのこの俺様が、またこんな薄汚い肉体に押し込められるとはな……」

プロメテの低く掠れた声には、露骨な不快感が混ざっていた。

「おい、イザナミ……。俺たちをサイバーエルフの泥沼から引きずり出して、またあの『運命のゲーム』の駒として踊らせるつもりか? くだらん……俺はもう、誰かの操り人形になる気はねえぞ」

プロメテは大鎌を床に叩きつけ、イザナミを射殺さんばかりの鋭い眼光で睨みつけた。

だが、その隣に降り立った少女——DIN003・パンドラは、対照的な反応を見せた。

「……素晴らしい……」

無機質で、鈴の音のように透き通った少女の声。

パンドラは自らの白い指先を滑らせ、全身を包む完璧な装甲の感触を確かめるように抱きしめた。背後に浮遊する無数のファンネルビットが、彼女の思考と完全に同調し、青白い光の軌跡を描きながら優雅に旋回する。

「……感じるわ……。以前の不完全な肉体とは違う……。魔力と科学の循環に一切の滞りがない……。次元の位相をズラす『空間跳躍』の精度も、あのアルバートのボディより遥かに上……」

パンドラの瞳に、妖しくも狂おしい歓喜の光が宿る。

「……気に入ったわ、イザナミ……。この新しいボディ……最高に美しい……。これなら……あの生ぬるいヒーロー気取りの適合者たちを、一瞬で『無』へと還せる……」

「クク、お気に召して光栄ですわ、パンドラ」

イザナミは満足そうに微笑み、抗議の眼差しを向けるプロメテへと向き直った。

「プロメテ……乗り気でないのは結構ですわ。ですが、覚えているでしょう? 貴方たちの魂に刻まれた『適合者たちへの憎悪』を。……青いヒーロー、緑の風、赤き炎、深海の氷、隠密の影。あの輝かしい希望を纏う者たちを泥に塗れさせ、絶望の悲鳴を上げさせる……それこそが、貴方の魂が最も欲している歓楽ではありませんの?」

「……チッ」

プロメテは苦虫を噛み潰したように舌打ちをし、大鎌を背中に収めた。

「……余計な口を叩くな、女。俺はあのセルパンだのアルバートだのの玩具になる気はねえ。……だが、あの生ぬるいヒーローどもの顔面を粉砕できるってんなら……乗ってやるよ」

イザナミナンバーズ——DIN002・プロメテ、DIN003・パンドラ。

アルバートの技術を超越した最高傑作の「二つの死神」が、ついに覚醒の刻を迎えた。

 

その頃。瑞穂坂の市街地から少し離れた、旧港湾地区の廃棄コンテナ街。

「——よし、みんな! モデルLとモデルPの同調率はバッチリだ!」

雄真(ロックマンZX)の合図とともに、小雪(ロックマン・モデルL)とすもも(ロックマン・モデルP)が華麗な連携動作を披露していた。

小雪が放つ巨大な水流の波に乗って、すももが影から影へと跳躍し、空中から無数の暗器を叩き込む。さらに春姫(モデルH)が風で追撃し、杏里(モデルF)が爆炎で締めくくる。

「ふふ、すももさんとの『水と影』の連携、とても筋が良いですわ」

「えへへ、小雪さんのおかげだよ! 私、もっと強くなって兄さんたちの力になりたいの!」

六人となった適合者たち——雄真、春姫、杏里、小雪、すもも、そしてまだ完全に変身を使いこなせていない八輔(とモデルA)は、着実にチームとしての絆と戦力を深めていた。

だが——

「……へっ。仲良しこよしでごっこ遊びか? 吐き気がするぜ」

不意に、上空の「空間」そのものがバリバリと歪み、亀裂が入った。

「っ!?? 全員、構えろ!」

雄真が叫ぶと同時に、異次元の亀裂から黒い炎と青い絶対零度の吹雪が吹き荒れた!

「きゃあぁぁぁっ!?」

「な、何なのこの圧力は……!? 今までのフォルスロイドとは次元が違うわ!」

杏里がナックルバスターをかざすが、押し寄せる圧倒的な「殺気」に全身の毛穴が逆立つ。

歪んだ空間から静かに舞い降りてきたのは、漆黒の大鎌を担いだプロメテ(DIN002)と、浮遊ビットを従えたパンドラ(DIN003)であった。

「あの姿……まさか、俺達の記録にあった『プロメテ』と『パンドラ』……!?」

春姫のバイザー内でモデルHが激しい警告アラートを打ち鳴らした。

『気をつけろ春姫! 相手はかつての記録データと姿こそ同じだが、内部のエネルギー出力と空間干渉の精度が段違いだ! まったく別の『新型』へと再構築されている!』

「……能書きは終わりだ、雑種ども」

プロメテが片手をかざした瞬間、地面から数十本の「漆黒の炎の柱」が爆発的に噴き出した!

「ぐわぁぁぁっ!?」

雄真と杏里が吹き飛ばされる!

「逃がさないわ……『ディメンション・フリーズ』」

パンドラが静かに呟くと、彼女の背後のビットが超高精度で同調(リンク)し、小雪とすももの足元の「空間そのもの」を凍結・固定した。完璧な連携。互いの意思伝達すら必要としない、脳波直結の超精度なコンビネーションだ!

「小雪ちゃん! すももちゃん!」

「くそっ……! なんだよこいつら……! 動きが完璧すぎる……!」

雄真が歯を食いしばり、ゼットセイバーを構えて突進するが、プロメテの大鎌の一撃とパンドラの氷の追撃が完璧なタイムラグなしで叩き込まれ、地面へと叩きつけられた。

「終わりよ……無力な適合者たち……」

パンドラが無機質な瞳で杖を構える。

絶対の絶望。イザナミが生み出したDIN002と003の力は、適合者たちの絆をいとも容易く破砕するほどの圧倒的な壁となって立ちはだかったのだ。

 

ドカーンッ!!

間一髪、八輔の手の中の『モデルA』が放った不意打ちのレーザーによって弾幕が散り、プロメテとパンドラは深追いすることなく空間の亀裂へと姿を消した。

「……フン、今日はこの程度で勘弁してやる。絶望をじっくり味わってから死ね」

プロメテの冷酷な捨て台詞とともに、二人の死神は去っていった。

負傷し、地面に膝をつく雄真たち。

圧倒的な格の差。新たなイザナミナンバーの脅威に、適合者たちの間に重苦しい静寂が広がっていた。

その頃。

セルパンカンパニー本社・最上階。

「フハハハハ! 見たかイザナミ! 我が新たな刺客、DIN002と003の圧倒的な力を!」

セルパン社長(DIN001)が、モニターに映し出された戦闘データを見つめながら、勝利を確信して高笑いを上げていた。

「これで適合者どもも終わりだ! 我がセルパンカンパニーの威光の前にひざまずくが良い!」

「……ええ、セルパン様。すべてはあなたの完璧なご指示の通りですわ」

その背後で、イザナミ(十六夜美奈子)は深々と頭を下げていた。

だが、伏せられた彼女の口元に浮かんでいたのは、惨絶で、冷徹な嘲笑であった。

(……愚かなDIN001。自分の手下だと思い込んでいる002と003すら、私の『復讐のシナリオ』を動かすための駒に過ぎないというのに……)

プロメテとパンドラに与えられた究極の肉体。

それらは適合者たちを追い詰めるためだけではなく、セルパン(DIN001)が暴走した際に、彼を抹殺して「プロジェクト・ヘヴン・ネオ」の真の権限を美奈子自身へと完全移行させるための「安全装置(キラープログラム)」でもあったのだ。

「さあ……踊りなさい、プロメテ、パンドラ……そしてセルパン。私に絶望をくれた瑞穂坂学園を……この世界ごと、黒く塗り潰すその日まで……」

イザナミの低く冷たい独白が、闇の中に溶けていく。

死神たちの再臨によって、瑞穂坂の街は更なる混沌と惨劇の渦へと巻き込まれていくのだった——。

 

旧港湾地区での惨劇から数時間後。

傷ついた雄真、春姫、杏里、小雪、すもも、そして八輔の六人は、私立瑞穂坂大学の第3研究室へと逃げ延びていた。

重苦しい静寂が室内を支配している。小雪の治癒魔法と医療キットによって応急手当は済ませたものの、傷以上に彼らの心を打ちのめしていたのは、突如現れた二人の死神——DIN002・プロメテとDIN003・パンドラの圧倒的な力だった。

「……あり得ない」

静寂を破ったのは、春姫の膝の上で静かに明滅する緑の結晶——モデルHだった。その優美な声には、珍しく強い動揺と警戒の色が混ざっている。

「プロメテとパンドラ……。彼らはかつて、俺たちライブメタルと激闘を繰り広げ、そして消滅したはずの存在。……なぜ、この瑞穂坂の地で、新たな『ボディ』を得て蘇っているのか」

「モデルH……あの二人って、一体何者なんだ?」

雄真が痛む肩を押さえながら問いかける。

胸のポケットからゆっくりと浮き上がった青い結晶——モデルXが、重々しいトーンで語り始めた。

「……彼らは、遥か昔に起きた『ライブメタル争奪戦』における、悲劇の兄弟だ。彼らはある男によって肉体を改造され、百年間もの間、戦いを強制され続けていた……。そして、かつて僕とともに戦った『最高の適合者』——**ヴァン**たちの手によって、彼らは運命から解き放たれ、倒されたはずだったんだ」

「ヴァ……ン……?」

雄真が呟く。その名を聞いた瞬間、モデルXとモデルZの光が切なく揺れた。

「あぁ……。ヴァンは、かつてモデルXとモデルZの力を同時に引き出し、ダブル・ロックオンを成し遂げた伝説の適合者(ヒーロー)だ」

モデルZが力強く、誇り高く引き継ぐ。

「奴は己の信念と絆を胸に、世界を破滅へ導こうとした脅威を打ち破った。……俺たちが雄真の中にヴァンの面影を見たからこそ、君に力を貸すと決めたんだ。だが……プロメテとパンドラが蘇ったということは、ただの偶然じゃない」

「……イザナミよ」

モデルLが小雪の手の中で青く光る。

「あのイザナミという女……彼女は単なるセルパンの秘書ではありません。彼女の知識、そしてライブメタルの構造への深すぎる介入……。彼女こそが、プロメテとパンドラをサイバーエルフの底から引き揚げ、怪物のボディを与えた元凶です」

「十六夜美奈子……」

研究室のデータベースを操作していた春姫が、画面を見つめたまま息をのんだ。

「二十年前に瑞穂坂学園高等部から追放された、天才少女……。彼女の事故の記録と、セルパンカンパニーの結成時期、そして今回の事件のデータ……すべてが時空を超えて合致するわ」

 

二十年前、学園の陰謀によって夢と尊厳を奪われ、憎悪の鬼と化した十六夜美奈子。

彼女が手に入れた異世界の遺産——サイバーエルフ化していたプロメテ、パンドラ、そしてセルパン。

彼女の狙いは、単なる街の破壊ではなかった。

学園が育んできた「魔法の秩序」と、ヴァンたちが護り抜いた「ライブメタルの歴史」——その双方を激突させ、双方のエネルギーが極限まで高まった瞬間を刈り取ること。それこそが、彼女の進める『プロジェクト・ヘヴン・ネオ』の真の姿だったのだ。

「そんな……っ! あたしたちの学園の過去の過ちが、こんな怪物を生み出しちゃったっていうの!?」

杏里が拳を机に叩きつける。モデルFが『ぬう……胸糞悪い陰謀だぜ』と憤怒の炎を漏らす。

「兄さん……私、怖いよ。あんな強い相手に、私たちが勝てるのかな……」

すももが怯えたように雄真の袖を掴む。モデルPは静かに『案ずるな少女よ、影は光とともにあり……我らが共にある』とすももを包み込むように紫の光を放った。

「大丈夫だ、すもも」

雄真は力強くすももの手を握り返し、仲間たちを見渡した。

「かつてヴァンというヒーローが、仲間とともに世界を守り抜いたように……僕たちにも、支え合える仲間がいる。雄真、春姫、杏里、小雪、すもも、八輔……そしてモデルXたち! 俺たちが諦めない限り、イザナミの復讐なんかにこの街を渡すもんか!」

「……ふん、言ってくれるじゃねえか、雄真!」

八輔のポケットから、モデルAがひょっこりと顔を出した。

『そうそう! あいつらも、このモデルAと相棒の八輔のウルトラな発想力を見くびってもらっちゃ困るぜ! どんな陰謀だろうが、最後には俺たちが丸ごとひっくり返してやる!』

モデルAの破天荒な言葉に、重苦しかった研究室に少しだけ温かなクスッと笑う声が漏れた。

そう——因縁の糸は複雑に絡み合い、絶望の影はかつてないほど濃く立ち込めている。

だが、選ばれし六人の適合者たちの絆もまた、かつての伝説を超えて固く結ばれようとしていた。

 

一方、夜霧に包まれた瑞穂坂学園の屋上。

闇の中に佇むイザナミ(十六夜美奈子)のドレスが、冷たい夜風に大きく羽ばたいていた。

その両脇には、圧倒的な殺気を放つDIN002・プロメテと、氷のビットを漂わせるDIN003・パンドラが侍っている。

「……聞いたでしょう、ふたりとも。適合者どもは、かつての勇者『ヴァン』の名を胸に、死地に挑む覚悟を固めたようですわ」

「ハン……笑わせるぜ。ヴァンの偽物どもが、何人集まろうが結果は同じだ。次こそあの温体どもを一人残らず微塵切りにしてやる」

プロメテが漆黒の大鎌を肩に担ぎ、凶悪に唇を歪める。

「……私の新しいボディの力……まだ一割も出していないわ……。次の交戦で……彼らの魂を完全に砕いてあげる……」

パンドラの無機質な声が、夜空に冷たく響く。

イザナミはそっと胸元から、妖しく紫に明滅する「プロジェクト・ヘヴン・ネオ」の起動キーを取り出した。

「お戯れはここまでですわ、セルパン様……そして瑞穂坂の愚者たち。二十年の怨嗟、そしてライブメタルの全てを呑み込み……この世界を、私の望む『至高の絶望』へと塗り替えて差し上げます」

空を見上げる雄真たち。

闇から牙を剥くイザナミと二体の死神。

そして、未だ己が真の支配者だと信じて踊り続けるセルパン。

過去と現在、魔法と科学、絆と復讐——。

最後の戦いが、近い。

 

 

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