『ミレニアム治安維持局局長』、空崎ヒナ   作:無名のカヤ推し

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EPISODE33:兎達の新たな居場所

 その日、ヒナは慌ただしくミレニアムの関係各所を移動していた。

 治安維持局は常に多忙である。事件や騒動がない平常時でも自治区からの相談や報告などはあがってくるし、それに対応するのも治安維持局の業務である。それ以外にも災害対応や事故や災害で破損した施設や建物の調査や復旧対応、それに際しての業者のやり取りにセミナーへの報告書作成。自治区境界線付近での他自治区のトラブルに対しての、要請があっての対応。他にも色々とあるがとにかく多忙である。

 

 

 そして最近、正式に決まったことがある。アビドス自治区との提携である。

 

 

 ホシノはヒナから受けていた話を持ち帰り、対策委員会全員で話し合った。といっても、相手が自分達の窮地に総力をあげて助けに来てくれたミレニアムだったこと。そのミレニアムの上層部と彼女たちも友人であったりで繋がりがあったこと。そして提案された内容がアビドスに対してメリットが大きく、明確に自治区復興に対して進める手段だと判断して全員が賛成した。

 

 アビドスと提携したことよる、それに関係しての業務に現地調査に報告書。アビドス対策委員会との打ち合わせや正式な上層部同士、つまりリオとホシノによる話し合いの場などとにかくやることは山ほどある。

 

 それに、つい先日エンジニア部の部長にして、ミレニアムの研究開発施設のトップの一人でもあるウタハから連絡が来たのだ。

 

 

 ――『ご要望の品と、新装備配備計画がもうすぐ完成する』と。

 

 

 忙しさは今日は特に拍車をかけており、またヒナとしては個人的に確認したいこともあってせわしなく動いていた。

 

 

 それは、先日から治安維持局の嘱託生徒となったRABBIT小隊の面々の様子見である。

 

 

 既に四人の内2人の様子見は終えてきた。機動課(スレイド)。そこに配属されているミヤコとサキについては様子を見てきたのだが中々に混沌としていた出来事もあってヒナとしては少し頭痛がしていた。

 

 

 『じゃあ次……こっち着てみようか……きっと二人共よく似合うよぉ……?』

 

 『そうそう、もっとこう……身を寄せ合う感じで……ああっ、いい!二人もと素材がいいからスーツタイプの制服が絵になる!』

 

 『ミヤコちゃんが先か……サキちゃんが先か……?汚い花火を上から見下ろすか、下から打ち上げられるのを見るのかくらい悩ましい……っ!』

 

『よせ!戦争になって騒いだらルーネちゃんに勘付かれ――』

 

『げんこつっす』

 

 『ぶべらっ』

 『あべしっ』

 『グワーッ!』

 『アイエエエ!?ルーネ=チャン!?ルーネ=チャンナンデ!? サヨナラー!』

 

 機動課は平常時のいつも通りの機動課だった。彼女たち局員の不幸を挙げるとすれば、想定より早くルーネに勘付かれたこと。嫌な予感がしてミヤコがルーネにメールしていたこと。そしてたまたまヒナが顔を出しに来たことだろう。それはもう彼女たちは絞られた。

 

 なお、機動課局員達の制服の採寸という言い訳は事実であり、その時に少し。ほんの少し理性が抑えられなくなっただけなのだ。機動課のガレージの隅っこでモモイに似たような生徒が撮影会されていたような気がするが気のせいだろう。モモイがあんなにノリノリで撮影会などするはずがないとヒナは自分に言い聞かせた。ルーネも目を逸らした。結局、その後ちゃんとルーネが制服のサイズ寸法をしていた。

 

 

 さて、そんな混沌とした。といっても治安維持局にとっては日常風景の後、次に整備課(ロジ)である。

 

 そう書かれた標識を見つけた時点で、ヒナはほんの少しだけ気を引き締めた。

 

 機動課ではまあ、いつもの機動課だった。ミヤコとサキの制服採寸から始まったらしい一件が、どういうわけか撮影会へ発展し、さらにはルーネに早々に察知され、最終的にはガレージの一角に不穏な悲鳴が響き渡るという、実に治安維持局らしい騒ぎになっていた。ルーネに締め上げられた局員達も一応は反省しているらしい。

 

 だから、整備課ではもう少し普通の光景を見たい。

 そう思っていた。

 

 

 ――少なくとも、扉を開くまでは。

 

 

「……だからこそ、私は思うんだ。爆発という現象は、単純な破壊ではなくてね。すなわち爆発とは意思を持つ現象であり爆発を起こした本人の意思の代弁者でもあると思うんだ」

 

「うんうん!」

 

「そこにある構造を理解して、力の流れを読み、その結果としてどう崩れるのかを予測する。あれほど純粋に工学と物理の知識を要求される現象も、そう多くない。爆薬の種類を強力にしたり量を増やせば確かに規模は大きくなる。だがそれでは三流以下だ、いかにスマートにいかに美しく、そしていかに目的のものだけを破壊するのか。これは私にとっての破壊の美学と言ってもいい」

 

「すごい……今私悟りを開いて新境地に居るみたいだよ整備長!」

 

「おお……爆発の芸術性をわかってくれるかねモエ君!?ふふふ……君はとても逸材だ、嘱託としてうちにきてくれたことにとても嬉しく思うよ……爆発を愛する同士としてもね……!」

 

 

 ヒナの足が止まった。

 同時、自分でも顔がひきつったのがわかった。

 

 

「……また?」

 

 

 もう一度、標識を見る。

 整備課。間違いない。

 

 そのまま少しだけ疲れたようにして顔を出すと、そこには作業台を挟んで向かい合う二人の姿があった。

 

 一人は、整備課に所属する人間。それも、一人だけ色違いの作業服に首に下げられたゴーグル、腰にはツールベルトと工具箱。治安維持局の各課には、ルーネのようにそれぞれ部隊長に相当する生徒がいるのだが、彼女はこの整備課の部隊長に相当する存在。整備長だった。

 

 そして、そんな整備長と話すもう一人は。

 

「……モエ」

 

「お、ヒナ局長」

 

 こちらへ振り返ったモエの顔は、とても楽しそうだった。

 

「ちょうどいいところに来たね!」

 

「私はタイミングを間違えたと思ってる……」

 

 ヒナの視線が、その向かいにいる整備長へ向く。工具を片手にしながら、妙に嬉しそうな顔をしている。どこか技術者として危うい方向へ情熱を突き詰めてしまったような、しかし理屈そのものは驚くほど冷静な人物だった。

 

 治安維持局には変わり者や変わった経歴を持つ生徒が多い、ヒナやセンナ、ルーネもそのその例に漏れないのだがこの整備長もまたその一人だった。彼女は元はワイルドハント芸術学院の生徒なのだ。そして元、連邦生徒会がキヴォトス内部でも特に要注意として指定される『ブラックリスト』に登録されていた生徒でもある。

 

 暴力的で問題を起こし続けている生徒、というわけではないのだが彼女がブラックリストに載ったのには理由がある。とにかく動いたときの相手側に対しての損害が尋常ではない。しかも、基本的には手を出されない限りは手を出してこないし自ら仕掛けることもない。ただ、彼女の噂や知名度に怖いもの知らずで手を出した生徒は当時、もれなく全員が『爆破』に関わる出来事で心をへし折られかつ病院送り。『破壊芸術者』(アーティスト)、それが昔言われていた渾名である。

 

 ……余談だが。彼女の友人である、自称『慈愛の怪盗』の生徒が整備長に関わるトラブルが起こる度に虚ろな目をし、頭を抱えるほどには起こるトラブルというのは規模が大きく、何より最早芸術的と言っていいほどのスマートさだった。なお、当時事後処理や対応をしていたのはワイルドハントの学生、それも寮監隊としての身分の彼女である。

 

 

 そしてそんな整備長の過去を知るものは少ない。噂では、学園と評議会長との間に何かあって、ワイルドハントで発生した学園の敷地内の大規模な地盤沈下に関わっているとも言われているが詳細は不明である。

 

 

 

「局長、お疲れ様です」

 

「お疲れ様。……一つ聞くけれど」

 

「はい」

 

「仕事中よね?」

 

「もちろんです」

 

「じゃあ、何の話をしているの?」

 

「芸術と爆発についてです」

 

「…………」

 

 ヒナは目を閉じた。

 嫌な予感がしたのは正しかったらしい。

 

「別にサボっているわけではありませんよ。モエさんが現場で使用する装備について整備上の注意点を聞いてきたので、そこから少し話が発展しただけで」

 

「そうそう。聞いてみたら、整備長すっごく面白いんだよ」

 

「モエ」

 

「なに?」

 

「あなたは本当に、ここで何を学んでいるの?」

 

「整備!」

 

 即答だった。

 それはそれで安心できるので、ヒナとしても強く言えない。

 

 机の上を見る。分解された機器は綺麗に整理され、それぞれの部品には番号が振られていた。点検記録もきちんとまとめられている。作業そのものに関しては、むしろ感心するほどだった。

 

「ちゃんと仕事はしているようね」

 

「だから言ってるじゃん」

 

 モエが得意げに笑う。

 

「私、やる時はやるから」

 

「普段からやりなさい」

 

「ひどい!」

 

 その横で局員が苦笑した。

 

「モエさんは実際かなり優秀ですよ。機械の構造を覚えるのが早い。それに、実際に使う側の視点から整備を見ることができる」

 

「……それは確かに、整備課向きね」

 

 ヒナがそう言うと、モエは少しだけ嬉しそうな顔をした。

 

「でしょう?」

 

「でしょうね」

 

「SRTにいた頃も武器や機械は弄ってたけど、ここは扱うものが違うから面白いんだよ。車両もそうだし、災害対応用の機械もあるし、治安維持局って思ってたよりいっぱい機械使ってるんだね」

 

「事件だけが仕事ではないからね。災害対応もあれば事故現場の復旧もある。瓦礫の除去、通信の確保、電力の仮復旧、現地調査。人間だけで全部やるのは効率が悪いので、機械に任せられるところは任せる」

 

「そこがミレニアムらしいよねぇ」

 

 モエは楽しそうに端末を見た。

 

「SRTは人が何でもできるようにする感じだったけど、ミレニアムは人間がやらなくていいことを機械にさせる感じが強い」

 

「だから、両方の考え方を知っているあなたは貴重なんだ。技術と人材、その両方が技術者畑では今の時代に最も求められているものであり、君はそれに該当している」

 

 ヒナは、僅かに目を細めた。

 そういう評価を受ける場所なら、悪くない。

 

 RABBIT小隊の四人は、それぞれ違った形で非常に高い適性を持っている。ミヤコやサキが機動課で現場を学び、モエが整備課で機械と補給を学び、ミユが狙撃課でその能力を磨く。

 

 それぞれが、自分適性に応じた場所を見つけ始めている。

 それだけは、ヒナにとって素直に嬉しいことだった。

 

「それで?」

 

 ヒナが改めて尋ねる。

 

「爆発の何がそんなに素晴らしいの?」

 

 整備長の目が輝いた。

 

「聞きますか?」

 

「……やっぱり聞かなければよかった」

 

 モエが笑いながら横から口を挟む。

 

「爆発ってね、ちゃんと考えて使うとすっごく綺麗なんだよ」

 

「綺麗……?」

 

「うん。大きければいいわけじゃない。何を壊すのか、何を残すのか。どこまで力を通すのか。それを考えて、一瞬で結果を出す。あれは気持ちいい」

 

「ハッハッハッ!そう!その通り!わかってきたねモエ君!」

 

 整備長も頷いた。

 

「爆発とは、制御されたエネルギーです。雑に扱えばただの破壊ですが、目的に合わせて使えば非常に合理的な手段になる。構造物の撤去も、危険物の処理も、災害現場での障害物除去も、全て同じ発想で考えられる」

 

「なるほど!」

 

「モエ、あなた整備長と相性良すぎない?」

 

「そうかな?」

 

「そうよ」

 

 ヒナは頭を抱えた。

 

 そして、ふと。

 

「……釘を刺しておくけれど」

 

 二人へ顔を向ける。

 

「爆発物を勝手に作ったり、改造したりはしないように」

 

「分かってるって」

 

「本当に?」

 

「本当に」

 

 モエは笑っている。

 その横で整備長も頷いた。

 

「安全規定は遵守しています」

 

「それならいいわ」

 

 ヒナはようやく手を下ろした。

 

「仕事そのものはちゃんとしているみたいだし」

 

「もちろん」

 

「なら、これからも続けなさい」

 

「了解!」

 

 モエが元気よく敬礼する。

 その姿を見て、ヒナは小さく笑った。

 

 整備課を出る。

 背中から、また声が聞こえる。

 

「引き続きになるけれど、爆発というものは――」

 

「うんうん!」

 

 ヒナは振り返らなかった。

 

「……本当に仲がいいのね、あの二人」

 

 呆れながらも、どこか楽しそうな声音になっていた。

 そして最後に残った場所へ向かう。

 

 狙撃課(スナイプ)。

 

 

     ◆     ◆     ◆

 

 

 狙撃課は、やはり静かだった。

 

 扉を開けても、整備課のような騒がしさはない。必要な会話だけが小さく交わされ、端末の操作音と空調の低い駆動音だけが聞こえている。狙撃手が集中する空間らしい、張り詰めた静けさだった。

 

 ヒナはそのまま奥へと進んだ。

 そして。

 

「……あら」

 

 思わず声が小さくなる。

 ソファが二つ並べられていた。

 

 その片方には、狙撃課の部隊長。

 

 黒く長い髪を肩から流し、赤い瞳を静かに本へ落としている。そこにいるだけで周囲の空気が自然と落ち着くような、穏やかな雰囲気を持つ少女の名は『東郷レイン』。狙撃課の部隊長にして、"ミ(・)レ(・)ニ(・)ア(・)ム(・)の(・)特(・)殊(・)状(・)況(・)下(・)に(・)お(・)け(・)る(・)特(・)記(・)戦(・)力(・)の(・)一(・)人(・)"である。

 

 そしてもう一人。

 

「……ミユ」

 

 そのレインの隣でミユが眠っていた。

 正確には、レインの肩へ身体を預けるようにして眠っている。

 

 普段のミユなら、少しでも人前で眠ってしまったと気付けば大慌てするだろう。しかし今は、そんな気配が全くない。

 

 よほど安心しているのだろう。小さく身体を丸めながら、レインの肩へ頬を預け、その長い髪が二人の間へ静かに流れている。レインはそんなミユを起こそうともしない。ただ片手で本を支え、もう片方の手は自然な位置に置いていた。まるで最初からそこにいることが当然であるかのようだった。

 

 ヒナは一瞬、声を掛けるのを忘れた。

 

 なんとなく。

 本当になんとなく。

 その二人を見てこう思った。

 

 

 ――まるで姉妹みたい。

 

 

 顔立ちも似ている。

 長い黒髪も。

 赤い瞳も。

 

 ただ、レインには長く現場に立ってきた者だけが持つ落ち着きがあり、ミユにはまだ少女らしい危うさがある。それが妙にしっくりくるというか、むしろ姉妹感を醸し出している。

 

 ふと、レインが視線を少しだけ上げた。

 

 

「……ヒナ?」

 

 レインがこちらに気付いた。

 

 

「タイミングが悪かったかもしれないわ。……お邪魔してもいい?」

 

「……構わないわ。ただ、この子は寝かせておいてあげてくれると嬉しい」

 

 ミユはまだ眠っている。

 ヒナは声を抑えたまま、レインの向かいにある椅子へ腰を下ろした。




■整備課整備長
 整備課(ロジ)の部隊長にあたる人物であり3年生。車両整備から武器整備、整備に関わることなら何でも来いというプロ。爆発をこよなく愛しており、特に計算され尽くした爆発による対象の破壊に快楽を覚えるこの世界線のミレニアムらしい変態。ヨ○ムンガンドのワ○リみたいな爆弾狂。

 以前の所属はワイルドハントだったらしいが、学校上層部と評議会と何かあったらしく学園を去った。ミリアとは友人で今でも連絡を取り合っているらしい。

■狙撃課部隊長
 名前は『東郷レイン』。準ネームドでセンナやルーネと違い本編本筋にはあまり出てこないが、RABBIT小隊関係・セミナー関係には出てくる。ミユをそのまま大人にしたような容姿で、平時は無表情のお姉さん。ミユでも見つけることが困難な才能だけではなく努力と技術で行われる隠密に超遠距離狙撃技術の持ち主であり、携帯武器の扱いにも長ける。他人や信用していない相手に後ろに立たれることを嫌う。

 ミユを見た時はあまりに似ていて普段無表情を崩すことは滅多に無いそれを崩して驚いており、狙撃課の訓練や活動を通してもその才能には目を見張るものがあると評価した。何か縁めいたものを感じたのか、ミユのことはとても可愛がっていると同時に嘱託でも自分の後継者として育てられないか、それだけの素質はあるなどと思っている。

 モチーフというか元ネタは名字からあの狙撃手。

 黒髪赤目なのでそのうちレインリオミユでミレニアム三姉妹とか言われる。頭脳担当のリオ、現場担当のレイン、かわいい担当で成長中のミユ。

■狙撃課局員
 他の課に比べると冷静で常識人が多い。冷静に確実に、そして静かにスマートに仕事をするのが課としての流儀のようなもので、慎重さと確実性と合理性を重視する。

 ……だが彼女たちもミレニアムの生徒であり治安維持局の生徒である。ミユは狙撃課ではかわいがられており、特に東郷と一緒にいる姿は絵になることから、遠くからスコープや双眼鏡で二人を見ては静かにサムズアップしていたり、

『レイン隊長とミユちゃんいいよね……』
『いい……わかる……』

『普段無表情の隊長がミユちゃんに優しく微笑んでいるのいい……すごくいい……』
『わかる……写真は外に漏らすな。狙撃課だけで独占するのだ……』


などと、俗に言う後方で静かに腕組みをして推しを見守るムーブをしていたりする。

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