深夜の時間。だが、技術力が発達しキヴォトス随一の技術力を持つミレニアムの街並の光は全て落ちることはない。街並の明かりと街灯に照らされる人気のないハイウェイ。夜の静寂を切り裂くように、排気音を鳴り響かせて疾走する複数名の姿がある。
「もっとスピードは出ないのか!」
「いっぱいいっぱいだ!とにかく急ごう!」
統一性のないヘルメットをかぶった集団。その中でも、今回の計画の立案者である二名の生徒は焦ったようにして集団の先頭を疾走する。それを見ている他のメンバーたちの多くは、何故そんなに焦るのかという思いのもと頭の上に疑問符を浮かべる。
彼女達は俗に、このキヴォトスにおいてヘイロー持ちの生徒と呼ばれ。そして、身分上では様々な理由から元いた自治区や学校を去った少女達のいわば不良集団。ヘルメット団と呼ばれている者達の末端であり、今回はミレニアムでの資源略奪計画を実行に移していた。奪った資源は調べでは民間のものだった。だから、奪って早足に逃げて、ブラックマーケットにでも流してクレジットにしてしまおう。そんな魂胆だった。
だが。計画者の二人が資源を奪った時、それまでの楽な仕事で大金が手に入るという嬉々とした表情から一転。ヘルメットの下に青ざめた表情を浮かべることになり、一気に内心の思いは嬉々から焦燥へと変わった。
その民間の荷物は、手のついた荷物だった。それも、ミレニアムで手を出してはいけない相手。この自治区において生徒会に該当するセミナー関係のものだった。そうして、そんな相手に喧嘩を売れば動く存在が居る。
「と、とりあえずトリニティまで逃げて、そこから身を隠しながらブラックマーケットに逃げよう!それにトリニティなら、規模の大きいヘルメット団の一派も居るはずだ、報酬の一部を分け前として匿ってもらおう!」
「な、なあ。どうしてそんなに焦っているんだ?荷物は確保したんだし、もっとゆっくりでも……」
「そんな余裕はなくなったんだ!くそっ……くそ!知っていれば手を出さなかったのに!」
構成員の一人に対して、焦ったように。そして最悪だ、というように悪態をつきながら返答するリーダー格。明らかな以上さに、流石の何も知らない構成員達も不安が募っていく。
「とにかく出せるだけのスピードを出して逃げるんだ、幸いなことにこのハイウェイは一直線でそのままトリニティまで続いている。とにかく無理にでも向こうに逃げるんだ ――奴らが出てきたら終わりだ」
「奴ら……?」
「――ミレニアム治安維持局」
その言葉を聞いた構成員達の表情が変わる。疑問から、焦りへと。
リーダー格の後方からは絶望したように悪態をつく構成員の声も聞こえるが、それでも誰もが足を止めることはなかった。むしろ、今まで以上に速度を上げようとしている。
そうして全速力で加速し、彼女達の視界には見えてくる。ミレニアムという自治区の境界線。そこを超えて暫く走れば、トリニティへとたどり着く人気のない検問に。
ここさえ超えてしまえばもう安心である。それまでの緊張が消えたようにしてそれぞれがホッ、としたその時だった。
「うわっ!」
「な、なんだ!?」
突然ヘルメット団を襲うのは、夜の帷とは正反対のモノ。眩い、それこそ両手で視界を覆いたくなるような光が正面から。そして続いて、聞こえてきたヘリコプターの駆動音と共に上空からも襲いかかる。そんな中で彼女達は見た。正面に現れたのは、ミレニアムでも最新鋭のホバー機能を備えた大型ビークルの一団に上空には同じくフル武装した攻撃ヘリ。
だが。それ以上に最悪の、彼女達にとっては最も想定したくないケースが。
否、最も出会いたくない存在がそこには居た。
「――折角のお休みだったのだけど。あまり手を煩わせないで頂戴」
小柄な体躯。ふわりとした長い、後頭部でまとめ上げられた白い長髪のポニーテール。無表情にも見えるそれに、鋭い目つきと紫玉の瞳。そうして、このミレニアムにおいては珍しいどころではなく、恐らく彼女一人なのではないのかという特徴。まるで悪魔のような、後頭部に存在する黒と紫の角に、背中に存在している同じ色の翼。
突然現れた一団の最前列に専用にカスタムとチューニングされた、完全武装の変形型ビークルから降りて立ちはだかる少女が身に纏うのは、動きやすさを重視したショートパンツに、"黒のミレニアムの制服であるジャケットとシャツ"。
「あまり頑張りすぎると、またユウカやノアに怒られるから。だから――すぐに片付けさせてもらうわ」
ビークルの武装ラックから取り外され、彼女の手に収まるのは漆黒の。その身の丈以上はあろうかという巨大なカスタムされたマシンガン。
死刑宣告にも等しいその言葉に、ヘルメット団はただ絶望するしかなかった。
その一団を指揮する少女は、今やこのミレニアムにおいては知らぬものは居ないというほどに有名だった。
美甘ネルと並んでのミレニアム最強にして、この自治区の法と秩序の番人。
彼女の名を。治安維持局局長、空崎ヒナと言った。