――アンドロイドは電気羊の夢を見るか?
「……なるほど。確かに、一考の余地はあるわ」
セミナールームの更に奥にその部屋は存在した。ヴェリタスでも匙を投げる極めて強固なセキュリティに、外に対して絶対に声が漏れない機密性。ミレニアムサイエンススクール、生徒会長室。現在のミレニアムの中枢であり、つい最近別案件よりミレニアムに帰ってきた現ミレニアム生徒会長。調月リオの業務室であり、よくこの部屋に籠もっていることから一角は完全に私室化されている。
そうして。現在その生徒会長室、もっとも一角はゴミ屋敷とまでは行かないが物が散らかったり生活感が満載なのだが。室内には複数の生徒の姿がある。生徒会長であるリオ、治安維持局の局長であるヒナに、副局長のセンナ、C&Cのリーダーであるネルに、同じくC&Cのトキ。そして通信越しにヒマリである。
現在のリオの精神状態を言ってしまえば、極めて安定していた。もし今のような状態でなければ、どこまでも自分の精神に対して無慈悲になり、ただミレニアムの秩序と平穏だけを考えて、アリスに対する処分の執行。ヘイローの破壊を前提とした計画を進めていただろう。
しかし、そうはならなかった。
現在のリオは、合理主義者であることに変わりはない。しかし、誰かに頼ることを覚え。その誰かの意見を元に新たな可能性を模索することを覚えたのだ。その誰かとは、今回の件。アリスについてではトキやネル、相変わらずよく口論しているもののヒマリ、そうしてヒナも含まれる。普段の業務では以前より他人を頼り、よく話すようにもなったがユウカやノア、コユキだってそうなのだ。
今までは自分の視点だけで、生き急いだように合理性にだけを目を向けて判断していた。そして、自己犠牲すらも厭わなかった。そんな状態では新たな可能性を模索することは出来なかった。
自分の考えていた計画より、様々な視点から見てもっといい計画や案があるなら採用するのは合理的と言えるだろう。そう考えるようになったのは、ゲヘナから転校してきた今は友人である少女と、その少女のやってきた直後に起こった。表沙汰になることはなかったがキヴォトスを揺るがす、それこそアリスの件程の出来事がキッカケだろう。
誰かを頼り、信用し、自分で抱え込まないこと。これはある意味ではリオと、そしてヒナにとっての共通のことだった。二人揃って責任感が強すぎたのだ。そして二人揃って自分で抱え込みがちだった。
「言い方は悪いけれど、もしアリスが『AL-1S』としてではなく、『アリス』としての道を歩み始めているのなら……生徒としてこちら側に取り込んでしまうのも手だと思う。『名もなき神々の王女』として覚醒するために必要なものが揃っていないなら、彼女は『AL-1S』ではなく『アリス』なのではないかしら?」
「……そうね。私とヒマリが危惧していたのは、世界を終わらせる力を持つ『名もなき神々の王女』であってアリスではないわ。それに、私達は一度似たような存在と邂逅している。その顛末から考えれば、今の状況から考えてアリスへの対応はそれも有力だと思うわ」
世界を終わらせる存在。普通ならば、そんな存在のことを知ってしまえば冷静で居られないだろう。しかし現在のリオも、そしてヒマリも至って冷静だ。何故なら、同じように世界を終わらせる力を持つ存在を知っているからだ。もし、かの存在がヒナを主と定め。この世界と世界に満ちる神秘に興味を持ち、『生徒』の味方になることを決めてくれなければ途方もないことになっていたかもしれない相手が。
『安心して下さい、リオ嬢。私もいざという時には動きますから』
「正直に言うと、とても心強いわ。 ……というかフェル、貴方また新しいボディを作ったのかしら?」
『支援特化型のボディです。中々このボディは気に入っています、非戦闘時でもマスターのお傍で活動していても問題はありませんし、一々量子テレポートで移動しなくとも何処にだってご一緒出来ます。戦闘向きではありませんが、サポートには自信があります。業務だってお手伝いできますよ?』
それは掌の上に乗るより少し大きめのサイズで、黒い多角形の外殻に灰色の球体とそこに存在する紫色の水晶のようなレンズを持っていた。その存在は、ヒナの近くを浮遊しており、そのレンズアイを光らせていた。
『マスターは日頃より業務をやりすぎてしまいがちであり、よくユウカ嬢やノア嬢に怒られています。であれば、私がこのボディでサポートすることで業務のさらなる効率化が図られ、より早く業務を終わらせることができます。ご安心を、電子戦や処理能力には自信があります』
「ありがとうフェル、これで仕事の効率が上がるからもっとたくさんの仕事が処理できる」
『……流石に想定外の返しです、マスター』
「フェル、もしあなたのサポートが原因でヒナの残業による連行が更に増えたら……手が滑ってエンジニア部で作っているオイル、供給を止めてしまうかもしれないわ」
『ご安心下さいちゃんとマスターが残業しそうになったら止めます!ええ、止めますとも!』
買収されたなこの相棒は、とジト目を送るヒナ。対してリオはといえばやれやれといったようにため息を付いている。
「話を戻しましょう。ヒナ、ここ暫くは直接的にはあなたとセンナが主にゲーム開発部を監視してきた。それにあたって、アリスの様子もよく見てきたと思うわ。その上での先ほどの話なんでしょう。……けれど、まだ何かあるのではない?」
「アリスについて、ではないのだけど……いえ、もしかするとリオやヒマリも同じことを思ったのかもしれない」
「私やヒマリが……?」
「リオ、貴女は『名もなき神々の王女』は世界を終わらせる存在だと言った。そして、『AL-1S』こそがその存在なのだと。……だとしたら、どうしても気になることがある」
そう。ヒナにはある違和感、気がかりがあった。それがどうしてもリオの言う存在と矛盾している気がして、言うならば、世界を滅ぼすという大仰な存在の割にその面で見ると杜撰で、それらしくない気がしてならなかった。
「世界を滅ぼすための存在として見るなら、『AL-1S』は途方もない欠陥を抱えていることになるわ。学習能力はまだわかる。では何故、感情というものを持たせたのか。……あまりにも目的に対して必要のないもの。合理性がないものだと思わない?」
「……そうね。それは、私やヒマリも思ったことよ。純粋な兵器に感情は必要ない。ましてや、世界の滅亡を目的とするならその感情というものは目的に対しての邪魔にしかならない。なのに、何故それを持たされたのか」
無名の司祭。その存在に気がついたリオやヒマリでも、その存在を理解しているわけではない。そうして、何故『AL-1S』。アリスに感情というものを持たせたのかがわからなかった。
「フェル、貴方が無名の司祭を嫌っているのはわかっているわ。……でも、どうか教えて欲しい。その存在を知るあなたから見て、なぜ感情というものを『AL-1S』、いいえ。アリスに組み込んだのか」
浮遊する多角形の存在は、レンズを数度動かしながら少しの間沈黙した。そうして、『……わかりました』と告げて。
『私も残念ながら、『AL-1S』について全てを知るわけではありません。ですが、過去にあの存在達とやりあった頃に得た情報では、当時あの司祭達は全員が完全に特定の意思や目的のもと統一されていたわけではなかったようです。統一される司祭達側から外れた存在、それをあの司祭達は異端の司祭、『追放者』と呼んでいたようです』
「追放者……?つまり、当時は司祭達の間で仲間割れが起こっていたということ?」
『恐らくそうでしょう。そうしてあの忌々しい能面共が、世界を滅ぼすという目的のために無駄な機能をつけるとは考えにくい。……私は奴らはもし見つけたら確実に消すくらいには嫌っています。ですが、今の私からすればその中でも追放者はまだマシな部類だったと思います。そうして恐らく ――『AL-1S』、アリス嬢に関わるものを作ったのは追放者の誰かです』
「なんですって……!?」
『追放者とは真に神を崇拝する者、そう私は思っています。信仰の対象すら自分達の目的のための道具や駒としか見ていない司祭共と違い、真に崇拝する神の幸福を願うもの。世界ではなく神を見ていた真なる崇拝者。もし、追放者がアリス嬢を作ったと考えるなら、全ての辻褄が合う。仕様上、つまりアリス嬢の感情というもの以外のものは司祭達が想定しうるもので作り、司祭達に悟られないように感情という機能を組み込んだ。……さて、ロマンチストな結論ですが、ここまで言えばリオ嬢にも予想がつくのでは?』
「……追放者が望んでいたのは、崇拝する神の幸福と未来。つまり、アリスの幸福と未来。だからこそ感情という要素を組み込み、悟らせないようにした」
『ええ、その通りです。つまりあの司祭共の目論見は最初から失敗していたのです。様は無いですね』
そうして恐らく、現状はその追放者という存在の願う通りの流れになっている。アリスは目覚め、このミレニアムで紆余曲折はあったが生徒としての日常や、出会った生徒達。ゲーム開発部の面々との想いを、絆を学習した。そうやって形成されるのは、最早魔王としての姿ではなく。別の姿だろう。
『先ほども言いましたがリオ嬢。恐らく今の現状から言えば、最悪の事態にはならないでしょう。ですが、もしなりそうであれば私も動きます。私は第一にマスターの味方であり、そして第二に『生徒』の味方なのですから。 ……ただまあ、問題は残っているとは思います』
「それは、私達も掴んでいた……『名もなき神々の王女』として覚醒するために必要な要素について、かしら」
『ご明察です。推測ですが、もし追放者によってアリス嬢に関わるものが作られているのだとしたら……その要素についても、アリス嬢と同じ物が搭載されている可能性が高いと思います』
魔王への覚醒。そのために必要な要素がトリガーとなり、アリスは魔王へと至る。その要素にももし、アリスをサポートするものとして同様のことが成されていたら?つまり、アリスが世界を終わらせる存在に覚醒しなくとも、そのトリガーとなる要素によって覚醒してしまう可能性がある。
だがもし。そのトリガーとなる存在にも感情が存在したら。そのトリガーがただの物であればアリスだけが目覚めて何処かに行ってしまえば未来永劫覚醒することはなくなる。だが、使命を実行する意思を司祭達が持たせていればその限りではない。そして、追放者が此方にも同じ、プログラムされた使命ではなく感情を組み込んでいたとしたら。
まだ、最悪の事態は回避できるのだ。
『マスター、リオ嬢。この場にいる皆様も。実は、私にはそのトリガー、『鍵』となる存在に心当たりがあるのです』
既にトリガーとなる存在が見つかっているかもしれない。そう言われ、ざわつく室内。
『ここで借りを一つ返させてくれませんか。私にその存在。いえ、彼女と交渉させてほしいのです。もし上手く行けば……そうですね、きっと可愛らしい生徒が一人増えると思いますよ』
■異端の司祭
司祭達の中でも異端の存在であり、『追放者』という烙印を押された司祭。アリスとその従者である少女を生み出したのはこの司祭。決して善性というわけではなく、最優先されるのは信奉し崇拝する神の意思であり、例えそれで世界が滅ぼうとそれは神のご意思だとして受け入れる。
しかし、自分達が崇拝する神を目的のために道具や駒のようにする在り方に対しては受け入れておらず、むしろ許容など絶対にできるはずもなかった。そこで司祭達全体の『使命』と同時に『感情』というものを組み込んだ。
その異端者はもう存在していないだろう。
だが、その狂信者とも言える司祭は勝利したのだ。
それらは全て、崇拝する神のために。
■リオの状態
かなり安定している。原作ほど生き急いでも居ないし、ヒナという友人にして頼れる相手も増えた。誰かに頼ることも覚えたお陰か、アリスの件についても信用できる相手には情報を後悔し協力を要請していた。アリスに対しては即座にヘイローの破壊という選択はしておらず、どうするべきかというのを様子を見て全員で決定しようと考えていた所今回の提案と、フェルからの話が出た。
エリドゥは創っていないし横領もしていない。
そのかわりよく夜食に半額弁当やインスタントラーメンを食べてトキに怒られている。
■フェル
支援用ボティは某運命2のゴースト。なんかちっちゃくてふわふわと浮いてるかわいいやつ。『ガーディアンダウン!』とかは言わない。どうやら、覚醒に必要になる存在を説得できる手段があるらしい。
■あとがき
実は作者が最も推しというか生徒や学区として好きなのはミレニアムだったりします。
ヴェリタスは全員かわいい、エンジニア部もセミナーもかわいい。
( l )<ミライはかわいいですね
本作において原作から乖離開始するポイントの話になります。具体的には、リオの精神状態の変化、エリドゥが存在していない、アリスのことを頼れる相手に相談していることなどが挙げられる。頼れる相手やいざという時の切り札もあり、精神状態が安定しているので自己犠牲もしていない。
作者としてパヴァーヌに関わる内容として思っったことの一つが、アリスやケイがどうして『感情』を持っていたのかということでした。司祭達は本気でキヴォトスを滅ぼすことを考えていたでしょうし、なら尚の事それは余計なものどころか欠陥では?と思ったりしていました。
感情がなければアリスがTSCをプレイして思考回路を破壊されるということもなかったわけで。
そこから考察やら妄想を膨らませて、本当に神を崇拝しているか怪しい司祭達の中に本物の狂信者が居たとしたら、という考えのもと作ったのが今回のシナリオでした。
この『感情』というのが本作のパヴァーヌにおける大きなテーマの一つで、それを持たされた『二人の王女』が経験値を稼ぎ、レベルアップをし、そしてクラスチェンジスルジョブを選ぶ。さて、アリスは選択しました。果たしてもう一人はどうなんでしょうか。
勿論、ヒナのことを忘れてもいません。パヴァーヌはミレニアムがメインの章であり、当然ミレニアムがメインになります。アリス達の物語に関わったり、日常や日々の局長としての業務でミレニアムの様々な生徒と関わったり。そんなことをつらつらとちょっと長めに書いていければなと思っている章です。勿論、エデン条約編の展開も準備しています。
全く関係ないんですが、日常の話でネルから訓練を受けることになったゲーム開発部が『戦術パターンファイズ』を教えられて、モモイとミドリが円の動きで射撃して追い込み、ユズとケイが足止め、トドメはアリスが真ん中のストレートで突進してゼロ距離フルチャージ、決め台詞に『確かに呆れるほどに有効な戦術です!』とアリスが言うなんてことを考えていた。とりあえずネタ帳に突っ込んである。
作中の登場人物、ミレニアム版ヒナやセンナなどの参考イメージとして画像生成したものを使うのは
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あり
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なし