「正直に言って、想像以上の成果だったわ。……おめでとう、ゲーム開発部の部としての存続を認めるわ。それだけじゃない、複数の部活動の協力があったとしてもこれだけの成果を出したのだから、予算枠も取れるだろうし経費申請についても許可するわ」
リオから告げられた言葉、その言葉に対してゲーム開発部全員は少しの間呆然としたように沈黙した。そして、暫くした起こったのは――それぞれの喜びの声だった。
「やった、やったあああああ!廃部回避だよおおおお!私達頑張った、頑張ったよおおおおお!」
「お姉ちゃん涙声になってるよ、でも……そうだね。私もちょっと感慨深いかも」
「夢じゃない……よね?や、やった……!」
「やりました!アリス達はやりましたよケイ!」
「ち、ちょっとアリス苦し……気持ちはわかりますけど落ち着いて!ま、まあ私も努力の成果が実ったのは、その……悪くない気持ちですけど……」
結論から言うと、ゲーム開発部の廃部は回避された。それも、想像以上の成果によってと言っていいいだろう。
成果物としては、複数の部活動からの協力があったことからミレニアムプライスの判定上では『合同制作』という扱いだが、それでも主軸になったのはゲーム開発部なのは間違いない。成果物の添付する提出書類には協賛する部活動がある場合、その部活動を書かなければならない欄があるのだがその欄には名だたる部活動の名前が幾つも書かれており、審査員は二度見した後驚いたのは余談である。
受賞した賞は、ゲーム開発部としても予想を遥かに上回るものだった。
『審査員傑作特別賞』。元々、ミレニアムプライスとはミレニアムという自治区らしく主に出展されるのは研究や技術関係のものが大半である。そして審査も自治区の特性上そういったものが通りやすい傾向にある。しかし、それでは技術や研究方面以外での成果物が不利になる、ということから設けられたのが特別賞である。
審査員は複数名存在しており、それぞれが別々の専門分野を持っている。技術や研究だけに留まらず、文学や芸術、娯楽方面の専門家。中には有名なゲーム会社から審査員として参加しているゲームの専門家も居る。そうして、その審査員から特別賞を受賞した物の中で特に素晴らしかったものに与えられるのが『審査員傑作特別賞』である。
まずゲーム開発部はこの賞を受賞した。
そして、もうひとつ感慨深かったことがある。
――『この作品を見ていると、初めてラストファンタジーを作った時のことを思い出しますね。若い頃のワクワクを思い出させてくれます』
――『ロマンシング物語の『セブン・ヒーローズ戦』や『ノーブル・フォー戦』の音楽を葛藤とさせるBGMを聞いた時は血が騒ぎましたね』
審査員として参加していた、とある有名なゲーム会社の。それもモモイ、ミドリ、ユズが知るようなレジェンドとも言える有名なゲームプロデューサーやゲーム音楽の作曲家からそんなコメントを貰えたのだ。思わず審査結果発表会の中継を見ていた3人は腰を抜かした。
加えて、ゲームとしての高い完成度や総合しての面白さを評価されたこともそうだが、ゲーム関係やプログラム関係の審査員からは
『クリア後のオマケとしての位置づけのエンドコンテンツ、6人マルチでのレイドバトル。これがまた面白い』
『ドット絵のアクションという切り口も面白い。思わず会社のゲーム開発そっちのけで同期とパーティー組んでストーリー最初からやり込んでしまいました』
『審査にあたり一通りプレイしましたが……恐ろしいゲームですね。ハマる人はとことんハマります』
『バグが一切ないんですよ。これがどれだけ凄いことかわかりますか?私はとても信じられなくて、思わず審査後に立って拍手しましたよ』
そんなコメントが業界の専門家から出たこともあり、ダウンロード数はとてつもない勢いで増え続け。協賛してくれた『フルダイブVR研究会』が用意してくれたかなりハイスペックなダウンロードサーバーも一時ダウンする事態となったほどだった。
今回、テイルズ・サガ・クロニクル2が前作と同じ轍を踏まなかったのは前作の反省を踏まえていたモモイ、ミドリ、ユズの改善意識というのもある。だが、アリスとケイの活躍も大きかった。アリスはゲーム開発に必要となるプログラム関係の知識や技術はまだ勉強し始めたばかりで乏しいが、感じ取るセンスとでも言うべきか。それが高かった。主にゲーム開発部内部でのクローズドベータテストはアリスが担当しており、改善案などの案が次々と出ていた。それを形にして、よりブラッシュアップした結果がテイルズ・サガ・クロニクル2とも言える。
ケイはある意味、いなければならない存在だった。むしろ彼女が居なければ今回の開発はここまで上手く行かなかっただろう。
ケイの担当は文字通り、ゲーム開発部内部でのプロデューサー兼ディレクターのようなものである。加えてプロジェクト管理なども行っていた。正直、並大抵の体力や集中力では保たないのだが彼女もまたアリスと同じフィジカルを持った存在。それでなんとかこれらのタスクをこなしてみせた。
ゲーム開発部の面々は、良くも悪くも個性が強い。しかし無理にそれを矯正しようとして統制しようとすれば、それぞれの持ち味をなくしてしまう。だからケイは、タスクの進行管理にスケジュール管理、開発状況の書類作成に協賛してくれている部活動との会議や打ち合わせなどなど……と、それら全てを処理しつつもゲーム開発部の陣頭指揮を取っていた。本人としてはアリスについてはもっと甘やかしたかったようだが、状況が状況だったため心を鬼にした。
ともあれ。テイルズ・サガ・クロニクル2はケイを含めたゲーム開発部の成果となった。本人達も想像していないほどに反響を生み、リオ曰く前作の評価からの今作ということもあり既にゲーム会社からのインタビューや有名なゲーム雑誌である『ゲーマーズ』『ピコ通』『電撃プライステーション』といった雑誌からの取材申し込みが来ているそうで、ユウカなどはそれに対応してくれている。
「さて、折角のお祝いの場にこれ以上水をさすのも悪いからそろそろ行くわ。……これから色々と忙しいだろうけど頑張って。セミナーとしてもできる限りのことは手伝うつもりだから」
「え?会長、それってどういう……?」
「……?アキから何も聞いていない?」
「アキ……?VR研の茅場先輩のことだよね?何も聞いてないけど……」
「……あの子。驚かせようとか変なこと企んで教えてないわね。落ち着いて聞いて。まず企画段階から始まる、とだけしか私も聞いてないのだけど、テイルズ・サガ・クロニクル2の商品化の話がS社から出ているのよ」
ゲーム開発部の部室。そこで廃部回避と賞の受賞の祝賀会をしていたゲーム開発部の面々だったが、突然のことに全員が言葉を失い沈黙した。
商品化。何が?
テイルズ・サガ・クロニクル2が商品化?
しかも、S社といえばゲーム業界の金字塔とも言えるメーカーだ。
「は……え……えええええええ!?ち、ちょっと待って会長。え?ええええええ!?」
「すごいです!S社ならアリスも知ってます!ラストファンタジーシリーズを出している会社です!すごいですよケイ!」
「ア、アリスっ……全力で肩を揺らさないで下さい、目がまわっ……」
「まってあたまのりかいがおいつかない」
「ミ、ミドリ……私も……」
ゲーム開発部としては信じられないという思いだがそれはそうだろう。
「……オフレコよ?どうやら、テイルズ・サガ・クロニクル2を審査の過程でプレイした私でも知っているゲーム業界のレジェンドのある方達に火をつけてしまったらしくて。それから先方は、斬新かつ面白いゲームシステムと、バグが一切ないという根幹を高く評価していたわ」
「……きゅう」
「お、お姉ちゃん!?」
「だ、大丈夫ですかモモイ!?」
「だいじょうぶじゃない……。アタマが……ショートした……」
どうやらモモイは限界を迎えたらしい。
無理もない。そもそも、自分達は廃部を回避することを目標としていた。今回の結果により廃部が回避できただけではなく賞まで受賞できて、しかも自分達にとってはレジェンドとも言える存在からもコメントを貰えた。ゲームのダウンロード数だって今も右肩上がりを続けるほどの盛況だ。既に頭がパンクするほどの事態になっている所に特大の話題が放り込まれたのだから。
普通なら一つずつ喜ぶものだ。それを短時間のうちにまとめて叩き込まれれば、頭の処理能力が追いつかなくなるのも当然である。むしろ、パンクしたのがモモイだけで済んでいることの方が奇跡かもしれない。
「……ちょっと待ってください、会長」
そんな中、ようやくユズが声を絞り出した。
「商品化って……本当に……?ゆ、夢じゃ……ない、ですよね……?」
「ええ。本当よ。さっきも言ったけどあくまで企画段階だけど夢ではないわね」
「私達が作った……ゲームを……?」
「正確には、企画段階で先方と詰めていくところからね。今のところは商品化に向けた企画提案と協議の打診、と聞いているわ」
「……!」
ユズの目が大きく見開かれる。
それは喜びというより、恐怖に近い表情だった。
もちろん悪い意味ではない。自分達が趣味で、そして部活を存続させるために必死になって作った作品が今度は、いわゆる商業作品として世の中に出るかもしれない、それがどれほど大きな意味を持つのか。ゲーム制作に携わる者なら、想像するだけで手が震える話だろう。
「……でも」
ユズが小さく呟いた。
「商品化するなら……もっとちゃんとした開発体制が必要になる……よね?」
「そうなるでしょうね」
「ゲーム開発部だけで……できるのかな……」
その言葉に、部室の空気がほんの少しだけ変わった。
先ほどまでの歓喜とは違う。現実を見るための、少しだけ冷静な空気だった。
――商品化。
その言葉は、今までのゲーム制作とは根本的に意味が違う。部活動として自由に作るゲームなら、ある程度の無茶も許される。締め切りだって自分達で設定できるし、最悪の場合は徹夜してでも何とかすればいい。
しかし商品となれば話は別だ。
販売する以上、品質保証も必要になる。サポート体制も必要だ。アップデートや不具合への対応、権利関係、契約、広報、流通。その他諸々……今までゲーム開発部が考えてこなかったような問題が、それこそ山のように発生する。
「……あ」
アリスが何かに気付いたように呟いた。
「つまり……アリス達のゲームが、お店で買えるようになるということですか?」
「そういう可能性がある、ということね」
「……!」
アリスの目が輝いた。
「すごいです!」
「アリス……?」
「アリス達のゲームが、もっともっといいものになって、ゲームを知らない人達の手にも渡るんです! もっとたくさんの人がテイルズ・サガ・クロニクル2を遊べます!」
ユズが目を見開いた。
ミドリが目を伏せて頷いた。
そして――モモイも、ゆっくりと起き上がった。
そうだ、何を恐れるのだ。自分達にとっての始まりもゲームだった。そこから縁が広がって今の自分達がある。ゲームをしたことがない誰かに楽しさを、ゲームが好きな誰かにもっと楽しさを届けられる。そう考えただけでワクワクしないだろうか。やってやろうと、やってみたいと。そんなゲームを作ってみたいとゲーム開発者ならば思わないだろうか。
「……そうじゃん」
「お姉ちゃん?」
「私達のゲームが……もっとたくさんの人に遊んでもらえるんだ」
つい先ほどまで限界を迎えていたとは思えないほど、モモイの顔に笑顔が戻る。
「しかもさ、これってつまり……私達のゲームを見た人が、『このゲーム面白い!』って思ってくれるってことでしょ?」
「……うん」
ミドリが頷く。
「それって……すごく嬉しいね」
「でしょ!?」
「……うん」
ユズも小さく笑った。その表情には、先ほどまであった不安が少しだけ薄れていた。
「そう考えると……やってみたい、かも」
ユズはロッカーへと視線を投げる。少し前までは閉じこもっていた場所、忙しかったのもあるが気がつけば最近はそこに閉じこもることも減った。少しづつだが色んな相手と話すことも増えた。そうなったのはきっと、モモイとミドリ。そしてアリスにケイ、最近関わった人達全てのお陰だろう。
そして、そのロッカーの中にあるゲーム機には自分が時間をかけて作り上げたゲームが入っている。失敗したかもしれない。けれど、自分と大切な絆を紡いでくれた大事なものが。
失敗した前作。
何度もやり直したシステム。
締め切り直前まで続いたデバッグ。
協力してくれた沢山の人達と部活動。
そして――完成した、テイルズ・サガ・クロニクル2。
それがもっと多くの人の手に渡る。
ゲームを知らない人達にも遊んでもらえるかもしれない。
そう思うと、臆病な自分でも力が湧いてくる気がした。
「……せっかくなら、ちゃんとしたものにしたい」
「ユズ……」
「もちろん怖いけど。……ゲーム開発部が、ここまで来たんだから」
その言葉を聞いて、モモイがにっと笑った。
「そうだよ!」
「お姉ちゃん、急に元気になったね……」
「当たり前でしょ! こうなったらもっともっと面白いゲームにするんだから!」
「お姉ちゃん、ちょっと待って」
「なに?」
「商品化って話、まだ企画段階だよ?」
「……よし!」
「聞いてた!?」
「聞いてた聞いてた! でも商品化するかもしれないんだから準備くらいはしておいてもいいじゃん!」
「それは……そうだけど……」
そんな彼女達を見ながら、リオは静かに笑っていた。
「……ふふ」
ゲーム開発部、ほんの少し前まで、存続すら危ぶまれていた部活動。しかし今では、ミレニアムプライスで賞を受賞し、複数の著名な専門家から評価され、そして大手ゲームメーカーから商品化の企画まで持ち込まれている。
たった一つのゲーム作品。それを完成させるために、彼女達が積み重ねてきた努力。それが今、ようやく形になって返ってきている。
「……本当に、よく頑張ったわね」
リオの口から、そんな言葉が漏れる。
ゲーム開発部の四人には聞こえないほど、小さな声だった。
だが。
その直後だった。
「――で、リオ」
「……?」
ケイが声を上げる。さっきまでアリスに抱きつかれながら嫌ではないが困ったようにしていた彼女が、いつの間にかリオの目の前まで移動していた。
「商品化の件について、一つ確認してもいいですか?」
「ええ。何かしら?」
「S社との協議をする場合、窓口は誰が担当するんですか?」
「……」
「……」
リオが黙る。
ケイも黙る。
そしてゲーム開発部全員も、ぴたりと動きを止めた。
「……ケイ。とても言いにくいのだけど」
「はい」
ケイが真顔で頷く。
「セミナーとしても企業との話し合いは協力するけれど……基本的なゲーム開発部の担当窓口は、プロデューサー兼ディレクター兼プロジェクトマネージャー兼その他諸々だったあなたでしょうね」
「……やっぱりですか」
ケイは少しだけ肩を落とした。
「仕事が多すぎます!ちょっと私の負担だけ大きくないですか!?」
「その、ほら。セミナーからも部費扱いで手当は出すから……」
「う。そ、そんなもので懐柔できると思わないで下さい!……でも、新しい服とか欲しい香水は確かに魅力的ですけど。ルーネやヒビキともまた買い物に行けますし」
ケイが珍しく声を荒げ、それに対してリオが部費という名目での手当で鎮めようとするが結果は成功のようだ。最近自分の趣味のようなものを見つけたケイとしても、そういったものにはどうしてもクレジットがかかるので魅力的だった。
それを見て、モモイが笑う。
「ケイ、がんばれー!」
「モモイ!?」
「だ、大丈夫ですよケイ! 私もお手伝いしますから!」
「……アリス」
「はい!」
「――その言葉だけで、かなり頑張れそうです」
そう言ってケイが笑った。
ゲーム開発部の部室に、再び笑い声が響く。
廃部を回避するために始めたゲーム制作。
それはもう、単なる「部活動を存続させるための作品」ではなくなっていた。
彼女達の冒険は幕を閉じ、新たな幕が上がり再び新たな
冒険の度に彼女達は苦難を乗り越え、絆を深め、出会い。経験値を貯めて。
そうやって前に進んでいくのだ――自分達の選択した未来に。
これにてパヴァーヌ後日談は終わりです。ここからはパヴァーヌ後の日常の話やら色々な出来事の話、そしてエデン条約編を始めとしたこの先の出来事に関係する色々な話が暫く続く予定です。その一部の予告を少しだけ。
――シャーレへと呼ばれたヒナ、そこには久しぶりに会う大切な友人の姿があった
『久しぶりね、ホシノ』
『久しぶりだねぇ~先生が来るまでちょっと時間ありそうだし、最近のこととか色々話そうよ~』
――日常のこと、そしてミレニアムがアビドスに対して動こうとしているある案件のこと。そんな話をしていれば、先生が到着する。
――告げられたのは、『連邦生徒会』からシャーレに来たというある依頼だった。
『なるほどねぇ……SRTは知ってるよ。その子達の交渉に、最悪決裂したら制圧して捕縛かあ。 ……居場所を守りたいんだろうね、きっと。おじさんにもわかるよ、その守りたいって気持ちは。 でも――』
『……公園の不法占拠、危険な野営地の設置。確かに看過できないものだとは思う。行き場をなくした矜持と正義、誰かを守りたいと願う想い。そして、自分達が守りたい居場所。交渉で済めばいい、とは思うけど』
居場所と自分達の存在意義、願うもの。それらを守ろうとする少女達と、シャーレの騒動が始まろうとしていた。
そんな感じのちょっとした予告編。
茅場ちゃんの本名は『茅場アキ』。リオの友人の一人で決算期が近づくとセミナーに連行されることがある。アッシュグレーのセミロングにやや垂れ目のミステリアス(本人談)な美少女。本人の趣味で着ているという色々改造された白衣がトレードマーク。気分でメガネをかけていたりコンタクトにしていたりする。『ヽ(*゚д゚)ノカヤバー』という顔文字がお気に入りでよく資料やホワイトボードに書いてある。ネームドではないので日常編かつゲーム開発部関係にたまに出てくる。