それを見た時、アリスの目が大きく見開かれた。
白い医療用ベッド、無機質な医療機器。
そして、部屋の中央のベッドで眠っている少女と、『ST-KEY』というプレート。
視界には、静かに目を閉じて眠っている少女の白い長い髪がベッドの下へと広がっていた。
その姿を見た瞬間。
「……っ」
アリスの思考が止まった。
誰なのか分からない。
顔にも見覚えがない。
なのに。
心だけが、叫んでいた。
――見つけた。
「…………」
アリスは呆然と立ち尽くした。そんな彼女を見ているのは、ゲーム開発部の仲間達と先生。
ヒナはただ、静かに後ろで行く末を見守っていた。
「アリス?」
モモイが心配したように声をかける。
けれど、アリスはゆっくりとベッドへ歩き始めていた。
一歩。二歩。
そして――ついには駆け出していた。
「待って!どうしたのアリス!?」
モモイが静止するがアリス自身にも、どうして走っているのか分からないのだ。
ベッドの横に駆け寄る。そして、慌てたようにして声をかけた。
「聞こえますか!?」
だが、少女は動かない。
「……起きてください」
アリスは手を伸ばす。まるで、何かを求めるかのようにして。
その指が、眠っている少女の手に触れた。
自分に記憶はない。でも、記憶ではない別の何かは少女を知っている気がした。
触れて感じたのは、温かさだ。それを感じたことでホッとする。
生きている。生きているのだ。
「……!」
その瞬間。
アリスの目から涙が零れた。
理由は分からない、思い出せない。それなのに――
「……やっと、見つけました。会いたかった」
自分の口から、そんな言葉が零れた。
モモイたちが息を呑む。まるで、アリスがその少女のことを知っているように見えたからだ。
「アリス……?」
「分からないんです」
アリスは涙を拭おうともせず、眠る少女を見つめていた。
「私は、この人を知りません」
「え……?」
「名前も、わかりません」
震える声。それでも、手だけは離さない。
やっと。心が覚えている相手を見つけたのだから。
「でも……」
胸元を押さえる。
「きっとアリスの心だけは、知っています。覚えています」
心臓の鼓動が早くなっている。
記憶の中では少女は誰なのかはわからない。
だが。心が告げているのだ、その少女は自分にとって――
「この人は……アリスにとって、とても大切な人です」
アリスのそれは記憶ではなかった。過去の映像でもない。名前や出来事でもない。
ただ純粋なそこに『在る』想いだけ。
「だから……」
アリスは少女の肩へ手を置く。
「お願いです」
もう一度、呼びかける。
「起きてください……!アリスは、アリスはここに居ます!」
その声に反応するように、僅かに少女の身体が動いた。
まるで、少女もまたアリスのことを知っていて。大切に思っているからこそ反応したように。
まぶたが、わずかに動く。
そして、ゆっくりと。
――白い髪の、自らをかつてシステムと定めていた少女の瞳が開いた。
「…………」
光に慣れていないように、少女は何度か瞬きをした。
そうして視線だけをベッドの横。手を握るアリスへと向けた。
「王女……?」
掠れた声。
アリスは息を呑んだ。
「…………!」
少女はゆっくりと上体を起こそうとしたが、身体に力が入らない。
当然だろう。今の身体の状態は、ずっと長い間眠っていた状態に等しいのだから。
「ええと、アリスは王女というジョブではなくて勇者で……。あっ、無理に動かさないでください!」
慌てて身体を起こそうとした少女をアリスが支える。
そうして、彼女はしばらく周囲を見回した。
視線に映るのは、何度もハッキングした監視カメラの映像で見た王女の。涙に濡れる表情。
感じるのは、握られている手から伝わる王女の温もり。
自分の手を握るその小さな手は、震えていた。
そうして覚醒していく頭で、自分が今してしまったことを思う。しまった、と。
自分は今恐らく無意識にだったかもしれないが、そう認識していた故に王女と呼んでしまった。
王女は王女かもしれないが、それでも。感情を受け入れた今の自分ならばわかる。王女にも、今の名前がある。
「……ここは。それに、あなたは?」
「私はアリスです、天童アリス」
ならば問いかけようと思い言った言葉に対しての返答は即答だった。
少しづつではあるが覚醒してきた頭で、自分の状況を少女は確認する。
握られている手、視界に映る王女――違う。アリスとゲーム開発部と呼ばれていた生徒達。
白い、重力に従いベッドの下へと流れる自分の髪が見えた。
息を吸うと、体内に取り込まれた空気を感じられた。
そうしてもう一度自分の手へと意識を向けば、確かにあった。
手を伝わって感じる、アリスの温もりが。
――成功したのだ。重なった奇跡を更に重ねて起こそうとした、さらなる奇跡。
――自分を電子の存在としてではなく、『生徒』として存在を再構築する。一度きりの奇跡が。
辿り着いたのだ。あまねく奇跡の集う、その中でも己が自ら望んだ奇跡。
選択して、掴もうとした"なりたい自分と願った未来"が存在する奇跡を。
視線が王女、否――アリスへ向く。
彼女は自分を見つめながら、涙を流していた。
泣かないで下さい、そう思ったが同時、思ってしまった。
アリスが自分を見てくれている、と。
嬉しいと感じると同時、どうしようもなく自分が嫌になった。きっとこれは喜びであると同時に、独占欲なのだろう。だが、こうも思うのだ。それは今までではわからなかったもの、即ち――感情であると。
「……どうして泣いているのですか」
「分かりません」
アリスは正直に答えた。わからない、けれどわかるのだ。矛盾しているだろう、だが現実に自分の一部はその少女を知っていると理解は出来た。
「アリスは、あなたを知りません、あなたとの思い出もありません。名前も覚えていません」
うつむいて、少し寂しそうにして。けれど、すぐに顔を上げた。
「それなのに……」
胸に手を当てる。
「心は、あなたを覚えています。あなたは、アリスにとって大切な相手なのだと」
白い少女の瞳が揺れる。同時、再び感じたのは感情の一つだ。
ああ、そうか。これが、嬉しいということで、感動するということなのかと。
アリスの声が震える。だが、彼女は続けた。
伝えたいことがあるのだと、そう言わんばかりに。
「あなたを見つけた時、アリスは嬉しかったんです」
「……どうしてですか?」
「分かりません!でも、すごく嬉しかったです!」
アリスは涙を浮かべたまま笑った。心の底からよかったというようにして。
そう言われた瞬間、少女の中にもアリスと同じ感情が生まれていた。
自分も同じだった、実体のある身体で今まではずっと見ることしか出来なかったアリスと会うことが出来た、言葉を交わすことが出来た、触れて感じることが出来た。
「……あなたは」
アリスを見る。そうだ、今度は自分の番だ。
目覚めた自分。生徒としての身体は落ち着いてきていた。
だから、伝えよう。自分もまたあなたと同じだと。
「あなたは私を知らないかもしれません」
「……はい」
アリスは小さく頷く。
「でも」
握られた手を少女は優しく握り返した。
"自分はここにいる"と示すようにして。
「私は知っています」
アリスが目を見開く。
「……え?」
「あなたのことを」
元々自分はシステムとして用意されていた、王女の従者に過ぎない。その存在をアリスが知らないのは、仕方ないのかもしれない。けれど、自分は覚えている。かつてはノイズとしか思えなかったが、今は違うことを。
――『共に在る二人の王女よ』
――『どうか感じたままに、願うままに選択を』
従者ではない自分にとっての、
「
アリスの瞳から、また涙が溢れた。
「……ぁ」
「アリス」
「は、はい!」
伝えようと少女は思った。
自身は選択した。どう在るべきか、どう在りたいのか。
『感情』とどう向き合うのか。
『システムとしての自分』とどう向き合うのか。
『自分の、自覚した心』とどう向き合うのか。
答えはもう、決まっていて。
「――私は、ここに居ます」
使命を自らの意思で放棄したことに後悔はない。なぜなら、少女にとっては最優先されるのは誰かが定めたことではなく、自分と大切な相手の意思なのだから。
この選択によってどうなるかなどもわからない。けれど、その選択は自らが意思によって選択したものだ。だから、どんな未来が先にあろうと苦難があるのなら立ち向かおうと決めたのだ。
自分とアリスのために。
そして、まだ見ぬ未来のために。
初めて自ら未来を選択した少女達。二人の王女の時計は、今動き出したのだ。
もう逃さないぞケイちゃん……へへへ、お前もこの頭がおかしい自治区ミレニアムの仲間にしてやるからな……なあお前もそう思うだろイマジナリー強欲ハム太郎!
へけっ……そうなのだ!ぼくは強欲だからいっぱい青春してるところがみたいのだ!ゲーム開発部に入部するケイちゃんとか、あまり見たことのないようなネームド生徒と絡むケイちゃんとか、ユウカにロックオンされたりノアにえらいえらいされるケイちゃんとか、ヒビキとルーネと一緒に買い物に行くケイちゃんとか他にも色々見たいのだ!書くのだ作者!君ならできる、諦めなければなんでもできると人間讃歌タイショーくんも言っていたのだ!それからいつもたくさんの感想や評価お気に入りここすきありがとうなのだ!もっとほしいのだ!強欲なのだ!へけっ!
本世界線で王女は2人です。ケイちゃんには従者という立場だけではなく、繋がりを持つもう一人の王女としての立場、アリスと近しい間柄、姉妹のような存在である王女と共に意思を選択して欲しいという願いを異端さんは込めました。
多分もう名前を隠すまでもなく殆どの方が分かっているような気がするので伏せてませんが、ケイちゃんは本作時空だとそこまで先生ラブ勢ではありません。行っても信頼止まりくらい。むしろ先生ではなくアリスラブ勢気味で、同性同士での恋愛感情とまではいかないもののかなりアリスに対しての感情が強め。家族愛、姉妹愛、友愛、独占欲その他色々とまあそんな感じ。原作で先生に向いていた感情とかが追加でアリスに向いたと言えばわかりやすいかもしれない。
後余談ですが、アリスとケイの物語が一段落したら本作ネームド3人の立ち絵を上げる予定。生成画像なのでそういうのに忌避感がある方は見ないようにご注意下さい。画力のない作者ですまない……。
作中の登場人物、ミレニアム版ヒナやセンナなどの参考イメージとして画像生成したものを使うのは
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あり
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なし