『ミレニアム治安維持局局長』、空崎ヒナ   作:無名のカヤ推し

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EPISODE25:最高戦力2人、テストプレイを楽しむ

「テイルズ・サガ・クロニクル……」

 

 ヒナはその言葉を聞いた瞬間、とても嫌な汗が流れたような気がした。その単語を聞いただけで無意識に身体が臨戦態勢になり、身構え、油断ならぬ相手だと身体が理解し判断しているのか集中力が最大まで引き上げられる。

 

 激戦の記憶が蘇る。とても苦しく、自分の理解を超え、今までの考え方のままでは勝てない相手故に思考を柔軟に変化させる必要があった。ゲームオーバーの度に神経を逆撫でされるようなテロップが流れ、表示されるテキストウィンドウはゲームを進めるにつれてどんどん信用できないものになり疑心暗鬼に陥る。

 

 それでも、自分のフィジカルと集中力。気合と根性で乗り越え、何度も挫折しそうになりながら立ち上がり。辿り着いたのだ、トゥルーエンドという文字通りの終わり(救い)に。

 

 その翌日は悲惨だった。普段よりあまりよくない体調、倦怠感、ゲームに熱中したことが原因で業務を休むなどあれっきりだろうと言い切れるくらいには辛かった。おまけにいつもよりぼんやとしていた時間が長いような気がして、恐らく寝起きの時間も長かった。意識がはっきりする頃にはいつの間には自宅を訪れていたセンナに、部屋にある生活支援ボディで身の回りのことを手伝ってくれているフェルが居た。時刻だって昼前で、かなり不規則な生活リズムになっていた。

 

 そんな色々と勉強になった強敵とも言える相手。その単語が出てくるだけでヒナの纏う空気が変わり、それはネやゲーム開発部も感じ取れた。もっとも、事情を知らないケイだけは頭の上に疑問符を浮かべていたが。

 

「ヒ、ヒナ先輩大丈夫だから。今回はちゃんと前作の反省を活かして作ってるから!」

 

「……モモイ。私があのゲームのテキストウィンドウに何度騙されたか知ってる?」

 

「チュートリアルのあれも含めて流石にだめだったと反省してる!落ち着いて先輩!」

 

「セーブ禁止エリアでのボス撃破後の心を折りに来るあれはかなり効いたわ、捨てることが出来ないギガトンコインはトラウマよ」

 

「あれもやりすぎたと思ってるから!」

 

 蘇るトラウマ、辛かった激戦の記憶。目が虚ろになっていくヒナを見てネルはついてに助け舟を出すことにした。

 

 

「ヒナ、落ち着けって。私はその無印版?はやったことないけどよ、これだけこいつらがちゃんとやってるって言うんだ。なら大丈夫だろ」

 

「……そうね。少し冷静さをなくしていたわ」

 

「まさか私が歓迎会でやったアレをヒナにもやらせたんですかモモイ、それからアリス達も」

 

 話を聞いていて何かを察したのかジト目をケイはモモイ達へと送る。同時、全員が目をそらした。

 

「とにかく本当に大丈夫だから!だから、テストプレイに協力して欲しいなー……なんて」

 

「いやまあ、外部からの意見はほしいですけど……なんというか色々察したら頼みづらくなったと言うか」

 

 ゲーム開発部がそこまで言うならきっと無印のテイルズ・サガ・クロニクルの再来はないだろう。そう判断してヒナはネルと顔見合わせて、その後に頷いた。

 

「……分かったわ。テストプレイ、協力する」

 

「お、おお……!」

 

「ただし」

 

「ただし?」

 

「前作みたいなことをするなら、途中で帰るわ」

 

「しないしない! 今回は本当に大丈夫だから!」

 

 即答だった。

 あまりにも迷いのない返事だったので、逆にヒナは少しだけ不安になった。とはいえ、ゲーム開発部の四人が揃ってこちらを見ている以上、ここで疑ってばかりいるのも悪い。何より、頼まれた以上は仕事として引き受けるべきだろう。

 

 ヒナは小さく息を吐いて、用意されたゲーム機が置いてあるテスト用の席へと座った。どうやらテイルズ・サガ・クロニクル2はマルチプラッツフォーム対応かつ、複数人でのプレイもできるようで机の上にはスマホや普通の液晶ディスプレイに接続されたゲームハードが存在した。

 

 それらを見ていると、その隣にはネルが座った。

 

「で、どうやってやるんだ?」

 

「マルチプレイ対応だから、好きなキャラ選んで始めて!」

 

「へえ、こういったRPGでマルチプレイ対応ってなんか新鮮だな」

 

 ネルの目が面白そうだ、と語るように変化した。

 

「ネル。テストプレイだから、ちゃんと問題点を見てね」

 

「分かってるって」

 

「本当に?」

 

「分かってる。……まあ、面白ければ楽しむけどな」

 

「それは私も同じよ」

 

「休みの日にこうやって遊ぶのは最高だけどさ、こんな新しいゲームでなんだかワクワクしたきたな」

 

 そう言ってネルはコントローラーを握る。

 その表情は、戦いを前にした時とほとんど変わらなかった。

 

「……なんでゲームでもそんな顔するんですか、ネル先輩」

 

「面白いことに対して面白いと思うのは当然だろモモイ」

 

 ミレニアムの一室に、ゲームのタイトル画面が表示される。

 

 

 

       ――『TALES SAGA CHRONICLE 2』

 

 

 

 その文字を見た瞬間、ヒナは一度だけ目を細めた。

 

 だが。前作とは違う。今回は違う。

 そう自分に言い聞かせ、スタートボタンを押した。

 

 

 

     ◆     ◆     ◆

 

 

 

「……へえ」

 

 最初に声を漏らしたのはネルだった。

 ゲームが始まって十分ほど、二人はまだ序盤の街を歩いていた。

 

「街の導線はかなり分かりやすいわね」

 

「NPCの台詞も今んところ変なのねえな」

 

「前作は開始直後から妙に意味深なことを言う人が多かったのよ。……それが後々脳をとても苦しめたわ、ええ」

 

「それで後になって伏線でした、ってやつか?」

 

「伏線に見せかけて何もなかったものも多かった。むしろ殆どがフェイクだった」

 

「……それはそれで問題じゃないか?」

 

 苦笑いするネル。どうやら、ヒナを苦しめた無印版というのは相当らしいと思う。あのヒナを苦しめたのだ、少し興味が出たネルだったが、触らぬ神に何とやらと思うことにした。

 

「今回の街はちゃんと探索する意味もあるわ。アイテムの配置もいい。必要以上に歩かされる感じもない」

 

「お前、普通に楽しんでんな」

 

「……テストプレイよ」

 

「はいはい」

 

 最初こそ警戒していたヒナだったが、ゲームそのものはよくできていた。操作感は軽い。戦闘のテンポもいい。前作で不評だった部分については、かなり改善されているようだった。何より、プレイヤーが『次に何をすればいいのか』が分かりやすい。

 

「ここは評価できるわね」

 

「ああ、わかりやすくていい。……お?」

 

 そのとき、ネルが操作するキャラクターの前に宝箱が出現した。

 

「宝箱じゃん」

 

「待って、危険よネル。迂闊に近づいたら駄目」

 

「なんだよ随分と警戒してるな」

 

「罠かもしれない、ミミックの恐れもある」

 

「そこまで信用ねえのかよ、このゲーム」

 

「前作を知っているとそうなるのよ。セーブ不可能エリアで宝箱あけたら全滅とか、破棄できない呪いのアイテムを持たされてエリアを抜ける前で強制バッドエンドなんてのもあった」

 

「恐ろしすぎるだろ前作……いやまあ評価は私も聞いたことはあるけど想像以上だな……」

 

 慎重にキャラクターを近づけるヒナ。

 しかし、何も起きない。

 普通に宝箱が開き、回復アイテムが手に入った。

 

「……普通ね」

 

「普通でいいだろ」

 

「そうだけど」

 

 ネルは呆れたように笑った。

 

「ヒナ、お前前作で何されたんだよ」

 

「……いろいろよ」

 

 そのやり取りを後ろで聞いていたモモイたちは、何とも言えない表情をしていた。実際、前作であるTSCをプレイした生徒は皆、プレイ中は疑心暗鬼にとらわれるほどに追い込まれていたのだ。

 

 

 やがて、序盤のボス戦へと入る。

 

 

「ボス戦か」

 

「難易度設定はノーマルね」

 

「テストだしな」

 

 二人が同時にコントローラーへ力を入れる。

 

 戦闘開始。

 敵は大型の獣型モンスター。

 

 テストではあるが、有名なロボットゲームのチュートリアルに出てくるヘリコプターのボスを参考にして序盤のボスにしてはそこそこに難易度を高めに設定……してあるはずだった。

 

「ネル、タンクは私が。リキャストが明けたらデバフをかけるわ」

 

「おう、シナジー合わせだな!」

 

「頭割り、散開、予兆は嘘よ範囲は踏んで。流石ねネル、全部処理できてる。……さて。バフとデバフが入ったわ、バーストよ」

 

「待ってましたっと!」

 

 連携が妙に上手かった。というか、ゲームシステムの飲み込みが早すぎる。

 

 今作は戦闘においては、属性相性やバフやデバフの概念、味方との連携技などという要素があるのだがこの二人、既にそれを完全に理解している。

 

 

 ゲーム開発部の四人が思わず顔を見合わせる。

 

「……二人とも、ゲームなのに戦い方が完全に実戦なんだけど」

 

「役割分担が早すぎる……」

 

「アリス、これはとても興味深いです!」

 

 

 そして、本来難易度高めにしたはずのボスは数分後。

 

 

「倒したぞ!」

 

 ネルのキャラクターが最後の一撃を叩き込み、ボスが倒れる。

 画面に大きく『VICTORY』の文字。

 

「よし!」

 

 ネルが小さく拳を握る。

 ヒナも息を吐いた。

 

「戦闘はとてもおもしろいと思う」

 

「だな。RPGなのに爽快感がある」

 

「ただ、ボスの攻撃パターンは少し単調かも。序盤だからだろうけど、同じ攻撃をループしてるから後半になるにつれて何か変化が欲しいわね」

 

「あと回復アイテム多すぎじゃないかこれ」

 

「それはネルのプレイスタイルの問題じゃない?」

 

「そうかあ?」

 

 ゲーム開発部としては唖然である。序盤のボスとはいえ、倒されて覚えるゲームを参考にしてそこそこ難しく作ったつもりだった。だが、この2人はすぐに対処法とギミックを見抜き突破してしまったのだ。

 

「……ところで」

 

「ん?」

 

 ヒナが画面を見ながら口を開く。

 

「さっき倒したボスが、戦闘前に意味深なことを言っていたでしょう」

 

「ああ」

 

「あれ、絶対に後で出てくると思う」

 

「伏線か?」

 

「たぶん、回収される方の伏線」

 

 モモイが少しだけ誇らしそうな顔をする。

 

「そこは自信あるよ! ちゃんと後で――」

 

「モモイ」

 

「……はい」

 

「ネタバレは禁止」

 

「ごめんなさい」

 

 ヒナは再びゲーム画面へ視線を戻した。

 

「……続きが気になるわね」

 

「同感だ。じゃあ、次いくぞ」

 

「うん」

 

 その日ゲーム開発部がテストプレイのために用意していた時間は、三時間だった。

 

 そこで中断して、2人から感想を聞いてそれをフィードバックとして形にする。

 ……その予定だった。

 

 

 

 だが、三時間後。

 

 

 

「……次のマップだけ確認してからにしましょう。ついでにこの武器、もうちょっといいステータスのを厳選したい」

 

「ドット絵でアクションでハクスラ要素もあるなんてホント面白いな……。おう、ならさっき見つけたダンジョン周回するか?あそこでドロップだろ」

 

「そうね、なら厳選して次のボスを確認したら終わりましょう」

 

 

 

「この2人止まらないんだけど!?」

 

 

 

 モモイの悲鳴が部室に響く、しかし二人は聞いていなかった。

 

 テストプレイをしているはずなのにいつの間にか、ただゲームの続きが気になっていただけだった。結局、最後の手段とばかりにモモイが連絡したセンナと、アリスが連絡したユウカによって2人は連行された。なおも後日2人からテストプレイの話を聞いたルーネが『私もやりたいっすよ!』と、開発スタジオに訪れ、今度はユズとの2人プレイで長時間テストプレイをしていたのは別の話である。何処かユズは楽しそうで機嫌が良さそうだったとか。

 

 

 そうして、遂に決戦の日は訪れる。

 ミレニアムプライス当日である。

 

 

 




そこには陽キャギャルみたいな生徒とテストプレイを2人でやりながら超ご満悦なユズの姿が!

実はエデン条約編までまだそこそこあるんですが、『ケイがユウカにロックオンされる話』『シャーレの業務でヒナとホシノが組んで連邦生徒会からシャーレに来たある依頼をこなす話』『ヒナがハレと闇取引をしようとして現場を押さえられて2人揃って反省室に放り込まれたのでお昼寝する話』『休日にヒナとミカが鉢合わせしてなんやかんやあって交流する話』『マコトとイブキ、そしてミレニアムの生徒となったヒナの話』など色々ある。
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