[刀剣乱夢]らいぶ   作:himausa

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第十四話 [も] もう少しでも十分たい

回廊を抜けて直ぐ、日本号は外に出る扉の前で、立ち止まった。

顔を押え、深く息を吐く。

「日本号さん?」

娘は平然としているが。

「……少し、いいか」

「はい?」

娘の肩に頭を乗せる。

「え」

「……無事で……」

「え?」

娘は本気で分かっていないようだが、日本号は無事では済まない可能性があった。

加護を調べたときに、気づかれるとわかっていたはずだ。

あれは、強すぎる神。

とても相手にならなかった。

「お優しい神様でよかったです」

本気で言っているというのはわかる。

完全に娘には本性を隠していた。

まあ、それでいいんだろう。

約定は取り付けた。

「主」

「はい?」

「さっきの、本気ってことでいいんだな?」

「え」

「俺と居たい、ってやつだ」

顔を上げ、娘の薄布をはずして、顔を覗き込む。

その顔がふいと、外を向く。

「……もうちょっとだけだから……」

「……人間の寿命の範囲だけ……」

 

「……いっしょに、いきたい、です……」

 

頬を染め、小さく言う。

ずっとずっと言わせたかった言葉。

これで、さっきのも今までのも耐えた甲斐があるというもの。

嬉しさのままに、娘を高く抱き上げる。

「やっと言ったな!」

下から見上げる娘の顔は特別に愛らしく。

「それで十分たい」

「撤回は聞かねえぞ」

日本号の言葉にも即座に返答が返される。

「し、しませんっ」

今までなら、答えなどなかった。

本来は、素直過ぎる娘。

わかっていた。

そのまま、腕に抱きこむ。

「あとな」

「そげん格好、ほんに綺麗か」

「似合いすぎて、驚いた……」

娘の腕が日本号の首に回される。

「号さんも、すっごく、格好いいですっ」

「惚れなおしました!」

夢の中でだけだった、呼び名が耳元で聞こえて。

しがみつくように抱き着かれて。

「お、おい?」

「なんですか」

「……いきなりだな」

腕を緩めても、娘は力を緩めない。

顔を見せないために、ぎゅうぎゅうと身体を押し付けてくる。

「全部終わるまでは、って我慢してたんです」

「だから、今は……許してください」

そんな可愛すぎるお願いなんてないだろう。

 

 

 

回廊を抜けた先、あの職員が待っていた。

主の姿を見つけて、明らかに安堵している。

「ご無事でよかった……」

そういえば、何故この職員は知っていたのだろうか。

「まずは着替えましょうか」

「は? このままでいいだろうが」

日本号の不満に、主は呆れた声を出す。

「これは一族のものですし、私は舞ができませんから」

「舞?」

「……少し、相談してみます」

職員が端末でどこかに連絡を取り始める。

「おい、舞ってなんだ?」

「本家には神楽舞が伝わっていたそうです」

「え?」

「私は音感がなくて……」

ここにきて、なんて情報を出してくるのか。

これはあれか。

正装が白拍子なのは、神楽舞を奉納する一族か。

神々は酒と歌舞音曲が好きだ。ありえるかもしれん。

「そういうことは早くいえ」

「ええ、でも、踊れませんし」

「この姿だけで充分だ」

「……踊れないのに?」

「踊れなくても、酒の肴になる」

「ええぇ?」

主と小さく話している途中で、職員が端末を仕舞った。

「申し訳ありませんが、やはり衣装は」

「いいんです、日本号さんが無理を言っているだけですし」

「着替えた後で、代わりの品をお渡しします」

「え?」

「さあ、参りましょう。日本号様は、他のものが案内します」

またも主を連れていかれた。

あの職員、主の加護の神と同じような気がする。

(まあ、主に危害が及ばなければいいか)

主の背を見送りながら、日本号は小さく息を吐いた。

 

 

 

いつもの巫女服に着替えて戻ってきた主に、日本号は安堵の息を吐いた。

「帰るか」

「はい」

「お待ちください」

それを職員が引き留めた。

「これを」

主に差し出されたのは、古びた舞扇ひとつ。

隣で息を止めた音がした。

日本号には、ただのモノにしか見えない。

「私は、舞えませんが」

「持つだけで結構です。それが護りになります」

「え?」

「どうか、お幸せにおなりください」

主の手に舞扇を握らせた後、一歩職員は下がり、頭を下げた。

「これが、私たちからの、祝いの品にございます」

主も姿勢を正し、頭を下げる。

「……ありがとうございます……」

二人はしばらくそうしていた。

外で風が吹き、雲が空に広がっているのが見える。

「帰りましょう、日本号さん」

主の少し気の抜けた笑顔に、その頭を撫でて返す。

「ああ」

やっと、終わった。

いや、始まったのか。

 

 

 

転移ゲートで、移動の光が収まる。

待っているのは、いつも通りに長谷部と。

「蜂須賀さんに、三日月さん?」

「おかえり、主」

初期刀、蜂須賀虎徹。

これまで関わりがなかったからわからないが、主の前、目を細めている。

「確認をしておきたいと思って」

「主は最初、長くこの本丸を続けられないと言っていただろう」

「その考えは、今も変わらないのだろうか」

不安そうな蜂須賀に、主が日本号をちらりと見上げ、一歩前に出た。

その手を掴む。

「長くご心配をおかけしました」

「もう少し、続けられることになりました」

照れの混じる声。

絶対、今、良い顔をしている。

見られないのは残念だが。

「もう少し?」

「はい」

主がもう一度しっかりと頷く。

蜂須賀の目が日本号を見て、また主に戻る。

その顔が喜色に染まるのを見て、日本号は主の肩に手を置いた。

「ま、そういうことだ」

「そうか! ……良かった。本当に……!」

主は誰にも話していないのかと思っていた。

だが、流石に初期刀には話していたらしい。

……何も出来なかったのはよくわかる。

「代わりに、皆さんには少しご迷惑をおかけしますが」

「迷惑じゃねえって」

「なんの話だ?」

何かを切り捨てる音に、振り返る。

「主よ」

三日月が鞘に仕舞う所だった。

ちん、と小さく音が鳴る。

「それはこの珍客のことだな?」

三日月の足元に黒い影が、サラサラと砂粒になり、空気に溶けた。

「三日月さん」

「うむ、冥府からか。なるほど」

三日月は主の前、膝をつく。

「……まずは主よ、その舞扇を見せていただきたい」

主が渡すと、三日月は震える手で受け取り、それを見つめる。

「……やはり」

そういえば、名に月をもつ刀剣男士だ。

あの神に繋がりがあってもおかしくない。

「何か知ってんのか」

「……さてな」

三日月から主に、舞扇が戻る。

「主よ、これからはこのような誘いが増えるということで、相違ないか?」

「は、はい」

「あい、わかった」

「……三日月さん?」

「なれば、護るまでのこと。のう、日本号?」

細められた三日月の目に睨まれ、日本号は大きく頷いた。

「おうよ」

「はっはっはっ、楽しくなるな」

笑いながら三日月が去り。

「え、楽しい?」

首を傾げる主の頭に手を置く。

「ま、そういうこった」

「ええ?」

「わかった。では、皆に知らせておくとしよう」

蜂須賀がいなくなり。

「長谷部さん、あの」

「はい」

「新しい出陣先の部隊編成案を、お願いできますか?」

それは、初めて主が仕事を分けたということで。

「っ、お任せください!」

嬉しそうな長谷部を見て、主は日本号に笑いかけた。

日本号もまた、主に笑いかけた。

「さて、飯を食いに行くか」

「まだ残ってるでしょうか?」

時間は昼食提供開始の半刻前。

「朝飯に行かなかったから、きっと心配してる」

「あ……」

「だから、今日もここにいるって、教えてやらねえとな」

日本号の言葉に、主は少し目を瞬かせ。

満開の向日葵のような笑顔を見せた。

「はい!」

これから何度も見られる笑顔と共に、二人で歩き出す。

その後ろを暖かくも柔らかな風が流れ、二人を追い越していった。

 

 

 

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