「いやー、まさか会えるとは思ってなかったよ。何があるかわかんないよね、本当」
「……そうね。それにしても、暫く会わない内に随分と雰囲気が変わったわね、ホシノ。何も聞かないわ、私も人のことを言えたものではないから」
ゲヘナ風紀委員会、そして現在のゲヘナの実質上の統治者であるマコトとの遭遇に、齎されたカイザーについての情報。その後、ヒナは合流してきたホシノと共にヒナは今日一日は先生の手伝いをすることになっていたということで、アビドス高校へと同行した。
流石のホシノ以外のアビドスの面々は驚いていたし困惑もしていた。先生からは、『今日一日手伝いに来てくれる生徒がいる』とは聞いていたが、それがまさか空崎ヒナだとは思わなかったのだ。
そうして、アビドスの面々も否応でも理解した。絶対的に不利だった、ゲヘナの風紀委員会の部隊との邂逅。あのまま戦闘へと発展していれば、果たしてどうなっていたのかはわからないし、無傷では済まなかったかもしれない。それが、たった一人の介入によって一変した。見ただけで理解できた、現在のミレニアムにおける法と秩序の番人にしてキヴォトスにおいて最強クラスの存在の力を。
だが、アビドスの面々からすればそれと同じくらいに驚いたこともあった。それは、自分達の先輩であるホシノが、ヒナと知り合いだったことだ。ホシノを除いた対策委員会の中でシロコとノノミはホシノとの付き合いが最も長いが、ヒナと知り合いという話は聞いたことがなかった。それも、二人の話している様子からして親しいような間柄にも見えた。
そうして。今日一日先生のもとでアビドスのことを手伝ったヒナは、それぞれが解散となり帰路についた後。ミレニアムに戻る前にアビドス高校の屋上へと来ていた。
目的は、ひとつ。ホシノと話をするためだ。
「ゲヘナを辞めたことは凄く騒がれてたからさ、アビドスに居る
「そうね、私も……色々あったから。色々あって吹っ切れて、気が付かなかったことにも気がついて。 ――今の日常を楽しいと思えてる」
「それは良かった。……本当に良かったよ。あの頃のヒナちゃんはさ、なんというか抱え込んで焦ってたように見えたから。ゲヘナに居た頃の活躍を聞いても、なんていうのかな。ずっとそのままなんじゃないかなって心配してたから」
そんなに無理をしていただろうか、と一瞬思うが。実際無理をしていたと自覚できるほど追い込まれていたのは事実だ。そう考えると、長い間会っていなかった彼女にも心配をかけていたのだなと思う。
「今は大丈夫よ。頑張りすぎると怖い後輩や友人に怒られてしまうから。 ……ええ、本当に怖いことになるのよ」
「う、うへぇ……あのヒナちゃんが虚ろな目をするほどなんてよっぽどなんだねぇ……」
実際に恐ろしいのである。多少であればお説教やお小言で済むが、行き過ぎるともれなくセミナールームに連行である。ひょい、と両脇を抱えられて治安維持局の生徒に『ちょっと先輩借りていきますね』といい笑顔で言うノアやユウカには誰も逆らえない。よく問題を起こしている、最近は多少マシになったコユキが放り込まれている反省室と同じ仕様の部屋がいつの間にかセミナールームに増設されてできており、そこに放り込まれた時は流石に戦慄したものだ。
中には寝心地の良いベッドにふかふかの枕、家電各種、様々なお菓子や飲み物、そして巨大なウェーブキャットの抱き枕と、幾つかのゲーム機などの娯楽道具。通称お仕置き部屋であり、放り込まれるともれなくコユキから『あー……またですか、先輩?』と連絡が来る。出られないので放り込まれると、大人しく寝ているか本を読んでいるか、それか備え付けのゲーム機でコユキと娯楽に興じたりしている。更には放り込まれたことを聞いたネルも携帯ゲーム機片手に『おう、またなんだってな!なんだコユキと協力プレイか?私も混ぜろ!』とどこからともなく現れる。
「ずっと謝りたいと思っていた」
「ん、どしたのいきなり」
突然の真面目なトーンのヒナに対して、ホシノは疑問符を浮かべる。だが、続けられた言葉でホシノもまた真面目な。思い馳せるようなトーンになる。
「ユメ先輩のこと。なにもできなくて、ごめんなさい」
「……仕方ないよ。だって、当時のヒナちゃんにも立場があった。それにあの頃は、『雷帝』関係のことでゲヘナはゴタついていた。それの対応とかに追われてたんでしょ?」
「そうね……そうだけれど、本当はあなたから先輩が行方不明になったと連絡を受けた時すぐにでも駆けつけたかった」
1年生の頃、当時ゲヘナの情報部に居た頃ヒナはアビドス方面での調査に従事しており、その際にトラブルに巻き込まれた。当時今ほどに成熟していなかったヒナは、当時からあった無理をする癖が原因でちょっとした無理をした。その結果、アビドスの砂漠地帯で遭難することとなった。
そんな中で出会ったのが、宝探しの帰りだった当時のホシノと、今はもう居ない先輩。梔子ユメだった。
ヒナの衰弱状態は酷かった。だから少なくとも2週間ほどは大人しくしている必要があり、その間、アビドスへと身を寄せ二人と交流することになった。そうしてヒナからして、ゲヘナという熾烈な環境で出会うことのないユメという先輩は初めて出会うタイプの相手だったのだ。当時常に張り詰めていて、笑うことも殆どない彼女がユメと話している時は自然と気を許したように笑みを浮かべていた。
――『ゲヘナって大変なところなんだね……なら、アビドスに来る?なんて。ウチもウチで大変なんだけどねぇ……ひぃん……』
――『だめだよ、肩肘ばっかり張ってたら。それから、私は今の笑ってるヒナちゃんのほうが好きだな』
「私はッ――!」
口にすれば後悔が込み上げてきて、思わず慟哭するように叫びそうになる。しかし、それを制したのはホシノだった。それは違う、ヒナちゃんのせいじゃない、というように。
「うん、わかってる。わかってるよ、だからそんなに自分を責めないでよ。……不幸な事故だったんだよ。誰のせいでもない、本当に不幸な事故。きっとさ、先輩も今のヒナちゃんを見たら喜ぶと思うよ。だって、今のヒナちゃんは笑えているから。ちゃんと、前を向いて歩いているから。私はさ、まだ色々迷ったままで。立ち止まったままだから、ちょっと羨ましい」
「……ホシノ?」
「ごめん、忘れて。なんでもないんだ。うへー……だめだなあ、どうにも辛気臭くなっちゃう。謝る必要なんてないんだよ、ヒナちゃんが先輩のことを想ってくれていた。そして今も、ずっと覚えていてくれて想ってくれているだけでもう
ふと、ヒナは何かを感じた。それは、些細な違和感。
「ね、ヒナちゃん。 ――私のこともさ、覚えていてくれる?」
「何を言って……私は、確かに変わったと思うけれどホシノは友人だと思っているわ」
「ん……そっか、嬉しいな。ああ、本当……会えて良かった。こんな偶然、奇跡もあるもんなんだねぇ……」
自分の何かが警報を発していた。まるで、このままホシノを進ませてはならないというように。だが、ヒナに止める術はなかった。それは根拠のない胸騒ぎだったのだから。それに従って何かあったのかと追求すべきか、そう考えていると。言うならば、時間切れは訪れる。
「もうこんな時間だ。そろそろ帰らないと、ミレニアムにつくのは相当遅くなるんじゃない?例の怖い後輩ちゃんにまた絞られちゃうよ?おじさんもちょっとこの後用事があってさ、名残惜しいけどそろそろ行くよ」
引き止めろ、そう言われている気がした。だが、そうする理由もなく。
言葉を返そうとして。
「――
振り向きざまにホシノから笑顔で言われたのは、そんな言葉だった。
へけっ……強欲ハム太郎なのだ……沢山のお気に入りや感想に評価、ありがとうなのだ、すごくうれしいのだ、もっと欲しいのだ……!強欲なのだ……へけっ……!
イマジナリー強欲ハム太郎は今日も元気です。なお作者はお盆休みが終わることに絶望している。自分まだお盆休みやれます、やらせてください!
さておき。
できればお盆中にアビドス編完結まで行きたかったんですがちょっと厳しいかもしれない。モノは出来てるんですがもしやるとしたら、今日中に後4話くらい投稿することになるんですがちょっとそれはなあと。杜撰なスケジュール管理をした作者ですまない……。
本作ミレニアムヒナちゃんは、1年生の時に暫くアビドスに滞在しています。その時にユメ先輩とも知り合った。ヒナにとってもユメというのは大きな心の支えで、太陽のような存在だった。ホシノはユメと一悶着あって、その後に居なくなったことに気がついてすぐにヒナへと連絡しましたが、ヒナも当時は立場があって動けず。ユメの結末とは彼女の大きな後悔であり、傷のひとつになりました。
増設された反省室はヒナ用に作られました。リオも許可した。叩き込まれるとその情報がセミナーやミレニアム上層部に行くので、大体遊びに来るネルと隣の反省室のコユキと一緒に、今まではあまり触らなかったが娯楽にと勧められたゲームをしている。
本作ではコユキはセミナーに籍を置いています。以前よりマシになったものの、それでも問題は度々起こす。なお、本人としては『やりすぎる』と、治安維持局。つまりヒナやセンナが飛んでくるためそれが怖くて原作本編時空よりは結構大人しくしています。ヒナにとっては後輩ということもあってか、面倒を見たり気にかけたりしてよく構っている。それもあってか、ヒナには結構懐いているし従順。最早治安維持局情報部の所属と言ってもいいくらい懐いている。実際治安維持局の業務は時々頼まれて手伝っており、最低限セミナーの仕事もしている。担当は庶務。