「ということだから、時間がある時にシャーレに行っていたりするから何かあった時に頼みたいの。お願いできる?」
「委細、承知しました。局長が不在の際は、指揮は私が行います。……しかし、シャーレですか。噂には聞いていましたが、なんとも凄まじい組織ですね」
とある日の治安維持局。ミレニアムに存在する施設としては、複数の部署から構成されることからそこそこに大きな施設の廊下を歩きながら目的地へと向かうのは、対象的な二人の姿だ。
一人は、小柄な体躯に、白い髪のポニーテール。制服の黒のジャケットと白いシャツ、黒のショートデニムに身を包んだ現在治安維持局で局長を務めている空崎ヒナ。
対してもう一人は、こちらもまたヒナ同様。ミレニアムでは珍しい見た目の生徒だった。
背は170センチ近いだろうか。頭上には六角形に
ヒナ同様ミレニアムの黒いジャケットを着ているが、その下に纏うのは黒い上下のスーツ、ジャケットとボトムといった服装に、白いシャツとネクタイ。琥珀色の瞳に黒に近い灰色の、背中ほどまである長髪を背中側で一纏めに束ねているいかにも真面目そうな出来る女性、といった雰囲気の生徒は隣を歩くヒナへと頼みごとに対して了承の返事を返した。
そうして。彼女の頭部に存在するのは、髪の色と同じピンとした犬にも、狼にも思わせるような獣耳であった。
ミレニアムには様々な学区からやってきた生徒というのは存在している。だが、彼女はその中でもかなり珍しい。あまりミレニアムに来ることはない自治区出身の生徒だった。
元、百鬼夜行連合学院所属にして、このキヴォトスにおいて銃が扱えず、同様に珍しいどころではない武器を扱う彼女の名は『出雲センナ』。ミレニアムサイエンススクール二年生であり治安維持局の副局長である。
文武両道の彼女は、この世界では致命的とも言える欠陥を抱えていた。
彼女に銃を取り扱う才や素質はないのだ。だが、そのかわりとでも言うべきか。接近戦の技能と体術、そして近接武装を取り扱うことにおいては天才だった。それは神域と言っても差し支えなくかつて一度模擬戦をしたヒナをもってして『接近戦に持ち込まれて流れを取られたら負ける』と言わしめたほどで、ネルも『お前との接近戦は最高にスリルがあって楽しいな!』と言った程だ。基本的にミレニアムで作られた特殊合金ブレードを主として使用し、少なくとももう一本の。純粋な百鬼夜行に伝わるような太刀を抜くことは殆ど無い。
このキヴォトスにおいて銃を使わない。そんなあまりにも特殊な彼女もまた、訳アリでミレニアムへとやってきた生徒だった。
「やっていることもそうだけど、あの仕事量をユウカやノアがたまに手伝ってくれているとはいえ基本的に先生一人で処理しているのはかなり凄いことよ。……いい意味でも悪い意味でもだけど」
「ははは、ユウカやノアに連行されている常習犯の局長が言うほどですか?」
「……最近はあまり無理してないわ。つい昨日ユウカに怒られたけど」
「してるじゃないですか」
はぁ、と。彼女にとっての友人であるユウカやノアと似たように呆れたため息を付くセンナ。彼女としても、ヒナはもっとゆっくりとしていてくれればいいと思うのだ。
「シャーレの業務、というのは実は私も興味があるんですよ」
「あら、そうなの?」
「話題になっている超法規的組織、それがどんなことをしているのかというのは後学として気になるところではありますし、それに見聞を広げることにも繋がるかと思いまして」
「センナ、本音は?」
「おや、失礼ですね。後学や見聞を広げたいというのは本当ですよ。 ――依頼で色々な自治区に行けるのはいいな、なんて思ってませんよ?」
「後学と見聞と旅行好きの趣味を全部一纏めにするのはなんというかある意味尊敬するわ……」
「リオ会長風に言うなら、実に合理的でしょう?」
それをリオが聞いたらきっとなんとも言えない顔をするだろうな、とヒナもまた苦笑いする。当の本人は現在、まだ暫くの間多忙を極めており今日もヒマリとトキと共に調査に向かっているのだが。
「興味があるならあなたも先生に話してみるといいと思うわ。私とセンナが空いている時間で、かつそれがシャーレの業務に被らないようにすれば治安維持局の業務にも支障は出ないでしょうし。仮にだけれど、もし私とあなたを動員するなんてことになるのは相当の事態よ。そうなったら間違いなくネルも動くでしょうし。その場合は……負担をかけるけど、治安維持局の指揮は上層部になるセミナーに頼むことになるけれど」
そのような事態は出来るだけ起こってほしくないものだ。
そんな話をしながら歩いていれば、目的地へと到着する。
二人の目的地、それは。セミナールームである。
◆ ◆ ◆
「ヒナ先輩とセンナがシャーレを手伝ってくれるのは本当に助かる……!実際、現場で手伝える生徒がまだ少ないらしくて。私もノアもどちらかといえば事務とか裏方向きだから」
「まあ、私もセンナも結構忙しいことがあるからそんなに頻繁は無理だろうけれど」
「それでも、ヒナ先輩やセンナレベルの生徒が先生の手伝いや護衛につけるっていうだけでも心強いです。……先生は外の人なので、私達みたいに銃弾とかを受けても大丈夫という訳にはいかないので」
セミナールームへと到着後、自分とセンナの意向をユウカとノアへと伝えると返されたのは感謝と驚愕、そして安堵だった。どうやら想像以上にシャーレの現場手伝いの生徒はまだ居ないらしく、できることの範疇だとしてもほぼ先生一人で行っているようだ。
加えて、先生は外の存在で銃弾一発が致命傷や命に繋がりかねないのだ。それを考えると、連邦生徒会長が失踪して慌ただしいのは理解できるがそれでも連邦生徒会は何をしているのかとヒナは疑問に思うが。
「シャーレについてのことはまた話すとして。今日はどうしたの二人共。簡単な用事なら、スマホで連絡すると思うけれど……。私とセンナを呼び出すのは、それくらいのことが起こったということかしら?」
「厳密には、可能性の話なんですが明らかにおかしい情報が入ってきたので……。先輩、それからセンナも。カイザーコーポレーションはご存じですよね」
「それは勿論。蜥蜴の尻尾切りをしているけれど、カイザーの手のついた犯罪組織や単独の犯罪者とはよくやりあっているもの。特に、違法な武器や兵器開発に関連しての兵器工場とかかしら」
「そのカイザーなんですが……ちょっと動きが妙で。これを見て下さい」
そうして空中投影型モニターに表示されるのは、ある資料。それは巧妙に隠されているが、カイザーコーポレーションに関係した人材や物資、そして兵器が一気に移動しているというものだった。
ミレニアムから搬出されたそれが、一度ブラックマーケットを挟み。そして別方向へと流されている。通常なら追えたのはブラックマーケットを抜けるまでだ。他の自治区に対しての無理矢理な調査は問題になりかねなく、その自治区の協力が得られない場合本来ならば捜査はそこで打ち切られることが多い。
しかし、今回は少し事情が違った。ブラックマーケットに存在する、情報屋を生業とする生徒に報酬を引き換えに調べてもらった所カイザーの行き先は現在特殊な状況になっている自治区だった。
「人材と物資、それに兵器がアビドスの砂漠地帯に流れている……?ふむ、妙だねこれは」
「――アビドス、ね」
「……局長?」
「ごめんなさい、なんでもないの」
アビドス。そこは、ヒナにとっては複雑な想いがある場所だった。
まだ1年生だった頃、ちょっとしたトラブルが有り。そうして、それが縁で出会った二人の生徒のことを自分は片時も忘れたことはない。
「残念ながら、情報屋の伝手を使って追えたのはここまでです。明らかに妙なので、何か掴んでいないか向こうの自治区と連絡を取り合って聞いてみたいんですが……アビドスは現在、どの自治区ともほぼ交流がない状況です。なので、続けて調べるのも難しく」
「でも、明らかにこれはおかしい。……せめて、ミレニアムとしての干渉はしなくともアビドスに対して警告だけでも出来るといいんだけれどね」
困った、といようにセンナが呟く。政治上で自治区の境界線を超えるというのは、思う以上に難しいのだ。無理に所属学区の行政機関としてその境界を超えてしまえば外交問題になるケースも少なくないし、ゲヘナとトリニティのような互いに溝がある自治区もある。
「現状、様子見ね。でもこうしてカイザーが大きく動いたことで、まだ未判明だった違法工場や研究所、犯罪組織の拠点がわかったんじゃないかしら?ならひとまず、それを潰して行きましょう。ユウカ、ノア。戻ったら部隊を編成して、私とセンナの二部隊に分かれて判明している所を叩いていく。それでいい?」
『お願いします』と言われ、頷き返すと行動を開始する。ただ、何故カイザーがアビドスに行くのかということがヒナの中ではどうにも引っかかり続けていた。
■出雲センナ
生徒としては高めの170センチ近い身長に琥珀色の瞳、オレンジ色の六角形に剣花菱のヘイローに背中ほどまである黒寄りの灰髪を背中で一つにしているボーイッシュな口調の生徒。頭にはピンとした犬にも狼にも見える獣耳が存在している。凛々しい立ち振舞から、生徒からの人気も高い。真面目で文武両道だが、時にはノリや勢いを大切にしているため堅物というわけでもない。普段の制服はミレニアムの黒いジャケットに、スーツにも似たトップスとボトム。
趣味は旅行とツーリング。百鬼夜行連合学院所属だったが、ある事情により退学。ミレニアムへと転入した。百鬼夜行においては極めて格式高く、止事無き身分。家とは仲が悪いわけではなくむしろ良好なのだが、百鬼夜行の政には一切関わるつもりはない様子。本人も、将来的には実家に戻ったりはするがミレニアムで暮らすと言っている。
銃を始めとした遠隔武器の扱いは一切できないが、近接武器と技能の扱いに関しては天才かつ、その技量は神域にも至る。身体能力も非常に高く、一体どうやっているのかヒナやネルにはわからないが、瞬間的に距離を詰めたり、水の上を走ったり空中を蹴ったり、超常的な存在を切り捨てたりもできる。その刀捌きも凄まじく、二人のレベルでも油断すると刃を追えなくなるという。
エンジニア部が開発した特殊合金で作られた近接ブレードである多機能強襲ブレード『アマツキ』を使用し、それによって銃弾を弾いたり弾き返したり、切り捨てることもやってのけるほか、それをやりつつ相手に近づいて斬り伏せるのが基本的な戦闘スタイル。ヒナをデストロイヤーやビークルによる遠距離型とするなら彼女は近接型。また、治安維持局の副局長として変形機構がなくサポートAIが非搭載だがヒナの駆るフェルニルのプロトタイプである、機動力に特化した超大型二輪ビークル『ヴァナルガンド』を保有している。なお、本人が現在の愛車を受け取った時は『
滅多に使うことはまずないが、腰には百鬼夜行に伝わる伝統的な刀。太刀と呼ばれるものに分類される刀剣が存在している。
見た者に禍々しい気配すら感じさせるその名を、『空亡』と言った。
■あとがき
へけっ……強欲ハム太郎なのだ……沢山のお気に入りや感想に評価、ありがとうなのだ、すごくうれしいのだ、もっと欲しいのだ……!強欲なのだ……へけっ……!
センナはゲヘナで言うアコのようなポジション。ヒナのことを上司としても友人としても大切にしているので多分アコと出会ったら『あーあ、出会っちまった』みたいなことになりかねない。
作者自身の話になりますが、ちょっと6月くらいから多忙が極まって殆ど執筆ができない状況でした。それが落ち着いたため、リハビリと昔構成としてだけ残していた本作を書いてみようかなと思い立ち書き始めた次第です。実際、ヒナの過労問題や彼女の『たられば』を書いてみたいなとは思っていました。ぶっちゃけ、作者としてはミレニアムって一番安定している自治区だと思うんですよね、後一番青春もしていると思います。他のふたつがちょっとアッパー過ぎるんです。中には青春そのものみたいな部活動もありますが。スイーツ部……いいよね……いい、わかる……。
なのでホワイトな職場(ミレニアム)にぶち込んで、業務をしつつ日常を満喫して、ちょくちょく本編の要所要所に絡んでいけたらなという感じで想定しています。