[刀剣乱夢]らいぶ   作:himausa

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第十話 [ん] んなわけあるか

朝食後、のんびりと寛いでいると、主に話し掛けに来る男士も、大分増えた。

「主さん、これ、お茶請けにどうかと思って」

堀川国広が沢庵を持ってくる。

「おう、国広のは美味いんだぜ」

和泉守兼定が同意する。二振とも自然に主の向いに座った。

「ありがとうございます、堀川さん、和泉守さん」

添えられた楊枝で、主が口に入れる。二振の緊張が伝わってくる。確か、沢庵は元主由来だったっけか。

続けて。お茶飲んだ主が微笑みながら言う。

「っ、塩気がきいて、お茶に合いますね」

「よっしゃ!」

「兼さん」

喜びを素直に出す和泉守と、それを嗜めつつも嬉しそうな堀川。二振を主は楽しそうに見つめる。

主の目が日本号に向く。

「日本号さん」

楊枝で差し出された沢庵に齧り付く。

かなり塩辛いが、主は本気で言っているんだろうか。

「どうぞ」

後から差し出されたお茶を飲む。

「……主に苦手なもんはねぇのか……」

「甘過ぎるのは、少し……」

頬を染めて、目を逸らしている。

「……主さんは、素材の味に出汁が効いてるものが好きでしょ?」

堀川の言葉に、主が視線を向ける。

「わかるよ。だって……」

堀川が少し照れながら、主を見て続ける。

「最初のお浸し、気に入ってくれてたでしょ。あれ、僕だし」

和泉守が、がしがしと堀川の頭を撫でる。

「ああ、あの後、国広の奴はすっげー喜んでたよな」

「や、やめてよ、兼さん!」

二振の仲の良い様子を見ていた主が、日本号を見る。その目が日本号の手を見て、顔を見て。首を傾げる。

なんだ、それ。

主の頭に手を置いて、軽く撫でてやる。

それだけで、主は嬉しそうだ。

「……なあ、ひとついいか」

急に真剣な顔で、和泉守が問いかけていた。

「あんたら、今どういう関係だ?」

「兼さん!?」

「だって気になるじゃねぇか。主がここにいるのは、日本号がなんかしてるからだろ?」

「ああ、もう! 行くよ!!」

「なにすんだよ、国広っ」

二振がいなくなってから、主と顔を見合わせる。

「関係、ねえ」

「医者と患者、ですよね」

「はあ? んなわけ……」

「だって、日本号さんがいてくださるのは、私のせいですし」

少し淋しそうに微笑む主に、日本号は口を閉じる。

確かに、最初はそうだった。

だが、今は。

「……それだけじゃねえよ」

「え?」

主の顔に手を伸ばし、頬に触れる。

最初はそれだけだとしても、今この笑顔が欲しいと思っている感情は。

「行くぞ」

手を離し、立ち上がる。

主が慌てた様子で立ち上がり、追いかけてくる。

大広間の入り口で主を待ちながら、日本号は考えた。

二人の関係。

何故、ここ最近こんなにも胸が騒がしいのか。

主の笑顔ひとつで、簡単に掻き乱される心。

その答えは。

「お待たせしました」

日本号の手を取り、見上げて微笑む主は、気づいていない。

この気持ちに名をつけるなら、それは。

(いや、違う。俺はただ……)

主に、生きてほしかった。それだけだ。

 

 

 

廊下を歩いていると、楽しそうな声が聞こえてきた。粟田口で大部屋の掃除をしているようだ。

「日本号に主さん、どうしたっと?」

博多が聞いてくる。

主が屈んで問いかける。

「皆さん、何をなさっているのでしょうか?」

「見ての通り」

「お掃除、だよ!」

跳ねるようにやってきた乱藤四郎が、主の手を取る。

「今ね、雑巾がけ選手権してるのっ。あるじさんもやる?」

「雑巾がけ選手権……?」

「そこの廊下の端から端に並んで、誰が一番端で止まれるか!」

「……止まれないことが?」

「そりゃそうだよー。むしろそれが一番難しい」

短刀の速さなら、そうなるだろうなと日本号も苦笑する。

だが、主には想像できないらしく、首をかしげている。

「そんなに難しいんですか?」

「うんっ」

「一番上手なのは、小夜くんなんですよ」

粟田口以外も混じっているらしい。

「粟田口で一番上手なのは、包丁なんだよね」

「そりゃあ、人妻に褒められるなら、これぐらいできないと」

わらわらと寄ってきた短刀たちを順繰りに見ながら、主が頷く。

「……やってみていいですか?」

「よーし、負けないよーっ」

「ふふっ、私もです」

短刀たちに主が連れられて行くのを見送り、日本号は軽く息を吐く。

「日本号殿」

一期一振が話しかけてくる。

「すいません、弟たちが」

「構わねぇよ。主も楽しそうだ」

視線を主に向けたまま、日本号も答える。

「何か、用事があったのでは?」

「いんや、特にねぇ」

「なるほど」

やけに落ち着いた声に、一期一振を見る。

「でしたら、少々日本号殿のお手をお借りしても?」

有無を言わせず、掃除の手伝いをすることになった。高い場所を指示される。

廊下からは短刀たちの笑い声と、主の小さな笑い声が混じって聞こえてくる。

「主は、あのように笑う方だったのですね」

「特に、日本号殿の隣にいる間が、とても愛らしく笑われて」

「お二人はメジロのようですな」

ぴたりと、掃除の手を止める。

「秋田がね、最近動物図鑑を嗜んでおりまして」

「メジロは番の仲が大変良いと言われており、何時も番で常に行動すると」

「まるで、最近のお二人のようだ、と」

確かに、最近一緒に行動している。そうでもしなければ、主は部屋から出ないだろうから。

そして、主は部屋の外では必ず日本号の傍にいる。日本号も、主のそばにいる。

霊力が増えすぎたときに、すぐに対処をするために。

(――そうだ、それだけだ)

「日本号さんもお掃除をしてるんですか?」

主の声に、咄嗟に鴨居に頭を打ちつけていた。

「いってぇぇぇっ」

「だ、大丈夫ですか!?」

「あ、ああ」

しゃがみこんだ日本号の押さえる手の上、主の小さな手が乗る。

「いたいのいたいのとんでけ、です。ほら」

流れるように何か言った。

「うん、手入れ、までは、必要ないですね」

周囲が呆気に取られていることにも気づかずに、主は日本号の手を取る。

「念の為、部屋で手当をしておきましょう」

背中に複数の生温かい視線を感じながら、二人は粟田口部屋を後にした。

「ねえ、博多。あるじさんのあれ、子供にするやつだよね?」

「……乱、言わん方がよかこともある」

「ふうん?」

主には聞こえなかったようだが、日本号にはそれが聞こえた。

(……だよなあ)

苦笑しながら、日本号は何も言わず主の隣を歩く。

主の耳が赤いような気もした。

……たぶん、気のせいだろう。

繋いだ手は、少しだけ汗ばんでいた。

 

 

 

廊下を歩きながら、段々と主の足が遅くなり。誰もいない場所で止まった。

その場で顔を覆って、しゃがみ込む。首まで赤い。

「……すいません……」

「ん?」

「私、変なこと、言いましたね?」

さっきの子供に言うようなことだろうか。

「気をつけてたのに……」

「そうなのか」

「短刀の皆さんは幼く見えてしまうので、妹や姪たちを思い出してしまってました」

「子供好きなのか」

「ええ、はい。まあ……」

「いいんじゃねえか。俺も嫌いじゃねえ」

「は」

「……あんたの子なら、きっと可愛い――」

言いかけて、言葉を止める。

(何を言い出してんだ、俺は)

日本号も主から、顔を背けた。

二人でしばらくそうしてから、庭を見て。

風がさやさやと庭木の葉を揺らす音が流れていた。

「子供……」

ぽつりと、主が言う。

「私には似ない方がいいですね」

「もっと、素直な子の方が、日本号さんも――」

言いかけた主の頭を上から柔らかく叩く。

「あんたは素直だよ」

「俺よりも、よほど、な」

日本号を見上げて、主は苦笑した。

その視線が庭に向く。

鳥の声が囀り、飛び立つ羽音が聞こえた。

「……一週間後、政府から呼ばれています」

「付き添いをお願いしてもいいですか?」

普段主は時の政府に赴く時、男士を伴わない。

そして、日本号を伴う時というのは。

「……見合い、か……」

「はい。まあ、打合せですが」

主の陰で拳を握る。

「承った」

胸の奥が騒ついて。

それしか、言えなかった。

 

 

 

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