視点 〜モモイ〜
「これですね。次はなくさないように、気を付けるように言ってくださいね」
「はーい、ありがとうございました!」
事務室でアリスの学生証を受け取り、ゲーム開発部の部室へ戻る。昨日の夜は楽しかった。ミドリとユズだけではなく、アリスとテラという新しい部員2人と一緒にゲームをした。ゲラと怖がりさえなければ頭の良いテラがサポートしていた事もあって、アリスはかなりサクサクとゲームを進めていた。
ホラーゲームじゃなくてもびっくり要素のあるゲームでのテラはちょっと面白かったな。イベントがある度に色んな物に抱き着こうとしていた。頼りになる時と弱々しい時の差が激しすぎる。
「あら、モモイじゃない。こんな朝早くに何してるの?」
「げっ、ユウカ」
出たな、セミナーの冷酷算術妖怪。朝から出くわすとは運がない。
「人の顔を見てげっとは何よ。失礼ね。それで、何してるの?」
「ふーん、ユウカには関係ないよ。私たちゲーム開発部はユウカの策謀から逃れるために頑張ってるんだから!」
「いや、私に関係あるじゃない………」
ユウカにはまだアリスの事がバレてはいけない。話し方はもうほとんど問題ないけど、まだアリスの武器が用意できてない。キヴォトスでは銃を持っていないのは裸でいる事よりもおかしいのだから。
「何をしようとも、ゲーム開発部に新しい部員が来るとは思えないけど………」
「ふふん、ユウカ。私たちゲーム開発部を舐めすぎだよ」
「………何ですって?」
「昨日、私たちゲーム開発部は新入部員を2人! 迎え入れたんだからね!」
「………モモイ。悔しいからってそんな嘘をつくのは………」
「嘘じゃないよ! ほら、2人分の入部申請書!」
昨日の夜に書いてもらっておいたアリスとテラの入部申請書をユウカに見せつける。この申請書が目に入らぬか!
「う、嘘………!? まさかあなた、ゲーム開発部に入るように脅したんじゃ………!」
「してないよ! 私の事を何だと思ってるのさ!」
失礼なのはどっちだ! 流石に私でもそこまではしない。ユウカが冷酷算術妖怪なのはやっぱり間違ってない。
「信じられないわね………いいわ、モモイ」
「え、何が?」
「入部申請書。一旦私が預かっておくわ。それで今日の午後、新しく入ったっていう2人について資格審査をするわ」
「えっ!? 何で!? 今まではそんなのなかったじゃん!」
「部活の運営規則が少し変わったのよ。部を存続させるために名前だけ貸す、なんて事がないようにね」
部活の運営規則が変わったなんて私は知らない。いや、まさか。
「そんな理由をつけて、2人の入部申請書をなかった事にしようとしてるんでしょ!」
「しないわよ! 私の事を何だと思ってるのよ!」
「私たちはユウカの横暴に屈したりしない!」
「私は規則に従って動いているだけよ! 全く………」
ユウカの捨てゼリフを聞きながら部室へ向かって走り出す。今日の午後に資格審査をするなら、アリスの武器は午前中の内に手に入れないと。
話し声が聞こえる部室のドアを開け放ちつつおはようと叫んでおく。皆起きてたね。アリスに近寄って学生証を手渡す。
「アリス、これ」
「………? アリスは正体不明の書類を獲得した」
「おっ、またさらに口調が洗練されてるね。これは学生証だよ」
「洗練っていうか、レトロゲームの会話調そのものだけどね………」
「大丈夫でしょう。大仰な喋り方も個性の1つですから」
アリスの話し方もどんどん改善されてきているね。ゲーム的すぎるところはあるけど………うん、テラの言う通りそういうキャラ付けとして押し通そう。
「学生証………?」
「この学生証は、ミレニアムの生徒だっていう証明書。生徒名簿にもヴェリタスがハッキ………いや、登録してくれたから、もうアリスも正式に私たちの仲間だよ!」
「仲間………なるほど、理解しました」
アリスは私の説明を聞いて、学生証を高く掲げた。
「パンパカパーン! アリスが仲間として合流しました!」
「ねえ、今ハッキングって言わなかった………?」
「言ってましたね」
む、耳聡いな2人とも。でも大丈夫。ヴェリタスにハッキングしてもらったんだから問題ないはず。
「大丈夫大丈夫! あ、入部申請書も一応出してきたからね! テラの分も!」
「ありがとうございます」
「さて、アリスの服装と学生証、それに話し方! この辺は全部解決できたから、あとは………武器、だね」
武器はどこかで調達する必要がある。アリスはまだこの部室くらいしか見ていないし、ミレニアムについてはほとんど知らない。外に出て、ついでに色んな場所を案内するいい機会かもしれない。
「よし、アリス。せっかくだし案内するよ」
「案内………?」
「私たちの学園、ミレニアムを!」
とはいっても午後にはユウカの資格審査があるし、あまり長い時間は取れない。
「ミレニアム………ううん、キヴォトスの生徒は、皆それぞれ自分の武器を持ってるの。だから、アリスにも武器を見繕ってもらわないとね」
調達する方法は色々あるけど、このミレニアムで一番手っ取り早く、ちゃんとした武器が手に入る場所と言えば。
「………やっぱりエンジニア部かな」
「エンジニア、部………?」
「機械を作ったり、修理したりする専門家たちの事を、ミレニアムではマイスターって呼んでるんだけど。エンジニア部はそのマイスターがたくさん集まっている、ハードウェアに特化した部活なの」
「機械全般に精通してるはもちろん、武器の修理とか改造なんかも担当してる部活だから。多分、使ってない武器とかが色々残ってるんじゃないかなって。というわけで、早速行ってみよっか」
エンジニア部ならアリスにぴったりな武器があるはず。まだ午後までは少し余裕があるけど、選ぶ時間や試し撃ちなんかもするなら時間は多くあった方が良い。
「えっと、わたしは………」
「………私も残っていいですか?」
「ユズちゃんはいいとして………テラちゃんも?」
ミドリと、ミドリを真似するようにアリスが立ち上がると、ユズとテラが声を上げた。ユズが他の人と会いたがらないのは、いつもの事だから予想通りだけど、テラも残るの?
「えーっと………私もゲームをやってみたくて。基本的にアリスのプレイを観ているだけでしたから。ユズ、あなたも行かないのなら、付き合っていただけますか?」
「………うん。色々と教えてあげる」
「じゃあ、私たちは行ってくるね。あ、テラ。午後にユウカが来るまでここに居てね」
「ユウカ………? 待ってくださいモモイ、もう少し詳しく―――」
資格審査があるからテラには部室に居てもらわないとだからね。よし、行こう。エンジニア部へ!