『西部市街地展開部隊、応答途絶!北部も同様!』
『東部と南部地帯の部隊からも応答途絶!展開しようとした待機部隊からも応答なし、シグナルロスト!』
『馬鹿な……ぜ、全滅……。展開部隊が全滅……?PMCのほぼ全部隊を動員しているんだぞ!?』
カイザーの展開する部隊、それを統制するコントロールルームでは悲鳴が挙がっていた。混乱と絶望、それがその場に蔓延していた。
「なぜだ……何故、ミレニアムがアビドスに介入を……。しかもこの部隊規模、明らかに大規模部隊だぞ……!?」
アビドスへの侵攻。小鳥遊ホシノを手中に収め、殆ど抵抗できないアビドス高校に対してのそれは順調だった。第一波については凌がれてしまったが、第二波は容赦をしなかった。この侵攻でアビドスを制圧し、手中に収める。そうして、目的の探し物へと移る算段で居た。
だが、状況が一変した。
どうやらアビドス高校は、先生を通じて幾つかの自治区に対して援軍を要請したようだった。モニターで見る限り、かつて自分達が依頼をかけて酷使していたゲヘナの便利屋と言われる生徒達。どんな手を使ったか不明だが、怪しい紙袋を被っている生徒が指揮するトリニティの砲撃部隊。だが、それだけだ。この中で脅威になりえるのはトリニティの大規模砲撃部隊だけ。それにさえ注意してしまえば、他は数の有利で押しつぶせる。
そのはずだった。アビドスに展開する各所の侵攻部隊、そこに突如として強襲してきたのは。キヴォトスにおいて知らぬものは居なく、今や最も力のある自治区とまで言われている学校の校章をつけた部隊。
ミレニアム治安維持局。しかも、大規模の実働部隊と自立兵器という規模のそれがカイザーを襲った。各地を強襲している部隊の生徒達は完全装備だった。自立兵器に機動兵器、それらも惜しげもなく投入しての攻撃に、展開していた部隊は圧倒された。
そうして。それだけではない、カイザー理事をして、『何故』と思わせる存在が投入されていた。
「出雲センナに、美甘ネルだと……!?莫迦な、これでは殆どミレニアムの総力戦ではないか……!」
侵攻部隊に対する2つの部隊。その攻撃を指揮していたのは、2人の生徒。
しかも、カイザー理事にとってはこれは現実ではないと否定したくなるものだった。
コールサインダブルオー、ミレニアムにおける勝利の象徴。美甘ネル。
治安維持局の狂犬、
ミレニアムの誇る最高戦力が全力で投入されていたのだ。
カイザー理事は知る由もないが、本来ならネルはこの作戦に参加しない予定だった。だが、丁度非番だったこと。その中でただならぬ予感を感じてセミナーへと顔を出せば、そこには普段と様子が違うヒナに、真剣な表情のユウカとノア、センナの姿があった。
事情を聞いたネルは、すぐに動いた。その場の全員に『あたしも行くぞ』と短く言ったのだ。便宜上は、ミレニアムで散々問題になって手を焼いているカイザーの手のついた犯罪者や物資、兵器を大幅に一掃出来る可能性がある以上、その大規模作戦に自分も投入すべきだというものだが、本音では様子のおかしいヒナの力になるためだ。美甘ネルとは、友を大切にするのだ。今のヒナは、あの時。自分達に対して本音を打ち明けた時と同じ気配がした、だから助けるために動いたのだ。
カイザーの誤算、もといミスはミレニアムに対してカイザーを叩くチャンスを与えてしまったことだ。
普段なら、キヴォトス最高峰の自治区といえど理由のない企業に対する攻撃は大問題になりかねない。だが、カイザーはミスをした。軍事力増強のための物資や兵器開発をミレニアムの犯罪組織を隠れ蓑にして行い、蜥蜴の尻尾切りを繰り返しながら追求や明確な証拠にたどり着かないよう処理してきた。しかし今回、アビドスを制圧できる大きなチャンスということもあって僅かに、本当に僅かにだが無理な物資や兵器の移動をした。
それが駄目だった。それを見逃すミレニアムや、情報を同様に掴んでいたゲヘナやトリニティではない。当然、その杜撰な部分は情報として掴まれており、特に事実上かなりちょっかいをかけてきたミレニアム治安維持局に大義名分を与えてしまったのだ。
明確な証拠のもと、治安維持と自治区における法律違反という名目で違法物資や兵器が運び込まれたカイザーPMCを攻撃。証拠が掴まれてしまった上、搬入先を抑えられていては言い逃れできる状況ではない。状況もミレニアムへと味方して、現在侵攻しているアビドスがミレニアムに対して協同が出来る状況まで作ってしまった。
そうして、確実な証拠のもと治安維持の敵となる相手。カイザーをミレニアムが見逃すわけはない。完全に退路が立たれている状況、そこを徹底的に叩き潰すためにミレニアムは大規模部隊を投入してきたのだ。
『り、理事……』
「くそ、どうする……今度は何だ! ――なっ」
新しく映し出された映像。それは、カイザー理事にとっては更なる自らに対しての追撃であり。そして、まだ持ちこたえていた主拠点。ホシノを捕らえている拠点での、絶望そのものだった。
無表情の上に明らかに怒っている、というようにしている目つき。白い長髪のポニーテール。大量展開された量産型のゴリアテと、兵士に無人兵器。それと対峙するアビドス高校の面々と便利屋の間に突然、完全武装の漆黒の鉄馬を駆り現れて。たった一度の斉射で最前線のゴリアテを全て鉄屑に変えてしまった存在を見てカイザー理事は文字通り言葉を失い。そして、やっと我に返って。やったのことで言葉を紡ぐ。
「治安維持局局長、空崎ヒナだと――!?」
◆ ◆ ◆
「空崎、ヒナ!?」
真っ先に反応を示したのは、便利屋68のカヨコだった。示したのは警戒の色であり、本能的にとでも言うべきか。アル達を守るようにして一歩前へと出る。
風紀委員長としてのヒナだけではなく、1年生の頃からの。ゲヘナにとって暗黒期とも言える時代の彼女を知っているカヨコとしては当然の反応だった。例え、現在はもう所属がゲヘナでないとしても。
「そんなに警戒しないで、鬼方カヨコ。私は少なくとも貴女達やアビドスの敵ではないし、味方のつもりだから。……もっとも、貴女達便利屋がミレニアムで問題を起こした時はその限りではないけれど」
「……私のことを知ってるの?」
「あの頃は私、情報部だったから。最近よく言うけど、あなたも随分と雰囲気が変わったわね。 ――さて」
今度はアビドスの面々へと視線を投げれば、やはり突然の介入で混乱しているようだが、どうやらアヤネからミレニアムとの協定が限定的に結ばれたと連絡が行ったようですぐさまそれぞれの表情が驚きに染まる。
「アビドス対策委員会、事情は聞いているわ。……ホシノを助けに行くんでしょ?私も、彼女には言いたいことが沢山あるの。だからここは私に任せて、中央施設に向かいなさい」
無茶だ、とアビドスの面々は思う。空崎ヒナの援軍、ミレニアムの全面的な協同。それは頼もしい限りだがこの場を一人で受け持つというのは無茶が過ぎる。ここはカイザーPMCの主施設の中でも最前線。周囲には兵器展開用のハッチやリフト、倉庫や兵舎がこれでもかと存在している。それらをたった一人でとは無茶だと思ったのだ。
だが、アビドスの面々はまだわかっていなかった。
空崎ヒナが。キヴォトスにおいてのトップクラス、その中でも上澄みと言われるヒナやネルの力がどれほどの物なのかということを。
「……ミレニアムとしての目的は、カイザーPMCの施設及び兵器、物資の完全破壊と制圧。ホシノの救出はそこに含まれていない。だから、助け出すのは貴女達の仕事。それに」
そう、それに。
「――私、ちょっと今怒っているから」
再び構えられる、『終幕:デストロイヤー』。先程、強襲の際に自分達が一機処理するだけでも時間がかかっていたゴリアテを、たった一度の斉射で大量の鉄屑に変えたそれを見て、アビドスと便利屋は息を呑み。カイザーの私兵達はたじろいだ。
こうして話している間にもカイザーは立て直すチャンスだと言わんばかりに、次々と兵器を展開していく。悠長なことは言っていられないようで、シロコの『……お願い』という言葉の後、まだ塞がれていない進路へと駆け出した。
『くっ、展開が追いつかなかったか……まあいい、逃がした生徒達は向こうで処理するだろう。一斉斉射、最大火力だ!なんとしてもここで空崎ヒナを抑えろ!』
最前線の指揮官級PMCのそんな叫びの後、周囲の。あらゆる方角から向けられる武器の銃口が、砲門が、敵意がヒナへと向けられる。完全に展開は完了して、逃げ場はもうない、周囲何処を見渡しても、カイザーの私兵だらけだ。ゴリアテは再展開され、強化型と思わしきものも出てきている。空中には戦闘ヘリが展開しており、地上にも空にも逃げ場などない。
だが、そんなものは必要はない。
『撃て――!』
全方位からの砲撃。それに対してヒナはといえば、回避する素振りも見せず。フェルニルに乗ったままその場で停止している。
轟音。それが連続して、着弾地点に破壊を齎す。爆風や衝撃によって、ヒナの居た周囲の建物や施設は瓦礫へと変わってしまうが、それは些細なことなのだ。今最優先すべきなのは、空崎ヒナを止めることなのだから。
『やったか!?』
砲撃が終わり、爆風と土煙が晴れていく。
そうして。見えてきた現実に、ただカイザーの私兵達は言葉を失った。
着弾地点の周囲が瓦礫に変わったのに対して、ヒナは無傷だった。
正確には、ヒナと。そうして先程までは存在しなかった、巨大な異形とも言える重装甲の二足歩行のオートマタが、であるが。
地面に足をついてその場に立ち、デストロイヤーを構えるヒナ。そしてその隣には、巨大な。3メートル近い、その背にも匹敵する黒い機械仕掛けが見て取れるタワーシールドを左手に構えたオートマタ。そうしてヒナを中心として、周囲数メートルに及び展開されていたのは、紅の半透明のドーム状フィールドだった。
加えて。ヒナ自身の武装にも変化が見られていた。彼女の持つ、『終幕:デストロイヤー』。そのいつもなら紫色に発光している大型なマズルブースターの色が、紫から赤色へと変化しているのだ。更にはただですら長い銃身に加えて、銃口に数十センチの追加バレルがアタッチメントとして装備されている。
「――仕事の時間よ、フェル」
そうヒナが言葉を放つのは、タワーシールドに重装甲、重武装のオートマタだ。
その言葉に対して、その存在。異形のオートマタが歓喜するようにその赤いバイザー状のデュアルアイを一度光らせると。
『承知しました。
そう、言葉を返したのだ。
■フェル
脳内ボイスは高橋英則。某運命2のゴーストみたいな声と話し方をしている。
イメージカラーは黒と赤。バイクのオートマトン形態が完全に裏ボスとかが乗ってそうな見た目をしている。なお、先生が見ると目を輝かせて『か、かっこいい……!』『バイクが変形してロボットになるのはロマンなんだよ』などと言う。
ヒナをマスターと定めて付き従う、フェルニルのコア部分に存在する超常の存在。元々はミレニアムの廃墟の深淵部、その最深部に存在したが、ヒナがミレニアムの生徒となった頃にある出来事で動き出し、紆余曲折あって『生徒』の味方となった。その権能は『掌握』『分解』『創造』。もし敵対していれば、途方もない脅威となるのは確実だった存在でもある。例えるなら、SF版某ハンティングゲームの成体赤龍みたいな能力を持った存在。敵対時の脅威度は王女化したアリス級。無名の司祭とは因縁があり敵対しており、司祭側も目をつけらたくはない相手。
現在のコアとしての身体は本体ではなく、本来の身体は現在決して人の手が届かないところでスリープ状態になっている。ヒナの『神秘』とリンクしており、彼女が呼べば量子テレポートによって何処にだろうとその命令を遂行するために現れる。文字通り、デストロイヤーと並んでの彼女をサポートする武器であり相棒にして、『友人』。
長い年月廃墟の深淵に居たため、現在のキヴォトスが形成する社会や世界に対して強い関心を示しており、アロナにも匹敵する処理能力で貪欲に世界のことを学習している。そのせいもあってか、やたらと多芸であり物知りになってしまっており、ヒナの運転時のナビゲートも務めているのだがやたらと人気の店やスポット、観光地などに詳しくおすすめしてくる。ヒナによる洗車と整備が好き。