一人は完全聖遺物を二つ装備しているクリス。
一人は投影魔術にて贋作にして偽りの完全聖遺物を持つイリヤ。
そしてシンフォギアを纏う響と翼。
二対一ではなく、三つ巴。
「(やっぱり、あんな小さな子が戦ってるなんて……) 待って――ッ!?」
響は何とかイリヤと対話しようと動く。
だがそんな響の前に翼が遮るように背を向けて出た。
「翼さん…!?」
「立花はネフシュタンの方を。彼女はネフシュタンの少女をも追い詰める程だ。彼女は私が止める」
翼はアームドギアを持ち、イリヤへと歩み寄る。
「忠告よ。今すぐその聖遺物を手放し投降しなさい」
翼は忠告を告げるも、イリヤは返事を返さない。
否、その返事を先手必勝とばかりに一瞬にして翼との距離を詰め、干将・莫耶を振るった。
咄嗟ではあるが翼は反射的にアームドギアを上げ、その刃を受け止めた。
そして白銀と黒曜の刃と蒼の刃が金属音と共に火花を散らす。
「へぇ、流石は天羽々斬ね。いや、主であるあなたとの相性がいいからこれに反応出来たのかしら?」
「(幼子とは思えぬ筋力……!) そういう貴様はなぜデュランダルを狙う? そして貴様が今振るっているその双剣らしき剣は完全聖遺物であっているでしょう!?」
「流石トッキブツ、情報収集はストーカー並ね。でも残念。半分正解だけど半分は不正解…これは確かに完全聖遺物に当たるでしょうけど、これは贋作よ?」
「贋作? ――がっ!!」
隙だらけと言わんばかりにイリヤは翼の腹に膝をたたき込む。
身体的な差はその肉体そのものの筋力にも左右される。なにより、彼女たちが纏うシンフォギアのバリアフィールドは、通常兵器程度の攻撃なら簡単に無効化するほどの防御性能を誇っていた。
接触した人間を炭素転換するノイズの力も無効化する唯一の装備にして、当然通常兵器や人間の純粋な筋力などにも勝る。
例外は存在し、その例外の一人はまさにイリヤだ。
彼女はかつて遠坂凛が魔術を用いて身体強化し、キャスターに対して近接戦闘で追い詰めた経歴を知っている。
それを参考にし、並びに投影魔術と聖杯の理論を飛ばし結果を見出す力を使い、自身の身体能力を大幅に上げている。
故に普段から着込んでいる、貴族の衣服のままであり、ただ武器を持っただけの姿でありながら、それとは裏腹にシンフォギアを纏う者すら追い込む体術を引き出している。
憑依する対象は常に最強の自分。
そして夫婦剣を愛用し使い続けた兄にして弟であり、英霊へと成り果てたアーチャーだ。
「(この
「(やっぱ耐えるか…) さすが最古の装者ね!」
距離を取った翼は蒼き剣の斬撃――千ノ落涙が雨のごとく降り注がせた。
「
イリヤは夫婦剣を両方とも投擲する。
それを見て翼は完全聖遺物を自ら放棄したのかと混乱するがそれは違う。
それぞれが斬撃に当たった瞬間、まるで意図的にルートが定められたように、破壊しその衝撃で跳ね返りを繰り返して全てを破壊していく。
やがて最後の剣をそれぞれが破壊し、夫婦剣も耐えきれず砕け散りながら消滅した。
「自ら完全聖遺物を棄て、あまつさえ破壊するなんて……」
翼が困惑するが。実際その真実を知る者からすれば、あの夫婦剣は矢として放った他の聖遺物同様、そこまで気にする代物ではない。
まさしくそうだと言わんばかりに、イリヤは横目で響とクリスを確認する。
向こうも向こうで交戦しており、向こう側に変に近寄らない限りは翼に集中できると思っているのだろう。そんなイリヤに向かって翼は接近した。
「自身の武器を棄て、あまつさえ意識を外すなど! だが勝機!!」
翼はアームドギアをイリヤへ向けて横に振るう。
しかしそんなイリヤはなぜか翼を見るや否や不気味にも笑みを浮かべた。
「――
瞬間、イリヤの魔術回路が再び、一斉に動き出す。
――
――
――
足りないものは聖杯にて理論を飛ばし結果を見出すことで補わせる。
アインツベルンの、最高傑作として造られたその肉体に宿る魔術回路が聖杯と共に動き続ける。
悲鳴を上げず、慣れ親しむが如く魔力が流れる。
全身を駆け巡る血の如く、慣れ親しんだ感覚。
その手に漏れ出す魔力の蒼き稲妻は黒と白と成り、剣と成す。
この間たったの5秒前後。
戦場では数秒単位であろうと、気が長くなるほど長く感じる時間。
しかし経験の差は大きく、五秒など距離を詰める頃には終わり、剣を振るう際にはさらに数秒いる。
だが問題なく、蒼き剣の刃が、黒曜と白銀の双剣の刃によって防がれた。
「な…ッ!? その剣はさっき貴様が…!?」
「別にアレだけとは言ってないわよ? それにあなた達だって、何度も同じ武器とか出せるじゃない」
弾き返し、距離を取る。
先ほどの千ノ落涙を防ぐ際に破壊されたはずの夫婦剣がしっかりとイリヤの手に握られている。
「(あれは……いや、まさか? 仮にそうであるとしても世界の修正力によって長くは持たないはず)」
しかし了子だけが、その夫婦剣を生み出したカラクリに薄々気づき始めていた。
だがイリヤはそんな了子を気にすることもなく、翼を真っすぐ見つめる。
「行くわよ――風鳴翼」
瞬間、イリヤはその場から一瞬にして姿を消した。
翼は呆気にとられたのもつかの間、遠くから見ていた故に僅かに見えていた響の声によって、横から来ることに気づき、手荷物剣にて攻撃を防いだ。
「くっ…!」
その後もほぼ一方的、防戦一方な攻撃が続く。
「(手加減はしてるけど、まだ無印だとここまでが限界みたいね)」
「(何とか反撃の糸口を…!!)」
そしてイリヤが翼の背後に回り、気絶させようとした瞬間、金属の蓋が跳ねる音が全員の耳を貫くように響いた。
イリヤでさえ動きを止め、音の方へ振り向く。
すると地に転がり落ちていたアタッシュケースが弾かれるように開いた。
天へ自ら登り、その姿を露にする。
欠けた先端を持ち、石化しながらも周囲を圧倒する存在感を放つ一本の剣にして完全聖遺物。
デュランダルが今、起動しようとしていた。
「あれがデュランダル…! (確かまだアレは起動してない。自身をその手に持つ主を得て起動する…それはすなわち)」
イリヤは響の方を見る。
そんな響は既に動いており、デュランダルを奪おうとするクリスを押し退かして、その手に取ろうとしていた。
その先の展開を既に知っているイリヤならどうにかできただろう。
だが予想以上に起動が早かったのと、実際に目に見るその存在感に打たれ、一歩出遅れてしまっていた。そして響はついにデュランダルをその手に納める。
デュランダルとは『シャルルマーニュ』に仕えた聖騎士『ローラン』の愛剣として知られている聖剣。
だけど実際その経緯は文献によって異なっているが、共通点として、デュランダルはまさに聖剣である事は本当だ。
何よりそのデュランダルを愛用していたローランは、死の間際に、敵の手に渡ることを恐れ、岩にて叩き折ろうとした。
だがデュランダルの切れ味の鋭さは、如くもの無しと言われている。
今目の前にあるのは先端が欠けているが、その詳細は不明。
しかしそれが完全に起動したとき、その先端も元通りに復元される。
そしてデュランダルは不滅の刃という意味が示す通り、一度覚醒すれば無尽蔵にして膨大なエネルギーを生成する。
その質量を受け止められる器をローランは持っていた為、愛剣としても活躍しその名を歴史に刻んだ英雄となった。
だがその器を響は持っていない。
それ程の器か、元から何もない空っぽな人形でもあれば可能だったろう。
次の瞬間、デュランダルの無尽蔵にしてる膨大なエネルギー…無限のエネルギーが響の中へと問答無用とばかりに注入されて行く。
聖遺物と融合したその肉体の中に注がれていく無限のエネルギーが、太古の力が、響の意識を呑み込み蝕んでいく。
「――■■■■■■ッ!!!!!!!!!」
響の意識が塗り意識を呑み込み蝕んでいく。
塗り潰そうとし、塗り潰されていく。
そして響の意識は完全に消え、立花響という精神を作る自己犠牲は塗り潰された。
代わりに彼女の顔に出てきたのはデュランダルの力。まさに、黒い影のようなものであり、咆哮を上げながらその手に握る剣を空高く掲げ、デュランダルを覚醒させた。
石化が解け、黄金の姿となりて剣先が復元される。
その覇気、波動、抑圧、圧迫は凄まじいもの。
翼はどうにか巻き込まれないためにも免れようと、了子を連れて離れようと考える。
クリスは力と痛みこそ人を繋ぐと洗脳染みた感じで教えられている故、思わず了子へと振り向く。
了子はその場から動かず、見惚れているような表情を露にしていた。
そんな了子を見たクリスは怒りと焦りからか、ソロモンの杖でノイズを召喚する。
しかし召喚されたノイズに気づいたのか、響の視線はイリヤたちへ向けられる。
イリヤはクリスの行動に焦り、思わずクリスを睨んでしまうがすぐに響へと戻す。
このままではここら一帯が、工場地帯なのもあり大惨事になる。
故に彼女は夫婦剣にて邪魔なノイズを炭化させた後、消滅させ、屈みこみ、片手を地に叩きつけるように着かせる。
「
再び魔術を口に告げる。
次の瞬間、翼たちの視界に映ったのはイリヤが魔法陣に包まれ、その身に纏う姿を変えたこと。
そして彼女の脳裏には、自身と同じ姿…否、己の憧れでもある彼の成れの果てにして、今自身が
次に脳裏に映すはその英霊が用いる最強の盾。
ケルト神話に伝わる英雄の因果逆転の槍の宝具を、太古の王にして英雄王の無数の宝具を、そして黒に染まりしブリテンの伝説的君主にして王の宝具を防いだ。
それはギリシャ神話のトロイア戦争にて大アイアスが使用した盾。
一枚一枚が古の城壁と同等の防御力を持ち、英雄ヘクトールの投擲を唯一防いだもの。
「
――
――
――
己の用いる知恵を、前世より蓄えた知識を、その身に刻んだ経験を、全てを総動員させる。
どうしても足りないものは理論を飛ばすほかなく、理論を飛ばせばその分贋作の完成度は劣るだろう。
しかし第三の視点、いわば神の視点にて全てを見て、そして己がマスターの肉体、魔術回路等を持つ彼女は聖杯に頼らず、自身で可能にするものは自力で行った。
「
最終的に聖杯を持ってしてその結果を示し、準備を終え、魔術回路が総動員してその手に魔力を集中させる。
三人の前に立ち、構え、その手を突き出すように掲げ掌を開く。
「――
響が聖剣にて溜められしエネルギーを振り下げ解き放つ。
地を這い、抉りながら目の前の標的へ向かうエネルギー。
だが瞬間、その手に七つの光が発生し、中心にて咲くが如く開かれる。
彼女は贋作でありながらにして――その手に顕現させた。
「――
咲くは
瞬間――デュランダルのエネルギーが衝突し、その衝撃波によって周囲の物を破壊。
海を越え小さな津波すら引き起こした。
「くぅ…!!」
しかしイリヤは
地を砕きながらも強く足を踏ん張る。
彼女の後ろには今、翼、クリス、了子の三人がいるからだ。
「(アインツベルンの末裔……なぜ貴様がその盾を持っている!? ただ魔術を扱うだけの貴族だった貴様が、何故それを!?)」
余波に耐える中、了子はもはや視線がイリヤへと向けられていた。
アインツベルンが魔術師であり、彼女がその末裔なのは気づいている。
しかし夫婦剣や今彼女が使用している盾は、了子の手に渡る事がなかった、否、見つかることもなかった代物だ。
だがその盾も贋作に過ぎない。
故に一枚、また一枚と砕け散っていく。
「(やっぱり!! 融合症例なのもあってか力増大過ぎる…!! このままじゃ……!!)」
「■■■■■■■■■■ッ!!!!!!!!!」
響の咆哮と共にエネルギーは増大する。
残り枚数は三…このままではダメだと悟りイリヤは後方へ叫んだ。
「あなた達!! 私が防いでるうちに速くここから離れなさい!!」
「ッ!? なぜ貴様が…」
「いいから速く!!」
それを聞いた翼は、急ぎ了子を半端無理やり抱えてその場から離れ、クリスもネフシュタンに搭載されている飛行能力にて離脱した。
三人が離脱した途端、一気に二枚割れ、ついに枚数は一枚となる。
「もう…だめっ……!!!」
そして最後の一枚も割れ、イリヤは――デュランダルの膨大なエネルギーに吞み込まれた。
※ ※ ※
心電図による一定のリズムの音が耳に入る。
瞼を上げ、開かれた視界で見て最初に出た言葉は――
「……知らない天井ね」
その言葉だった。
視線を動かせば、自分が横たわってるのがわかる。
周りにはいろんな計器が周りをひしめき合っていて、点滴が私の腕に繋がれている。
もうそれだけでわかる。
ここは――リディアン音楽院の地下、特異災害対策機動部二課元本部の医務室であると。
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