視点 〜ユウカ〜
「さて………次はテラちゃん、あなたよ」
あれからも少し質問を続けて、最低限、アリスちゃんがどんな子なのかはわかった。次はテラちゃんの方だ。アリスちゃんのイメージが無邪気なのに対して、この子のイメージは生意気だ。あくまで容姿や仕草から連想できる軽いイメージの話でしかないけれど。
「はい、よろしくお願いします」
「テラちゃん、あなたがゲーム開発部に来たきっかけは何?」
「シャーレの先生、ですね」
「え? シャーレ?」
ここでシャーレの先生の名前が出てくるの? いや、まずは話を聞いてからだ。
「はい、先生がミレニアムに来たと聞いて挨拶をしたら、先生からゲーム開発部の話を聞いたんです」
「そう………それでゲーム開発部を訪れたの?」
「はい、丁度アリスたちがゲームをしているところで、折角だからと混ぜてもらったんです」
なるほど、先生との会話で興味を持ってゲーム開発部に訪れ一緒にゲームをした、と。先生からどんな話を聞いたのかはわからないけれど、わざわざ行こうとするほどの話がゲーム開発部にあるのだろうか。
「ゲーム開発部のどんなところに興味を持ったの?」
「最初は、あのシャーレの先生がわざわざ足を運んだ部活という点で興味を持っただけでした。ですが、ア………いえ、『テイルズ・サガ・クロニクル』を見た時に思ったんです」
『テイルズ・サガ・クロニクル』。ゲーム開発部のほぼ唯一と言ってもいい功績であるゲーム作品。その功績も良い成績ではなく、クソゲーオブザキヴォトスの優勝という不名誉極まりないものではあるが。
「こんなクソゲーがあっていいのかと」
「えっ」
「テラ!?」
まさかの身内への攻撃。そこは褒める流れだったと思うんだけど。モモイたちも皆びっくりしているし。
「素人が作ったゲームと考えても完成度が低い駄作。難易度の高さと理不尽さを勘違いしたトロール、シナリオの推敲もしていない雑さ」
「うぐっ」
「ちょっと、テラちゃん………」
テラちゃんの言葉を聞いてモモイがダメージを受け続け、ミドリがテラちゃんを宥めるように声をかける。ユズは俯いていて表情が見えず、アリスちゃんはテラちゃんをじっと見つめている。
「ですが、それでも。私はあのゲームを好きになりました。そして、あれを作ったゲーム開発部の事にも興味が出たんです」
「そ、そうだよね。テラ、アリスのプレイ中はずっと笑ってたもんね!」
「そうですが、私が酷いと評したのはほぼ全てモモイが担当した部分である事を忘れないでください」
「うぐっ」
ゲームとしては良くないものという評価はしつつ、何か響くものはあったという事かしら。
「それじゃあ、あなたはゲーム開発部として何を担当するの?」
「………そう言えば私の役職は決めていませんでしたね?」
テラちゃんがゲーム開発部のメンバーを見た。確かモモイがシナリオライター、ミドリがイラストレーター、ユズがプログラマーを担当しているはず。そこにアリスちゃんがプログラマーとして加わる事になる。
ゲーム作りの事については詳しくないが、ゲーム作りの基盤は整っているように感じる。それなら、必要な役職はマネジメントの類ではないだろうか。
「そうですね………では、私はゲームデザイナーをします」
「ゲームデザイナー、ね」
「モモイのふざけたシナリオを矯正します」
「名指し!?」
ゲームデザイナーは確か、ゲーム全体を設計し調整する役職。確かにこの子ならできそうだ。それに、突拍子もない事をしでかすゲーム開発部のストッパーにもなってくれるかもしれない。
「わかってるかもしれないけれど、ゲーム開発部の手綱を握るのは大変よ?」
「わかっています。ですが………皆と一緒にいるのは、楽しいですから。それに、この後すぐに必要な事でしょう?」
テラちゃんはゲーム開発部のメンバーを見ながらそう言った。いくつか聞きたい事はまだあるけれど、まあ問題ないだろう。
「………短い時間だったけれど、アリスちゃんとテラちゃん、あなたたちの事については概ね理解できた」
資格審査の問題を通して、2人がどんな子かはおおよそ把握できた。私の言葉に、テラちゃん以外の全員が息を呑んだ。
「アリスちゃんは、ゲームが好きだって事。それに、新しい世界を冒険したり、仲間と一緒に何かをやり遂げるストーリーが好きだって事は、十分に伝わってきた。それに、テラちゃんもゲーム開発部が気に入っている事も。そんなあなたたちがゲーム開発部の一員である事は、何も不思議じゃないわ」
無理やり部員として連れてこられたとか、適当に名前だけを貸して、まともに活動はしないというようにも感じなかった。2人とも、自分の意思を持ってゲーム開発部に入っている。
「っていう事は………!?」
「規定人数を満たしているので、ゲーム開発部を改めて正式な部活として認定、部としての存続を承認します」
私の宣言に、モモイとミドリが手を取り合って喜んでいる。嬉しいのはわかるけど、これで終わりではない。
「そ、そしてら部費も貰えるし、このまま部室を使っててもいいんだよね!?」
「ええ、もちろんよ。今学期までは………ね」
「わーぃ………え?」
「な、な、なんで!?」
モモイとミドリが、そしてユズも困惑している。そうね、あなたたちは知らないでしょうね。
「どうして! 規定人数も満たしたのに!?」
「運営規則が変更され、人数だけでなく実績も必要に。期限は今月末まで、でしたっけ」
「あ、テラちゃんは知ってるのね。そうよ。この間、全体の部長会議でちゃんと説明した内容よ」
学園の掲示板にも掲載していたから、掲示板をきちんと見ている子ならテラちゃんのように、部としての情報共有でなくても知っている子はいるだろう。
「あなたたちの部長、ユズは底に参加していなかったけれど。つまり、知らなかったのはあなたたちの責任よ」
「くっ、卑怯者め!」
「鬼とかならまだわかるけど、規則通りに事を運ぶ事の何が卑怯なのよ………」
ユズがあまり人前に出たがらないわけだけど、それはわかっている事なのだから、代役を立てれば良いはずなのだ。というか、これまでは主にモモイがその役を担っていたはずだけれど。
それに、正直なところ、アリスちゃんの正体についても怪しいところが多すぎる。変に純粋だったり、不穏な事を口走ったり、ゲーム基準で物事を話したり。間違いなく普通の生徒とはズレている。資格審査としては問題なくとも、別の問題がある可能性はある。
それはともかくとして話を戻すと、部活の存続には実績も必要。それはつまり、実績があれば良いという事。
「モモイ、あなた言ったわよね? ミレニアムプライスでびっくりするぐらいの結果を出してみせるって。新しいメンバーも増えた事だし、前よりもちゃんと面白いゲームを作れるんでしょうね? それじゃあ、楽しみにしてるわよ。じゃあね〜」
「ちょっ、待って! 詐欺師っ、杓子定規っ、もおぉぉぉぉっ!」
モモイのムカつく言葉を聞きながら、ゲーム開発部の部室を立ち去る。あれだけ煽ればモモイの性格上逆に奮起するだろう。ミレニアムプライスという、学園に所属する部活動全てが成果物を競い合う無差別級のコンテスト。
今までにも様々な実績を出してきた部活動も参加するコンテストであり、実用的なものも画期的なものも数多く応募される。ゲームで受賞するのは至難の業だろう。それでも。
「楽しみにしてるのは本当なんだから」