ロックマンゼクス&はぴねす!〜バディ・コネクション!!〜 作:騎士誠一郎
それは、唐突に起きた。
全身から力が抜ける感覚。
「何が起きてるの!?」
春姫たちが異変に気づく。
瑞穂坂の夜空を覆う雲が、赤黒い血の磁界へと変色していく。
「どうやら、ヤバいことが起きるみたいだ!」
「行こう!」
雄真たちは、すべての元凶のいるセルパンカンパニーへ向かう。
市街地の中央にそびえ立つセルパンカンパニー本社の超高層タワー。その最上階・プレジデントルームは、暴走した次元エネルギーのスパークによってガラスが全砕けとなり、狂風が吹き荒れていた。
「な……なんだ……何が起きているのだ、イザナミぃぃぃッ!?」
重圧な叫びを上げたのは、セルパンであった。
彼の全身から、青白く眩い高出力の光が溢れ出し、装甲がバリバリと音を立てて亀裂を生んでいく。
手元のコンソールに表示されていた「プロジェクト・ヘヴン・ネオ」のプログラム画面は、彼が構築したはずのコードを全て上書きし、真っ赤な「SACRIFICE(生贄)」の文字を明滅させていた。
「イザナミ! システムの制御が効かん! なぜ私のアドミニストレータ権限が剥奪されている!? 答えろ!」
セルパンは必死に手を伸ばし、崩壊する制御卓へ手をかざそうとする。
しかし、その前に静かに立ち塞がったのは、漆黒のドレスを風になびかせるイザナミ——十六夜美奈子であった。
「くすくす……静かになさい、DIN001。王の器を演じる時間は、もう終わりですわ」
美奈子の瞳には、情けも慈悲もない。ただ冷酷で惨絶な、二十年越しの歓喜が宿っていた。
「な……何だと……? 私はセルパン! 世界を統べる至高の存在だぞ! 貴様のような秘書が、私にそのような口を——」
「秘書? ふふ……本当にお可哀想な人」
美奈子は細い指先をすっと掲げ、セルパンの胸部に刻まれたDINの刻印を指し示した。
「貴方は世界を統べる覇王などではありません。私の技術によって拾い上げられ、偽りの記憶と膨大なエネルギーを詰め込まれただけの『実験用コンテナ』——DIN(ドクターイザナミナンバー)001。それが貴方の正体ですわ」
「バ……バカな……!? 私は……私はセルパンだ! ライブメタルの力で世界を——」
「貴方が集めさせたライブメタル……モデルX、Z、H、F、L、P、そしてAの共鳴エネルギー。それらはすべて、貴方の体内に組み込まれた『究極のコア』を覚醒させるための触媒に過ぎなかったのですよ」
美奈子が背後の闇へ向かって手を差し伸べると、影の中から恐ろしい殺気を放つDIN002・プロメテとDIN003・パンドラが姿を現した。
「プロメテ……! パンドラ……! こいつを押さえつけろ! 秘書の暴走を止めろ!」
セルパンが二人に命じる。しかし、ふたりは嘲笑を浮かべたまま動かない。
「ハッ……見苦しいぜ、偽物の社長さんよ。お前の役目は最初から『エネルギーの貯蔵庫』なんだよ」
プロメテが漆黒の大鎌を旋回させ、セルパンの足元を容赦なく切り裂いた!
「グアァァァッ!?」
「……静かに消えなさい……。貴方の犠牲によって……『真の完成』が訪れるのだから……」
パンドラの指先から放たれた氷の楔が、セルパンの四肢を完璧に穿ち、拘束した。
「お前たち……最初からこの女と……っ! 許さん……許さんぞイザナミぃぃぃっ!」
絶叫するセルパンを中心に、部屋の床一面に巨大な不吉の紋章が浮かび上がった。
ズズズズズズズズ……ッ!!
本社タワーの地下最深部から、地鳴りのような重低音が響き渡る。
セルパンの体内から抽出された莫大なエネルギーと、市街地で戦い続けてきた七つのライブメタルの共鳴波形が、床の紋章へと吸い上げられていく。
セルパンの肉体が、まるで乾いた粘土のようにひび割れ、砕け散っていく。
「私……私が……生贄だとぉぉぉぉぉっ! グアァァァァァァァッ!!」
断末魔の叫びとともに、DIN001・セルパンの肉体は完全に崩壊し、純粋な高濃度エネルギーの濁流となって中心の「コア」へと呑み込まれていった。
その中心から浮上してきたのは——
魔剣の如き不吉なシルエットを誇る、血のような深紅と漆黒の超巨大金属体——**『新生モデルV』**であった。
かつて世界を狂気と破滅へと陥れた狂王の遺産。それが、美奈子の魔法工学と「プロジェクト・ヘヴン・ネオ」の真のプログラムによって、過去のそれを遥かに凌駕する絶対の破壊兵器として完璧に新生・完成したのだ。
「ああ……素晴らしい……! これこそが、私の『プロジェクト・ヘヴン・ネオ』の真の姿……!」
美奈子は溢れる狂気の笑みを隠そうともせず、両手を広げて新生モデルVの深紅の輝きを浴びた。
遅れて、崩落する最上階へと駆けつけてきた雄真、春姫、杏里、小雪、すもも、八輔の六人。
彼らの眼前で繰り広げられたのは、仲間だと思っていたセルパンを生贄にしてまで完成された、真の悪夢の覚醒であった。
「セルパンを……生贄にした……!?」
雄真が息をのむ。
「イザナミ……! あなたの本当の目的は……一体何なの!?」
春姫がダブルセイバーを強く握り締め、鋭い声を浴びせる。
美奈子はゆっくりと振り返った。その瞳には、瑞穂坂学園、そしてこの街の全ての人々に対する深い深遠な怨念が渦巻いている。
「本当の目的? ふふ……決まっているでしょう」
美奈子は優雅にドレスの裾を翻した。
「二十年前、私から夢を、名誉を、そして人間としての未来を奪い去ったこの瑞穂坂……。この街に住む数万の人々……その生命、精神、肉体すべてを解体し、純粋な『サイバーエルフ』へと変換して、この新生モデルVへと丸ごと喰らわせることですわ!」
「な……なに……!?」
杏里の顔から血の気が引く。
「街の人々を……全員サイバーエルフにして吸収させる……!? そんなの、ただの虐殺じゃないか!!」
八輔が叫ぶ。
「ええ、虐殺ですわ! 復讐ですもの!」
美奈子の声が、狂気とともに突き抜ける。
「瑞穂坂学園が誇る生ぬるい魔法理論……親愛や絆などという薄汚い幻想……。それらすべてを、この新生モデルVの業火で焼き尽くし、ただのエレクトロン(電子の屑)に変えて差し上げます! 誰も逃がさない……一人残らず、私の復讐の糧となっていただくのです!」
「そんなこと……絶対にさせるかぁぁぁッ!!」
雄真が叫び、モデルXとモデルZを解放する!
「ダブル・ロックオンッ!!」
青と赤の閃光が駆け抜け、ロックマンZXが美奈子へと突進した。
「疾風の如く……消え去れ!」
雄真のゼットセイバーが、閃光となって美奈子の首元へと奔った!
だが——
バチィィィィィンッ!!!!!
一閃されたセイバーの刃は、美奈子の数十センチ手前で、新生モデルVが展開した「絶対否定障壁(アンチ・イグジスタンス)」によって完璧に弾き返された!
「ぐはぁっ!?」
衝撃波だけで、雄真の装甲に過負荷のアラートが鳴り響き、後方へと吹き飛ばされる。
「雄真くん!」
すももと小雪が駆け寄る。
「フハハハハ! 無駄だ無駄だぁッ!」
プロメテが大鎌を振り回し、狂乱の高笑いを上げる。
「新生モデルVと融合を果たしたイザナミ様に、貴様らごときの未熟なライブメタルが届くはずがなかろうッ!」
「……さあ、始まりのベルを鳴らしなさい……『サイバー・ハーヴェスト』」
美奈子が新生モデルVへと命令を下した。
ズズズズズ……ドォォォォォォンッ!!!!!
新生モデルVの中央眼から、天を突く極太の紫色の光柱が放たれた。
その光波は瑞穂坂の夜空を覆う雲を物理的に破砕し、同心円状の巨大な波動となって市街地全体へと波及していく!
「キャアァァァッ!?」
「な、なに……体が……透けていく……!?」
市街地で平穏に過ごしていた市民たちが、悲鳴を上げた。
光波に触れた人々の肉体から、青白く光る粒子——サイバーエルフが強引に引き剥がされ、空中に浮かぶ新生モデルVの吸入口へと吸い上げられていく!
「街が……街の人たちがサイバーエルフに……!?」
春姫が絶望に目を見開く。
「止めなきゃ……! あたしたちの炎で……止めるのよぉぉぉっ!」
杏里がナックルバスターを全開で連射するが、新生モデルVの周囲に展開された莫大な空間歪曲の前に、すべての攻撃が無力に霧散していく。
「ふふふ……アハハハハハ!」
美奈子の高笑いが、崩壊するタワーに響き渡る。
「ご覧なさい! この美しき惨劇を! 瑞穂坂の命が、私のもとへ集っていく! もう誰にも止められませんわ! この世界は、新生モデルVの咆哮とともに滅びるのです!」
圧倒的な絶望。
セルパンを生贄にして覚醒した新生モデルV。
瑞穂坂の人々をサイバーエルフにして吸収していく、十六夜美奈子の惨烈なる復讐の虐殺。
かつてない最大の危機が、雄真たち六人の適合者と、瑞穂坂の全てを呑み込もうとしていた——!
天を焦がす紫黒の光柱が、瑞穂坂の街全体を絶望の血色に染め上げていく。
崩落したセルパンカンパニー本社の最上階。
破砕されたコンクリートと歪んだ鉄骨が散乱する瓦礫の頂で、十六夜美奈子——イザナミは、狂おしいほどに眩い新生モデルVの核へとゆっくりと浮遊していった。
「二十年前……私を放逐し、私の未来を奪った瑞穂坂の愚者どもよ。聞きなさい……これが、貴方たちが踏みにじった才能の『真の結末』ですわ!」
美奈子の叫びとともに、新生モデルVが脈動し、血のような液体金属の束となって彼女の全質感を包み込んでいく。
ドクン……! ドクン……!
「な……何が始まるっていうんだ……!?」
雄真が息を呑む。
「……己の肉体すら……人間の領域を捨て去る気ですか……!」
小雪が、蒼きハルバードを握りしめながら身震いした。
美奈子は、この日のために自らの肉体そのものにも容赦のない魔改造を施していたのだ。
セルパンをDIN001、プロメテをDIN002、パンドラをDIN003とするならば……彼女自身こそが、全ての起源にして絶対の頂点。
**DIN000——『アポカリプス』。**
「
ドッッッッゴォォォォォォォンッ!!!!!
次元そのものが破砕されたかのような大爆発が巻き起こった。
紫黒の激流が弾けた中心に現れたのは、人間離れした威容を誇る「終末の女神」の姿であった。
身丈は3メートルを超え、頭部には邪悪な悪魔の角を思わせる四本の巨大なアンテナが天を突く。背中からは漆黒の翼と、高濃度のサイバーエルフを直接燃料として噴射する重エネルギーの尾がしなやかにうねっていた。全身を覆うのは、光すら吸い込む絶対無の暗黒装甲——。
「フフフ……ハハハハハ! これがDIN000……我が最高傑作『アポカリプス』の力ですわ!!」
地鳴りのような重低音のソプラノが、市街地全体に響き渡る。
アポカリプスこと、イザナミがただ一筋、細い指先を掲げただけで、周囲の空間が重力波によってへこみ、激しい衝撃波が六人の適合者たちを襲った!
「グアァァァァッ!?」
「きゃああああっ!」
雄真、春姫、杏里、小雪、すもも、そして八輔の六人が、防護障壁ごと吹き飛ばされ、瓦礫の山へと叩きつけられる。
「強い……! 今までのフォルスロイドやプロメテたちとは……根本的に次元が違いすぎる……!」
春姫が吐血しながら、歪んだダブルセイバーで体を支える。
「ハッハァ! 無駄だ無駄だァッ!」
プロメテが大鎌を突き立て、狂乱の声を上げる。
「イザナミ様……いや、DIN000アポカリプス様は、この街中のサイバーエルフを直接エネルギーに変換して無制限に自己再生する! 貴様らごときの威力の攻撃など、かすり傷一つつけられんのだよッ!」
アポカリプスが両腕を広げると、暗黒の球体が形成され、それが一瞬で数百の漆黒の誘導光弾となって降り注いだ!
「くっ……『すもも忍法・影分身』っ!」
「水流障壁!」
すももと小雪が必死に防御に入るが、圧倒的な「純粋な質量」の前に相次いで装甲を粉砕され、変身が解けかけて地上へと倒れ込む。
「すもも! 小雪さん!」
雄真が叫ぶが、アポカリプスから放たれた目に見えぬ重力波が雄真の全身を押し潰し、地面にめり込ませた。
「ククク……無様ですわね、適合者ども。貴方たちの誇る『絆』など、私のアポカリプスの前には虫ケラの足掻きに過ぎませんのよ!」
アポカリプスの容赦ない足踏みが、瑞穂坂の希望を完膚なきまでに叩き潰していく。
市街地では街の人々が次々とサイバーエルフ化して吸い上げられていき、このままでは数分と持たずに街全体が全滅する——絶対の絶望が、その場を支配していた。
「くっそ……! なんだよあの大バケモノ……! 勝てるわけねえじゃんかよぉ……!」
瓦礫の陰で、腰を抜かした八輔がガタガタと震えていた。
その手の中で、銀と朱のライブメタル——モデルAが、怪しく輝き始める。
『おいおい、諦めるんじゃねえよ八輔! 命がけの土壇場ってのはな……ハッタリ(ブラフ)の効かせどころなんだよ!』
「ハッタリ!? あんな神様みたいな化け物にハッタリなんて効くわけないだろ!?」
『いいから黙って俺様の言う通りにしな! 『モデルA』の本当の力、見せてやるぜ!』
モデルAの中央レンズが、超高周波の共鳴波を発し始めた。
モデルAの真の能力——それは、かつて交戦・解析した強者のデータを完全に複製し、その姿と能力を一時的にコピーする**『
『八輔! 変身だ! おいらに合わせて大声で叫べ!』
「ええい、もうヤケクソだぁぁぁっ!
銀と朱の強烈な閃光が、瓦礫の陰から爆発的に噴き出した!
『トランスオン……**『アルバート』**ッ!!』
ズゴォォォォォォンッ!!!!!
突如として、崩壊するタワーの頂上に「巨大な時空の歪み」が発生した。
アポカリプス(イザナミ)が攻撃の手を止め、怪訝そうにその歪みへと巨大な首を向けた。
プロメテとパンドラの顔色が一変する。
「な……なんだこの波形は……!? まさか……そんなはずは……!?」
プロメテの声が酷く引きつる。
光が収まったそこに立っていたのは——
かつてモデルVを創り出し、世界を破滅寸前まで追い詰めた「究極の賢者」——**アルティメット・アルバート**の姿であった。
重厚な絶対皇帝の装甲、背後に揺らめく神々しい輪行光。
それは、かつてイザナミすらも恐れ、プロメテとパンドラに消えないトラウマを植え付けた「世界の創造主」の姿そのものであった。
「……バ……バカな……!? アルバート……!? 彼は死んだはず……!」
パンドラの無機質な声が、初めて激しく狼狽えた。
「くくく……ははははは!」
アルバートの姿となった八輔(&モデルA)が、腹の底から重厚な「神の高笑い」を響かせた。
(※実際は八輔が必死にモデルAのアドバイス通りに声を作っているだけである)
「十六夜美奈子……いや、イザナミよ。わたしのモデルVを勝手に改造し、我が庭であるこの世界で王を気取るとは……片腹痛いぞ」
「ア……アルバート……!? なぜ貴方が……魂まで消滅したはずの貴方がここに……!?」
流石のDIN000アポカリプス(イザナミ)の巨体が、一歩後退りした。
イザナミの全設計思想のベースには、アルバートが残した「モデルVの解析データ」が存在する。彼女にとってアルバートとは、超えるべき壁であると同時に、底知れぬ恐怖の象徴でもあったのだ。
「我が復活の時……! すでに我が真のコードは、この瑞穂坂の全魔法脈(メインライン)へと書き込まれた! イザナミよ、貴様が集めたサイバーエルフのエネルギー……すべてわたしがいただく!」
アルバート(モデルA&八輔)が悠然と手をかざすと、モデルAの全出力のホログラム波形が展開され、あたかも街全体のサイバーエルフが「アルバート側へ逆流し始めた」かのような偽のシステムアラートが、イザナミのバイザー内に凄まじい勢いで表示された!
『警告! 未知の管理権限が割り込みました!』
『エネルギーの全系統が『アルバート・コード』へと上書き中!』
「な……何ですって……!? 私の……私の『プロジェクト・ヘヴン・ネオ』が……上書きされているの……!?」
アポカリプスの胸部のコアが、動揺とシステム誤作動によって激しく明滅し始める!
「プロメテ! パンドラ! アルバートを排除しなさい! 急ぎなさいっ!」
美奈子が狂乱の声を上げる。
だが、アルバートのトラウマを刻み込まれているプロメテとパンドラは、恐怖で身体がすくみ、動くことができない!
「いま言ったろ……! **『ハッタリ』**だってなッ!!」
八輔の叫びとともに、アルバートの幻影が打ち消され、モデルAの真の姿が露わになった!
「雄真! いまだぁぁぁぁぁっ!! システムがバグってる隙に、あいつの胸のコアを叩き込めぇぇぇぇっ!!」
「ハチ……モデルA! サンキューッ!!」
虚仮威しによって生み出された、奇跡の一瞬のスキ。
倒れていた雄真が、渾身の力を振り絞って立ち上がり、モデルXとZの全エネルギーをゼットセイバーへと収束させた!
「行くぞぉぉぉぉっ! イザナミぃぃぃぃっ!!」
赤の奇跡の光が、動揺するアポカリプスの胸元へ向かって、一筋の彗星となって突進していく——!