白兎の兄が規格外なのは間違っているだろうか 作:ディーノpc35
アイズが黄昏の館へ戻った頃、ロキ・ファミリアの本拠地は普段とは比較にならないほど慌ただしい状態になっていた。
先ほどオラリオ全域を襲った異変によって、Lv.3以下の強さしか持たない団員達の多くが意識を失っていたからだ。
幸いにも死者は出ていない。倒れた際に身体を打った者はいるものの、あの殺意そのものによって傷ついた者はいなかった。時間が経つにつれて意識を取り戻す団員も増えており、治療班も命に関わる異常はないと判断している。
しかし、だからといって安心できる状況ではなかった。
オラリオ中の人間を巻き込み、Lv.3以下の者達を一斉に気絶させた何かが存在する。
しかも、Lv.4以上の者達が感じ取ったものから考えれば、あれは攻撃ですらない。
何者かが放った、純粋な殺意だった。
黄昏の館の一室には、ロキをはじめ、フィン、リヴェリア、ガレス、ベート、ティオナ、ティオネといった主要な面々が集まっていた。
「まだ発生源は分からないのか?」
フィンが尋ねると、ロキは珍しく真剣な表情のまま首を横へ振った。
「分からへん。少なくとも神威やない。ウチら神が出すもんとは明らかに違った」
「魔力とも異なるな」
リヴェリアも険しい表情で続けた。
「精神干渉系の魔法とも考えにくい。何らかの術によって恐怖を植えつけられたのではなく、我々自身があの殺意を感じ取り、その結果として弱い者達が耐えきれず意識を失ったと考える方が自然だ」
その説明を聞いていたベートが、苛立たしげに舌打ちした。
「あれが一番気に食わねえんだよ。こっちに向けられてたわけでもねえのに、身体が勝手に危険だって判断しやがった」
ベート自身は意識を失っていない。
それでも、あの瞬間に感じたものは鮮明に覚えていた。
強敵を前にした時の高揚感とは違う。
戦えと本能が叫んだのでもない。
むしろ正反対だった。
あれに近づくな。
関わるな。
逃げろ。
鍛え抜いた獣人としての本能が、理性より先にそう警告していた。
「余波だけであれだ。直接向けられた奴はどうなってやがる」
ベートの言葉に、室内が静かになる。
ガレスが髭を撫でながら重々しく頷いた。
「確かにのう。あれほどの殺意を向けられるだけの何かを、誰かがしたということでもある」
「誰が誰に怒ってたんだろうね……」
ティオナも、普段の明るい表情を消していた。
フィンは各所から集められた情報へ視線を落とした。
分かっていることは少ない。
殺意を感じた時間はほぼ同時。
発生源はオラリオの外部である可能性が高い。
そして、あれほどの影響を都市全体へ及ぼしながら、建物にも人間の肉体にも直接的な損傷はない。
何者かがオラリオを攻撃したというより、別の誰かへ向けた殺意の余波に都市全体が巻き込まれたと考える方が自然だった。
「少なくとも自然現象ではない。何者かの明確な意思によって発生したものだろう」
フィンはそう結論づけた。
「問題は、その何者かがオラリオそのものへ敵意を持っているのか、それとも特定の相手だけを狙っていたのかだ」
「後者だと思う」
突然聞こえた声に、全員が入口へ視線を向けた。
そこには、いつの間にか戻ってきていたアイズが立っていた。
「アイズたん!?」
真っ先に反応したロキが立ち上がる。
「どこ行っとったんや! さっきの騒ぎの時に姿が見えへんから心配したんやで!」
「ヘスティア・ファミリアの本拠地にいた」
「ヘスティアんとこ?」
ロキが目を瞬かせる一方、フィンはアイズが最初に口にした言葉を聞き逃さなかった。
「アイズ。今、後者だと思うと言ったね?」
「うん」
「何か知っているのかい?」
アイズは小さく頷いた。
「シンに説明を頼まれた」
シン・クラネル。
その名前を聞いた瞬間、フィン達の表情が僅かに変わった。
九年前に行方不明となっていたベル・クラネルの双子の兄。
最近になって突然オラリオへ現れた、正体不明と言っていい青年。
ロキ・ファミリアが現在把握している情報は、その程度しかない。
フィンはアイズへ座るよう促した。
「最初から聞かせてくれるかい?」
「うん」
アイズは席へ着くと、自分が実際に見聞きした範囲だけを順番に話し始めた。
今日は母親であるアリアに会うため、ヘスティア・ファミリアの本拠地を訪れていたこと。
そこにはシンもおり、しばらく三人で過ごしていたこと。
その時、突然シンの様子が変わったこと。
「シンがベル達に渡していた首飾りから、知らせが来た」
「首飾り?」
リヴェリアが尋ねる。
「危険になった時に結界が出る。それと、シンにも知らせが届くって言ってた」
「誰から反応があった?」
フィンの問いに、アイズは答えた。
「ベル、リリ、ヴェルフ、命、春姫。ほぼ同時」
その時点でフィンの表情が険しくなる。
偶然ではない。
ヘスティア・ファミリアの主要な構成員五人が、ほぼ同時に危険へ陥ったのであれば、明確な意図を持った襲撃と考えるべきだった。
「襲撃者は?」
「フレイヤ・ファミリア」
今度こそ、部屋の空気が変わった。
ベートが壁から背を離し、ティオネが目を細める。
ガレスからも穏やかな表情が消えた。
ロキは笑っていなかった。
「アイズたん。それ、間違いないんやな?」
「うん。戻ってきたベル達からも聞いた」
「誰が動いた?」
「オッタルと幹部達」
フィンは僅かに息を吐いた。
オッタルまで動いている。
それならば、団員達の独断とは考えにくい。
フレイヤ本人の命令と見るべきだった。
「目的はベル・クラネルか?」
フィンが尋ねる。
アイズは頷いた。
「フレイヤがベルを欲しがったから」
「……とうとう実力行使に出たか」
ロキが低い声で呟いた。
フレイヤがベルに異常なほど関心を持っていること自体は、以前から気づいていた。
だが、オッタルを含めた最高幹部を動員し、ベルだけでなく仲間達まで同時に襲わせたとなれば話が違う。
「それで、シンはどうした?」
フィンが尋ねた。
「私と母さんに、ここから出るなって言った。それから本拠地に結界を張った」
「どのような結界だ?」
魔法に関する話となれば、リヴェリアが黙ってはいなかった。
「空間断絶結界って言ってた」
「聞いたことがないな」
「私も詳しくは知らない」
アイズはシンに言われた通り、分からないことを推測では答えなかった。
「その後、シンが分身を四人出した」
今度は別の意味で沈黙が訪れた。
ティオナが不思議そうに瞬きをする。
「分身?」
「うん。ベルのところにはシン本人が行った。他の四人のところには一人ずつ分身を送った」
ベートが眉を寄せる。
「待て。相手はフレイヤんとこの幹部共なんだろ? 分身なんぞ送ってどうするつもりだったんだ」
「倒すため」
「だから、それが――」
「全員、一瞬で負けた」
ベートの言葉が止まった。
ティオナもティオネも、何を言われたのか理解するまで数秒を必要とした。
フィンだけは表情を変えなかったが、右手の親指が疼くように動いていた。
「アイズ。今の話は、シンから聞いただけではないんだね?」
「うん。ベル達からも聞いた」
「つまり実際に襲われた本人達からも、同じ内容を確認しているということか」
「うん」
フィンは完全に黙り込んだ。
フレイヤ・ファミリアの幹部は、ロキ・ファミリアにとって最大の競争相手である。
アレン、ヘディン、ヘグニ、ガリバー兄弟。
誰一人として容易に倒せる相手ではない。
その者達が、シン本人ですらない分身によって瞬時に制圧された。
冗談で済ませられる情報ではなかった。
「オッタルは?」
ガレスが尋ねた。
「ベルのところにいたから、シン本人が行った」
「結果は?」
「オッタルが負けた」
アイズは淡々と答えた。
「シンはほとんど何もさせなかったって、ベルが言ってた」
今度はガレスまで沈黙した。
オラリオ最強。
その称号に最も近い男がオッタルである。
フィンやガレスでさえ、一対一で容易に勝てる相手ではない。
そのオッタルを、ほとんど何もさせずに制圧した。
ベートが低く呟く。
「……化け物かよ」
誰も否定しなかった。
リヴェリアは別の点に注目していた。
「待て、アイズ。先ほどシンは分身を四人出したと言ったな?」
「うん」
「それら全てがフレイヤ・ファミリアの第一級冒険者を圧倒できるほどの力を持っているということか?」
「そうみたい」
「本人との差は分かるか?」
「シンは、分身は本体の百分の一くらいって言ってた」
今度こそ。
室内から完全に音が消えた。
「……何やて?」
ロキが聞き返した。
「百分の一」
アイズはもう一度答えた。
ティオナが指を折りながら何か計算しようとして、途中でやめた。
「それって……幹部達を一瞬で倒せる分身より、本人は百倍くらい強いってこと?」
「単純にそういう計算ができるかは分からない」
フィンが静かに答えた。
「だが、少なくとも本人が分身とは比較にならないほど強いということだけは確かだろうね」
ベートは何も言わなかった。
先ほど感じた殺意を思い出していた。
あれがシンのものだとすれば。
説明がついてしまう。
「それで?」
ロキがアイズを見る。
「フレイヤんとこの連中を倒した後、どうなったん?」
アイズの表情が少しだけ険しくなる。
「シンは、倒した幹部達をフレイヤのところに送った」
「フレイヤはどこにおった?」
「街の外。ヘスティアとヘルメスもいた」
アイズは、そこから先については帰還したヘスティアとシンから聞いた内容であることを断ったうえで説明した。
シンはフレイヤ本人へ、ベル達への襲撃を命じたのか確認した。
そしてフレイヤがそれを認めた。
その瞬間。
シンはフレイヤを殺そうとした。
正確には。
「存在そのものを消そうとしたって言ってた」
ロキの顔から完全に表情が消えた。
神を殺す。
その言葉だけなら、下界の者達が意味を誤解して使うこともある。
神の肉体を破壊し、アルカナを強制的に発動させれば神は天界へ送還される。
だが、アイズが口にしたのは送還ではない。
「アイズたん」
ロキの声が低くなる。
「それ、ほんまに『天界へ送り返す』って意味やないんやな?」
「うん」
「神そのものを消すって意味で言うたんか?」
「そう」
ロキは何も言わなくなった。
フィンがその反応を見る。
「ロキ。可能なのかい?」
「普通なら無理や」
ロキは即答した。
「下界の子供が神の身体を殺すことはできても、ウチらそのものを消すなんて話は別や。そんなもん、普通の下界の存在ができることやない」
そこでロキは言葉を切った。
普通なら。
その前提をシンへ当てはめていいのか。
今聞いた話だけでも怪しい。
そしてアイズは続けた。
「その時に出たのが、さっきの殺意」
全員が動きを止めた。
「……あれが?」
ティオネが尋ねる。
「うん」
アイズは頷いた。
「シンがフレイヤだけに向けた殺意。その余波がオラリオまで来たみたい」
ベートの表情が歪む。
「余波だと?」
「あれ全部が俺達に向けられたわけじゃないってことかよ」
「うん」
その事実は、実際に殺意を感じた者達へ大きな衝撃を与えた。
都市全体を覆ったあの圧力。
Lv.3以下の者達を一斉に気絶させた殺意。
あれですら、本来の標的へ向けられたものの余波でしかなかった。
ティオナが珍しく引きつった笑みを浮かべる。
「ベルのお兄さんって……何者なの?」
「分からない」
アイズは正直に答えた。
「聞かなかったの?」
「シンに、知らないことは知らないって答えろって言われた」
フィンの目が僅かに細くなる。
「なるほど。つまり、シンは僕達が君から情報を得ようとすることまで予想していたわけだ」
アイズは少し考える。
「たぶん」
フィンはそれ以上追及しなかった。
むしろ、シンが自分達へ事情を説明するようアイズに頼んだという事実を重く見ていた。
隠そうと思えば隠せたはずだ。
少なくとも殺意の発生源について、黙っていればロキ・ファミリアがすぐに特定することは難しかった。
それを自分から明かした。
「少なくとも、今回の件について僕達と敵対する意思はないと考えていいだろう」
フィンが言う。
「どうして?」
ティオナが尋ねた。
「敵対するつもりなら、わざわざアイズを通じて事情を説明する必要がないからだよ。それに、アイズをヘスティア・ファミリアの本拠地へ留めたことについても、シン本人が謝罪している」
「謝ったの?」
ティオナが少し意外そうにアイズを見る。
「うん。自分達の事情に付き合わせたって」
フィンは静かに頷く。
「少なくとも、話が通じない相手ではない」
「問題はフレイヤや」
ロキが言った。
その言葉で話題が戻る。
「ヘスティアはシンを止めたんやな?」
「うん」
「よく止められたね」
ティオネが言う。
「どうやって?」
「ヘルメスが戦争遊戯を提案した」
「戦争遊戯?」
今度はフィンが反応した。
アイズは説明する。
フレイヤが消えれば、その眷属達が後を追って命を絶つ可能性が高いとヘルメスが考えたこと。
フレイヤ・ファミリアという巨大戦力が失われれば、将来的な黒竜討伐にも大きな影響が出ること。
そのため、フレイヤをその場で消すのではなく、ヘスティア・ファミリアとフレイヤ・ファミリアによる戦争遊戯で決着をつけるよう提案したこと。
その説明を聞き、フィン達は納得した。
彼らは知らない。
黒竜が既に存在しないことを。
それを知っているアイズも、シンから今回の説明に必要のないことは話さなくていいと言われているため口にしなかった。
「ヘルメスらしい判断やな」
ロキが呟く。
「フレイヤんとこの連中がまとめて死んだら、確かに世界全体で見れば洒落にならへん」
「戦力という意味では、我々にとっても大きな損失だ」
フィンも同意した。
「それでシンは納得したのかい?」
「最初は断ったって聞いた」
「理由は?」
「それは言わなくていいって言われてる」
アイズはそう答えた。
実際には、黒竜が既にシンによって消滅させられているため、ヘルメスの提示した理由そのものが成立しなかったからだ。
フィンは少しだけアイズを見つめたが、無理に聞き出そうとはしなかった。
「分かった。そこは聞かないでおこう」
アイズは続きを話した。
最終的にシンを止めたのはヘスティアだった。
フレイヤがベル本人の意思を無視したことに怒っているのに、シンまでベル達の意思を確認せずに全てを終わらせれば、結局同じように本人達の意思を無視することになる。
ヘスティアからそう指摘され、シンはフレイヤの処遇を自分一人で決めることをやめた。
現在はベル達自身がどうしたいのか、その答えを待っている。
そこまで聞き終えたフィンは、長く息を吐いた。
「状況は理解した」
リヴェリアも頷く。
「少なくとも、先ほどの異変がオラリオへの攻撃ではなかったことは分かった。それだけでも大きい」
「でもよ」
ベートが低い声を出す。
「フレイヤんとこが白髪達を襲ったってんなら、まだ終わってねえんだろ?」
「そうだね」
フィンは頷く。
「戦争遊戯になる可能性は高い」
ティオナがアイズを見る。
「アイズはどうするの?」
「どうするって?」
「ベル達がフレイヤ・ファミリアと戦うことになったら」
アイズは少し黙った。
ベルが襲われた。
それを聞いた時、助けに向かいたかった。
その気持ちは今も変わっていない。
だが。
アイズはロキ・ファミリアの眷属だ。
自分一人の感情だけで動くことはできない。
「……分からない」
正直に答えた。
ロキはそんなアイズをじっと見ていた。
そして、フィンへ視線を移す。
「フィン」
「分かっているよ」
フィンの表情は既に団長のものへ戻っていた。
「まず情報を整理する。フレイヤ・ファミリアが現在どう動いているのか、ギルドが今回の襲撃を把握しているのか、戦争遊戯が正式に提案されるのか。それを確認してからだ」
ガレスが頷く。
「下手に動けば、こちらまで派閥間の争いへ巻き込まれるからのう」
「それと」
フィンはアイズを見る。
「シン・クラネルについても、現時点では敵として扱わない」
ベートが眉を寄せる。
「警戒もしねえのか?」
「そうは言っていない」
フィンは即座に否定した。
「警戒はする。むしろ、これまで以上に必要だろう」
オッタルを一瞬で制圧した本人。
フレイヤ・ファミリアの幹部達を一瞬で倒した分身。
その分身でさえ、本体の百分の一程度。
さらに、本気で殺意を向けただけで、その余波がオラリオ全域へ届く。
警戒しない理由など存在しない。
「だが、強大だからという理由だけで敵と決めつけるべきでもない」
フィンは続ける。
「少なくとも今回、彼はベル達を守るために動いた。アイズとアリアを守るために本拠地へ結界を張り、事後にはアイズを巻き込んだことについて謝罪し、僕達へ事情を説明するよう頼んだ」
そこまでの行動を見る限り。
無差別に力を振るう存在ではない。
「今後、直接話す必要はあるだろうね」
フィンの言葉に、ロキも頷いた。
「せやな」
普段なら、新しく現れた面白そうな人間を見つければすぐにでも会いに行こうとするロキだった。
だが今回は違う。
シンはベルの兄というだけではない。
先ほどの殺意。
フレイヤへの対応。
神そのものを消滅させようとしたという話。
その全てを考えれば、軽い気持ちで接触していい相手ではない。
ロキは椅子へ深く座り直した。
「……神を存在ごと消す、か」
誰にも聞こえないほど小さな声で呟く。
シンが実際にそれをできるのか。
まだ証拠はない。
だが。
ロキの中では別の疑問が生まれていた。
本当に不可能なことをしようとしていた者が、あれほどの殺意を放つだろうか。
少なくともシン本人は、自分ならフレイヤを消せると確信していたはずだ。
そして。
もし、それが事実なら。
シン・クラネルという存在は。
単に強い冒険者などという枠には到底収まらない。
「アイズ」
ロキが呼ぶ。
「何?」
「シンのこと、まだ分からんことだらけなんやな?」
「うん」
「なら今はそれでええ」
ロキは珍しく真面目な声で言った。
「勝手に探るんはやめとこ。向こうが話す気になった時に聞けばええ」
フィンが僅かに意外そうな顔をした。
「ロキがそう言うとは思わなかったよ」
「ウチかて相手は選ぶわ」
ロキはそう答えると、窓の外へ視線を向けた。
先ほどまでと変わらないオラリオの街並みが広がっている。
だが。
ロキ・ファミリアの幹部達にとって。
今日を境に一つだけ大きく認識が変わった。
ベル・クラネルの双子の兄。
九年前に行方不明になり、突然帰ってきた青年。
シン・クラネル。
彼は単なるベルの家族ではない。
オラリオ最強と呼ばれるオッタルを一瞬で制圧し、分身だけで第一級冒険者達を圧倒し、殺意の余波だけで都市全体へ影響を与えることのできる存在だった。
その力の底がどこにあるのか。
何故それほどの力を持っているのか。
九年間の行方不明の間に、一体何があったのか。
何一つ分からない。
それでも、一つだけは理解できた。
シン・クラネルにとって、ベルは決して傷つけてはならない存在なのだ。
今回。
フレイヤはその一線を越えた。
そして、その結果としてオラリオ全体が。
シン・クラネルという存在が本気で怒った時、その余波だけで何が起こるのかを身をもって知ることになった。