以後更新速度背が落ちます、立ち絵は次回かその次くらい。
本当時間をくれ時間を……。
子ウサギ公園での戦闘が終わってから、どれくらいの時間が経ったのか。
ミヤコには、正確には分からなかった。ただ、シャーレへ運ばれている間も、身体に残った疲労だけは妙にはっきりと感じていた。
四人とも、大きな怪我を負ったわけではない。ヒナとホシノは、最初から最後までこちらを完全制圧する気などなかったのだろう。攻撃は徹底してこちらの戦力を削ぐことに集中していたし、抵抗すればするほど、こちらが傷つかないように絶妙な加減で押さえ込まれていた。
それが分かるからこそミヤコには余計に悔しかった。
自分達は、本気だった。これまで何度も訓練してきた。SRTという場所に入るためにも、入ってからも、誰かを守れる生徒になるために血が滲むような努力を重ねてきた。
それなのに。いざ戦ってみれば、たった二人に押さえ込まれた。しかも、その二人は最初から自分達を傷つけないように戦っていた。
――勝負にすらなっていなかった。
そう認めることが、一番辛かった。そして、その痛みを抱えたまま、RABBIT小隊の四人はシャーレの休憩室へ案内された。
「ここでしばらく休んでいて」
先生はそう言って、四人の顔を順番に見た。
いつものような軽い笑みはなかった。
責めるような目でもない。
ただ、ひどく真剣な目だった。
「君達の本当の気持ちを聞きたい。だから、暫くここで休んで、落ち着いたら話を聞かせてくれないかな」
「……はい」
最初に返事をしたのはミヤコだった。
先生はそれだけを確認すると、部屋を出ていった。
扉が閉まる。
その瞬間、四人の間を覆っていた緊張が少しだけ緩んだ。
けれど、誰も口を開かなかった。椅子に座ったミヤコも、壁際に立っているサキも、床へ腰を下ろしたモエも、少し離れた場所で縮こまっているミユも。全員が何かを考えている。
……いや。
考えているというより、考えないようにしていたものが一気に押し寄せてきているのだ。
「……負けたね」
やがて、モエがぽつりと言った。
「……はい」
ミヤコが答える。
「完敗でした」
「……完敗、か」
モエが乾いた笑いを漏らす。
「言葉にすると結構くるね、それ」
誰も否定しなかった。
サキが腕を組んだまま、俯く。
「……二人だけだった」
「うん」
「こちらは四人。しかも、こちらは事前に訓練した場所で迎撃できるよう準備していた。なのに、二人だけに突破された」
サキの声は震えてはいなかった。
だが、ミヤコには分かった。
悔しいのだ。
サキは誰よりもSRTという場所に誇りを持っている。
だからこそ、敗北という事実を誰よりも重く受け止めていた。
「……空崎ヒナさんって、あんなに強かったんですね」
ミユが小さく呟いた。
三人の視線が彼女へ向く。
ミユは少しだけ肩を震わせた。
「ご、ごめんなさい……」
「どうして謝るんですか、ミユ」
ミヤコが穏やかに聞く。
「だって……私、何もできなかったから」
「そんなことないです」
ミヤコが即答した。
「ミユがいなければ、もっと早く終わっていました」
「でも……」
「私達は、最初から傷つけられることも想定せずに戦われていたんだと思います」
その言葉を聞いて、ミユは余計に俯いた。
自分達が弱かったから負けた。
それだけなら、まだよかった。
けれど違う。相手は自分達の強さを理解した上で、それでも余裕を持って戦っていた。それが、何よりも苦しい。
「ホシノさんも……」
ミユが呟く。
「すごかった……」
「……そうですね」
ミヤコも頷いた。
そして、モエもまた『どうしようもない』というようにため息をついた。
「盾を構えてるときの圧力がヤバいんだよ。真正面から行けば止められる。横から回ろうとしたらショットガン。距離を取ればハンドガン。……何あれ。全部できるじゃん」
「しかも、動きが軽かった」
サキが続ける。
「盾をあれだけ使いながら、こちらの射線を切るための動きが速い。重装備のタンクやポイントマンというより……」
「それもできるアサルトそのもの」
ミヤコが言った。
「どこへでも出てきて、どんな状況でも戦える」
そこで、ミヤコは少しだけ目を伏せた。
その戦い方を思い出せば思い出すほど、自分達が何を相手にしていたのかが見えてくる。
ヒナは圧倒的な火力を持っていた。けれど、あの場所では大型の銃器を思うように使えなかった。それでも、一発一発を異常なほど正確に撃ち込んできた。ホシノは盾とショットガンを持ちながら、こちらの陣形を崩した。
そして、二人とも。
民間人がいない公園だからといって、無茶な攻撃は一度もしなかった。
「……あの二人」
ミヤコが呟く。
「私達を止めることだけを考えていた」
「……そうだな」
サキが答えた。
「だから余計に悔しい」
「うん」
沈黙が落ちる。
しばらくして、モエが天井を見上げた。
「……これで、本当に終わっちゃうのかな」
「何が?」
「SRT」
その言葉だけで、部屋の空気が変わった。モエは冗談を言ったわけではない。いつものように、軽く笑って誤魔化そうとしたわけでもない。ただ、今まで口に出さないようにしていた恐怖を、ぽつりと吐き出しただけだった。
「学校は閉鎖された。居場所もない。」
「……」
「公園にいたって、結局こうなった」
「モエ」
ミヤコが名前を呼ぶ。
「だってさ」
モエは笑おうとして、失敗した。
「私達があれだけ頑張ってSRTに入ったのに、そのSRTがなくなるんだよ?」
返事ができない。
「それって……何だったのかなって」
モエの声がわずかに掠れた。
「私達が、あんなに努力した意味って……何だったの?」
「……意味はあった」
サキが言った。
強い声だった。
「私は、そう思っている」
「サキ……」
「SRTに入ったことは間違いじゃない。訓練したことも。勉強したことも。仲間と過ごしたことも」
拳を握る。
「私達は、誰かを守れる生徒になるために努力した」
その言葉には、彼女自身の人生が込められていた。
「私は、そのためにSRTへ入った」
サキは俯かなかった。
それだけは譲れないというように、真正面を見据えていた。
「だから……SRTがなくなったからといって、それまでの努力まで無かったことにしたくない」
「……うん」
ミヤコが頷く。
「私も同じです」
四人の視線が集まる。
「私は……誰かを守れる生徒になりたかった。過酷な状況にも決して折れない、強い信念と厳格な規律に憧れた。どんな悪人をも一撃で制圧できる、圧倒的な力に憧れた。悍ましい敵の前でも揺るがない、大胆な勇気に憧れた。 ……いつまでも変わらない、輝かしい正義に憧れた」
ミヤコは、ゆっくりと言葉を選んだ。
「だから、SRTに入りたかった」
それは単純な憧れだったのかもしれない。
強い人間になりたかった。
誰かを助けられる人間になりたかった。
困っている人がいたら駆けつけて、その人を守れるようになりたかった。
「そのために、頑張った」
ミヤコの声は穏やかだった。
けれど、その穏やかさの奥には、確かな強さがあった。
「厳しい訓練も、勉強も、全部。SRTに入るために必要だったからやった。入ってからも、もっと強くならないといけないと思ったから続けた」
ミヤコは三人を見る。
「そして、そこで三人に出会った」
「……ミヤコ」
「私はSRTを守りたい」
一度、言葉を切る。
「でも、それだけじゃない」
その先にあるものを、ミヤコはようやく理解したような気がした。
「三人と離れたくない」
サキの目が少しだけ揺れる。
モエが顔を逸らす。
ミユは唇を噛んだ。
「私達は、SRTに入ったから出会えた」
ミヤコの言葉が、静かに部屋へ広がっていく。
「だからSRTがなくなることそのものが怖いんじゃない」
「……え?」
モエが顔を上げる。
「SRTがなくなって、その結果、私達までばらばらになることが怖いんだと思います」
その瞬間だった。
「……っ」
ミユの喉から、小さな声が漏れた。
人の視線が彼女へ向く。
「ミユ?」
「……私も」
ミユは俯いた。
両手が震えている。
「私も……怖い」
声が小さい。
「SRTがなくなったら……みんな、別々の場所に行っちゃうのかなって」
「そんなこと――」
「でも、そうなるかもしれない」
ミユの言葉を、誰も否定できなかった。
「私は……気弱で、弱虫で。そんなに強くなくて」
「ミユ」
狙撃。
隠密。
索敵。
ミユがSRTに必要とされてきた理由。
そして、ミユ自身が自分の価値だと思っているもの。
「RABBIT小隊じゃなくなったら……私は、ただのミユになっちゃう」
「……」
「みんなが別々の場所に行って、それぞれ新しい仲間ができたら……」
声が震えた。
「私のこと、忘れてしまうかもって、思って」
そこで、涙がこぼれた。
「……忘れられたくない。忘れられるのが、一番怖い」
ミユは慌てて涙を拭った。
「ご、ごめんなさい……」
「謝らなくていいです」
ミヤコがすぐに言った。
「ミユ、私達は忘れません」
「……はい」
「絶対に」
サキも頷いた。
「私も忘れない」
「……モエ」
「……当たり前でしょ」
モエは目を逸らしたまま答えた。
「そもそも忘れるわけないじゃん」
その言葉を聞いて、ミユの目からまた涙が溢れた。
「……みんな」
ミヤコは三人を見た。
「じゃあ、やっぱり」
もう答えは決まっていた。
「四人で行こう」
「どこへ?」
「先生のところ」
ミヤコは立ち上がった。
「私達が、何を守りたかったのか。ちゃんと話しましょう」
四人は互いを見た。
そして今度こそ、自分達の意志で扉へ向かった。
◆ ◆ ◆
シャーレの業務室。先生はソファに座り、その隣にはホシノがいた。少し離れた場所にはヒナが立っている。三人とも、RABBIT小隊の面々の到着を待っていた。
「来たね」
先生が言う。
「……はい」
ミヤコが返した。
四人が並ぶ。その姿を見て、ヒナは何も言わなかった。ただ、四人の顔を一人ずつ見た。
泣いた痕。
疲労。
悔しさ。
それでも、逃げずにここへ来たという覚悟。
それを確認する。
「座って」
先生が言う。
四人はソファへ座った。
「急がなくていいから」
先生が続ける。
「上手く話す必要もない。まとまってなくてもいいから、君達が思っていることを聞かせてほしい」
「……分かりました」
ミヤコが答えた。
最初に口を開いたのは、やはり彼女だった。
「私達は……SRTでした」
その一言から始まった。
「SRTに入った理由は、四人とも少しずつ違うと思います。でも、共通しているものはあります」
ミヤコは自分の手を見た。
「誰かを守れる生徒になりたかった」
ヒナの瞳がわずかに細くなる。
「そのために、私は努力しました。SRTに入ることだって簡単じゃなかった。入ってからだって、訓練についていくために必死でした」
サキが続ける。
「私もだ。SRTの理念に憧れていたからこそ、努力した。誰かが助けを求めているなら、自分達が駆けつけられるように。そういう生徒になるために」
「私だって」
モエが言った。
「整備とか、爆発物とか、機械とか。そういうのが役に立つって思ったから勉強した。別に楽なことばっかりじゃなかったよ。むしろ死ぬほど大変だった」
それでもと笑った。
「でも、RABBIT小隊でいるのは楽しかった」
ミヤコが頷く。
「私達は、SRTで仲間になりました」
そして。
「だから、離れたくありません」
その言葉に、先生は静かに頷いた。
「SRTがなくなるのが嫌なんじゃない」
ミヤコが続ける。
「もちろん、それも嫌です。でも、それ以上に……私達四人がばらばらになるのが嫌なんです」
「……」
「だから、公園にいました」
「居場所を守るために?」
先生が聞く。
「はい」
ミヤコは迷わず答えた。
「公園にいることで、少なくとも私達はRABBIT小隊として一緒にいられました。SRTがなくなっていないと、そう言える場所でした」
サキが続く。
「そこで訓練もしていました。SRTとして、自分達の理念を続けているつもりでした」
「でも、周りから見れば不法占拠だった」
「……はい」
「分かっていた?」
「……理解していた」
サキは目を逸らさなかった。
「それでも、離れたくなかった」
モエが言う。
「だって、公園を出たら本当に何もなくなる気がしたから」
「……」
「どこに行けばいいかも分からない。何をすればいいかも分からない。SRTは閉鎖されてしまった。だったら、私達がここにいる意味って何なの?」
最後の言葉は、思った以上に弱かった。
ヒナが静かに口を開く。
「ミユは?」
「……私」
ミユは震える手を膝の上で握った。
「私は……」
言葉が詰まる。
それでも。
「忘れられたくなかった」
そう言った。
「……SRTがなくなって、RABBIT小隊もなくなって……みんなが別々になったら」
目に涙が浮かぶ。
「みんなの記憶から、私達が消えてしまうような気がして。 ……私は、そうなるのが怖かった」
涙が頬を伝う。
「私はあまり強くないし、目立つ方でもないし……。だから、RABBIT小隊じゃなくなったら、みんなに忘れられるんじゃないかって」
「ミユ」
ミヤコが呼ぶ。
それだけで、ミユは少しだけ顔を上げた。
「それが……嫌だった」
ミヤコは頷いた。
「私も、皆と離れたくない」
四人は互いを見る。
「だから、私達は公園で抵抗していました」
最後に、ミヤコが言った。
「これが……私達の本当の気持ちです」
しばらく、誰も何も言わなかった。先生も。ホシノも。そしてヒナも。ただ静かに、四人の言葉を受け止めていた。
やがて、ヒナが歩き出した。
四人の前まで来ると。
「……そう」
短い言葉だった。
その声に、冷たさはなかった。
「だったら」
ヒナは四人を見る。彼女たちの想いは本物だろう。誰かを守るために努力した、理不尽から誰かを守るためにSRTに入った。気高い理念を持った先で出会った仲間と共に居たいと願った。そのどれもが本物で、RABBIT小隊にとってはかけがえのないものなのだろう。
それを消すわけにはいかない。それを第三者が奪うということは、彼女たちのそんな気高い意思と友を想う志を奪うということだ。
ならば、と思う。
傲慢だと言われようと、偽善者だと言われようと。彼女たちの想いにつけ込んで利用しようとしていると言われても構わない。
その意思と志を消さないために、既に所属こそ違うが
――自分が、その輝きを消したくないと思ったのだから。
――その気高く強い想いを胸に、先へと進んで欲しいと願ったのだから。
そう、だから。
これは、悪魔の囁きであり提案なのだ。
「――私が正義をあげる」
「……え?」
RABBIT小隊の面々が目を瞬かせる。
ヒナは淡々としていた。
「SRTとして、RABBIT小隊として、誰かを守りたい」
ヒナは四人を順番に見る。
「その気持ちを捨てる必要はない」
ミヤコが息を呑む。
「でも、SRTは……」
「閉鎖になった学校を私が勝手に元へ戻すことはできない」
ヒナははっきりと言った。
「それは私の権限ではないし、嘘をついて約束するつもりもない」
そこで一度、言葉を切る。
「だけど」
ヒナの声が少しだけ柔らかくなる。
「SRTの理念まで、なくなったわけじゃないでしょう? 誰かを守ること、危険な場所へ向かい助けが必要な人を助けること。仲間と連携して、任務を遂行すること。自分達が持っている能力を、誰かのために使うこと」
四人は黙って聞いていた。
「それを続けたいなら、続ければいい。場所だけがなくなったからって、あなた達までSRTでなくなる必要はない」
ミヤコが、ゆっくりと顔を上げた。
「……どういう意味ですか?」
「まず前提だけど、ミレニアムの生徒になる必要はない」
四人が驚く。
「え?」
ヒナは淡々と説明を始めた。
「ミレニアム治安維持局は、装備や予算、物資はあるけれど人手が足りていないの」
ヒナが言葉を柔らかくして、ため息交じりに言ったそれに対してモエが目を瞬かせる。
「局員はいるんじゃないの?」
「いるわ。ただし、仕事量に対してまったく足りていない。治安維持局は普通の警備だけをしているわけじゃない。事件対応、捜索、災害救助、要人警護、特殊作戦、危険物処理、情報収集、機械設備の運用、現場支援、他自治区との話し合いや要請への対応……他にも色々あるけれど、そういったタスクに対して必要な能力が多い。やることも多いし、日々忙しい毎日なの」
ヒナは四人を見る。
「だから、優秀な人材は欲しい。これは私の局長という立場としてもそうだし、セミナーのトップ。生徒会長であるリオの意思でもあるわ」
ミヤコの目が僅かに動く。同時、驚きもした。
まさかここで、ミレニアムの生徒会長である調月リオの名前が出てくるとは思わなかったのだ。
「……もしかして、私達を?」
「ええ」
「でも、私達はSRTです」
「知ってる」
「ミレニアムの生徒ではありませんが……」
「だから、特例を使う。私もゲヘナからミレニアムに移る時に、所属こそ変えたけど使ったわ」
ヒナは続けた。
「条件はあるし、セミナーからの承認も必要。だけどミレニアムには通常の学生として所属しなくても、特定の専門業務に従事できる制度がある。治安維持局の『嘱託制度』。それを使ってRABBIT小隊を、治安維持局の嘱託生徒として採用する」
その制度自体は、リオの先代。一つ前の生徒会長が作ったものだった。要するに、非常に厳しい条件のもとかなり権限の強さを落としたシャーレの持つ、『所属や学籍によらず不特定多数の生徒の協力を仰ぐことのできる権限』である。
この制度は一般にはあまり知られていないのだが、連邦生徒会の上層部には知っている生徒は多い。何故なら、この制度は先代のミレニアム自治区生徒会長と現在失踪している連邦生徒会長の認可によって制定されたものなのだから。
そうして、この制度を利用している生徒は治安維持局にはそこそこ居る。元々ヒナだってミレニアムの生徒ではないし、副局長のセンナ、機動課部隊長のルーネ、他にも治安維持局の中枢を担う生徒の多くは、ミレニアムの外の出身のものが多い。
四人が言葉を失った。彼女たちはその制度のことを知らず、本当にそんなことが可能なのかと唖然としたのだ。
「SRTの生徒であることを辞める必要はない」
ヒナは続ける。
「RABBIT小隊も解散しなくていい」
「……本当に?」
ミユの声が震える。
「ええ」
「四人で?」
「四人で」
ミヤコが拳を握った。
胸の奥で何かが大きく揺れた。
それは、希望だった。しかし、同時に怖くもあった。
「……私達に、そんなことができるでしょうか」
ヒナは少しだけ考える。
「今日、あなた達と戦った」
「……はい」
「四人の連携は、かなり優秀だった」
ミヤコが目を見開く。
「正直に言えば、想定より厄介だった」
ホシノが『いやあ本当にねえ~』と言いいながら笑う。
「うん。おじさんも同感かなぁ。 ――正直、ちょっと本気出さないとヤバいかなって思っちゃったし」
「ホシノさん……」
「ミヤコちゃんが全体を見て、サキちゃんが前で敵の動きを作って、モエちゃんが後ろから状況を動かして、ミユちゃんが狙撃で制圧する」
ホシノは指を一本ずつ立てる。
「四人で一つの生き物みたいに動いてたよ。まあ、おじさん達には負けちゃったけどねぇ、それでも本当に厄介だった。四人で戦ってる時の君達は、ちゃんと強かったよ。ぶっちゃけるけど、自治区の行政部隊くらいじゃ止めるの無理じゃないかな。副委員長……委員長か現場指揮官クラスじゃないと厳しいかな?」
その言葉は、RABBIT小隊の胸に深く響いた。
「だから、それぞれの適性にあわせて配属する課は決まるけど重要な作戦では四人で動いてもらう。配属とは別で、チームとしての運用も基本的な運用にする」
「……RABBIT小隊として?」
「そう」
ミヤコがゆっくりと頷いた。
「訓練も?」
「自由」
「SRTの訓練を続けても?」
「もちろん」
「SRTの教範を学び続けても?」
「問題ない」
「……ミレニアムの訓練に参加することは?」
「それも構わない。治安維持局の訓練や勉強も構わないし、セミナー直下の機関としてC&Cもいる。希望するなら、そちらの訓練に参加してもいい」
モエの目が輝いた。
「……もしかして、最新装備とか設備とか触れたり?ミレニアムってそういうの多そうだし」
「触れると思うわ。
「最新装備……機材……うひょお……!」
ヒナはその様子を見ながら、話を続ける。
「そうね。例を挙げていきましょうか。 ……まずミヤコ」
「は、はい」
「あなたは作戦指揮と立案。それに前衛を担当してもらう。犯罪現場だけでなく、災害現場での対応立案に指揮、自治区内からあがってくる通報や相談をもとにした対応策の検討なんかも任せられるわ」
「……そんな幅広い現場に私が、ですか?」
「それくらいの才能はあると思ってる。さて次に……サキ」
「わ、私ですか」
「強襲作戦、機動作戦。戦闘任務だけじゃない。災害救助やレンジャーとしての厳しい現場作戦にも適性がある。ポイントマンとしての素質に加えてレンジャー適性というのはかなり貴重よ。その才能を活かして、様々な環境の現場を任せられると思ってる」
サキは驚いたように目を開いた。
「私が……災害救助?」
「SRTで学んだことは戦闘だけじゃないでしょう」
「……はい」
「なら、それを使えばいい」
サキはゆっくり頷いた。
「モエ」
「はいはい」
「整備」
「もちろん」
「補給管理」
「……それも?」
「あなたは後方支援能力が高い。それに機械への適応も早い」
モエが少しだけ姿勢を正す。
「現場での爆発物処理も任せられる」
「爆発物処理……」
その言葉に、モエの顔が明るくなる。
「それと」
「まだある?」
「さっきも言ったけどミレニアムの最新型機械のオペレーター」
「…………」
モエが固まった。
数秒後。
「……ヒナさん。いいえヒナ局長と呼ばせて下さい」
「え、どうしたのいきなり」
「私、ミレニアムに来てもいいかもって……ちょっとだけ思ったり……」
「ミレニアムの生徒になる必要はないと言ったでしょう……。欲が垂れ流しになってるわよ」
「いや、だってぇ……」
ヒナが僅かに呆れた顔をする。
そして最後に。
「ミユ」
「は、はい……」
「あなたは狙撃課。安心して、狙撃課は寡黙というか、大人しい子とか冷静な子が多いから多分あなたでもすぐ馴染めるわ」
「……!」
「卓越した狙撃能力は、そのまま専門性になる。ここであなたを捕まえないと、狙撃課の子達に怒られるでしょうね。それくらいに貴女は優秀」
ミユは固まった。
「狙撃だけじゃない」
ヒナは続ける。
「狙撃課は単純に狙撃だけをする部署じゃない。観測に捜索、護衛に諜報。あなたはどれをとっても一流じゃ済まないものを持っているわ」
「……私が?」
「ええ」
「でも……私は、そんなに……」
「今日、あなたの位置を探すのに時間がかかった」
ヒナは淡々と告げた。
「私が探しても、かなり上手く隠れていた」
「……」
「狙撃手にとって最も大切なことだから貴女もわかるかもしれないけれど、居場所を特定されないこと。対象に見つからないこと。ホシノの目を欺けた時点で、あなたは自分が思っているより優秀よ」
「なーに言ってるのヒナちゃん。遠距離の相手に対しての察知ならおじさんよりヒナちゃんのほうが上でしょ?……それに正確には、
「まあ、そうね。ハッキリと言うけれど……近接戦闘や撃ち合いは不得手かもしれないけど、あなたほどの狙撃能力と隠密能力を持つ相手と対峙した時点で大抵の相手は詰んでるわよ。そんな逸材……本当に逃したら狙撃課の子達に何言われるかわからないわ」
ミユの目に、また涙が浮かんだ。
「……はい」
今度の涙は、さっきとは違った。
忘れられない。
必要とされない。
そんな恐怖から少しだけ離れた涙だった。
「それに、衣食住についてもこちらで手配できるようにする」
サキが驚く。
「衣食住まで?」
「治安維持局の業務に従事する以上、必要な生活環境は用意する。必要なら装備も支給・貸与するし、給与もミレニアムの予算から出る」
モエが目を丸くする。
「お給料?」
「ええ」
「ちゃんと?」
「ちゃんと」
「……公園暮らし、卒業?」
「先生から少し聞いていたのだけども貴女達もっとしっかりとしたものを食べたほうがいいわ。……いや、私も昔そんな感じだったからあまり言えないのだけど。流石に消費期限間近のコンビニ弁当やインスタント、軍用携帯食料はちょっとね。ちなみにだけど、私それと似たような食生活をリオと前にやったら恐ろしい目にあったわ」
「お、恐ろしい目……?」
「ミレニアム上層部全員からの二人揃ってのお説教フルコース。……特にノアは怖かった。笑顔と無言の圧力が本当に」
モエが苦笑いした後しばらく黙った。
そして、我に返ったようにして。
「……待遇、すごくない?」
「まあ、ミレニアムとしては治安維持に関係する仕事だから」
ヒナが答えた。
「同情で与えるわけじゃないし私はあなた達が可哀想だから助けるわけではない。純粋に、才能があるから」
静かな声だった。
「そして、その才能を何もしないまま埋もれさせるのは、あまりにも勿体ない」
ヒナの視線がミヤコへ向く。
「四人で連携できる」
サキへ。
「規律と戦術を理解している」
モエへ。
「技術と機械に強い」
ミユへ。
「そして、優秀な狙撃手」
最後に四人全員を見る。
「そんな人材を、私は手放すつもりはないし逃がすつもりもないの」
ミヤコは黙っていた。
その言葉が、胸の奥に響いている。
同情ではない。
施しでもない。
自分達が必要だから。
自分達の能力を使いたいから。
だから、役割を与える。
それはミヤコ達が求めていたものに、とてもよく似ていた。SRTにいた頃、自分達が目指していたもの。誰かを守るための場所。誰かの役に立つ場所。そして、仲間と一緒にいられる場所。
「……先生」
ミヤコが振り返る。
「うん」
「私達は……」
言葉が詰まった。
けれど、今度は逃げなかった。
「RABBIT小隊のままで、いてもいいんでしょうか」
先生は即答した。
「もちろん」
「SRTの生徒として?」
「うん」
「四人で?」
「うん」
ミヤコは目を閉じた。
長い沈黙。そして。
「……ありがとうございます」
ミヤコは深く頭を下げた。
「私達に、もう一度……進む道をくれて」
サキも立ち上がる。
「私も、お願いします」
モエも続いた。
「私も」
最後にミユ。
「……私も、お願いします」
四人が並んだ。
それを見ていたホシノが、ゆっくり笑う。
「よかったねぇ」
ミヤコが顔を上げる。
「ホシノさん」
「ん?」
「……ありがとうございました」
「おじさんは何もしてないよ」
「でも」
「んー」
ホシノは少し考えてから。
「じゃあ、今度は敵じゃなくて学生として会おうよお。おじさん、若い子とお話するの大好きだし」
「ふふっ……なんですかそれ」
「あ、なんならこの子達の訓練相手に呼んでよヒナちゃん。バイト代出るんでしょー?」
「ホシノを模擬戦相手兼教官として……? ――アリね。ちょっとリオに話をしてみるわ」
「え、半分冗談だったんだけど……」
思わずミヤコ達の背筋がピンと伸びた。かなり加減されていたであろう公園での戦闘であれだったのだ、模擬戦の相手となった場合どれほどのものなのかと考えてしまったのだ。
「ひとまず、これで話は決まり」
四人を見る。
「RABBIT小隊」
「はい」
「今日からあなた達は、ミレニアム治安維持局の嘱託生徒」
その言葉を聞いた瞬間。ミヤコはSRTの制服を見る。
そこにあるものは変わらない。
失ったものは確かにある。学校そのものを、すぐに取り戻せるわけではない。
それでも。
全部を失ったわけではなかった。
「これからも、よろしくお願いします」
ヒナはそんな四人を見つめる。
自分が何か特別なことをしたとは思っていなかった。
ただ、目の前にある問題を見て必要なものを考えた。
人手が足りない。
優秀な人材がいる。
なら、採用すればいい。
……それだけの話だ。
けれど四人にとってはそれだけではなかった。
ヒナには、それも分かっていた。
「……ただし」
四人の顔が引き締まる。
「治安維持局の嘱託生徒になる以上、仕事はきちんとしてもらう」
「はい!」
「SRTとしての理念を続けたいなら、それも自分達の行動で示して」
「了解です!」
「訓練も勉強も自由。でも、任務を優先すること」
「はい」
「そして」
ヒナは少しだけ目を細めた。
「四人で戦うことを忘れないで。何度も言うけどあなた達はチームよ」
四人が互いを見る。
「あなた達の一番の強みは、一人一人の能力だけじゃない。四人でRABBIT小隊だからこそ強い」
ミヤコの目が僅かに見開かれる。
「だから、これからも四人でいなさい」
告げられた言葉に対して、力強く4人は返事を返した。
■『正義』の在処
――正義とはそれぞれの持つ正しさであり、何一つ正しい正義とは存在しない。
――所詮正義とは、それを持つ当人にとっての願望であり、都合の良いものなのだ。
ヒナもそれをわかっているし、わかった上で正義をあげると騙り彼女たちに悪魔らしいやり方で手を伸ばしました。偽善と言われるかもしれないし、己の正義のために彼女たちを惑わせ引き込んだとも取れる。優秀な人材が欲しい、というのはあったが彼女の本心は。自らの所業がどう取られようともその眩しいほどの輝きを消したくなかったのだ。
あり得た未来として、RABBIT小隊に対して介入しなかった場合。消耗しきって限界が近かった所に別の誰かから、その誰かにとって都合の良い正義と耳障りのいい言葉を並べられてその手を取っていたかもしれない。カヤとかカヤとかカヤとか。『SRT再興も出来ますし、FOX小隊の先輩達と一緒にあなた達が望んだ『正義』を成せますよ』と、今回のヒナが提示した正義ではなく別の正義を与えられていたかもしれない。
その場合、カルバノグ二章でRABBITとFOXがシャーレ襲撃に来ることになる。
なお、その時に当番してる生徒によってはRABBITとFOXが詰む。
■先代のミレニアム生徒会長
オリキャラ。ネームドではない。リオの先代であり、リオとヒマリに対して色々教えていた。リオの生徒会長室、ヒマリの部屋には三人で昔撮った写真が大事に飾られている。
連邦生徒会長とは交友があったようで、シャーレ発足に関係する草案などにも関わっていた。それに際して、治安維持局の発足やミレニアムにそのシャーレの草案のひとつをかなり権限を弱くし、条件を厳しくしたうえで作った。この『嘱託生徒制度』がなければミレニアムにヒナをはじめとした優秀な生徒たちは来ることがなかった。逆に言えば、本世界線のミレニアムが某カワカミンUCAT並に混沌としている原因。
存命しているし住居はミレニアムにあるが、現在は不在。キヴォトスの外で活躍しているようで、時々リオやヒマリには連絡が来るが『14に分かたれた世界をなんとかしなければならなくて仲間達と頑張っている』などと、二人でもよくわからないことを言っているとかなんとか。
■RABBIT小隊
ユウカ「貴女達がRABBIT小隊の子達ね? ……歓迎するわ、盛大にね」
機動課局員A「ミヤコちゃんとサキちゃんって言うんだね。ちょっと服のサイズ測るからこっちに……大丈夫、怖くないよ。 あ、ルーネちゃんまって話し合いをアバーッ!」
ルーネ「怖がってるから自重するっす!」
装備課局員B(元ワイルドハント)「爆発とは芸術であり計算された爆発はそれだけで美しい。限られた爆薬でいかに美しく大規模に爆破するかというのはとても困難だけどやり遂げたときは最高の気分になる。どれだけ美しく平地を作れるか、どれだけ美しく爆破できるかというのは永遠の課題であり――」
モエ「ここ天職かもしんない」
狙撃課部隊長「……ひとつだけ言っておくわ。私の後ろには立たないで」
ミユ「は、はい」
狙撃課部隊長「……ふふ、いい子ね」
ルーネとは同い年ということもあって全員仲良くなった。よく休日に一緒に買物に出かけたりしている。また、RABBIT小隊全員専用の、スーツのジャケットにはSRT校章、コートにはRABBIT小隊の部隊章と治安維持局局章の入ったスーツモチーフの制服一式が用意された。狙撃課は大人しくまともな生徒が多く、ミユは真っ当な方向で可愛がられることになる。
撃課部隊長は寡黙で口数の少ない赤目黒髪ロングのお姉さん。準ネームド。
能力だけ見ればセンナレベル。狙撃手なのに近接戦も撃ち合いもできるやべーやつ。隠密能力もバグっており、その気になったらミユレベルの隠密をやってくる。ミユが天性の素質での隠密だとするなら、彼女はあらゆる技能とセンスでの隠密。ミユが直感で『とんでもなくすごい人』と感じ取ったとかなんとか。