視点 〜モモイ〜
「うーん、明日の朝にまた行くしかないよね」
アリスの学生証を作るために事務室に行ったはいいものの、時間が遅かったからか担当の人がいなくて学生証を発行する事ができなかった。まあ、一応ヴェリタスに頼んでアリスを学生として登録してもらう事はできたから、そこまで焦る必要はないけど。
「あれ?」
ゲーム開発部の部室に戻ると、その扉の前に誰かが立っていた。特徴的な淡い水色のポニーテールと、腰に提げているモノクロカラーのショットガン。私にもミドリにもあんな知り合いはいないし、ユズの友達? いやでも………話してみればわかるか。
「ねぇ、そこで何してるの?」
私が後ろから声をかけると、びくっと肩を揺らしてその子が振り返った。さっきの大きなリアクションはどこへ行ったのか、どこか生意気そうな表情で私を見た。なんだか顔が少し赤い気がするけど、体調でも悪いのかな。
「あなたは………才羽モモイ、ですね?」
「え、そ、そうだけど………あなたは?」
「有栖川テラと言います。少し、ゲーム開発部に興味が出てきたので訪ねてきたんです」
「私たちに?」
「はい」
ゲーム開発部に興味を持ってくれるなんて!? いや、まだわからない。「興味があるんですよ、あのゲームを作った人間がどんな顔をしているのかって」みたいな事を言ってくるかもしれない。実際ゲームのレビューで言われた事あるし! この子なんか胡散臭いし!
それに、興味を持ってくれるのは嬉しいけど、今はタイミングが悪い。アリスがいるのだ。ミドリにアリスの事を頼んだが、まさか30分もしないうちにあの話し方が改善されるとは思えない。
アリスを立ち入り禁止の廃墟から連れてきた事はわからないだろうけど、それでもアリスについて怪しまれる可能性がある。最悪ユウカにさえバレなければいいとはいえども、不安要素はあまり増やしたくない。
そもそもどうしてこのタイミングで来たんだろうか。単なる偶然の可能性もあるけど………もしかして。
「まさか、セミナーの回し者だったりする!?」
「いえ。先程そこで先生にお会いして、ゲーム開発部の手伝いをされていたと聞きまして、それで私も………」
「先生?」
先生から聞いたのか。あれ、それならもしかして、既にアリスの事も知っていたりするんだろうか。先生に言われて手伝いに来てくれたんだったら、それはありがたいかもしれない。
「来てくれてありがとう! 入っていいよ!」
「はい、お邪魔します」
言葉を覚えさせるなんてどんなやり方がいいかわからないし、人数が多い方が色々なやり方を思いつけるはず。部室のドアを開けて中に入ると、なぜかアリスが私たちの作ったゲーム、『テイルズ・サガ・クロニクル』をプレイしていた。丁度最初のチュートリアルでゲームオーバーになっているところみたいだ。
「あははははっ! 予想できる展開ほどつまらないものはないよね! 本当はここで指示通りじゃなくて、Aボタンを押さなきゃいけないの!」
「チュートリアルで指示に従ってゲームオーバーになるのは、ゲームとしては欠陥じゃ………」
うぐ、いや、確かにそういう意見もあるかもしれないけど………。
「お姉ちゃん? ………その人は?」
「え、先生が手伝いを頼んでくれた子じゃないの?」
「………知らないけど」
「え」
ミドリ知らないの? もしかして私、やらかした? いやでも、先生から私たちの事を聞いて手伝いをしにきたって言って………あれ、聞いたとは言っていたけど、頼まれたとは言っていなかったかも………?
ミドリが凄まじい速さで私に飛び付いてきて、テラには聞こえない小さな声で私を問い詰める。ミドリ、首が、首が絞まってる!
「ど、どうするのお姉ちゃん! アリスちゃんにはまだ全然話し方を教えられてないよ!? なんで他の人連れてきちゃったの!」
「ゲホッ、ミドリっ、苦しいからっ………しょ、しょうがないじゃん、先生が手伝いとして連れてきてくれたんだと思って………」
「それだったら私たちに一言言うでしょ!」
「ミドリなら知ってるだろうと思って………って、今そんな話をしてる場合じゃないよ!」
確かに私のせいかもしれないけど、私が悪いかどうかを話している場合じゃない。起きてしまった事は仕方ない。それならその後どうするかが大事。変わらずコソコソと会話を続ける。
「ど、どうする? テラには帰ってもらう?」
「テラってあの子? うん、そうだね。日を改めて来てもらう方が………」
ミドリに制服の襟を掴まれたまま、2人でテラの方を見ると、テラは固まっていた。テラの視線はアリスと、アリスがしているゲームに釘付けになっていた。
「あれ、どうしたんだろう?」
「うーん………? まあ、とりあえず一旦帰ってもらおっか。ねぇ、テラ………」
テラの方に近付き、肩に触れる。すると、さっきと同じようにびくっと肩が思い切り跳ね、私の方を振り返った。生意気そうな表情にデジャブを感じる。でもさっきと比べて耳も赤くなってるし、表情がぎこちない気がする。いや、今はそんな事はよくて。
「な、なんでしょうか?」
「えっと、ごめんね。今ちょっと取り込み中で、また別の日に来てくれたらなって………」
「………ゲームをしているだけに見えますが」
「そ、それは………えっと………」
テラがアリスを指さしながらジト目で私に言った。実際その通りだから言い返せない。別の理由を何とか探し出さないと………。
「それに、彼女はミレニアムの生徒じゃありませんよね?」
「「えっ?」」
バレた!? 嘘、いや嘘だとしてもそんな事を言う必要はない。だとしても何で気付いたんだ。まずい、このままだと私たちの作戦がパーになる………!
「な、何言ってるの? アリスは正真正銘ミレニアムの生徒でゲーム開発部の一員………」
「嘘をつかなくてもいいですよ。誰にも告げ口はしませんから。ゲーム開発部は部員が少ないですし、部活の存続が厳しくなったから、彼女を部員にしてどうにかしようという、そんなところでしょう?」
「す、凄い………」
「ぜ、全部バレてる………!?」
お、おしまいだぁ………! ゲーム開発部はここでおしまいなんだ………。ごめん、ユズ。ミドリ。アリス。それに先生も。私がバカだから………。
「ただ、黙っておく条件として、1つ私のお願いを聞いてもらいましょうか」
ま、まだ私たちには道があるの………? ど、どんなお願いであっても聞くしかない。ゲーム開発部を存続させるために。
「私を、ゲーム開発部に入部させてください」
「「………へ?」」
そんなんでいいの?