視点 〜ミドリ〜
「それで、言葉の使い方に人間味のないアリスに、ゲームを教材として話し方を覚えさせようとしたんですね」
「そう。会話をしながら進められるから、勉強方法として悪くないかなと思って」
お姉ちゃんが連れてきた女の子、テラちゃん。お姉ちゃんの勘違いのせいでどうなるかと思ったけど、アリスちゃんの事を他言しないと約束してくれた。ひとまずそれを信じるしかない。
「悪くないと思います。口調が偏るでしょうが、それはどの媒体を使ったところで生じる問題でしょうし、キャラ付けになれば印象的になりますから」
テラちゃんも賛同したわけだし、アリスちゃんのゲーム学習を再開する。チュートリアルでアリスちゃんがゲームオーバーになったところからの再開だ。改めて考えてみてもこの部分は流石に酷い。
「………状況の収束を確認。ゲームを再開します」
アリスちゃんがコンティニューボタンを押し、さっきと同じところまで戻ってきた。指示にあるBボタンではなくAボタンを押して武器を装備して、アリスちゃんが確認するように呟いた。
「装備完了………」
「お、いい感じ。そのまま進めば、RPGの花である戦闘が………」
お姉ちゃんの言葉の直後に、ゲームのBGMが変わってテキストが流れた。
『エンカウントが発生しました!
野生のプニプニが現れた!』
「緊張、興味、高揚」
「Aボタンを押して! 今度は嘘じゃないから!」
「そこに嘘が混じるのは本来おかしいですが」
アリスちゃんが感情を羅列し、お姉ちゃんがアリスちゃんに指示を出し、テラちゃんがツッコみを入れる。うん、テラちゃんのそれは本当にその通りだと思う。
「Aボタン………『秘剣つばめ返し:敵に対して2回攻撃をする』………行きます。プニプニに対して………秘剣!つばめ―――」
『ッダーン!
攻撃が命中、即死しました』
〈GAME OVER〉
「「!?」」
アリスちゃんとテラちゃんが同じ表情で固まっちゃった。そこで追い打ちのテキストがゆっくりと現れた。
『プニプニ:どれだけ剣術を鍛えたところで、我が銃の前では無力………ふっ』
「んぐくっ」
「うーん、やっぱりプニプニが『ふっ』って言うのは不自然かな」
何かがテラちゃんにクリーンヒットしたらしい。口元を抑えて肩を震わせ始めた。お姉ちゃんはお姉ちゃんで変なところに拘ってるし。
「………ツッコみどころはそこじゃないと思う」
「思考停止。電算処理が追いつきません」
「んくくく………」
「あ、アリスちゃん、テラちゃん、大丈夫?」
困惑した様子のアリスちゃんと、何がツボに入ったのか笑っているテラちゃんに声をかける。
「………テキストでは説明不可能な感情が発生しています」
「あっ、私それわかるかも! きっと興味とか期待とか、そういう感情だと思う!」
「どう考えても怒りか困惑だと思うけど………」
「んくっくくく………」
アリスちゃんの言葉にお姉ちゃんが迷いなくそう言った。どこからその自信が来るんだろうか。テラちゃんはずっと笑ってるし。
「リブート、再開します。今度は銃の射程距離把握に努めながら、接近しすぎないようにプニプニを排除します」
「うぐくふっ………」
「そう、まさにそれ! 諦めずに繰り返し挑戦して、試行錯誤の末に答えを見つける! それがレトロチックなゲームのロマンだよ!」
「んく………間違ってもこれはレトロゲームではなく、バカゲーの類だと思いますが………うくっくく………」
テラちゃんのツッコみがツボに入って消えていく。お姉ちゃんの言ってる事は間違ってないと思うけど、レトロチックだからって何でも擁護できるほど万能な言葉でもないとも思う。
2時間後。何度もゲームオーバーになりながらもプレイするアリスちゃん。アドバイスしながら自分のゲームに対する価値観を語るお姉ちゃん。含み笑いを通り越して最早笑い転げているテラちゃん。そしてそれを眺めながらツッコむ私という4人でのテイルズ・サガ・クロニクルのプレイは、クライマックス目前まで来ていた。
アリスちゃんは脳内の思考回路に、テラちゃんはお腹と肺に大きなダメージを負いながらもここまでやって来た。
「………電算処理系統、および意思表示システムに致命的なエラーが発生」
「頑張ってアリス、ここさえ乗り越えれば待望のクライマックスだよ!」
「ううっ………! 今のはどう考えても、『草食系』って言葉が思い出せないからって、それを『植物人間』って書いたお姉ちゃんのせいでしょ!?」
『ごめんなさい。私は植物人間ですので、女性に対して気軽に声をかける事はできません』
「テキストを読んだ瞬間に、アリスちゃんが一瞬意識を失ってたじゃん! テラちゃんなんかトドメ刺されちゃったし!」
テラちゃんはアリスちゃんの横で横向きに倒れてピクピクと体が動いている。初対面のイメージもあって、テラちゃんがここまで大笑いするとは思わなかった。嬉しいのか恥ずかしいのか私もうよくわかんないよ。
「………質問。どうして母親がヒロインで、それでいて実は前世の妻で、さらにどうしてその妻の元に、子供の頃に別れたきりの腹違いの友人がタイムリープしてきているのか………いえ、そもそも『腹違いの友人』という表現はキヴォトスの辞書データに登録されていな―――エラー発生! エラー発生!」
アリスちゃんがそろそろ限界かもしれない! あとテラちゃんは本当に限界にしか見えない! 死にかけの魚みたいにピクピクしてる!
「が、頑張ってアリスちゃん! テラちゃんも何とか生きてて! クライマックスまでもう少しだから!」
「リブート………プロセスを回復………ふぅ………これが、ゲーム………再開します!」
「しぬ………」
そうして、さらに1時間後………!
「こ、ろ、し、て………」
「凄いよアリス! 開発者2人が一緒とはいえ、3時間でトゥルーエンドなんて!」
ゲームをクリアしたのに悲壮感漂うアリスちゃんと、そんなアリスちゃんを励ますお姉ちゃん。実際、3時間でクリアできたのは凄い。だってそもそもクリアできずに諦めた人も大勢いるんだから………。そして。
「………わたしは、いきてますか………?」
「だ、大丈夫? テラちゃん………」
こっちには文字通りに死にそうになっているテラちゃんがいた。息も絶え絶えになり、酸欠のせいか目の焦点も定まっていない。なんだか目に見えてげっそりした気がするけど、きっと気のせいだ。
「それにしても………本当に、ゲームをやればやるほど、アリスちゃんの喋り方のパターンが、どんどん多彩になってきてる………!」
「勇者よ、汝が同意を求めるならば、私はそれを肯定しよう」
私の言葉に、アリスちゃんが応える。
「うん、確かにそう、かも………?」
「ゲームからそのまま覚えたせいで、ちょっとまだ不自然かもだけど………言葉を羅列してただけの頃よりは、かなり良くなったと思う!」
少し変なところはあるけど、テラちゃんの言っていたようにキャラ付けとして受け入れられる範囲になってきている。ひとまずこのやり方で間違ってはいなかったようでよかった。
「と、ところでその………こういうのを面と向かって聞くのは緊張するんだけど………私たちのゲーム、どうだった? 面白かった!?」
「テラには聞くまでもないけど、アリスはどうだったかな!?」
2人でアリスちゃんを囲んで感想を求める。テラちゃんは………そうだね。ずっと大爆笑だったもんね。