視点 〜ユズ〜
アリスちゃんとテラちゃん。今まで3人だけだったゲーム開発部に、2人の新入部員が来てくれた。アリスちゃんはモモイとミドリが廃墟から連れ帰ってきた謎の多い女の子。テラちゃんはシャーレの先生という人からわたしたちの事を知って訪ねてきた女の子。アリスちゃんもテラちゃんも不思議な雰囲気を持った子だ。
モモイとミドリ、アリスちゃんがエンジニア部に行くために部室を出ていったから、今はテラちゃんと2人きり。テラちゃんの事はまだよく知らないし、少し緊張する。
「えっと………テラちゃん、何かやりたいゲームはある?」
「そうですね………昨日アリスがやっていましたが、ユズがお勧めしていた………『ロマンシング物語』でしたっけ、それをやってみたいです」
「………! うん、わかった。1作目でいいかな?」
「1作目は途中まで見ていましたし、2作目の方を………」
「ううん、テラちゃん………『ロマンシング物語』は何回プレイしても面白いんだよ」
『ロマンシング物語』をセッティングして、テラちゃんにコントローラーを渡す。確かにアリスちゃんがプレイしていたけど、あれだけでは魅力はまだまだ伝わっていない。
「なるほど………?」
少し困惑した様子のテラちゃんがゲームを開始して、わたしはそのプレイを後ろから眺める。雰囲気に違わず、テラちゃんはやっぱり頭が良い。戦闘でのリソース管理やダメージ感覚もすぐに掴んで、無駄の少ない攻略の仕方をしている。
「………これは、確か昨日はこっちのルートに行っていましたね」
「ま、待って、テラちゃん。他のルートに行ってみない?」
「え? ですが、こっちのルートが正解なんじゃ………」
「………ふふ、このゲームはね、正解のルートなんてないんだよ」
折角だから、アリスちゃんとは違うルートでプレイしてもらいたい。このゲームには唯一解のルートは存在しない。どのルートを選んでも、どの選択肢を選んでも良い。
「このゲームは自由度が高いって昨日も言ったと思うけど………それはゲームシステムだけじゃなくて、シナリオの自由度も高いんだ」
「シナリオの自由度………」
「うん。だから、テラちゃんがどこに行って、どんな行動を取っても………テラちゃんだけの物語になるの」
「………私だけの」
テラちゃんが小さく呟き、そして昨日のアリスちゃんとは違うルートへキャラを進めた。
「………そうですね。ユズの言う通りかもしれません」
「アドバイスは最低限にするつもりだから、頑張って」
「望むところです。ゲームは自分で試行錯誤する。それがレトロチックゲームのロマンなのでしょう?」
「………ふふっ、そうだね」
モモイが言っていたあの言葉を、テラちゃんが使う。全くタイプの違う2人が同じ言葉を使うのは何だか面白い。レトロチックゲームのロマン。うん、その通りだ。
「ユズ、この選択肢を取ったら即ゲームオーバーとか、あります?」
「えっと、この選択肢は大丈夫だよ。ただ、後の展開にちょっとだけ影響するね」
「なるほど………それも含めての自由、ですか」
「仲間を増やせるみたいですね。ユズ、どのキャラが強いとかありますか?」
「あるけど………まずはテラちゃんが選んでみてほしいかな」
「うーん………それなら、このキャラにします。見た目からして強そうですし」
「………そっか。ちなみにそのキャラ、最弱候補のキャラだよ」
「え」
「ユズ、この敵強すぎませんか!? 一撃でパーティが半壊したんですが!?」
「深入りしすぎちゃったみたいだね………頑張れば倒せるから、やってみて」
「いや、この状況からどうやって………いや、諦めません。戦士なら最期まで戦って死んでもらいます!」
「………何だか悪役みたいな………」
「殺してでも奪い取る………どうしてこんな選択肢があるんでしょう………?」
「ゲームだからね………これも1つの自由、なんじゃないかな?」
「これは自由ではなく無法でしょう。昨日のモモイは猛プッシュしていましたが………えい」
『な、なにをする、きさまらー!』
「ぶふっ」
「て、テラちゃん?」
「い、いえ………あの………こんなあっさり………んくく………んふっ………BGMが変わるのもズルい………」
ゲームオーバーになったり、突飛な展開にテラちゃんが笑ったりしながら遊んでいると、外から足音が聞こえてきた。そのまま扉が開けられ、モモイたちが帰ってきた。
「ユズ、テラ、ただいま! あ、『ロマンシング物語』やってる!」
「どこまで行ったの? テラちゃん。あ、もうそこまで? アリスちゃんといい進めるのが早いね」
「お、おかえりなさい、2人とも」
「結構時間がかかりましたね? アリスの武器は………」
わたしとテラちゃんがアリスちゃんに目を向け、固まってしまった。アリスちゃんが背負っているのが、アリスちゃんの武器? 銃と言うには大きすぎる。
「エンジニア部に譲ってもらったんだ。宇宙船艦用のレールガン!」
「私の専用武器………光の剣:スーパーノヴァ!」
アリスちゃんがくるりと回って、そのレールガンをわたしたちに見せた。改めて見ても凄い大きさだ。全長もアリスちゃんと同じくらいの長さだし、あれなら重量もとんでもないんじゃないだろうか。アリスちゃんの力はどうなってるんだろう。
「スーパーノヴァ………超新星ですか? 随分と大仰な名前を………」
「テラ………この武器の力を疑っているなら、汝の身を持ってその威力を知るがいい」
「アリス、そのレールガンをこちらに向けないでください。別に性能を疑っているわけではありませんから」
アリスちゃんがレールガンをテラちゃんに向けようとしたところで、テラちゃんが焦りながらアリスちゃんを制止する。あれを放たれたら部室も壊れるだろうし、切実にやめてほしい。
「さて、準備も終わったし、安心してゲーム三昧できるね! 5人で遊べるゲームを………」
「ちょ、ちょっと待ってお姉ちゃん、気を緩めるには早くない!? ユウカにはもう言ったの? 部員が4人以上になったから、部の資格要件を備えたって」
「もっちろん! それで今日の午後に、2人について資格審査に来るって」
「資格審査なんて聞いてないよ!? 大丈夫なの!?」
資格審査? 今までそんなのなかったはずなのに。もしそれで駄目だったら、ゲーム開発部は廃部に………。
「いや、よく考えてみてよ。部の資格要件は4人以上。アリスだけだったら確かに心配かもだけど、テラがいるんだよ?」
「………あ、確かに………?」
「それにアリスの準備だってもう完璧なんだし。アリス、自己紹介を!」
確かに、資格審査と言ってもそこまで厳格なものではないだろうし、アリスちゃんはともかくテラちゃんは普通のミレニアム生だ。テラちゃんがいれば部の資格要件は満たせるけど、アリスちゃんがそれに落ちたら、今度はアリスちゃんの来歴を問題視される事になるんじゃないか。
モモイがアリスちゃんに向けて指示を出すと、レールガンを背中に戻していたアリスちゃんが動きを止め、すらすらと話し始めた。
「私の名前はアリス。ミレニアムサイエンススクールの1年生。最近転校してきたばかりで受講申請のタイミングを逃してしまったため、まだ授業の登録ができていない状態なのですが、来月から正式に授業に参加する予定です。授業にはまだ参加できなくても、部活動への参加は可能との事でしたので、ゲーム開発部に入部しました」
「お、結構それっぽい?」
ミドリの反応に頷いて同意する。確かに、これならあまり怪しまれなさそう。
「ゲーム開発部で担っている役割は、タンク兼光属性アタッカー………」
「違う違う、役割はプログラマー!」
「プ、プログラマーです! 生まれた時から、母国語よりも先にJabaを使っていまして」
「んっ………そんな英才教育は最早狂気ですよ」
いや、まだちょっと心配かもしれない。