『ミレニアム治安維持局局長』、空崎ヒナ   作:無名のカヤ推し

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ユウカ「ケイちゃんはかわいいわね」


Vol2.5 パヴァーヌ編後~エデン条約編までの幕間閑話
EPISODE27:ケイ、気に入られる(ロックオンされる)


 その感覚を、ケイはなんと表現して良いのかわからなかった。

 

 困惑。動揺。恐怖。警戒。

 

 どれも、もうひとつしっくりとは来ない。

 だが、そのどれもが該当しているようにも思える。

 

 複数の感情が同時に発生している――そう表現すれば、まだ近いだろうか。

 

 しかし、それでも完全ではない。

 ただ本能が告げているような気がした。

 

 警戒しろ、と。何かがおかしい、と。

 

 背筋に奔る悪寒。本人に悪意がないのは理解できる、敵意もない、攻撃の意思もない。むしろ、こちらに対して向けられているのは、恐らく好意。

 

 それでも、ねっとりとして、逃げ道を塞ぐような何かに対する嫌悪感がある。触れられたわけでもないし威圧されたわけでもない。それなのにどうしても、身体が拒絶する。なんだ、なんなのだ。そう、ケイに思わせていたのは。

 

 

 

 

 とある生徒だった。

 

 

 

 

「あなたがケイちゃんね、会いたかったわ」

 

 にこやかに。

 

 それこそ、何の含みもないような笑顔で。

 

 そう言った少女の名は――早瀬ユウカ。

 

 ミレニアムサイエンススクール、セミナー会計担当。あの空崎ヒナでさえ、時には震え上がるセミナーの実質的な金庫番である。数字に厳しく、無駄遣いを許さず、容赦なく予算を削り、必要と判断すればミレニアム中の人間に請求書を突き付ける少女。

 

 最近になってケイの耳にも、その逸話は色々と入ってきていた。

 

 ゲーム開発部から聞いた話。

 セミナーでの噂。

 ヒナやセンナから聞いた何気ない一言。

 どれもこれも、妙に印象的だった。

 

 ただ。

 

 話を聞く限りでは、ユウカはいたって真面目で、面倒見が良く、責任感の強い生徒だという印象だった。だからこそ実際に会えば、普通に話せるだろう、そう思っていた。

 

 最近はゲーム開発部の案件が立て続けに発生していたこともあって、セミナーに顔を出すという予定が少し後回しになっていた。そのため、今日が初対面。最初の印象としては――。

 

 

 笑顔の優しい、しっかりした生徒。

 それだけだった。

 

「は、初めまして。ケイです。今日はご挨拶と、いくつか確認を――」

 

「…………」

 

「……えっと」

 

 返事がない。

 

 いや、正確には、返事をしていないわけではない。

 ただユウカの視線がこちらに向けられたまま動かない。

 

 じっと。

 

 それこそ、頭のてっぺんから足元までを、一つ一つ確認するように。

 

 ケイは無意識のうちに背筋を伸ばしていた。別に悪いことをしたわけではない。今日の服装もおかしくない。髪も整えてきた。言葉遣いも、失礼のないように何度か頭の中で確認した。

 

 それなのにどうしてだろう。妙に落ち着かない。

 

 視線が肌に触れているような錯覚がする。

 まるで、自分の表面だけを見ているのではない。

 

 内部まで透かして見られているような。そんな妙な気分。

 

 いや、もしかしたらそう感じているだけかもしれない。ユウカの視線には、敵意がない。怒っているわけでもない。どちらかといえば、真剣にこちらを観察している。ならば、自分が過剰反応しているだけなのだろう。

 

 そう判断しようとした。

 

 だが。

 

「…………」

 

 長い。

 あまりにも長い。

 

 実際の時間としては数秒程度なのだろう。

 

 しかし、ケイにとってはその時間が妙に長く感じられた。まるで、自分の知らないところで審査でもされているような。

 

 いや、審査されているというより――。

 

 "品(・)定(・)め(・)"。

 

 

 そんな言葉が頭をよぎってケイは慌てて打ち消した。失礼だ、流石に考えすぎだ。相手はセミナーの会計担当。ミレニアムの中でも有数の優秀な生徒。きっと何か確認しているだけだ。

 

 そう。ただ、それだけ。そう考えていたところで。

 

「……なるほど」

 

「……?」

 

 ケイの背中に、また妙な悪寒が走った。

 先程まで仕事相手を見るような目をしていたユウカが笑っていた。

 

 笑顔そのものは最初から浮かべていた。だが、今の笑みは違う。さっきまでの笑顔が、『仕事相手に向けるためのもの』だったとすれば。

 

 今のそれは――。

 

 なんというか。

 嬉しそうだった。

 あまりにも嬉しそうだった。

 

「……かわいい」

 

「…………はい?」

 

 ケイは一瞬自分の聴覚系統に異常が発生したのかと思った。

 

「え?」

 

「いえ、何でもないわ」

 

「今、何か言いましたよね?」

 

「気のせいよ」

 

「……そう、ですか」

 

 納得したわけではない。ただ、聞き返すのもなんとなく怖かった。

 

 何故だ、どうしてこんなに怖い。相手は笑っているだけなのに。こちらへ銃口を向けているわけでもないし殺気など微塵も感じない。

 

 むしろその正反対。全身から滲み出しているのは、好意。自分に向けられた、純粋な好意。

 なのに。なぜ、それが怖いのか。

 

 そんなケイとは対照的にユウカは自分でも抑え切れない感情を持て余すように、口元へ手を当てていた。

 

 そして、もう一度ケイを見る。今度は先ほど以上にじっくりと。

 

 ……言うならば。

 

 ねっとりと。

 味わうようにして。

 

 髪、顔、目。

 小柄な身体。

 

 そして、本人が真面目にこちらへ向けている、少し緊張した表情。

 どれもこれもユウカの中にある『かわいい』という判定を、見事なまでに満たしていた。

 

 かわいい。

 とてもかわいい。

 

 いや。

 

 かなりかわいい。

 

 しかも本人は、自分がこれほど見られていることに戸惑っている。

 その戸惑いすら、かわいい。

 

 ユウカの中で、危険な何かが芽生え始めていた。元々、ユウカはかわいいものが好きだ。それ自体は珍しいことではない。誰だって、自分が可愛いと思ったものを見れば心が惹かれることくらいある。

 

 ただユウカの場合は、少々。ほんの少々その情熱が強いだけで。

 

 そして今その『少々強い情熱』を向ける対象として目の前に非常に好みの存在が現れてしまった。

 

 しかも。

 

「……会長の話だと、これから定期的にセミナーに来ることになるのよね?」

 

「はい。ゲーム開発部の案件などの窓口は私なので」

 

「そう……」

 

 ケイは理由もなく身構えた。

 

 けれど、ユウカが何か悪いことを企んでいる様子はない。

 むしろ本人は心底嬉しそうだった。

 

 だからこそ余計に怖い。

 

 敵意があれば警戒できる。

 悪意があれば、それを前提に対応すればいい。

 危険な人物なら、危険な人物として扱えばいい。

 

 しかし、目の前の相手から感じるものは、それとはまるで違う。

 

 純粋な好意。混じりけのない好意。だからこそ、対応方法が分からない。好意に対して、警戒するということ自体がおかしい気がする。なら、普通に受け取ればいい。そうすればいいだけなのに。

 

 

 どうしても、頭の奥で警告が鳴り続けている。

 

 

 

 ――近づきすぎない方がいい。

 

 ――気を付けた方がいい。

 

 ――この人との距離感を間違えてはいけない。

 

 

 

 そんな警告が何度も何度も、頭に警鐘を鳴らしている。

 

「ふふ……」

 

 自分を見て笑っている。

 

 それだけで、ケイはなんとなく居心地が悪くなった。

 

「……では」

 

 このままでは話が進まない。

 そう判断し、ケイは視線を手元の書類へ落とす。

 

「案件についての必要な書類なのですが――」

 

「あ、その前に一つだけいい?」

 

「……はい?」

 

「ケイちゃんって、普段どこにいるの?」

 

「普段?」

 

「うん」

 

 どういう質問だろう。

 ケイは一瞬考える。

 しかし、別におかしな質問でもない。

 

「ゲーム開発部の部室か……後は最近、合間にヒナの手伝いもしているので治安維持局ですが……」

 

「――そう」

 

「……?」

 

 ユウカの声が、僅かに低くなった。

 だがその直後。

 

「じゃあ、どちらかに行けば会えるのね」

 

「え?」

 

 ユウカが嬉しそうに微笑んだ。

 

「……機動課の子達に根回ししておかないとね」

 

「え?」

 

 そこだけ。

 ケイの理解が追いつかなかった。

 

 機動課。

 治安維持局機動課。

 

 

 その単語が出た瞬間ケイの中で、これまで断片的に聞いていた情報が一気に蘇った。

 

 治安維持局の機動課。

 

 曰く。

 

 飢えた獣たちの巣窟。羊の皮を被った欲望の化身たち。

 

 

 曰く。

 

 ヒナが匙を投げた。

 

 ……いや、これは流石に誇張だろう。

 ケイはそう思っていた。

 

 ミレニアムの生徒同士なら、多少の冗談や誇張が混ざることだってある。特にモモイの話は、時々やたらと大袈裟だ。だからこの時点では、そこまで本気にはしていなかった。

 

 だが。

 

 モモイは、時々機動課へ連れて行かれているとも言っていた。

 

 そして。

 

   ――『悔しいけど、新しい自分を自覚させられた……』

 

 妙に遠い目をしながらそんなことまで言っていた。あれは一体どういう意味だったのだ。理解できない、理解できないからこそ余計に怖い。

 

 

 そういえば、治安維持局のモモックス。あそこで見た投稿のどこかモモイに似たような生徒の写真があったような気がするが気のせいだろう。きっと気のせいだ。そうに違いない。そうであってほしい。

 

 ケイは強引に思考を現実へ戻して、そして。

 

 先程のユウカの目を思い出す。

 

 あれは何かを探していた目ではない。

 何かを確認する目でもない。

 

 もっと別の何かを見つけた人間の目。

 

 それも。

 

 

 ――獲物を見つけたような。

 

 

「……」

 

 ぞくり。

 

 また、背筋が震えた。だがユウカは、そんなケイの反応など気にも留めない。にこにこと笑いながらごく自然に、まるで当たり前のことを話すように続けていく。

 

「用がなくても遠慮せずにセミナーには来てくれていいからね」

 

「……はい」

 

「ヒナ先輩もそんな感じだし」

 

「あの人は……まあ」

 

 ヒナについては、確かにそうなのだろう。

 ケイがそう考えている間にも。

 

「ふふふ……せっかく同じミレニアムなんだもの」

 

 ユウカが笑う。

 

「これから色々と関わることになるでしょう?」

 

「それは……そうですが」

 

「それに――」

 

 ユウカはそこで言葉を切った。

 

 そして。

 ほんの少しだけ。

 

 身体をこちらへ乗り出した。

 

 

「ケイちゃんのこと、もっと知りたいし」

 

「…………」

 

 ケイの思考が止まった。

 

 その言葉そのものは、別に変ではない。新しい生徒がセミナーに出入りするようになる。窓口担当になる。それなら、担当者についてある程度知っておきたい。業務上、当然のことで、合理的な理由はいくらでも考えられる。

 

 なのに。

 どうして。

 

 胸の奥のような場所が、ざわつくのだろう。

 

 原因を説明できない不快感。

 正体の分からない緊張。

 

 それでも相手を拒絶する明確な理由がない。

 これはいったい何なのだ。

 自分は、何を恐れている。

 

 ユウカは敵ではない、むしろ味方だ。

 セミナーという組織は、今後ゲーム開発部と関わる上で避けて通れない。

 

 その担当者と仲良くなることは、どう考えてもメリットしかない。

 

 なのに。

 なのに、どうして。

 

 自分は、この人から離れた方がいいと思ってしまうのだろう。

 

「……えっと」

 

 ケイは必死に平静を保とうとする。聞くところによると、今までゲーム開発部についても何度か世話になっている。決して怪しい人物ではない。むしろ話だけを聞けば、非常に真面目でしっかりした生徒だ。

 

 数字に厳しい。

 責任感が強い。

 仕事もできる。

 予算管理も完璧。

 

 ゲーム開発部が好き勝手しようとすれば止めるが、その一方で必要と判断した支出はきちんと認める。

 

 理性的で合理的。そういう人間だから大丈夫。

 そう、自分に言い聞かせる。

 

 けれど心のどこかから。

 それとは矛盾する答えが返ってくる。

 

 

 

 ――大丈夫ではない。

 

 

 

 その根拠は何だ。

 説明できない。

 だからこそ困るのだ。

 

「ところで、ケイちゃん」

 

「はい?」

 

「今日は他には?なにか確認するものはある?」

 

「ええと。今ゲーム開発部が受ける予定になっている案件の活動場所や予算、備品の管理、セミナーとの連絡窓口などについてもお話を――」

 

「そうなのね」

 

「はい」

 

「じゃあ、ちゃんと仕事の話もできそうね」

 

 その言葉に、ケイはほんの少しだけ安心する。

 よかった、ちゃんと話が戻った。

 

 そう思った。

 

「モモトークも交換しておきましょうか」

 

「え?」

 

「あ、会長とはもう交換してるのよね?」

 

「は、はい」

 

「じゃあ私とノア。あと、コユキちゃんもかしら。今後、案件が増えるなら連絡先は多い方がいいから」

 

「分かりました」

 

 そこで初めてこれは普通の業務なのだと、ケイは自分に言い聞かせることができた。なお、ここでコユキとノアの連絡先を貰うことで、後々この2人にとても、何度も助けてもらうことをまだケイは知らない。

 

 

 普通、至って普通。何もおかしくない。ただ連絡先を交換するだけ。

 

 普通の手続き。

 普通の仕事。

 普通――。

 

 そう思った。

 

 しかしそんなケイの内心を知るはずもなく。

 

 ユウカは連絡先を交換しながら、どこか嬉しそうにしている。

 

「……ふふ」

 

 まただ。

 その笑顔。

 

 ケイはそれを見て、妙に身構えて思わず、ほんの少しだけユウカから距離を取った。

 

「あら?」

 

「……?」

 

「どうしたの?」

 

「い、いえ」

 

 ケイはすぐに取り繕う。

 

「何でもありません」

 

「そう?」

 

「はい」

 

「……ふふ」

 

 ユウカがまた笑う。

 とにかく仕事を終わらせる。

 それだけに集中しよう。

 

「では、この資料ですが――」

 

 そうしてようやく話が進み始めたと思った。

 

 だが。

 

 それから数分もしないうちに。

 

「ねえ、ケイちゃん」

 

「……はい?」

 

「普段、ゲーム開発部ではどんな感じなの?」

 

「どんな感じ……?」

 

「アリスちゃんとはよく話すの?」

 

「……まあ」

 

「ゲームは好き?」

 

「まだ色々と勉強している途中で……」

 

「好きなものは?」

 

「え?」

 

「食べ物とか」

 

「……」

 

「休みの日は何してるの?」

 

「……」

 

「最近よくヒナ先輩といるのよね?」

 

「……はい」

 

 一つ、また一つ質問が飛んでくる。

 仕事とは関係のない質問、最初は数個程度なら、世間話の範囲だと思っていた。

 

 だが多い。あまりにも多い。答えているうちに気が付けば。

 ユウカは楽しそうに頷きながら、その全てを覚えている。

 

「なるほどねぇ」

 

「……何がですか?」

 

「ううん、なんでもない」

 

 また背筋に悪寒が走った。

 

 嫌われるよりは好かれる方がずっといい。普通なら、そう考える。が、今の自分は好かれていることに、恐怖を感じている。それが理解できなかった。

 

 自分は何を恐れているのだ。

 この人は、自分に何をするつもりなのだ。

 

 

「……では、最後にこの書類への確認印を――」

 

「あ、その前に」

 

「……はい?」

 

「少しお茶でもどう?」

 

 ケイの手が止まった。

 

「お茶……ですか?」

 

「うん。たぶん会長とノア、来るのにちょっと時間かかりそうだし」

 

「…………」

 

 ケイは固まった。同時に絶望した。ノアという少女とは面識はないが、リオはよく知っている。

 

 助けを乞うように脳内でリオに叫んだが、リオから『……ごめんなさい、無力な私を許してちょうだい』と言われた気がした。

 

 落ち着こう。これは別に変な提案ではない。

 話し合いの合間にお茶を飲む。

 

 普通、至って普通。

 ミレニアムの生徒同士なら何も問題はない。

 

「色々聞きたいこともあるし」

 

「……」

 

「この前のミレニアムプライスのこととか」

 

「……はい」

 

「ケイちゃん自身のこととか」

 

「…………」

 

 そして。

 

「これから長い付き合いになるんだもの」

 

 にっこり。

 その笑顔。

 

 それを見てケイは確信した。

 

 ――これはまずい。

 

 本能がそう告げている。

 何かがおかしい。

 

 具体的に何がおかしいのかは分からない。

 敵意があるわけではない。

 悪意があるわけでもない。

 

 むしろ優しい。

 優しいからこそ――この人に対して、警戒を解いてはいけない。

 

 そんな矛盾した感覚があった。

 

 それでも断るのも悪い気がした。セミナーの担当者だ。これから長く付き合うことになる。無用な角を立てる必要もない。

 

 それに。

 

 自分が過剰に警戒しているだけなのだ。

 きっとそう。

 そうに決まっている、そう自分に言い聞かせた。

 

「……では、少しだけ」

 

「本当?」

 

 ユウカの顔がぱっと明るくなった。

 

「やった」

 

「……?」

 

「あ」

 

 ユウカ自身も、声が漏れてしまったことに気付いたのか少しだけ恥ずかしそうに咳払いをする。

 

「いえ、何でもないわ」

 

「……そうですか」

 

 ケイは思う。今日、この人と初めて会った、たったそれだけなのにどうしてこんなに疲れているのだろう。戦闘をしたわけでもない。難しい計算をしたわけでもない。むしろ、内容だけなら簡単な事務手続きだった。なのに処理能力のかなりの部分を、目の前の少女に持っていかれているような気がする。

 

 理由は分からない。ただ、ひとつだけ分かることがある。

 

 この人とは距離感を間違えてはいけない。

 そんな確信だけが残った。

 

  

 

     ◆     ◆     ◆

 

 

 

 そしてその後のケイはこの日の判断を、何度も思い返すことになる。

 何故ならこの日を境にユウカという少女から何かにつけて構われるようになったからだ。

 

 セミナーに顔を出せば。

 

『あ、ケイちゃん。ちょうどよかった』

 

 となる。

 

 ゲーム開発部へ向かえば。

 

『今日、セミナーに来るんじゃなかったの?』

 

 となる。

 

 治安維持局へ行けば。

 

『ケイちゃん来てるって聞いたけど?』

 

 となる。

 

 偶然なのか。

 そうでないのか。

 

 最初のうちは、ケイも判断できなかった。だがあまりに回数が多くなったところで一つの結論に至る。

 

 

 

 ――偶然ではない。

 

 

 

 そしてその事実を知ったときケイは静かに頭を抱えた。

 後日、ヒナのもとに手伝いに行った際そのことを話した。

 

 

「……ユウカに?」

 

「はい」

 

「……そう」

 

 ヒナはケイを見た。

 しばらく黙って、何とも言えない表情を浮かべる。

 

 

 同情。

 諦め。

 

 

 そして。

 

 ほんの少しの申し訳なさ。

 

「……あなたも仲間よ」

 

「何の仲間ですか!?」

 

「ユウカに狙われた被害者……じゃなくて」

 

 ヒナは一度咳払いをする。

 

「慣れなさい。悪い子じゃないのよ。本当にいい子だし、優秀だし。まあ、一時的な発作みたいなものだと思って。……そのうち慣れるわ。私は慣れた」

 

「そういう問題ではないと思います、なんですか発作って!?」

 

「大丈夫よ」

 

「全然大丈夫ではないですけど」

 

「……もし」

 

 ヒナが、ほんの少しだけ声を落とした。

 

「本当に困ったら」

 

「はい」

 

「ユウカや機動課に捕まって、助けが欲しくなったら」

 

「……はい」

 

「私のところまで逃げてきなさい。それか、センナかルーネを頼りなさい。……ノアやリオでもいいわ。後はそうね、もうセミナー役員で自由のはずなのだけど基本的に反省室に引き篭もってるコユキ。機動課ならルーネのところが一番安全だから、なんなら向こうに行くときは同行してもらいなさい」

 

「……ありがとうございます」

 

 その言葉にケイは少しだけ安心した。

 

 ルーネならば知っている。テイルズ・サガ・クロニクル2を作っている時、よく開発室にやってきてはユズと話していたことから交友が始まり、今では親しい友人である。明るく、今時の学生といった感じで、なんなら最近はよく休日にルーネやヒビキと買い物に行ったりしている。そうだ、ルーネは機動課ではないか。ふとそれを思い出してケイは安心した。機動課にもし関わることがあれば、ルーネを頼ればいいのだ。

 

 

 その言葉を受けている時点ではまだケイは知らなかった。自分がこれからユウカの『かわいい』という評価から、思っていた以上に逃げられなくなることを。

 

 

 そして。

 

 

 治安維持局機動課という場所がモモイの言っていた通りなのか、それとももっと恐ろしい場所なのか。

 

 その答えをケイ自身が身をもって知ることになるなどこの時はまだ知る由もなかった。

 

 




・ルーネ
 魔境の機動課での常識人にして良心の陽キャギャル、滅茶苦茶強い。大体いつも機動課の生徒やセンナの暴走に対処しているのは彼女。ケイは機動課へと顔を出す際には必ずルーネに同行を頼むようになった。なお、最初に涙声で『助けて下さいルーネ……』とケイが言った時はちょっとした騒動になった。怒らせるととても不味いタイプの陽キャ。

・機動課の魔境具合
 ニッチ過ぎて伝わるかわからないがカワカミン作品の終わクロのUCATみたいな魔境。機動課だけではなく本世界線のミレニアム自体がそんな感じの魔境。最近では不良たちの間では

『ミレニアムで問題起こして捕まると改造されて自治区の住民にされて帰ってこれなくなる』
『自販機で正気を疑うような商品がたまに売っている』
『機動課の自称SF忍者の生徒達が問題起こした奴らを捕まえに来る、アイサツされたらしないと不味いことになる』
『科学的な意味でも言葉通りの意味でも頭の良い変態が闊歩する魔境』

などと言われている。

■あとがきてきなもの

 実は作者はイメージの通りに作ったルーネちゃんが大変お気に入りだったりする。

 さて、次からは暫く。といっても数話はヒナがシャーレに呼ばれる話が続きます。シャーレに呼ばれるヒナ、そこで久しぶりに会うホシノ。2人でのいろいろな話。

 そして。先生からの連邦生徒会絡みのとある依頼。

 ところで。

 治安維持局って構成員は沢山居てもやることが多すぎて全く手が足りていないし人材不足なんですよね。


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