文字数が総合して結構なことになってたんですが、3話分割どうかなあと思って二話にしました。討論会らしく会話の文字と地の文字が多めなので文字数かなり多い。過去最多の文字数。文字数削りきれなかった作者とイマジナリー強欲ハム太郎を許してくれ……。
「ミレニアムは、SRTの生徒を取り込んだそうですね?」
討論会の会場に、その質問が投げかけられた。
壇上の大型スクリーンには、連邦生徒会の紋章とミレニアムサイエンススクールの校章が並んで表示されている。会場には両自治区の関係者だけでなく、報道関係者、そして今回の討論会を中継するクロノスの記者の生徒たちが集まっていた。
表向きの目的は、ミレニアムの急速な発展と、それに伴って拡大する治安維持局の活動について、連邦生徒会とミレニアムが相互理解を深めること。
しかし、討論会が始まる前から、その説明を額面どおりに受け取っている者は少なかった。
連邦生徒会が気にしているのは、ミレニアムの発展そのものだけではない。自治権を持つ自治区が、独自の制度と組織を通じて住民の生活を支えられるようになればなるほど、連邦生徒会の判断や指示が絶対的なものではなくなっていく。
まして、その組織の頂点にいるのが、曖昧な説明や根拠のない要求を一切受け入れず、制度と数字を武器に相手の論理を徹底的に検証するリオなのだから。
連邦生徒会としては、ここで一度ミレニアムの急速な成長に歯止めをかけておきたかった。そして、そのために用意された質問のひとつがSRTに関するものだった。
連邦生徒会側の席に座る生徒は、リオの反応を窺うように彼女を見つめていた。
だが、リオはすぐには答えなかった。
彼女は、目の前の質問者を静かに見返している。
「……取り込んだ?」
繰り返した声は、平坦だった。
「そうです。SRT特殊学園の閉鎖によって所属先を失った生徒たちを、ミレニアムの治安維持局が嘱託生徒として受け入れた。これは、連邦生徒会が管轄していた特殊部隊の人材を、ミレニアムが自分たちの戦力として囲い込んだということではありませんか」
質問者は、一度言葉を区切った。質問という形式を取りながらも、発言の端々にはミレニアムへの非難が含まれていた。
「SRTは連邦生徒会の管轄下にあった組織です。その生徒たちを、自治区の判断だけで別の組織に編入させる。連邦生徒会の管理下にあった人材を、ミレニアムが実質的に自分たちの戦力に転用している。そう見られても仕方がないのではありませんか?」
会場の視線が、リオに集まった。リオの隣には、同席するトキの姿がある。さらに後方には、治安維持局の機動課に所属する三名の精鋭が控えていた。彼女たちは、リオの側に控えながらも表情を変えなかった。
トキはリオを見ている。彼女の表情からは感情を読み取りにくいが、いつでも必要な対応に移れるよう、周囲の様子を注意深く観察していた。
一方、リオは手元の資料に目を落とした。
そこには、嘱託生徒の受け入れに際して確認した事項と、契約内容、業務上の権限、責任の所在などが記載されている。もちろん、個人情報や作戦上の機密に触れる内容は開示されていない。
必要な手続きはすべて確認済みだった。彼女たちを受け入れることによって、ミレニアムの規則に違反するような行為も行っていない。それは、リオ自身が何度も確認したことだった。
「まず、事実関係を訂正するわ」
彼女は顔を上げた。
「彼女たちは、ミレニアムの生徒として編入したわけではない。治安維持局の嘱託生徒として、自治区内の制度に基づいて契約を結んだの。本人たちの意思を確認し、必要な手続きを踏んだうえで、受け入れを決定している」
「ですが、実質的にはミレニアムの戦力として運用するのでしょう?」
「契約を結んだ以上、業務を依頼することはあるわ。当然でしょう」
リオは淡々と答えた。
「ただし、契約に基づいて働いてもらうことと、他組織の人材を不当に取り込むことは同じではない。彼女たちには契約内容が説明され、本人の意思によって契約するかどうかを選べる機会が与えられた。業務の範囲と責任も定められている。少なくとも、あなたが今述べたような一方的な囲い込みとは違うわね」
「しかし、彼女たちはもともと連邦生徒会の管轄にあったSRTの生徒です」
「SRTが連邦生徒会の管轄下にあったことと、SRTに所属していた生徒の今後の進路まで連邦生徒会が無期限に独占できることは、別の問題でしょう?」
質問者が口を閉じた。
リオはそこで止めなかった。
「確認するけれど、あなたはSRTに所属していた生徒たちがSRTの閉鎖後も連邦生徒会の許可がなければ他の組織で活動できない、と主張しているのかしら?」
「いえ、そこまでは……」
「なら、どこまでを問題にしているの?」
「組織の性質が特殊である以上、相応の管理が必要だということです。彼女たちは高度な戦闘訓練を受けている。そうした生徒たちが、連邦生徒会の監督から離れ、ミレニアムの治安維持局に所属することは、キヴォトス全体の安全保障にも影響する可能性があります」
「可能性、ね」
リオは小さく頷いた。
「では、具体的にどのような影響が生じると考えているのか、説明してもらえる?」
「それは、今後の運用次第で……」
「運用次第ということは、現時点では問題が発生していないということ?」
「まだ問題が起きていないからといって、安全だと断言することはできません」
「そのとおりね。だからこそ、組織を運用する際には規則を整備し、責任の所在を明確にし、必要な監督を行う。ミレニアムも、そのための制度を整えているわ」
リオは資料を一枚めくった。
「ところで、あなたたちは、今回の受け入れに関する資料をどこまで確認したのかしら?」
「必要な情報は確認しています」
「では、嘱託生徒としての契約内容、業務の範囲、指揮命令系統、責任の所在についても?」
「……確認しています」
「それなら、あなたが問題としている点は、具体的にどこなの?」
質問者は言葉に詰まった。会場の一角から、かすかなざわめきが起きる。リオは、単に相手の発言を否定しているのではなかった。相手が提示した問題をひとつずつ切り分け、それぞれの問題に対して根拠を求めている。
懸念があること自体は否定しない。しかし、懸念が存在することと、その懸念を理由に他自治区の判断を制限できることは、同義ではない。その違いを、リオは一切曖昧にしなかった。
「ミレニアムの治安維持局は、自治区内の事件や事故への対応、被害者の支援、施設の復旧、再発防止などを目的として活動している。活動に必要な人材を確保することも、その責任の一部よ。嘱託生徒の受け入れは、その目的に沿ったもの。契約の内容に問題があるというのなら、具体的な条項を示してちょうだい」
「ですが、連邦生徒会の権限を軽視しているように見えるという意見もあります」
「誰の意見?」
「……連邦生徒会としての懸念です」
「それは、先ほどから何度も聞いているわ」
リオの声が、ほんのわずかに低くなった。
「私が聞いているのは、具体的にどの権限を、どのように軽視したのかということ。あなたたちは、懸念があることを繰り返し述べているだけで、規則への違反も、権限の侵害も、具体的には説明していない」
彼女は質問者をまっすぐに見つめた。
「問題を指摘するのなら、まず何が問題なのかを明確にしなさい。そうでなければ、それは議論ではなく、印象を利用した非難に過ぎないわ」
質問者の頬が引きつった。だが、ここで引き下がるわけにはいかなかったのだろう。彼女は手元の資料をめくり、新しい論点を持ち出した。
「……それでは、別の観点から質問します。SRTは本来、連邦生徒会が必要と判断した任務に対応するために設立された特殊学園です。高度な訓練を受けた生徒たちが、通常の学園では対応できない事態に備えるための組織だった。そうした生徒たちを、ミレニアムの自治組織が受け入れることには、政治的な意味もあるのではありませんか?」
「政治的な意味?」
「ミレニアムは近年、他自治区から生徒を受け入れ、治安維持局を拡張し、独自の体制を確立している。そこにSRTの生徒たちまで加われば、連邦生徒会の監督を受けない戦力が増えることになります。これは、ミレニアムが連邦生徒会からの独立性をさらに高めようとしている証拠ではありませんか?」
リオは数秒、沈黙した。
この質問が来ることは予想していた。連邦生徒会が本当に問題視しているのは、おそらくSRTの生徒たちの進路そのものではない。ミレニアムが、連邦生徒会に頼らなくても自治区の治安を維持できるようになりつつあること。それが、彼女たちには不都合なのだ。
「あなたたちは、自治と独立を混同しているようね」
リオは言った。
「自治区が自らの住民を守るための制度を整え、必要な組織を運用する。それは、自治区に認められた自治の一部よ。連邦生徒会との協力を拒絶することとも、キヴォトス全体の秩序を否定することとも違う」
「しかし、自治区が独自の戦力を増強すれば、連邦生徒会の統制が及ばなくなります」
「統制が及ばないことと、責任を果たしていないことは別でしょう」
「ミレニアムは、自治区内で発生した問題について責任を負う。自分たちの制度に不備があれば修正するし、運用に問題があれば改善する。他自治区との協力が必要なら、自治区間のルールに基づいて相手の自治権を尊重しながら協力する。それが私たちの方針よ」
「ですが、連邦生徒会としては、自治区間の均衡が崩れることを懸念せざるを得ません」
「では、その均衡というものを、あなたたちは何によって測っているの?」
「……何によって、ですか?」
「自治区ごとの予算? 保有する装備の数? 事件への対応能力? それとも、連邦生徒会が各自治区に対してどれだけ命令できるかということかしら」
質問者の表情が変わった。
「私は、どの自治区も自分たちの住民を守るための能力を持つべきだと考えているわ。もちろん、技術や予算、人材には差があるでしょう。だからこそ、必要な部分については自治区同士で協力すればいい。ミレニアムが治安維持体制を強化したことは、他の自治区が同じことをしてはいけない理由にはならない」
リオは静かに続けた。
「連邦生徒会が懸念すべきなのは、自治権が強くなることそのものではないはずよ。自治区の制度が住民の権利を侵害していないか。組織が適切に運用されているか。問題が起きた場合に責任を取る体制が整っているか。そうした点でしょう?」
「それは理想論です。実際には、強大な組織が生まれれば、それだけ大きな危険も生じる」
「ならば、その危険を具体的に示しなさい。まだ起きていない問題を理由に、実際に機能している制度を制限するというのなら、それに見合う根拠が必要よ」
質問者は、再び言葉を失った。討論会の中継映像を見ている生徒たちの中にも、ここまでのやり取りで気づき始めた者がいた。
連邦生徒会側は、ミレニアムの力が強まっていることを危険だと主張している。しかし、具体的に何が問題なのかを示すことができていない。それに対して、リオは一貫して、問題があるというなら、その内容と根拠を示すよう求め続けていた。
質問者が次の資料を取り出したとき、リオはふと、その資料の表紙に目を留めた。そこには、SRTの閉鎖に関する概要が記されていた。
「……次は、SRTについての質問かしら」
「はい」
質問者は、どこか安堵したような様子を見せた。
自治権や契約の合法性については、リオを崩すことができなかった。ならば、SRTの閉鎖そのものは適切な判断だったと説明し、ミレニアムが受け入れたことには問題があると主張する。
そうすれば、少なくとも討論の焦点をミレニアムの責任へ戻せると考えたのだろう。
「先ほどから説明しているとおり、SRTの生徒たちは特殊な訓練を受けています。連邦生徒会としては、閉鎖後の彼女たちの進路についても、一定の配慮を行ってきました。しかし、ミレニアムはその手続きに関与することなく、独自の判断で彼女たちを受け入れた」
「……配慮?」
リオの声が、そこで止まった。
質問者は気づかなかったのか、そのまま続ける。
「そうです。SRTの閉鎖は、組織の運営状況と今後の方針を踏まえたうえで決定されたものです。閉鎖後の生徒たちについても、各自が自らの進路を選択できるように――」
「ひとつ、聞いてもいいかしら」
リオが口を挟んだ。
質問者は一瞬、言葉を止めた。
「もちろんです」
「あなたたちは、SRTの生徒たちに対して具体的にどのような選択肢を用意したの?」
「それは……生徒たちの状況に応じて、必要な支援を検討し――」
「検討した結果、何を実施したのかと聞いているの」
リオの声は、まだ抑えられていた。
だが、これまでの質疑応答とは違う何かが、その声に滲み始めていた。
「所属先を失った生徒たちが、これまで積み重ねてきた努力をどうするのか。彼女たちが学んできた技術を、これからどこで活かすのか。仲間とともに活動することを望む生徒たちに、どんな選択肢を用意したのか。そうしたことを十分に検討したうえで、SRTの閉鎖を決定したの?」
「閉鎖は、組織の運営状況と今後の方針を踏まえて決定されたもので――」
「質問に答えていないわ」
短い言葉だった。
質問者の口が止まった。
リオは、静かに手元の資料を閉じた。
「組織の運営状況を検討したことは分かったわ。では、そこに所属していた生徒たちの将来は? 彼女たちがSRTに入るために積み重ねてきた努力は? 閉鎖によって生じる影響について、どこまで具体的な対応を検討したの?」
「我々としても、すべての生徒の要望に応えることは難しく……」
「すべての要望に応えろと言っているのではないわ」
リオは、質問者を見据えた。
「最低限、組織の閉鎖によって生徒たちにどのような影響が生じるのかを把握し、その影響を軽減するために何ができるのかを考えたのか、と聞いているの」
「それについては、必要な手続きを……」
「必要な手続きという言葉で、何をしたのかを隠さないでちょうだい」
会場のざわめきが、ぴたりと止んだ。リオは、机の上に置いた手を見下ろす。見れば、自分では気が付かなかったが指先が、わずかに震えている。
自覚する。自分は怒っていた。
最初から怒りを感じていなかったわけではない。ただ、ここまでは抑えていた。公開討論という場で感情を表に出すことが、どれほど不利になるかを理解していたからだ。
相手が何を主張しようとも、それが根拠に基づくものであるなら、まずは話を聞くつもりだった。連邦生徒会が懸念を抱くこと自体を、否定する気はなかった。
けれど。
けれど、彼女たちのことを、まるで物品や装備のように扱う発言だけは、聞き流すことができなかった。
「まさか、組織を閉鎖すれば、そこに所属していた生徒たちの問題も同時に消えると考えていたわけではないでしょうね」
リオの声が、会場に響いた。
質問者が息を呑む。
「あなたは今、彼女たちを受け入れたことについて、取り込んだ、囲い込んだと表現した。では、ひとつ聞かせてもらうわ。SRTが閉鎖されたあと、彼女たちはどこへ行けばよかったの?」
「それは、各生徒が自らの意思で……」
「自らの意思で?」
リオは、質問者の言葉を繰り返した。
「組織を閉鎖すると決めたのは誰? その判断によって彼女たちの所属先を失わせたのは誰? 今後の活動のために必要な環境を失わせたのは誰?」
質問者は答えなかった。
「あなたたちは、SRTの生徒たちが自分の意思で選択できるようにしたと言う。けれど、その選択肢を奪ったのは、ほかならぬあなたたちでしょう」
「それは、組織の継続が困難だと判断されたためであって、生徒たちを軽視したわけでは――」
「なら、説明してちょうだい」
リオの声が、少し大きくなった。
「どうして閉鎖以外の選択肢がなかったのか。組織の運営上の問題があったというのなら、どこに問題があり、それを解決するためにどのような措置を検討したのか。閉鎖を決定する前に、生徒たちの将来をどこまで考慮したのか」
「それは……」
「――答えなさい」
その声音に、質問者の肩がわずかに震えた。
リオは、もう資料を見ていなかった。
彼女の脳裏には、何人もの生徒の姿が浮かんでいた。
自分の判断を疑わず、仲間を守るために先頭へ立つ少女。規律を重んじ、どんな状況でも任務を遂行しようとする少女。危険な状況でも軽口を叩きながら、仲間のために手を動かす少女。そして、自分の存在に意味があるのか分からなくなりながらも、仲間とのつながりを手放せずにいた少女。
月雪ミヤコ。空井サキ。風倉モエ。霞沢ミユ。
『RABBIT小隊』。彼女たちは、単に特殊な技能を持つ生徒たちではない。それぞれに考えがあり、悩みがあり、夢があり、守りたいものがある。SRTで学び、訓練を受け、仲間とともに過ごしてきた時間は、彼女たちにとって人生の一部だった。
SRTに入ることを志し、そのために努力し、厳しい環境の中で自分たちの能力を磨いてきた。
あの子たちは、ただ強くなりたかっただけではない。強くなって、誰かを守りたかったのだ。誰かが困っているときに駆けつけられる人間になりたかった。自分たちの力で、手の届く範囲にある日常を守れるようになりたかった。
だからこそ、SRTを志した。
だからこそ、何度も訓練を繰り返した。
そして、所属先を失ったあとも、彼女たちはSRTで培ったものを捨てずにいようとした。
そんな彼女たちの前に、連邦生徒会が提示したものは何だったのか。
閉鎖という決定。
失われた所属先。
それまでの努力を、これからどこへ向ければいいのか分からない不安。
リオは、そのすべてを知っているわけではない。彼女たちがどんな夜を過ごし、どんな言葉を飲み込み、どんな思いで新たな道を選んだのか、そのすべてを知っているとは言えない。
それでも、少なくとも、あの子たちの努力が無意味だったとは思わなかった。
SRTを志したことが間違いだったなどと、言わせたくなかった。
あの子たちが守ろうとしてきたものを、ただの組織の都合で切り捨てられることが、どうしても許せなかった。
「――先にあの子達とSRTを捨てたのは、あなた達連邦生徒会よ」
その言葉が、会場の隅々まで届いた。
質問者が、目を見開いた。
リオは静かに息を吸い、椅子に座ったまま背筋を伸ばした。相手をまっすぐに見据えるその瞳には、これまでの質疑応答では見られなかった強い感情が宿っている。
「SRTを閉鎖したのは、ミレニアムではない。彼女たちの居場所を奪ったのも、ミレニアムではない。あなたたちが組織の閉鎖を決め、その後に残された生徒たちのことを十分に考えなかった。その結果として、彼女たちは自分たちの進む道を失ったのよ」
「我々は、必要な判断をしたまでです!」
質問者の声に、焦りが混じった。
「SRTの運営状況や、組織の在り方については、さまざまな問題が指摘されていました。そのまま継続することが適切でないと判断された以上、閉鎖はやむを得ない措置だったのです」
「本当に必要だったの?」
リオは即座に問い返した。
「閉鎖以外の選択肢は、本当に存在しなかったの? 組織の構造を見直すことは? 運営方法を改善することは? 監督体制を変更することは? 生徒たちが培ってきた技能や経験を引き継ぐ仕組みを作ることは? そうした選択肢を、すべて比較したうえで、閉鎖が最善だと判断したの?」
「それは、当時の状況を踏まえて――」
「その状況を説明しなさい!」
リオの声が、遂に明確に強まった。
会場の空気が張り詰める。リオ自身、自分の声が大きくなっていることには気づいていた。だが、一度溢れ出した怒りは、容易には収まらなかった。
「問題があったのなら、その問題を解決するために何をしたの? 組織を維持するために、どのような改善案を検討したの? 生徒たちに対して、どんな説明をしたの? 閉鎖によって生じる影響を、どこまで具体的に把握していたの?」
「それについては、内部の事情もあり、ここですべてを説明することはできません」
「便利な言葉ね」
リオは笑わなかった。
「内部の事情。必要な判断。組織の運営状況。あなたたちは、そうした言葉を並べるだけで、彼女たちに何が起きたのかという問いから逃げるつもりなの?」
「逃げているわけではありません!」
「ならば、答えなさい!」
声が、さらに大きくなった。
「SRTの生徒たちは、何のためにそこにいたの? あなたたちは、彼女たちが何を望み、何を目指し、何を守ろうとしていたのか、本当に理解していたの?」
質問者は、返答を探すように視線をさまよわせた。
だが、リオは止まらなかった。
「彼女たちは、ただ名前のある組織に所属したかったわけではない。厳しい訓練を受けて、自分たちの能力を磨いて、誰かを守れる生徒になろうとしていた。そのために時間を使い、自分を鍛え、仲間と信頼関係を築いてきたのよ」
リオは、指先を握り締めた。
「自分たちの力で誰かを助けられるようになりたい。危険な状況にある人を救えるようになりたい。誰かが困っているとき、自分たちが駆けつけることで、その人の明日を守りたい。そう願って努力してきた生徒たちがいたのよ」
彼女は質問者から目を逸らさなかった。
「それを、あなたたちは何だと思っているの?」
「……我々は、SRTの生徒たちの努力を否定しているわけではありません」
「なら、なぜ彼女たちの努力が続けられるようにしなかったの?」
「組織の継続と、個人の努力は別の問題です」
その一言に、リオの表情が変わった。
わずかにあった。残っていた温度が、すっと消える。
「……別の問題?」
彼女は静かに繰り返した。
「組織の継続と、個人の努力は別の問題だから、組織を閉鎖しても問題はない。そういうことかしら」
「そういう意味ではありません。個々の生徒の努力を評価することと、組織としての存続を判断することは、分けて考える必要があるということです」
「ええ。確かに、組織の存続と個人の努力は、同じ問題ではないわ」
リオは頷いた。
「だからこそ、組織を閉鎖するのなら、その影響を受ける生徒たちに対して、個別の対応を考える必要があった。違うかしら?」
質問者は黙り込んだ。
「組織の存続を断念することと、そこに所属していた生徒たちの将来を考えなくていいということは、まったく別の話よ。あなたたちは、組織の閉鎖という判断を下した。その判断によって、彼女たちが何を失うのか、どのような支援が必要なのか。そこまで考える責任があったはずでしょう」
「我々としても、可能な範囲で……」
「可能な範囲で、何をしたの?」
リオは一歩も退かなかった。
「彼女たちがSRTで学んだことを、これからも活かせるようにしたの? 訓練を続けられる場所を紹介したの? 同じ志を持つ仲間とともに活動を続けたいという希望を、真剣に受け止めたの? 彼女たちが組織の閉鎖によって失ったものを、少しでも埋めるために何をしたの?」
その問いに、明確な回答はなかった。
リオは、息を吐いた。
「……そう」
彼女の声が、かすかに震えた。
「何も答えられないのね」
「リオ会長、それは誤解です。私たちも、連邦生徒会として必要な措置を講じて――」
「――SRTが怖くなったのでしょう?」
リオが言った。
会場から、音が消えた。
質問者は凍りついたように彼女を見つめている。連邦生徒会側の席に座っていた生徒たちも、思わず顔を上げた。それは、これまでの質疑応答でリオが口にした言葉の中でも、最も直接的な非難だった。
「……何を、おっしゃっているのですか」
「そのままの意味よ」
リオの声には、もう隠しきれない怒りがあった。
「優秀な生徒たちが集まり、独自の訓練を受け、強い目的意識を持って活動していた。あなたたちは、そうした組織を自分たちの思うように制御できないと感じた。だから、問題に向き合って解決するのではなく、組織そのものを閉鎖することにしたのではないの?」
「違います! 我々はキヴォトス全体の秩序を考えて――」
「なら、なぜその秩序の中に、SRTの生徒たちがいられなかったの?」
リオの声が、会場の壁に反響した。
「あなたたちの言う秩序とは、いったい何なの? 連邦生徒会の判断に従っている間だけ認められるもの? あなたたちが管理できる組織だけが、存在を許されるということ?」
「そのようなことは言っていません!」
「では、行動で示しなさい!」
リオは机に手をついた。
乾いた音が会場に響く。
これまで、彼女は可能な限り冷静に応じていた。質問者がどれほど曖昧な表現を用いても、どれほど強引に論点をずらそうとしても、リオはそのたびに論点を整理し、根拠を求め、相手の主張の不備を指摘してきた。
しかし、今の彼女は違った。
冷静さを保とうとする理性が、怒りに押し流され始めていた。
「彼女たちがどんな思いでSRTを志し、どれほどの努力を重ねてきたのか、少しでも考えたことがあるの?」
リオは、ゆっくりと言葉を重ねる。
「ずっと訓練を重ねてきた生徒がいる。自分の弱さと向き合い、仲間と競い合い、失敗を繰り返しながら、少しずつ技術を身につけてきた生徒がいる。いつか自分の力で誰かを救えるようになりたいと願い、そのために毎日努力してきた生徒がいる」
彼女の声は、さらに大きくなる。
「その子たちにとって、SRTはただの所属先ではなかったはずよ。自分たちが何者なのかを示す場所であり、目指すものを共有する仲間がいて、自分の努力を未来につなげられる場所だったはずでしょう!」
会場の誰もが、言葉を発することができなかった。
「それを、あなたたちは閉鎖した」
リオは、はっきりと言った。
「連邦生徒会長の失踪後、あなたたちが何を考え、何を優先し、どんな判断を下したのか。私は、そのすべてを知っているわけではない。あなたたちにしか分からない事情があったのかもしれない。組織の運営に問題があったのかもしれない。それについて、私は最初から何もかも否定するつもりはなかった」
息を吸う音が、マイクに拾われた。
「でも、組織に問題があったのなら、その問題をどう解決するか考えるべきだった。閉鎖するしかなかったというのなら、閉鎖したあとに生徒たちがどうなるのか、真剣に考えるべきだった」
リオの両手は、机の上で強く握り締められていた。
「それをせずに、彼女たちの居場所を奪った。そして今度は、受け入れた私たちに対して、取り込んだ、囲い込んだと非難する!」
彼女は、質問者を睨みつけた。
「あなたたちは、自分たちが何をしたのか、少しでも理解しているの?」
返答はない。
リオの声は、もう完全には抑えられなくなっていた。
「――あなたたちはSRTの、彼女たちの矜持を踏みにじった」
その言葉に、会場の空気が震えた。
「夢を、努力を、道標を踏みにじった!」
質問者が何か言おうとした。
しかし、リオは止まらなかった。
「彼女たちがSRTを志したこと。厳しい訓練に耐え、仲間と切磋琢磨しながら、いつか誰かを守れるようになるために積み重ねてきた時間。それらは、あの子たちにとって、ただの過去ではなかったはずよ。これから先の自分たちを支えるものだったはずよ!」
リオの言葉が、会場全体に響き渡る。
「それを、あなたたちは組織の閉鎖という一言で終わらせた。あの子たちが何を積み重ねてきたのか、これから何を目指していくのか、十分に考えもしないまま、彼女たちの道を断ち切った」
彼女は、強く息を吸った。
「そして、所属先を失った彼女たちが、仲間と一緒にいられる場所を必死に探していたとき、今度はその受け入れ先に対して、取り込んだなどと言うのね」
リオの瞳が鋭く細められた。
「――ふざけないで」
その声は、もう静かなものではなかった。
押し込めていた感情が、とうとう堰を切って溢れ出した声だった。
「あなたたちが彼女たちに何をしたのか、少しでも理解しているの? 彼女たちが失ったものを、誰が埋めるの?」
リオは、机の上に置かれた手を強く握った。
「あなたたちが決定を下せば、それで終わりなの? 組織を閉鎖して、そこに所属していた生徒たちがどんな思いをしているのかを考えず、彼女たちが自分の道を見失っても、それは個人の問題だと言って済ませるの?」
声が震えていた。
それは、恐怖や迷いから生じた震えではない。怒りを抑えようとする力そのものが、限界に達しつつあることを示す震えだった。
「あなたたちは、SRTの生徒たちに何を与えたの? 何を残したの? 閉鎖を告げたあと、彼女たちがどこで訓練を続け、誰と協力し、何を目指していけばいいのか。そのための道を、どれだけ用意したの?」
答えはない。
「答えなさい!」
リオの声が、とうとう怒号に近いものになった。
「彼女たちは、あなたたちの都合で生きているわけではないのよ。あなたたちが管理しやすいかどうか、都合がいいかどうか。それだけで、彼女たちの生き方や未来を決めていいはずがないでしょう!」
会場の一角で、誰かが息を呑んだ。連邦生徒会側の生徒たちは、もはや誰も口を挟もうとしなかった。
リオは肩で息をしていた。ここまで言うつもりではなかった。
公開討論の場で、感情に任せて声を荒らげることがどれほど危険か、彼女自身が誰よりも理解している。相手に言葉尻を取られる可能性もある。中継を見ている生徒たちに、自分が感情に流される人間だと思われるかもしれない。
それでも、黙っていることはできなかった。
目の前の生徒たちは、今なおSRTの件を、自分たちが他組織の人材を囲い込んだかどうかという問題にすり替えようとしていた。
彼女たちの努力を。
彼女たちの未来を。
彼女たちが失った居場所を。
そして、新たな居場所を得るためにどれほどの決断が必要だったのかを。
まるで何もなかったかのように扱っていた。
「……リオ会長」
背後から、トキの声がした。
それは、彼女を制止するための呼びかけだった。同時に、これ以上、自分自身を傷つけるほどの言葉を重ねないようにするための、静かな気遣いでもあった。
リオは一瞬だけ目を閉じた。そうだ。ここは公開討論会だ。自分の言葉は中継されている。感情的になれば、相手に揚げ足を取られる可能性もある。
分かっている。
分かっているのに、抑えられなかった。
SRTの生徒たちを取り込んだという言葉が、あまりにも許せなかった。彼女たちが何を失い、何を求め、どれほどの思いで新しい居場所を受け入れたのか。それを知らないまま、都合のいい言葉で批判することが。
何より、あの子たちが再び、自分たちの存在を否定されたと感じるかもしれないことが、許せなかった。
リオは、ゆっくりと目を開けた。
「……ミレニアムが彼女たちを受け入れたのは、彼女たちの能力を利用するためだけではないわ」
声はまだ荒れていたものの、彼女は言葉を続けた。
「あの子たちが、自分たちの努力を無駄だったと思わずに済むように。仲間とともに歩んできた道を、ここから先も続けられるように。自分たちが誰かを守りたいと願ったことには意味があったのだと、そう思えるようにするためでもあるのよ」
リオは、まっすぐ前を見た。
「治安維持局にとって、彼女たちの能力が大きな力になることは否定しない。彼女たちがこれまでに培ってきた技術や経験は、実際の業務に活かせるものよ。ミレニアムにとっても、彼女たちにとっても、それは有益なことだわ」
彼女は、質問者に向き直る。
「でも、それがすべてではない。私たちは、彼女たちをただの戦力として見ているわけではないの。彼女たち自身が何を望んでいるのかを聞き、本人たちの意思を尊重し、これから先も自分の人生を選べるようにする。そのために、できることをしただけよ」
リオの声からは、怒りが消えていなかった。
しかし、それはただ感情をぶつけるだけの怒りではなくなっていた。
「彼女たちは、自分たちで選んでここにいる。誰かに連れてこられたわけではない。自分たちの意思で、治安維持局の嘱託生徒になることを決めたの。あなたたちがその選択を認めたくないからといって、彼女たちの意思まで否定する権利があるとでも思っているの?」
質問者は、言い返そうとした。
だが、その前に、連邦生徒会側の別の生徒が口を開いた。
「しかし、リオ会長。あなたの言葉を聞いていると、まるで連邦生徒会だけが悪かったかのようです。SRTの閉鎖には、組織全体の安全とキヴォトスの秩序を守るための判断があった。それを無視して、ミレニアムだけが正義であるかのように語るのは、あまりに一方的ではありませんか?」
リオは、その生徒へ視線を移した。
「私は、ミレニアムだけが正義だなんて、一度も言っていないわ」
「ですが、先ほどから連邦生徒会を非難し続けている」
「必要な判断だったというのなら、その必要性を説明しなさいと言っているのよ」
リオは、再び声を強めた。
「私は、SRTを絶対に閉鎖してはいけなかったと、今ここで断言するつもりはない。組織の存続に問題があったというのなら、その内容を確認し、改善できない事情があったのなら、その事情を検証する必要があるでしょう」
一度、彼女は言葉を切った。
「でも、仮に閉鎖そのものが避けられなかったとしても、所属していた生徒たちをそのまま放り出していい理由にはならない」
リオの声が、再び会場を震わせた。
「組織を閉鎖するという判断と、生徒たちに対する責任を果たすという問題は、別々に考えなければならない。組織の存続が難しいからといって、そこに所属していた生徒たちの将来まで、どうでもよくなるわけではないでしょう」
彼女は、連邦生徒会側の席を見渡した。
「あなたたちは、組織を閉鎖する決定を下した。それなら、その決定によって生徒たちに何が起きるのかを考え、可能な限りの支援をし、彼女たちが次に進めるようにする責任があった。その責任をどこまで果たしたのか、私は聞いているの」
会場は静まり返っていた。
中継カメラは、リオの表情を正面から映している。
画面越しに彼女を見つめている生徒たちには、もはや単なる政策論争には見えなかっただろう。
リオは、ミレニアムの利益だけを守るために怒っているのではない。彼女は、自分たちが受け入れた生徒の尊厳とSRTという生徒の居場所が、目の前で踏みにじられていることに怒っていた。そして、その怒りの矛先は、SRTの閉鎖後も彼女たちを十分に支えようとしなかった連邦生徒会の姿勢そのものに向けられていた。
それでも、連邦生徒会側は最後の抵抗を試みた。
「……リオ会長。あなたの言いたいことは分かりました。しかし、感情論だけで組織の運営や自治区の関係を語るべきではない。ミレニアムがSRTの生徒たちを受け入れたことで、その戦力は確実に増加した。治安維持局はすでに高度な情報収集能力と迅速な展開能力を備え、自治区内の事件だけでなく、施設の復旧や再発防止まで担っている。そこへSRTの生徒たちが加わったことで、ミレニアムの力はさらに増した」
質問者は、声を張り上げた。
「これだけの強権と力をつけて、キヴォトスの支配者……魔王にでもなるつもりですか?」
その言葉が、会場に響き渡った。
あまりにも直接的な言葉にトキの表情が、わずかに険しくなった。
機動課の三名も、静かに相手へ視線を向ける。
だが、リオは怒鳴り返さなかった。
彼女の動きに、会場中の視線が集まる。
その瞳には、怒りだけではなく、明確な意志が宿っていた。
「――必要なら喜んで魔王にでもなんにでもなるわ」
会場が静まり返った。
リオは、一歩も引かなかった。
「自治区と自治区の生徒や住民の生活や日常を守るのは、生徒会長である私の仕事よ」
その声は、はっきりとしていた。
「ミレニアムの生徒が安心して学び、研究し、生活できる環境を整える。自治区内で問題が起きたなら、責任を持って解決する。他自治区との協力が必要なら、相手の自治権を尊重しながら協力する。そして、制度の隙間に取り残され、誰からも手を差し伸べられない生徒がいるのなら、可能な限り、その生徒が歩き続けられる道を用意する」
リオは、連邦生徒会側の生徒たちを見渡した。
「それが私の責任よ。あなたたちにどう呼ばれようと、関係ない」
彼女の声には、揺らぎがなかった。
「魔王と呼びたいのなら、好きにすればいい。けれど、私は自分の自治区を守るために必要なことをする。ミレニアムの生徒たちが、明日も安心して勉学や研究に打ち込めるように。友人と笑い合い、帰る場所があると思えるように。その日常を守るために、私ができることをする」
リオは、一度だけ息を吸った。
「それに、私はミレニアムの外にいる生徒や住民のことを、最初から守るつもりがないわけでもない。自治区の境界が違うからといって、困っている生徒がいることを見なかったことにするつもりはない」
彼女は、言葉を選ぶように、ゆっくりと続けた。
「もちろん、他自治区には他自治区の事情がある。自治区間の決め事もあれば私たちが一方的に介入していいわけではないし、何でも好き勝手に決めていいわけでもない。だからこそ、制度を整え、責任の所在を明らかにし、本人の意思を確認する必要がある。今回の受け入れも、その考えに基づいて行ったことよ」
そして、その視線が再び質問者へ向けられた。
「あなたたちは、私達が力をつけること自体を問題にしているようだけれど、力を持つことが本当に危険なのは、その力を何のために使うのかを考えないときでしょう?」
質問者は答えなかった。
リオは、まっすぐ前を見た。
「自治とは、誰かに命令されずに済むことだけを意味するのではない。自分たちの判断によって生じる結果を、自分たちで引き受けることでもあるわ。私はその責任を引き受ける。だからこそ、ミレニアムの制度を整え、必要な組織を運営しているの」
彼女の声が、わずかに低くなる。
「そして、あなたたちが守れずに身勝手で見捨てた生徒たちを、私たちが受け入れた。それだけのことよ」
その一言は、ここまでのどの反論よりも重く響いた。
連邦生徒会側の生徒たちは、何も言えなかった。
リオは、彼女たちを罵倒して勝利を宣言したわけではない。自分たちが正しいと一方的に主張したわけでもない。ただ、彼女たちが見ようとしなかったものを、真正面から突きつけたのだ。
自治区の力とは、戦力や予算、制度の規模だけで決まるものではない。その力を使って、誰を守るのか。どのような日常を支えるのか。そして、取り残された者を見つけたとき、どうするのか。その問いに対する答えを、リオは自分の言葉で示した。
しばらくして、進行役が慌てて次の進行を告げた。
しかし、すでに討論会の流れは決定的に変わっていた。
質問者たちは、当初の目的を果たせなかった。
リオを追い詰め、ミレニアムに釘を刺すはずだった公開討論は、逆に連邦生徒会側の準備不足と、SRT閉鎖後の対応に対する疑問を浮き彫りにする場となった。
彼女たちは、ミレニアムの自治権が強化されることを懸念していた。しかし、その懸念を説明する過程で、自分たちがSRTの生徒たちに対して何をしてきたのかという問いを突きつけられ、明確な回答を示すことができなかった。
そして、その様子は中継されていた。
今この瞬間も、キヴォトス各地で、多くの生徒たちが画面を見つめている。
リオの言葉を聞いて何を思うのか。連邦生徒会の対応に疑問を抱く者もいるだろう。感情的になりすぎたと批判する者もいるかもしれない。ミレニアムの力が強まることに、不安を感じる者もいるはずだ。
リオには、そのすべてを予測することはできなかった。
ただ、ひとつだけ確かなことがあった。
彼女は、自分の言葉を撤回するつもりはなかった。
◆ ◆ ◆
討論会の会場を出たあと、リオはすぐに足を止めた。
廊下には、会場内の緊張が嘘のような静けさが広がっている。遠くからスタッフの声が聞こえ、関係者が慌ただしく行き来していた。中継を担当していたクロノスの生徒たちは、まだ機材の撤収に追われているらしい。
リオは、ゆっくりと息を吐いた。
「……少し、言い過ぎたかしら」
「いいえ」
返事をしたのは、トキだった。
彼女はいつもの無表情を保っていたが、その声には普段よりも明確な感情があった。
「必要な発言だったと思います」
「そう」
「はい。あの場で曖昧にしていたら、彼女たちは今後も同じような言い方を続けたでしょう」
トキは、リオの隣に並ぶ。
「それに、私は……あの質問が許せませんでした」
普段の彼女なら、感情を交えず、任務の遂行に必要なことだけを口にするだろう。
それでも今は、言葉を飲み込むことができなかった。
「RABBIT小隊の子達は、自分たちで選んでここにいます。誰かに連れてこられたわけではありません。彼女たちは、自分たちの意思で、治安維持局の嘱託生徒になることを決めました」
「ええ」
「それなのに、取り込んだと言われるのは……」
トキは、そこで言葉を止めた。
何を言えばいいのか、彼女自身も整理できていないのかもしれなかった。
リオは、ほんの少しだけ表情を和らげた。
「……ありがとう、トキ」
「いえ。私は、リオ会長のエージェントですから」
「そういう意味ではないわ」
リオは、かすかに笑った。
「あなたたちが、あの子たちのことをちゃんと見てくれている。それが嬉しいの」
トキと、機動課の三名は目を瞬かせた。
そして、わずかに表情を和らげる。
「当然です」
トキは、いつもより少しだけ柔らかな声で答えた。
「彼女たちは、同じミレニアムの治安を守る仲間ですから」
「そうね」
リオは頷いた。それから、廊下の窓の向こうに視線を向ける。
街並みが夕方の光に照らされていた。行き交う生徒たちの姿が見える。買い物袋を提げて歩く生徒。友人と談笑しながら帰路につく生徒。研究棟へ向かう途中なのか、端末を見つめながら早足で歩く生徒。
そこには、いつもの日常があった。誰かが特別に意識しなくても続いていく、当たり前の風景。
だが、その当たり前を守るためには、誰かが責任を引き受けなければならない。
リオは、その責任を引き受けると決めている。
「……戻りましょう。まだ仕事が残っているわ。でも折角ここまで来たのだし、少し喫茶店にでも寄ってゆっくりしてからにしましょうか」
「それには全面的に賛成です。些か私たちも疲れてしまいましたし」
「まあ、そうよね……。少し感情的になって色々言ったし、その結果あなたたちに心労をかけてしまったから私が奢るわ」
「リオ会長、実は行ってみたい喫茶店がありまして。ここなんですが」
「あ、ここ知ってるよ。アップルパイがおいしいお店だ」
「あらあら……アップルパイの上にアイスなんて悪魔的ですねぇ……この林檎尽くしセットというのも中々……」
「ここ、ナポリタンもおいしいらしいですよ!そういえばお昼食べてませんし食べたいです!」
「……あなた達いきなり目を輝かせすぎじゃないかしら。まあいいわ、ならそこに行きましょう」
リオは歩き出す。
連邦生徒会との関係が、これからどうなるのかは分からない。今回の討論会をきっかけに、さらに強い反発が生まれる可能性もある。ミレニアムの自治権をめぐって、今後も議論が続くことになるだろう。
だが、彼女の決意は変わらなかった。
ミレニアムの生徒たちが、安心して学べる場所を守ること。
治安維持局の局員たちが、自分たちの役割を果たせるようにすること。そして、RABBIT小隊のように、居場所を失った生徒たちが再び自分の道を歩めるようにすること。
そのために必要なら、何を言われても構わない。
魔王と呼ばれることすら、恐れる理由にはならなかった。
リオは、歩みを止めずに前を向く。
彼女の背後には、トキと機動課の精鋭たちが続いていた。
そして、ミレニアムには、守るべき日常が待っていた。
■機動課の精鋭三名
機動課部隊長選抜でルーネと共に最終まで残った3人。機動課の中での上澄み。それぞれ一年生と二年生が二人。業務中はとんでもなく真面目だが、普段はハジけている。
精鋭Aちゃん:灰色ミディアムの1年生。薬学と医療のスペシャリスト。気功とかも扱える。武器はハンドガンだが基本的にCQCとステゴロがメイン。色んな武術と体術使ってくる。シンフォギアの風鳴指令みたいな動きをヒナくらいちっちゃいのにやってくる。ルーネ登場会で『後で謝ろうね』と言っていた子。本気出すと『これは救済です』とか言いながら殴りかかってくる。多分ミネとは相性がいい。
精鋭Bちゃん:茶色セミロングの2年生。投擲武器のスペシャリスト、危険物取り扱いの資格を色々持っている。かなりえげつない投擲武器や手榴弾とアサルトライフルがメイン。オフの時はいいお姉さんでルーネやヒナの私服をコーディネートしたりしている。
精鋭Cちゃん:青銀ロングのロリ2年生。最新鋭機器を運用しての戦い方を得意とするマシニスト。武器はSMGだが、小型のビット兵器を展開しての支援・攻撃・電子戦を得意とする。趣味は料理でバイト先もミレニアム自治区成立の頃からある古い老舗の街料理屋。とても評判が高い。激辛麻婆豆腐が好きらしい。常連には彼女の作る激辛麻婆目当ての客も多く、トリニティから神父のような装いの住民も来ることがあるらしい。
■あとがき
トキの衣装はフェイトゼロのセイバーが着てたスーツみたいなの上に、ジャケット羽織ってるイメージ。武装は臨戦トキと似てますが武器がエンフォーサーのカスタムモデルになってる。
ヒナのエクスキューショナーほどではないが出力を上げているカスタムモデルで、対応モードは2のアサルトまで。アサルトの威力が大きく上がっている代わりに、連射速度の低下と冷却時間の増加というデメリットつき。手数の少なさを両手持ちでカバーしている。
リオの公開討論会の中継は色々な場所で波紋を生んだり影響を及ぼしたりしている。ゲヘナ、トリニティ、そして連邦生徒会のとある役員やSRT閉鎖後に行き場を失っているSRT最強だった部隊。他にも色々。
物語が動き出します。ゲヘナからのたった一人でやってきた小さく無邪気な来訪者、ヒナとセンナが休日に出会うかつてのゲヘナでの副官、ヒナの一人の休日に出会うトリニティの天使の軍団長。
その先に待つのは、エデン条約。
本来無関係のはずのミレニアムもまた、ある出来事でその騒動に関わることになる。
・――科学と奇跡が交差する時、新たな
ところで、ケイとミヤコが絡んだりゲーム開発部訪れる話とか一緒におでかけしてたミユとレインが姉妹に勘違いされたり、バイトで教官として呼ばれたホシノがRABBIT小隊の教導する話とか色々御蔵入りにあるんですよ