[刀剣乱夢]らいぶ   作:himausa

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第十二話 [と] とびっきり上等

主は本丸への転移ゲートの順番を待ちながら考え込んでいた。

日本号も、先ほどのやりとりを思い出す。

「……良かった……」

見合い担当の職員は、主を見て、少ししてから、安堵していた。

「貴女は、安定したね」

「これなら、しばらくは見合いしなくていいと思う」

その目が日本号をチラリと見て、主に優しく笑う。

「後は、貴女次第、かな」

主はひどく驚いていた。

日本号にわかるのは。今朝、凝りはほとんど増えていなかったこと。

その代わり、取り出せた凝りは今までより少ないことだけだ。

(……何かが変わっとる)

それしか、わからない。

「主、さっきのは」

「本丸で、話します」

表情を固くしたまま、主は言った。

ゲートを抜けて、真っ直ぐに主の部屋へ直行する。長谷部が待っていたが、今日の主は声をかける余裕もなかった。

主と部屋に入り、日本号は戸を閉めた。

「……で?」

「私にもわかりません」

「は?」

主は戸惑う眼差しで続ける。

「……私の一族には必ず加護持ちがいます」

「加護を持つと、霊力が増え続けるんです」

「結果的に、それに耐えられなくなり」

「二十歳前後までしか生きられません」

日本号が黙る。

「……おい」

「それ、最初から知っとったんか」

主が頷く。

「だから引継ぎが必要で、見合いも……」

あの日、やけにあっさりと主は、本丸の引き継ぎを躊躇わなかった。その理由がわかった。

諦めの理由までもが、全部繋がる。

「……加護って何だ」

「何の神だ?」

娘は首を振る。

「知りません」

「知らねぇわけ」

日本号の声を遮って、娘が苦しげに叫ぶ。

「私の方が知りたい……!」

そのまま、娘は両手で顔を覆う。

「姉様たちだって、逃れられなかった」

「死ぬしかなかった」

「私だって、そのはずなのに」

「どうして……今更……安定?」

見たこともないほど、混乱していた。

日本号が伸ばす腕から、娘が一歩下がる。

「なんで?」

「どうして?」

「……私なんかより、生きるべき人がいたのに……」

日本号の目の前で、感情が荒ぶるほどに、娘の霊力が増えてゆく。凝りが作られるも、どこか歪だ。

「主、落ち着け」

娘の長い髪をまとめる紐が外れて落ちる。霊力が暴走し掛けている。

「日本号さんだって、私なんかのせいで巻き込まれてっ」

「は?」

「私が好きになんてなったから、影響して……」

娘の両肩を掴む。

「んなわけあるか!」

日本号の叫びをきいて、娘の目が向く。

「俺が好きになったのは」

「不器用で、素直で、笑顔が飛び切り上等なやつだ」

 

「惚れる理由くらい俺が決める」

 

瞬間、娘の霊力がぴたりと収まった。

その目に日本号が映り。

ついで、いつものように頬を赤く染め上げる。

「な」

手を伸ばし、腕の中に引き込む。

「俺はな、必死に生きる、あんた自身をすいとうよ」

「全力のあんたが、一番あいらしかね」

娘の力が抜け、倒れそうなのをいっそう支える。

「……うそ……」

「嘘じゃねえよ」

手で頬に触れ、目線を重ねる。

「信じられねえか」

「だって、日本号さんは、ただ主が変わるのが嫌だっただけじゃ……」

「それなら、ここまでしねえよ」

娘の瞳が震えながらも、日本号を映す。

「主」

「……な、んですか?」

「あんたの加護、俺に調べさせてくれねえか」

「……え」

「悪いようにはしねえ」

「……」

「頼む」

渋々、娘が頷いた。

「無理は、しないでくださいね」

「わかってる」

自分の方が大変だというのに、変わらず日本号の心配をする娘を小さく笑った。

「それより、さっきの」

「え?」

「俺をすいとぅのは……」

娘の瞳が見開かれ、視線が逃げる。

「ち、ちが……っ」

「ほう、違うのかい」

「わ、私は、私には、ああ……」

このまま追求してもいいが、今は優先すべきことがあるのが惜しい。

「ま、あとでそいつも聞かせてもらおうじゃねえか」

「……」

ふい、と娘の視線が逃げた。その悪足掻きも日本号には可愛らしいとしか思えないのだが。

 

 

 

思えば最初からだった。

主の凝りを取ろうとすると、必ずどこかで止まる。てっきり主の意思や体質の問題なのだと思っていた。

神気を入れた時も途中で止まるのは、そこが限界なのだと。

いつもの体勢になり、左手の薬指の内側、根本に口をつける。

「……っ」

主から小さな呻き声が聞こえる。

意識を集中して、凝りを取り出す。空いた所へ、日本号の神気を注いでゆく。

「……ぁう……」

それが止まる場所で、さらに深く探りを入れる。だが、すぐに弾かれた。

「ぁっ!?」

「……っ」

これ以上、入るなと。探るなと。

言えるほど強固な護り。

「……こいつぁ、なんだ……」

「……はぁ……はぁ……」

荒く息をつく、娘の頭を撫でる。

「……並大抵の相手じゃねぇな……」

「……ぇ……?」

「もう一度やるぞ」

「っま、待って……!」

娘が手を翳し、顔を背ける。その呼吸は荒い。

それに、全身が、熱をもっているのがわかる。

「……きゅっ、きゅうけい、させて……」

「っ、あ、ああ」

色艶やかな娘の姿に、日本号も顔を背ける。

(なんで、今こんなに……)

想いを自覚している今、それはひどく危険だ。

娘が荒れる息を整えようと、呼吸する。

それさえも、日本号の心をざわつかせる。

「お、降りちゃ、だめ?」

涙目で聞いてくる娘に、心が苦しい。

「……まず、話、一族の」

はくはくと口が溺れそうに空気を咬んでいる。

「……だから」

なんでこんな、こいつは色を纏っているんだ。

(ヤバすぎだろ)

娘を膝から下ろし、床に座らせる。

「横になってもいいぞ?」

「ん、そう、する……」

余裕がないのか、言葉も崩れている。日本号の前で。

横になった娘の頭の下に、座布団を置いてやる。

娘はふぅとまたひとつ息を吐いた。

「本家は月の眷属、と呼ばれていたそうです」

日本号は眉を寄せた。

月の神。

思い当たる名はいくつもある。

どれも古く、強い。

「うちは傍系で、血の繋がりもないのに」

日本号は眉を寄せた。

(関係ねぇ)

神がそんな理屈で加護を選ぶものか。

日本号自身、神の加護の在り方くらいは知っている。

(血筋じゃねぇ)

神なら、一族を丸ごと護ることもある。その中でも、霊力の強い者へより深い加護を与える神もいる。

(だが……)

その理由はなんだ。

娘がまた深く息を吐いた。少しは落ち着いたようだが。

「……とりあえず、少し休みます……」

「……これ、つかれる……」

すぅと、静かに眠りに入る娘は、本当に疲れているようだった。

昨日、神気を流した時はここまで消耗しなかった。

加護を探ったからか。それとも――。

日本号は眠る娘を見下ろす。

(まだ何もわかっちゃいねぇ)

この娘を縛る加護も。安定したと言われた理由も。

 

 

 

厨のテーブルで、主が出汁茶漬けを食べている。

普段なら隣にいる日本号も、今夜ばかりは許されなかった。

何しろ、今の主は。

ひどく疲れていて、日本号の神気が深く入っている。普段の酒に混ざる程度じゃないのは、男士にはわかってしまう。

何をした。いや、ナニをしたのか、と。

「なんで連れてきたとー」

博多の呆れた言葉に、背中を向けたまま返す。正面には長谷部他の男士に詰め寄られていた。

「しゃあねぇだろ。こっちがいいっつーんだから」

「んん?」

「いいから、主は食ってろ」

「日本号さんは?」

「俺はーー」

後からと言おうとした所で、歌仙が主の隣に音高く丼物を置いた。

「理由は後にして、今は食べろ」

やべ、こっちもキレてる。

食後が怖いが、日本号は主の隣についた。

主はそれを見て、ほっと安堵している。

色々あるが、この顔を見れただけ、連れてきた甲斐はあった。

「主さんに無理をさせないでくださいよ」

「当然、同意の上だよね?」

主が食べ終わった所で、堀川と燭台切が言ってくる。

「はい、ちゃんときいてはくれました」

主が食後の麦茶を飲みながら答える。

「無理な時は、断るんだよ?」

「あ、でも、日本号さんは……私のためにしてくださってるだけですし……」

堀川に対し、主は頬を染めて、答える。視線が、日本号に刺さる。

「日本号?」

「いつもはそんなに大変ではないですし」

「いつもは!?」

主が話せば話すほど、誤解が加速している。

連れてきたのは失敗だったかもしれない。

だが、惚れた女の願いを断れるはずもない。

しかも隣で極上の笑顔まで見せてくれるとあっては。

「……日本号さんの隣は、あたたかいですね……」

何か小さく呟いたのを聞き逃した日本号が問い返すと、主は首を振って、なんでもないと誤魔化した。

「聞いているかい、日本号!?」

「聞いてる聞いてる」

「貴殿がそうだから……!」

歌仙たちがやかましすぎたせいで。

主が楽しく笑っていたから。

追求する気も起きなかった。

 

 

 

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