視点 〜ミドリ〜
「………説明不可」
沈黙の後に返されたのは、そんなセリフだった。
「え、ええっ!? なんで!?」
「………類似表現を検索………ロード中」
「も、もしかして、悪口を探してる………? そんな事ないよね?」
アリスちゃんはまだ話し方や感情を学びきれてないから、凄まじい悪口が飛び出たりしてもおかしくない。戦々恐々としていると、アリスちゃんの口からは静かに、噛みしめるように言葉が出てきた。
「………面白さ、それは明確に存在………プレイを進めれば進めるほど………まるで、別の世界を旅しているような………夢を見ているような、そんな気分………もう一度………もう一度………」
消え入るように小さくなっていく声とともに、アリスちゃんの頬に一筋の雫が垂れた。
「あ、アリスちゃん!? どうして泣いてるの!?」
突然泣き出したアリスちゃんの背中を慌てて擦る。
「決まってるじゃん! それぐらい、私たちのゲームが感動的だったって事でしょ!」
「い、いくらなんでもそれは………というかこのゲーム、ギャグ寄りのRPGのはずだし………」
お姉ちゃんの言葉に、笑い疲れてぐったりしているテラちゃんをちらりと見る。なんだかアリスちゃんもテラちゃんも両極端なリアクションだけど、それでも2人とも、私たちのゲームを気に入ってくれたみたいで嬉しい。
「ありがとうアリス! その辺の評論家の言葉なんかより、その涙の方が100倍嬉しいよ! あー、早くユズにも教えてあげたい………!」
ユズちゃん………そういえばどこにいるんだろう。廃墟に行く前は用事があるって言ってたけど、いつまで………。
「ちゃ、ちゃんと、全部見てた………」
「きゃ、きゃあああっ!? お、お、お化け!?」
ロッカーが1人でに開いて何か喋りだした!? お化けは無理! ってうわっ、テラちゃん!? なんで急に引っ付いてきたの!?
「落ち着いて、ミドリ! プライステーションを投げちゃダメ! そろそろ壊れる!」
悲鳴を上げた事とテラちゃんの抱き着きと、お姉ちゃんの声で落ち着きを取り戻して、改めてロッカーの方を見てみると、そこにいたのは今まさに思い浮かべていた人だった。
「………ユズちゃん、いつからロッカーの中にいたの?」
私たちゲーム開発部の部長。なんでロッカーの中に?
「み、皆が、廃墟から帰ってきた時から………」
「だいぶ前じゃん!? その時からずっとロッカーの中にいたの? あ、もしかして先生にアリスちゃん、テラちゃんが怖かったから?」
人見知りなのは知ってたけどまさかここまでとは。確かに今日だけで知らない人が何人もこの部室に入ってたけど。
「モモトークで伝えてくれれば良かったのに。びっくりしたよ」
「あ、アリスとテラは初めてだよね。この人が私たちゲーム開発部の部長、ユズだよ」
それにしても、ユズちゃんがこうして私たちやユウカ以外と喋っているのを見るのは久しぶりな気がする。そもそも私たちも交友関係は狭いから人の事はあまり言えないか。ユズちゃんはアリスちゃんに近寄り、口をゆっくり開く。
「えっと、あの、その………あ、あ、あ………ありがとう」
言葉を探して、絞り出すように、ユズちゃんはアリスちゃんに言葉を紡ぐ。
「ゲーム、面白いって言ってくれて………もう一度やりたいって言ってくれて………泣いてくれて、本当にありがとう。面白いとか、もう一度とか………そういう言葉が、ずっと聞きたかったの」
「ユズちゃん………」
そして、ユズちゃんは私に抱きついたままのテラちゃんの方にも向き直り、話し始めた。
「それと………あなたも。それだけ楽しそうに笑ってくれて………嬉しかった。私の作ったゲームで、笑顔になってくれる人も………見たかったから。ありがとう」
「いえ、私はただ展開や文章の支離滅裂さに笑っていただけで………」
「私のシナリオを気に入ってくれたんだね、テラ!」
「………そういう言い方をされると屈辱的ですね」
「酷い!?」
お姉ちゃんのポジティブな言葉にテラちゃんが毒を返したのを見て、思わずくすりと笑う。本当に、ユズちゃんの言う通りだ。自分の作ったゲームを楽しくプレイして、もう一度と思ってくれたのを見て、嬉しくないわけがない。
「っていうかテラ、いつまでミドリの腕にくっついてるの?」
「え?」
お姉ちゃんの指摘に、テラちゃんが真横にいる私を見て、そして視線を下ろして自分が私の腕に抱き着いているのを見て。顔を真っ赤にして凄い勢いで私から離れて皆から距離を取った。何その反応可愛い。
そんなテラちゃんを見て、お姉ちゃんがニヤァといやらしく表情を崩していく。
「あ、わかった。テラ、びっくりするの苦手なんでしょ」
「ち、違いますが………?」
「私が最初と2回目に声をかけた時はびくってしてたし、今のはもうあからさまだし。ふ〜ん………」
「な、なんですか………」
「顔真っ赤だよ、テラ」
「………モモイっ!」
ジャカッと腰に提げていたショットガンを構え、銃口をお姉ちゃんに向け、ぎょっとしたお姉ちゃんが慌ててその場から逃げる。狭い部室で突如鬼ごっこが始まった。
「そ、そんな怒る事ないじゃん! 別に恥ずかしい事じゃないと思うよ私は!」
「だったら先程の含んだ言い方は何ですか! 私は怖がりではありません! 訂正してください!」
「こんなに必死になってるならそれが証明じゃないかな! 痛っ!?」
あ、撃たれた。どうしてそこで煽るのお姉ちゃん。
「撃ちました! 撃ちましたから訂正してください!」
「それは撃つ前に言うことでしょ!? どういう事!?」
もうテラちゃんも必死すぎて意味わかんない事言い始めちゃったし。というかこれ以上はマズい。そもそも予算もほとんどないのに備品やゲーム機を壊されるわけにはいかない。
「ふ、2人とも止まって! 部室を壊さないで!」
「ああ、どこかに2人を操っている黒幕がいるかもしれない。それを探し出して打ち破らなければ!」
なぜか突然カーテンを掴んだアリスちゃんの腕を、ユズちゃんが掴んで止める。アリスちゃんはいきなりどうしたの!?
「あ、アリスちゃん、それは黒幕じゃなくてただのカーテンだから………! 黒幕ってそういう事じゃないから………! 破かないで………!」
ユズちゃんよくアリスちゃんの考えわかったね!? ユズちゃんはそのまま抑えてて………! お姉ちゃんとテラちゃんは私が抑え―――なんかテラちゃん笑い始めてるんだけど、なんで? いや簡単に抑えられたからありがたいけど。
「とにかく、あらためまして………ゲーム開発部の部長、ユズです。この部に来てくれてありがとう、アリスちゃん、テラちゃん。これからよろしくね」
「よろ、しく………? ………理解。ユズが仲間になりました、パンパカパーン! ………合ってますか?」
「あ、うん。だいたいそんな感じ、かな。ふふっ、その様子だと、本当にわたしたちのゲームを楽しんでくれたんだね………仲間が増えるのは、RPGの醍醐味の1つだもんね」
ユズちゃんとアリスちゃんの会話を微笑ましく見ていると、テラちゃんが俯いているのが横目に入った。
「テラちゃん?」
「! あ、いえ………こちらこそ、よろしくお願いします。ユズ」
「うん、よろしくね」
その後は、3人でおすすめのゲームをアリスちゃんとテラちゃんに紹介して、色んなジャンルのゲームをプレイしながら、次第に皆寝落ちしていった。最後まで起きていたのは、多分アリスちゃんとテラちゃんだった。