視点 〜先生〜
今日は色々な事があった。ゲーム開発部のモモイとミドリに招待され、やってきたミレニアムサイエンススクール。ゲーム開発部は廃部の危機にあり、その解決の手助けを求められたのだ。
ミレニアムの生徒会、セミナーの会計であるユウカが言うには、ゲーム開発部は実績のない少人数の部活動。規定人数である4人を満たさなければ、廃部にするしかないとの事。モモイも何かと反論していたが、いっそ清々しいほどに全てユウカに論破されていた。
とはいえモモイもミドリもゲームに対して真剣に向き合っている事は伝わってきたし、ゲーム開発部の存続を手伝う事に異存はなかった。ユウカもゲーム開発部を潰したいわけではなさそうだったし。では、どのように部活動の条件を満たすのかという所で、モモイはこう言ったのだ。
「『あれ』を探しに廃墟に行こう!」
モモイ曰く、『あれ』とはG.Bibleという読めば最高のゲームを作れるようになるゲームの聖書、らしい。そしてそのG.Bibleはミレニアムの廃墟にあると。廃墟はキヴォトスから忘れられたものが集まる時代の下水道、との事。つまりは時代に取り残された古代文明の遺跡、といった所なのだろうか。
とにかくそれを探しに廃墟へ行った私と、モモイ、ミドリの3人は、その廃墟の中で1人の少女を見つけた。地面に着くほどの長い黒髪に青い瞳を持った、普通の生徒とは全く違う、恐らくアンドロイドのような少女。モモイがアリスと呼んだその少女は何も覚えていないようで、ゲーム開発部の部室へ連れて帰った。
凶暴なロボットが巡回しているあの廃墟にこの子を置いていくわけにもいかなかった事もあったし、そしてモモイのとある計画のためでもあった。アリスをゲーム開発部の部員とする事で、部員の人数が足りない、という問題を解決しようとしたのだ。
モモイはアリスをミレニアムの学生に登録するために動き出し、ミドリは機械のような受け答えしかできないアリスにゲームで語彙を学ばせる事を決め、私はそこでシャーレに帰る時間が来てしまった。
本来ならば、記憶喪失の生徒の保護は連邦生徒会やヴァルキューレに声をかけるべきかもしれない。それでも、あの子たちが決めた事だし、いざという時には私が責任を取ればいい。アリスについてはシャーレでもできる限りで手を貸せる用意はしておこう。
今日に起こった出来事を頭の中で振り返りながらミレニアムの部室棟の廊下を歩いていると、向こうから来た1人の生徒が足を止めた。どうしたのだろうかと私も足を止めると、その生徒は私の顔を見て小さく口角を上げ、口を開いた。
「はじめまして。あなたはシャーレの先生、ですか?」
「“うん、そうだよ。君は?”」
「私は有栖川テラ。先生と一度お話してみたくて、少しお時間、よろしいですか?」
ミレニアムの標準的な制服とジャケットを身に着け、淡い水色の髪を足首まで届くほどの長さのポニーテールにまとめている。垂れた眉毛や緩んだ口元が生意気そうな印象を与え、細められた赤色の目もその印象を強めている。
モモイやミドリよりも小柄で、背中には見た事のない不思議な構造をしたショットガンを提げている。どこか浮世めいた、不思議な雰囲気を持った少女。
「“大丈夫だよ。何か相談事?”」
「いえ、そういうわけではありませんが………ただ単純に、先生がどんな人なのか興味があるんです」
「“私………?”」
テラはじっと私を見つめ、言葉を続けた。
「アビドスで大立ち回りをしたと聞いたので、もっと威厳のある人かと思ったんですが………」
「“………あれはアビドスの皆が頑張ったからこそだよ。私は少し手を貸しただけだからね”」
私の返答に目を開いて少し驚いたような表情を見せたテラは、すぐに目を細めた状態に戻して少し屈み、上目遣いで私を見上げた。
「なるほど、あくまで少し手を貸しただけ、と」
「“そうだね。私はあの子たちの背中を押しただけだから”」
私の目をじっと見つめるテラに微笑む。確かに私が動いた部分もある。ゲマトリアの黒服とは私が交渉してホシノとの契約を破棄させたり、ゲヘナ学園の風紀委員会にも私が助力を頼んだ。トリニティにしても、協力を得られたのは私の名前があったことが理由の1つだったとも言われた。
それでも、私がアビドスの皆の力になったとしても、それは罷り間違っても私だけの成果ではないし、アビドスの皆が頑張ったからこそ、あの結果に終わらせる事ができたのだ。私はお膳立てをしただけ。実際に戦い、選択し、勝ち取ったのは他でもない彼女たちだ。
「………先生の人となり、何となくわかりました」
姿勢を戻したテラは、私を見てにやりと意地悪な笑みを浮かべた。
「それなら、先生のいやらしい噂もやはりデマなのでしょうね」
「“………いやらしい噂って何!?”」
「あれ、知らなかったんですか? 色々と噂されていますよ? ストーカーをしたとか、生徒の足を舐めたとか………先生?」
「“………”」
何となく思い当たる節がある内容に、思わず言葉が詰まってしまった。そしてそんな私の様子を見てか、ある程度好意的だったテラの目が一瞬で冷たくなった。
「………評価を改める必要がありそうですかね?」
「“い、いや待って、テラ! 誤解だよ! 信じてほしい!”」
「身に覚えがあるという表情でしたよ。………ああ、もしかしてそうやって謙虚に振る舞って借りを作った相手にそういう………」
「“誤解! 本当に誤解だから! どっちも理由があったの! そんな目で見ないで!”」
「って事は本当にやったんですね………近付かないでいただけます?」
「“弁明させてほしい!!”」
テラの誤解を何とか解いて私の名誉はある程度回復した。私の弁明を聞いてなおテラの視線の冷たさは戻らなかったが、完全に誤解されたままでないだけ良しとしよう………。
「そういえば、先生はなぜミレニアムに?」
「“ゲーム開発部の子たちに呼ばれてね。彼女たちを手伝っていたんだ”」
「………ああ、あの騒がしい双子が所属している部活ですね」
「“あ、知ってるの?”」
「学年が同じなので、何かと見かける機会がありますから」
確かに、あの2人はかなり目立っていそうだ。実際、ユウカが言うには、ゲーム開発部はこれと決めた事には周りを巻き込んででも達成しようとする所があるらしく、何度か問題事を起こした事もあるらしいし。
「先生、今日はありがとうございました」
「“あれ、もういいの?”」
「はい。先生がどんな人なのか、おおよそわかりましたから。またお会いしましょう、先生」
「“うん、また”」
そう言って頭を下げるテラに、私も同じように頭を下げて挨拶を返した。頭を上げてテラに微笑んでから、私はシャーレへ戻るために足を進めた。
テラのデザインを変更しました
黒い紫色の髪→淡い水色
金色の瞳→赤色の瞳