時間より時計じかけの花のパヴァーヌ編突入。ミレニアム関連の章はちょっと長めになるかと思われます。
カイザーからして、状況は絶望そのものだった。
空崎ヒナの最前線への介入。ここで抑えなければ、そのまま中央施設へと向かった生徒達と合流するために進軍するだろうという状況。だからこそ、カイザーの兵士達はありったけの戦力を基地前線へと投入し、火力をヒナへと集中させた。
だが。カイザーの兵士達は思い知ることになる。今の空崎ヒナがどんな存在なのか。どれほどの力を持っているのかということを。
『これだけやっても無傷どころか、突破さえ出来ないのか……化物め……!』
生徒一人に対しては明らかに過剰過ぎる、兵器による暴力の雨。しかし、そのどれもがヒナに届くことはない。彼女と、彼女に付き従うオートマタを守るように展開されている半透明の赤いドーム状のフィールドに防がれ、一切の攻撃が届かない。
それを展開しているのは、ヒナに付き従う異形のオートマタだ。漆黒のボティに重装甲と紅のバイザー状のデュアルアイ、左腕には3メートル近いタワーシールド、右腕には巨大なエネルギーマシンガンを持っており、右手側部には収納状態となっているものの巨大なパイルバンカーが見て取れる。背中には四基の大型ブースター、肩部後ろのウェポンラックには巨大なロケットランチャーにマルチミサイル兵装。背部にはホーミングレーザーを発射する兵装が装備されている。
ヒナの駆る超大型二輪ビークル『フェルニル』。変形機構を備えたその機体の、普段ヒナが搭乗している時を機動力を重視したビークルモードとするなら、今の形態は制圧力を重視したバトルモード。デストロイヤーという超火力の武器を使用し、相手を完全制圧することに重きを置いたヒナの戦い方をサポートするように、重装甲かつ重武装。そして、幾つかの特殊兵装により攻撃・防御の側面でサポートをしながら共に戦う形態である。
そうして、彼女が『フェル』と呼んだその存在こそ、ミレニアムの廃墟。その中でも深淵に存在した遺物の中に居た、とある存在。もしヒナを主として定めていなければ、途方もない脅威になっていたかもしれない存在なのだ。
「ここからなら、中央施設以外すべて見渡せる。アビドス高校も便利屋も退避したし、巻き込む憂いもない。 対象を完全制圧する。フェル、容赦しなくていいから」
『よろしいのですか、マスター?』
「うん。言ったでしょ、私……ちょっと頭にきてるから。これは、そうね ――仕事ついでの八つ当たり」
『なるほど、ではマスターの八つ当たりをお助けするのも私の役目ですね』
「……ちゃんと帰ったら整備と洗車するから。後、この前ウタハから貰った結構いい値段がするオイル」
『さあやりましょうマスター、俄然とやる気が出てきました!
「現金ね……まあいいけれど」
ガシャン、という音ともとにパワーバレルを装備したデストロイヤーの銃口がカイザーの兵士達へと向けられる。更にはフェルの武装も全てがアクティブ化され、敵対するカイザーへとそれぞれのターゲットが定められる。
その行動を見て、カイザーの前線指揮官。そして、兵士達はまさか、と思う。
自分達の攻撃を一切通さず動じることもなかったエネルギーフィールド。そうしてその中から向けられる、空崎ヒナとオートマタの武装。
それが指し示すこと。それは、つまり。
「それじゃ、さようなら」
そんなのアリなのか、そう考える余裕もほとんどなく。内側からエネルギーフィールドを通り抜けるようにして飛来する超火力の嵐がカイザーを襲う。
現在のヒナの持つデストロイヤーは、通常時より連射速度が低下している。そのかわりに、追加アタッチメントのバレルから発射される弾頭は全てが徹甲炸裂焼夷弾であり交戦距離も大幅に伸びている。その距離は、スナイパーライフルの適性距離手前程にまでなっており、加えて全ての兵器に対しても有効打が見込める。
しかし任意で取り外しはできるもののバレルの延長と弾頭の変更、武器の重量追加と連射力の低下により、機動力の低下と取り回しの悪化は避けられない。それをカバーするのが彼女を支援しているフェルだ。
ヒナのデストロイヤーからの徹甲炸裂焼夷弾の制圧射撃。それにあわせて行われるのは、巨大なエネルギーマシンガンによる超高レートによる絶え間のない制圧射撃と、定期的にリロードされ断続的に撃ち続けられる肩部のマルチミサイルと背部のホーミングレーザーの雨がカイザーへと襲いかかる。
今のヒナは、元々持っていたキヴォトスでもトップクラスの素質と才能に、それについていけるだけのミレニアムの最先端技術により作られた装備を保有しており、更には万全のコンディションときている。最早、カイザーでは絶対に止めることは不可能なのだ。
ヒナのミレニアムとしての目的は、『違法物資や兵器、およびその流通先の完全破壊』である。それがミレニアムがアビドスに協同を申し入れ、総力戦と言っても差し支えのない戦力を動員した主目的の一つである。カイザーは子飼いを使いミレニアムで非合法な研究や兵器開発を行い、そのために犯罪者や犯罪組織を使い市民や生徒を何度も脅かしてきた。それは、ミレニアム治安維持局としては看過できないものだった。
カイザーは中央施設の待機戦力を除いた、全ての戦力が動員された。だが、それらは全て鉄屑へと変えられることになる。主要施設と兵器、その全てが破壊されカイザーは成すすべを失う。
瓦礫と鉄屑の山となった前線基地に訪れるのは、敵対者が殲滅されたことを示す静寂。
「……頼んだわよ、アビドス対策委員会」
絶対的な執行者として、その場に佇むヒナは中央施設へと視線を投げるとそう呟いた。
◆ ◆ ◆
事の顛末から言えば、ミレニアムの目的は達成された。
そして、ホシノも無事に救出され。彼女の退学もなかったことになった。
ホシノの退学届を先生が顧問として受領しなかったこと、アビドス高校の面々が退学について拒否したのもそうだが、カイザーがホシノに対して脅迫に近い形で退学を迫り今回のようなことになったのではないのかという嫌疑がかけられたのもある。もっとも、これについてはカイザーのミスによって発覚した違法関係の物資や兵器の件に託つけての工作なのだが、それを今の状況のカイザーが否定することは不可能だった。
生徒に対する脅迫及び監禁、それを利用しての自治区への侵攻。加えて、それには違法な物資や兵器が関わっており、それらはミレニアムで違法に作られ、研究されたものだった。カイザーPMCに対してかけられた容疑はざっくりとしただけでもこれだけに登り、証拠まで揃えられている。
流石に証拠まで揃えられて、アビドスでの紛争を皮切りに今回の件について追求されることとなったカイザー本社としては、カイザーPMC、そして理事を庇い切ることは不可能であり、このままいけば間違いなくミレニアムにさらなる大義名分を与えての全面抗争になりかねないと判断しカイザー理事に対しての蜥蜴の尻尾切りを決定。今回の件については、カイザー理事が起こした不祥事として処理し、アビドスに対する賠償として借金の半分を帳消しにし利子を大幅に下げるなどの賠償を決めた。
当のホシノはといえば、対策委員会が中央施設前に自棄糞気味に現れたカイザー理事を便利屋と共同して打倒し、そのまま突入。そうして研究施設から助け出されて、アビドスの面々に怒られつつも脱出してハッピーエンド……とは行かず。ホシノを待っていたのは、帰路の途中にある前線基地。もっとも、周囲の施設や基地にあった兵器が諸共鉄屑と瓦礫に変わっている中ジト目でいかにも『怒っています』という雰囲気を漂わせているビークルモードの愛車に背中を預け、待っていましたとばかりにしていたヒナだった。
状況を見て、ヒナが前線基地へ集結したカイザーの戦力全てを撃破したのだと理解し、改めてヒナの規格外さを理解するアビドスの面々。しかし、そこから始まったのはそれはもう恐ろしいお説教だった。ヒナとしても、色々と言いたいことが山になっていたようでそれはもうきつくお説教をした。それは、帰投のためヒナを迎えに来たミレニアムの輸送機が到着するまで続いており。ネルとセンナは仁王立ちでお説教をするヒナと、小さくなりながら『ひぃん……』となっていたホシノを見て苦笑いしたという。結局、迎えにきた二人に窘められて渋々輸送機へとバイクを押しながら移動していったのだが、『今度の休みにそっちに行くから覚悟しておいて』とホシノは言われて思わず『う、うへぇー……』と呟いた。
アビドスの借金問題は、今回の騒動で事情が大きく進展してマシにはなったもののまだ5億近く残っている。しかしそれは、アビドスの問題であり、ミレニアムとしての目的は果たされた。カイザーPMCを徹底的に叩き証拠まで突きつけた以上、ミレニアムにおいて今までの非合法なことを再起するのは不可能だろう。治安維持局として、そしてミレニアムとしての自治区を脅かす存在に対しての作戦は成功したと言える。
作戦が成功した時点で、アビドスとミレニアムの間における協同は完了となる。だが、アビドス側。もとい、アビドス高校からからすればミレニアムにも理由とメリットがあってアビドスへと介入したことでも大きな借りができてしまったと思っている。もし、ミレニアムの介入がなければどうなっていたのかわからない。それ程に今回の介入は状況を一変させたのだ。
だからアヤネは、アビドス高校の総意として何かできることはないか、とヒナへと伝えた。しかし外交的にはそれは他の自治区に対して弱みを見せるのと同義であることからヒナは『あまりそういうことを言うものではないわ。こちらとしてもメリットがあってやったことだから』と返したのだが、それでもと言われ、ひとまず保留という形にした。
そんな中で、再びアビドスを訪れたヒナ。休日にあくまで一人の生徒としてという立場であり、目的もホシノに会いに来たというものだった。そこで色々と話をしたのだが。その中で、ある気になる情報があった。
ヒナはユメの顛末について詳しく知らなかった。行方不明になった連絡はホシノから受けていたが、当時は立場もありアビドスに行くことは出来ず。結局その後に齎された情報はアビドスの生徒会長が亡くなったということで。それについての詳しいものは一切知らなかった。
彼女としてもユメとは無関係ではない。だから、聞いていいのか迷ったが、もし可能なら概要だけでも教えて欲しいとホシノに話したのだ。
ホシノとしてもユメとヒナの関係は理解している。短い間ではあったが、アビドスへの来訪者として共に居た友人であり同じ先輩を持つ相手のヒナは、知っておくべきだと思い自分の知る限りのことを話した。とはいうものの、口にできないこともあったが。自分のせいで、ユメを追い込んだかもしれない。そう思っていることをホシノは口にしなかった。
――『正直ね、なんでユメ先輩が砂漠に行ったのかは私もわかんないんだ』
――『そういえば、時々D.U地区に行っていたね……借金返済のための打ち合わせだとか言ってたけど』
――『先輩が失踪する少し前かな。ちょっと変なこともあってね、自治区の見回りをしてたら市街地にやたらと身なりの良い人とかが居たり。珍しく他校……あれ、作業着みたいな制服とかだったから多分ハイランダーじゃないかな?後は、ゲヘナの生徒も見かけたりしたことがあったね』
……何かがおかしい。違和感がある。
そうヒナは感じた。
それが何なのかは確証がない。だが、ハイランダーとゲヘナという組み合わせが妙だ。そもそも、あの頃にアビドスに対して自分のように調査命令を出されたことはあったが、失踪した時期に直接的にゲヘナがアビドスに対して干渉していたという話を自分は知らない。情報部の自分が、だ。
まずはアビドスに対して、問題は山積みであるものの平穏が戻ってきたことを喜ぼう。
だが、自分も無関係ではないユメのことでどうにも気になることができてしまった。
これについては、少し調べてみようとヒナは心に決めた。
おや……何か不穏ですね。