ストラテジー怪現象を、キャラクター視点で見る   作:匿名の筆者

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第二話:中破とブリーフィング

基地へ帰還し、中破したパワードスーツを修理ドックに預けた。外装はボロボロにやられてしまったが、中にいた私自身はかすり傷ひとつなく、すこぶる元気だ。

 

いや、元気というのは誇張か。ちょっと気絶してたから医療班やらなにやらが来て、爆風を浴びた影響がないかとかで検査しまくりの日々。外見的には何一つ無いのだが……脳の血流が変になってないかとかで筒の中にぶちこまれた。

ようやく一息ついたところで、オブザーバーから個別のブリーフィングに呼び出された。

 

「リン作戦員、今回の作戦は見事な撤退戦でした。機体は中破しましたが、被弾回数は劇的に低下しています。これは管理人の直接指揮によるものと報告されていますが、相違ありませんか?」

 

ラジオ型の端末から、オブザーバーの無機質な声が響く。

「はい。ディスプレイに予測線が出るとはいえ、私の視界は正面と側面だけです。死角を完璧にカバーしてくれた管理人の情報共有は、本当に素晴らしいものでした」

 

私がそう答えると、数瞬の沈黙の後、オブザーバーは淡々と告げた。

「三次元方向からの映像を処理し、ほぼ完璧な回避行動……心境の変化が、著しい戦力向上に繋がっていると推測します」

 

「オブザーバー、推進が可能な方向は三次元空間ですし、24方向ですよ。推進装置を活かすための視界に限界があります。死角がまだまだありますし、ポテンシャルを発揮しきれていません」

「私にとって、まだ現状に満足は少ないです。」

「……その、問題と言いますか。ディスプレイによる攻撃予測線だけでは、攻撃を避けようと移動した時に当たってしまう……決め撃ちと言いますか。そういう事をされるんです。」

 

「ふむ。まあ……それはとても明確な課題ですね。」

「今後の参考にしたい、と本機は考えています。」

「あなたの精神面についての話なのですが……事前面談の分析でも、あなたが管理人に強い好意と信頼を寄せていることは判明しています。」

 

「しかし最近、中破してから機体の操作について悩みを抱えている姿が目立つようですね。……何があったのですか?」

 

私は少し躊躇いながらも、ずっと心に引っかかっていた本音を吐き出した。

「私の悩みは……管理人にあります。私、彼に操縦技術で負けてると思ったんです」

 

自らのパワードスーツは、第五の肢も同然だ。熟練の兵士として培ってきたプライドが、へし折られた気がした。

この私の操縦技術が、管理人に負けた。頭の中でくだらない対抗心が騒ぐのだ。

 

「訓練の有無は知りませんが……戦闘中、管理人に私の機体を完璧に遠隔操縦されてしまったんです」

「ふむ。技能……いや、過去の経験を覆された際の揺らぎ、ということですね」

 

そう声に出して分析したオブザーバーは、どこか諭すようなトーンに変わった。

 

「我々が戦術的勝利を収めているのは事実です。管理人の指揮能力も素晴らしい。ですが、そもそもの話として。彼がパワードスーツを直接遠隔操縦する理由はありませんし、後方支援に徹しています。」

「え……? それじゃあ、あの動きは、おかしいですよ。確実に避けられない軌道で弾丸があったんです。推進装置のガスカートリッジが破損してしまいましたし、空中でガス圧が下がっていたところを完璧に着地したばかりか、機敏に爆風も避けて……」

 

 

オブザーバーは、言葉を遮った。

 

「戦場での同軸機銃や重榴弾砲からの自動回避――実のところ、あれは本機が干渉してシステムを作動させたものです」

オブザーバーの言葉に、思考が追いつかない。

 

システム?なら、機械が私よりも上回った?

 

「管理人の指示通りに動けない、あるいは今回のように『中破あるいは大破に追い込まれる』と強く予測された場合にのみ発動する緊急措置でした。これまでもシステムは存在していましたが、あなたの操縦技術が卓越していたため、作動条件を満たさなかっただけなのです」

 

つまり私は今回、システムが介入しなければならないほどの窮地に陥っていたということか。自分の判断力がそこまで鈍っていたなんて……。

 

「同軸機銃の死角に入り込み、推進装置で集中砲火を躱す。実に素晴らしい操縦技術でした。」

「あなたのその動きは全て、本機が『トップアセンブリ』としてシミュレーションに採用していますが、自動回避に活かすのもあなたが齎したデータです。……つまり、あなたより上手く機体を動かしていたのは、管理人ではありません。他ならぬ『あなた自身』なのです」

 

「私、自身……!?」

なんだ、管理人に機体を掌握されていたわけでもなく、機械でもなかったのか!?

さすがに管理人が多才すぎるなと思ってたんだ、あんな完全無欠の完璧超人なんているわけない。

 

モーションキャプチャー元が私なら納得だ。体格が違うわけもない。だって同一人物なんだから。

ホッと胸を撫で下ろすと同時に、勝手に対抗心を燃やしていた自分がたまらなく恥ずかしくなる。

だが、それ以上に深刻な事実が私を打ちのめした。管理人の操縦ではなかった。私は『過去の自分』の極限のデータに、命を救われたのだ。

 

これが機械による物理演算やら、そこから導き出された運動ならどれだけよかったか。

 

「システムは過去の動作を100%再現できますが、今のあなた以上の技術をゼロから生み出すことはできません。あなたの命を救ったのは、あなた自身の技術です。管理人は死角を少しばかり補う予測線を引いただけに過ぎません」

 

「機体は中破しましたが、じゅうぶんに修理可能な損耗です。」

 

「あなたの装輪式強化外骨格は第一世代から続く完成された名機ですし、予備パーツも沢山揃えてあります。現代化改修に伴って大型化した推進装置、大型化したバッテリー……第一世代との変更点は色々とありますが、それはあなたも同じ。相違する点があっても、基本戦術に揺らぎがなく、常に状況に合わせて自己改善ができる優秀な兵士です!」

 

オブザーバーの声は、確かな称賛と絶対的な信頼に満ちていた。

恥ずかしさと共に、胸の奥で燻っていた焦燥感が熱を帯びて燃え上がる。

 

「しかし、オブザーバー。過去の私が今の私を救ったのなら……今の私は、過去の自分より判断力が落ちているということですよね。」

 

私は身を乗り出し、強く訴えかけた。

 

深刻だ、極めて深刻だ。これが何を意味するか!

 

反射神経が衰えてきたのかもしれない。

「シミュレーションで過去の私を乗り越えなければ、実際の戦場で役に立ちません。訓練場で、再度判断力を鍛え直したい!」

 

ラジオ型の端末から、「うーん……」とまるで人間のように悩む声が聞こえた。数秒経ってようやく、ピコン、と電子音が鳴る。

 

「判断能力の強化、実にいい提案です。過去のあなたのデータに、ドローン連携を前提とした動きを組み込んで仮想敵としましょう」

「随伴機を二機ほど追加すれば、現在のあなたの技能と比較して、非常に有効な訓練になるはずです。日程は追って連絡します」

 

「ありがとうございます、オブザーバー!」

「ええ。退室をどうぞ、リン」

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