視点 〜ユウカ〜
「………ありえないわ」
モモイとミドリ、ユズの3人が所属する部活、ゲーム開発部。少人数の問題児グループで、今まで何度手を焼いたかわからない。部長であるユズは人見知りで基本的に外に出ず、モモイはいつも何か事件を引き起こすトラブルメーカー。ミドリは一見まともだけど、血は争えないのか、モモイと同じようにトラブルを起こす事がある。
ゲーム開発部は人数の要件ももう1つの要件も達成できていない事から、目下廃部の危機にある部活動だ。シャーレの先生を巻き込んで何か企んでいたようだけど、その次の日にモモイが見せてきたのは2人分の入部申請書。
先生の事だからないとは思うし、流石にモモイたちもそんな事はしないとは思っているが、シャーレの名前をちらつかせて脅している可能性もありえる。その気はなくとも実態としてそうなってしまっている可能性も。丁度部活の運営規則も変わった事だし、確認する必要がある。
「ゲーム開発部に新入部員が入ったなんて、信じられない………!」
「残念だけど、事実だよ!」
ゲーム開発部の部室に響くモモイの抗議の声はとりあえず無視して、ゲーム開発部の面々を一瞥する。既存メンバーの才羽モモイ、才羽ミドリ、花岡ユズ。そして新入部員が2人、天童アリス、有栖川テラ。どちらも私は知らない子だ。
「あなたたちが噂のアリスちゃんとテラちゃんね。ゲーム開発部に入った新しいメンバー。ミレニアムの生徒ならほぼ全員把握してると思ってたけど………私がこんな可愛い子たちの事を知らなかったなんて、ちょっと信じられないわね」
見目が良ければ当然、それだけ人の印象に残りやすくなる。セミナーの会計として、ミレニアムの色々な所に出向いたりしているし、生徒名簿を見る機会もある。勿論ミレニアム生全員を把握しているわけではないけれど、私が知らない子が2人もゲーム開発部に入るなんて。
「よ、妖怪が出現しました………!」
「んぐっ、ぶふぁっ!」
「い、今この子、私の事を妖怪って言ったわよね!?」
「か、勘違いだよ! 妖精って言ったのを聞き間違えたんでしょ、もう、アリスは嘘がつけないんだからー………」
「テラちゃん、抑えて………!」
「くっ………悪役には慣れているとはいえ、まさか初めて会う子に妖怪扱いされるだなんて………良い度胸してるじゃない………!」
そんなお世辞で誤魔化せるわけないでしょうが、モモイ………! アリスちゃんには妖怪呼ばわりされるし、テラちゃんもそれを聞いて爆笑してるし。アリスちゃんもテラちゃんも、思っていたよりもアクの強い子たちかもしれない。
「お、落ち着いて! 生徒会が個人的な感情を挟んじゃダメでしょ!?」
言われずとも、個人的な感情を挟むつもりはない。生徒会、セミナーの一員である以上、公私はきっちりと区別しているつもりだ。
「とにかく、部の規定人数は満たしたよ! これでゲーム開発部は存続って事でOKだよね?」
「存続………確かにそうね。この子たちが本当に、自分の意思でここに来た、ゲーム開発部として活動する気のある部員だったら、の話だけど」
まあ、流石に前者はないとは思っているけれど、後者に関しては充分にありえる話だ。特にゲーム開発部は精力的な活動を行う部活ではないし、名前だけ貸すハードルも低い。
「本来は部員の加入を申告すれば、それだけで良かったのだけれど………昨日も言った通り、最近は部活の運営規則も少し変わって、もう少し厳しく確認する必要が出てきたの」
私としても面倒事が増える規則の変更だけれど、ミレニアムの舵取りを考えれば必要な事だ。最近のミレニアムは色々と問題があって財政が不安定だし、碌な活動をしていない部活は相応の対応をする必要がある。
「だから、アリスちゃんとテラちゃんに簡単な取り調べ………あら、思ってもない言葉が………じゃあ、いくつか簡単な質問をするわね」
「そういう言い方はどうかと思いますけど」
テラちゃんが私の言葉に鋭い声色で返してきた。あなたも私に対する妖怪という評を笑っていた事に対して思うところはあるけれど。
「………そうね。今のは私が悪かったわ」
ゲーム開発部は、特にモモイはいつも問題を起こすから、その前提で考えてしまう。できるなら、ゲーム開発部自体がそう思わせないようにしてほしいところではある。
「せ、選択肢によっては、バッドエンドになる事もありますか?」
アリスちゃんが不安そうに私を見てくる。私は別にゲーム開発部を潰したいわけじゃない。それでも、アリスちゃんとテラちゃん、2人の回答次第では、廃部を宣告しなければいけない可能性はある。
「バッドエンド………まあ、そういう事もあるかもね。それじゃあ………まずはアリスちゃんから。質問を、始めるわ」
ゲーム開発部の部員として認められるかは、それ次第。
アリスちゃん。仕草や表情からして、純粋や無垢といった評価が似合う子だ。騙したり利用するという観点で見るなら、一番やりやすいタイプの子。
「………アリスちゃん、もし不本意な形でこの場にいるのなら、左目で瞬きをして」
「………?」
「ちょっと! 最初から何その質問! 小声で言っても聞こえてるから! っていうかそんな事しないって!」
モモイの抗議の声とテラちゃんの抗議の目線を感じつつ、アリスちゃんの様子からそれはないと確認する。この質問はただの意地悪ではない。これでアリスちゃんの浮世離れした雰囲気の純粋さを利用されている可能性がなくなった。
「ほら見て、この眩しい学生証を! ミレニアムの生徒だっていうまごう事なき証拠!」
「ふーん………確かに、生徒名簿にアリスちゃんが登録されている事も確認したけれど………問題はそこじゃないのよね」
モモイのこの言い方からしても、ミレニアムの生徒てある事すら疑わしいところがあるけれど、それでも実際にミレニアムの生徒として登録されているのは事実。この審査で私が確かめたいのはそこではない。
「アリスちゃん、あなたがゲーム開発部に来たきっかけは何?」
「気が付いた時は既にここに、ではなく………」
「モモイ、何でそんなにアリスちゃんを睨んでるわけ? やめてあげなさい」
モモイがアリスちゃんを睨んでいるのを注意する。無理やりに言わせるような事はさせない。それにしても、気が付いた時には? まさか本当に誘拐を………。いや、誘拐だとしたらそう言うか。
「えっと………『魔王城ドラキュラ』がやりたくって………それで、ゲーム開発部の存在を知って………」
「ふーん………そうなの。でもここはレトロゲーム部じゃない、あくまでもゲーム開発部」
ゲームをやりたいだけならゲーム開発部である必要はない。ゲーム開発部はその名の通りゲームを作る部活。
「つまり、あなたもゲーム作りに参加するという事よね? 何を担当するの?」
「タンク兼光属性アタッカー………」
「えっ?」
「じゃなくて、えっと………ぷ、プログラマーです!」
タンク兼光属性アタッカー………ゲームの中の話よね。それにしても、プログラマーか。デジタルゲームの本体と言っても良いプログラムを担当する役割。
「プログラマーね………すごく難しい役割だと聞くけれど」
「はい、そ、そうです。ぷ、プログラマーは大変です。たまに過労で、意識を失ったりします」
「んぐっ」
「た、耐えて、テラ!」
「な、なんですって!?」
そこまで過酷な役割ではないはずでしょう!? でもテラちゃんは笑ってるし、この子なりのユーモアだったりするんだろうか。
「それでも大丈夫です!」
「いや、大丈夫じゃないでしょ………ちゃんと休みなさいよ………」
「宿屋で寝て起きるか、聖堂にお金を払えば、仲間たちと一緒に復活できます!」
どうして頑なにゲームに例えた話をするの、この子は。
「そ、そんなわけないでしょ!?」
「そんなわけないのですか………? 常識のはずですが、もしかして『英雄神話』や『聖槍伝説』をご存知ないのですか? 本当に神ゲーですよ」
「んぐくっ………!」
「テラちゃん………!」
ば、バカにされているのかしら………?