白兎の兄が規格外なのは間違っているだろうか 作:ディーノpc35
アイズが再び黄昏の館へ戻った時、ロキ・ファミリアの幹部達は、まだ前日に起きた異変について話し合っていた。
シン・クラネル。
ベル・クラネルの双子の兄であり、九年前に行方不明となり、つい最近になって突然オラリオへ帰還した青年。
それまでロキ達が知っていたのは、その程度だった。
しかし、アイズから前日の一件について報告を受けたことで、その認識は大きく変わっている。
フレイヤ・ファミリアの幹部達を、シン本人ではなく四人の分身だけで瞬時に制圧した。
ベルを襲ったオッタルに対してはシン本人が向かい、ほとんど抵抗させることなく倒している。
さらに、ベル達を襲わせた張本人がフレイヤだと知ったシンが女神へ殺意を向けた結果、その余波だけでオラリオ中のLv.3以下の強さしか持たない者達が意識を失った。
それ以上の実力を持つ者達も、都市の外から届いた殺意をはっきりと感じ取っている。
ロキ・ファミリアの幹部達も例外ではなかった。
だが、知ったことが増えたからといって、シンという存在を理解できたわけではない。
むしろ逆だった。
話を聞けば聞くほど、彼がどれほどの力を持っているのか分からなくなっていた。
そんな中、アイズが再び部屋へ入ってきた。
「ロキ」
呼ばれたロキが振り返る。
「ん? アイズたん、またヘスティアんとこ行っとったん?」
「うん」
「アリアに会いに行っとったんか?」
「それもある」
その答えを聞いたフィンが、すぐにアイズへ視線を向けた。
「他にも何かあったのかい?」
アイズは小さく頷いた。
「ベル達が決めた」
その一言だけで、フィンは何についての話なのか理解した。
「フレイヤ・ファミリアとの戦争遊戯についてかい?」
「うん」
アイズは、ヘスティア・ファミリアで決まったことを順番に説明した。
ベル達は襲撃を受けた後、すぐに結論を出したわけではなかった。
ベル、リリ、ヴェルフ、命、春姫の五人で丸一日悩み、何度も話し合った。
フレイヤを許すことはできない。
だからといって、シンにフレイヤを存在そのものから消滅させてもらうことも望んでいない。
その結果として、自分達自身の手で決着をつけるため、フレイヤ・ファミリアとの戦争遊戯を受けると決めた。
シンもその結論に反対せず、ベル達自身が決めたことであるなら、その意思を尊重すると答えた。
そこまで説明してから、アイズはロキを見る。
「ヘスティアからお願いがある」
「ウチに?」
「神会を開いてほしいって」
ロキが僅かに眉を上げた。
「戦争遊戯の条件を決めるためか?」
「うん」
ロキは椅子の背もたれへ身体を預けると、しばらく考え込んだ。
普段なら、ヘスティアとフレイヤが戦争遊戯を行うと聞けば、それなりに面白がっていたかもしれない。
神々にとって戦争遊戯は、自分達の眷属が誇りと意地を懸けて争う大きな娯楽でもある。
だが、今回は事情が違った。
発端となったのは、フレイヤがベル本人の意思を無視し、ファミリアの最高戦力を動かして強引に奪おうとしたことだ。
しかもベルだけではない。
リリ、ヴェルフ、命、春姫まで同時に襲わせている。
そして、その結果としてシンが激怒した。
もしヘスティアが止めていなければ、戦争遊戯どころか、フレイヤという神そのものが既に存在しなくなっていた可能性がある。
「……神会か」
ロキが小さく呟く。
ガレスがそんな主神を見る。
「受けるのか?」
「受けるしかないやろ」
ロキはすぐに答えた。
「むしろ、ここで時間を空ける方が危ない」
ティオナが首を傾げた。
「どうして?」
「フレイヤがまた勝手に動いたら、今度こそ何が起きるか分からへんからや」
その言葉で、ティオナも理解した。
次にフレイヤがベル達へ手を出せば、シンが再び動く。
しかも今度は、ベル達が一度は戦争遊戯による決着を選んだ後だ。
それをフレイヤ自身が壊したとなれば、ヘスティアがシンを止められる保証はない。
フィンも静かに頷いた。
「それに、今回の件は既にヘスティア・ファミリアとフレイヤ・ファミリアだけの問題ではなくなっている」
オラリオ全域がシンの殺意の余波を受けた。
何も事情を知らない神々も冒険者達も、当然ながら原因を探っている。
このまま何も説明しなければ、根拠のない憶測が広がっていくだろう。
「正式な神会を開いて、ある程度事情を共有した方がいい。戦争遊戯を行うなら、なおさらだ」
リヴェリアもフィンの意見に同意した。
「余計な混乱を避けるという意味でも、その方がいいだろう」
ロキはしばらく考えた後、アイズへ視線を戻した。
「分かった。ヘスティアに伝えといて」
「何を?」
「ウチが神会を開くってな」
アイズは頷いた。
「うん」
「できるだけ早くや。可能なら今日中に集める」
フィンが少し驚いたようにロキを見る。
「今日中かい?」
「時間を空けて、また昨日みたいなことが起きる方が嫌や」
その言葉に、今度は誰も反対しなかった。
◇
その日の午後。
ロキの呼びかけによって、急遽神会が開催された。
通常の神会とは違う。
冒険者達へ新しい二つ名を与えるためでもなければ、神々が酒を飲みながら騒ぐためでもない。
今回には明確な議題が存在する。
ヘスティア・ファミリアとフレイヤ・ファミリアによる戦争遊戯。
その開催と条件について話し合うための神会だった。
急な招集だったにもかかわらず、広間には多くの神々が集まっていた。
ロキ。
ヘスティア。
ヘファイストス。
ゴブニュ。
ミアハ。
タケミカヅチ。
ガネーシャ。
ヘルメス。
その他にも、オラリオに滞在する多くの神々が参加している。
そして当然ながら、今回の騒動の中心となったフレイヤも姿を見せていた。
銀色の髪を揺らしながら席に着く姿は、普段と大きく変わらない。
しかし、彼女を以前から知る神であれば、僅かな違和感に気づいただろう。
いつもの余裕がない。
ほんの僅かではあるが、緊張している。
その理由を正確に知っている神は少ない。
ヘスティア。
そしてシンと以前から関わり、彼の異常性をある程度知っているヘファイストスとゴブニュ。
さらに、前日の現場に居合わせたヘルメス。
彼らはフレイヤが何を経験したのかを知っていた。
ベル達への襲撃を命じたと認めた直後、シンは本気でフレイヤという存在そのものを消滅させようとした。
そしてフレイヤ自身も、自分が本当に消されると理解していた。
その経験をした翌日なのだ。
完全に平静でいられるはずがなかった。
ロキが集まった神々を見渡した。
「ほな、始めるで」
ざわついていた広間が少しずつ静かになる。
「今日集まってもらった理由は、ヘスティア・ファミリアとフレイヤ・ファミリアの戦争遊戯についてや」
その瞬間、再びざわめきが広がった。
「本当にやるのか?」
「ヘスティアとフレイヤが?」
「またベル・クラネル絡みか?」
「昨日の異変と関係してるんじゃないか?」
当然の反応だった。
前日、オラリオ全域が正体不明の殺意に包まれている。
Lv.3以下の強さしか持たない者達が次々と気絶し、それ以上の実力者達も強烈な殺意を感じ取った。
その翌日に突然、ヘスティアとフレイヤによる戦争遊戯の話が出た。
無関係だと思う方が難しい。
「順番に説明するから、まず聞きや」
ロキがそう言うと、神々も少しずつ口を閉じた。
「当事者から話した方がええやろ。ヘスティア」
「分かったよ」
ヘスティアが席を立つ。
そして、今回の発端から説明を始めた。
フレイヤが以前からベルへ強い執着を持っていたこと。
ベルを自分の眷属にするため、ついに実力行使へ踏み切ったこと。
オッタルをベルへ向かわせ、さらに他の幹部達を動かして、リリ、ヴェルフ、命、春姫を同時に襲撃させたこと。
そこまで聞いた時点で、神々の表情が変わった。
「待て待て。オッタルまで動かしたのか?」
「最高幹部総出で?」
「ベル本人は了承してたのか?」
ヘスティアは最後の質問へ即座に答えた。
「してないよ」
再び広間がざわつく。
神々は恋愛沙汰そのものを否定しているわけではない。
下界で誰かを好きになる神もいる。
眷属同士の恋愛を面白がる神もいる。
嫉妬や失恋を酒の肴にすることもある。
だが、本人が明確に望んでいないにもかかわらず、ファミリアの最高戦力を使って強引に奪うとなれば話が違う。
しかもベルだけではなく、その仲間達まで襲わせた。
ミアハが普段より真剣な表情でフレイヤを見る。
「フレイヤ。ベル君本人が望んでいないのであれば、力によって意思を曲げようとするべきではなかったと思うよ」
タケミカヅチも頷いた。
「まして、ベルだけでなく仲間達まで襲わせたのであれば、ヘスティア達が怒るのは当然だ」
ガネーシャも腕を組みながら声を上げた。
「私も見過ごすべきではないと考える! なぜなら私はガネーシャだからだ!」
「最後の部分は関係ないだろ」
すぐにどこかから突っ込みが入る。
「私はガネーシャだ!」
「それは知ってる!」
一瞬だけ広間に笑いが起こったものの、すぐに空気は元へ戻った。
ヘファイストスは何も言わなかった。
ゴブニュも黙っている。
二柱とも、他の神々とは違う理由で今回の一件を重く見ていた。
フレイヤがベルを狙った。
それだけなら、まだ神々同士の問題として考えられた。
だが今回は、シンが最も大切にしている弟へ、本人の意思を無視して手を伸ばした。
その結果がどうなったのかを知っている。
やがて、一柱の神が尋ねた。
「それで、ベル達はどうなったんだ?」
別の神も続ける。
「オッタルと幹部達に襲われたんだろ?」
「全員無事だよ」
ヘスティアが答える。
その返事に、神々の間から疑問の声が上がった。
「全員?」
「どうやって?」
「ベルはともかく、他の連中が最高幹部に襲われて無傷なのか?」
ヘスティアは一度だけ息を吐いた。
「シン君が止めたんだ」
聞き慣れない名前に、何柱かの神が首を傾げた。
「シン?」
「誰だ?」
「ベル・クラネルの兄だよ」
「ああ、最近オラリオに来たっていう?」
「九年前に行方不明になった双子の兄か」
この時点で、大半の神々が知っているシンの情報はその程度だった。
行方不明になっていたベルの双子の兄。
最近になって突然帰ってきた青年。
それ以上のことはほとんど知らない。
「そのシンが何をしたんだ?」
ヘスティアは答える。
「ベル君のところにはシン君本人が向かった。他の四人のところには、シン君が自分の分身を一人ずつ向かわせた」
「分身?」
「魔法か?」
「それで間に合ったのか?」
ヘスティアは首を横へ振る。
「間に合ったどころじゃないよ。全員、シン君と分身に倒された」
神々の声が止まった。
数秒遅れて、意味を理解した者達が騒ぎ始める。
「全員って……フレイヤ・ファミリアの幹部が?」
「分身に?」
「オッタルはどうした?」
「オッタルにはシン君本人が行った」
「勝ったのか?」
ヘスティアは少し考えてから答えた。
「ベル君から聞いた話だと、勝負って呼べるほどのものにもならなかったみたいだよ」
その瞬間、広間が完全に静かになった。
オッタル。
オラリオ最強と呼ばれる第一級冒険者。
その男を相手に、勝負にすらならなかった。
普通なら誰も信じない。
だが。
神々の視線がフレイヤへ集まる。
フレイヤは否定しなかった。
それだけで十分だった。
「……本当なのか」
「オッタルが?」
「しかも他の幹部は分身に負けたって?」
「ベルの兄は何者なんだ?」
次々と疑問の声が上がる。
しかし、ヘスティアはシンについてそれ以上説明しなかった。
シンの過去を勝手に話すつもりはない。
約十億年に及ぶ異世界での旅。
神々との戦い。
神龍との死闘。
黒竜の消滅。
それらは、今回の神会で公表する話ではなかった。
ヘスティアは話を先へ進める。
「その後、シン君はフレイヤのところへ向かった」
神々が再び静かになる。
「そこでフレイヤ本人に、ベル君達を襲わせたのか確認した」
「フレイヤは?」
「認めたよ」
ヘスティアはそこで一度フレイヤを見る。
「それを聞いたシン君は、フレイヤを消そうとした」
「消す?」
ある神が首を傾げた。
「天界へ送り返そうとしたのか?」
「違う」
ヘスティアははっきりと否定した。
「天界へ送還するんじゃない。フレイヤという存在そのものを消滅させようとした」
今度は、先ほどまでとは比較にならないほど重い沈黙が広がった。
神々だからこそ、その言葉の意味が分かる。
下界で神の肉体が致命的な損傷を受ければ、封じていたアルカナが発動し、その神は天界へ強制送還される。
それは消滅ではない。
天界へ帰るだけだ。
だが、シンがしようとしたことは違う。
神としての存在そのものを消す。
もし本当にそんなことが可能なら、天界へ帰ることすらできない。
「……そんなことができるのか?」
誰かが呟いた。
答えたのはヘスティアではなかった。
それまで黙っていたフレイヤが静かに口を開く。
「できるのでしょうね」
神々の視線が一斉にフレイヤへ向く。
フレイヤは普段のような微笑みを浮かべていなかった。
「あの時、私は確かに理解したわ」
僅かな沈黙の後、続ける。
「シン・クラネルがその気になれば、私は天界へ帰ることさえできず、その場で完全に消されると」
フレイヤ本人がそう証言したことで、神々の間から冗談として受け流す空気が完全に消えた。
そしてロキが、さらに決定的な情報を口にする。
「それとな。昨日、オラリオ中で起きた異変についても説明しとく」
全員の視線がロキへ向いた。
「あの殺意の正体はシンや」
数秒。
誰も反応できなかった。
「……何?」
「あれが?」
「ベルの兄から出ていたのか?」
ロキは頷いた。
「正確には、シンがフレイヤだけに向けた殺意の余波や」
今度こそ広間から音が消えた。
昨日の異変を、ここにいる神々のほとんどが実際に経験している。
Lv.3以下の強さしか持たない者達を一斉に気絶させ、それ以上の者達にまで強烈な危機感を抱かせた殺意。
あれほどのものが、オラリオそのものへ向けられていたわけではない。
ただ一柱。
フレイヤだけへ向けられた殺意の余波だった。
「……冗談だろ?」
「余波だけで都市全域に届いたのか?」
「それなら、直接向けられたフレイヤは何を感じたんだ……?」
神々の視線が再びフレイヤへ集まる。
フレイヤは答えなかった。
だが、その沈黙そのものが十分な答えになっていた。
やがて、一柱の神が恐る恐る尋ねる。
「だったら、どうしてフレイヤはまだここにいる?」
ヘスティアが答えた。
「ボクが止めたからだよ」
「止まったのか?」
「最初は全然止まらなかったけどね」
「おい……」
神々の顔が引きつる。
「その時、ヘルメスが戦争遊戯を提案したんだ」
今度は視線がヘルメスへ集中した。
ヘルメスは困ったような笑みを浮かべた。
「フレイヤが消えれば、彼女の眷属達が後を追う可能性が高い。そうなれば、オラリオは最大派閥の一つを丸ごと失うことになる」
その説明には多くの神々が納得した。
ヘルメスが本来考えていた理由には黒竜への対抗戦力を失うことも含まれていたが、今ここでその話を出すことはなかった。
シンから、黒竜は既に自分が消滅させたと聞いている。
そして、その事実を知っている者は極めて限られている。
ヘルメスが勝手に広める話ではない。
「だから私は、その場で全てを終わらせるのではなく、戦争遊戯によって決着をつけることを提案した」
「なるほどな」
「フレイヤ・ファミリアが丸ごと消えるよりは現実的か」
神々の間から納得する声が上がる。
しかし、ヘスティアはそこで首を横へ振った。
「でも、それだけじゃシン君は納得しなかった」
「じゃあ、どうやって止めたんだ?」
ヘスティアは少しだけ表情を和らげた。
「シン君が怒った一番の理由は、フレイヤがベル君本人の意思を無視したことだったからだよ」
そして、自分がシンへ言ったことを説明する。
フレイヤがベルの意思を無視したことに怒っているのに、シンまでベル達の意思を聞かず、自分一人でフレイヤの処遇を決めれば、結局はベル達の意思を無視することになる。
その指摘を受けて、シンはようやくフレイヤをその場で消滅させることをやめた。
「それからベル君達が丸一日考えた」
ヘスティアは神々を見渡した。
「その結果、自分達の手で決着をつけるために、フレイヤ・ファミリアとの戦争遊戯を選んだ」
ようやく話が、本来の議題へ戻ってきた。
ロキが前へ出る。
「つまり、今日ここで決めるんは戦争遊戯をするかどうかやない」
既に当事者達は戦うことを選んでいる。
「どういう形式で戦って、何を勝敗条件にして、勝った側が何を要求できるか。それを決めるための神会や」
その言葉を境に、神々から様々な意見が上がり始めた。
攻城戦にするのか。
野戦形式にするのか。
参加人数を制限するのか。
開催日はいつにするのか。
そして、最も大きな問題として浮かび上がったのが、シンの扱いだった。
「待て」
一柱の神が声を上げる。
「シン・クラネルは参加するのか?」
その問いだけで、広間が再び静かになった。
当然だった。
オッタルを一瞬で制圧した本人。
フレイヤ・ファミリアの最高幹部達を分身だけで圧倒した存在。
そんな者が普通に参戦すれば、戦争遊戯として成立するのかすら怪しい。
ロキも同じことを考えていた。
「ヘスティア。シンは何て言っとるん?」
「ベル君達が決めたことに従うって言ってるよ」
「自分が参加するかどうかも?」
「そこも含めてね」
ロキは腕を組んで考え込む。
すると、それまで黙っていたフレイヤが口を開いた。
「私は、シン・クラネルが参加しても構わないわ」
神々が一斉にフレイヤを見る。
「本気か?」
「昨日の話を聞いた後で?」
「勝負になると思っているのか?」
フレイヤは静かに答える。
「私の眷属達は既に彼に敗れているもの。今更、彼だけを除外して勝利したところで意味はないでしょう?」
その言葉には、以前のような絶対的な自信はなかった。
シンの力を直接知ってしまったからこそ、自分の眷属達では勝てないことも理解している。
しかし、ロキはすぐに首を横へ振った。
「いや、それやったら戦争遊戯にならへんやろ」
他の神々も次々と同意した。
「そうだぞ」
「オッタルを一瞬で倒す奴を普通に参加させてどうする」
「しかも幹部達を分身だけで倒せるんだろ?」
「最初から結果が決まってるじゃないか」
ヘスティアも、その点については否定できなかった。
「シン君については、何か条件を決める必要がありそうだね」
ロキも頷いた。
「せやな。そこを含めて決めんとあかん」
こうして神会は、戦争遊戯を行うかどうかを議論する段階から、具体的なルールを決める段階へと移っていった。
だが、多くの神々の意識は完全には戦争遊戯へ戻っていなかった。
シン・クラネル。
これまで彼らにとっては、九年前に行方不明になり、最近になって戻ってきたベル・クラネルの双子の兄でしかなかった。
ところが、今回の神会でその認識は完全に覆された。
オラリオ最強と呼ばれるオッタルを、まともな戦いにすらならないほど一方的に制圧した。
フレイヤ・ファミリアの最高幹部達を、本人ではなく分身だけで倒した。
一柱の女神へ向けた殺意の余波だけで、オラリオ全域へ影響を及ぼした。
そして何より。
神を天界へ送還するのではなく、存在そのものを消滅させることができる可能性がある。
それでもシンは、ベル達の意思を尊重するために自ら矛を収めた。
力だけなら恐ろしい。
だが、何を基準にその力を振るうのかについては、少なくとも今回の一件から一つだけ分かることがあった。
ベル・クラネルと、その仲間達。
彼らへ理不尽に手を出すこと。
それだけは、シンにとって決して許容できない一線なのだ。
神々はこの日、初めて理解した。
最近オラリオへ現れたベル・クラネルの双子の兄は、単なる強者ではない。
下手に敵へ回せば、神である自分達でさえ無事では済まない存在なのだと。
そして、その認識を抱いたまま。
神々はこれから行われる戦争遊戯の条件について、本格的な話し合いを始めることになった。