[刀剣乱夢]らいぶ   作:himausa

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第三話 んで、おためし(主視点)

部屋の中、日本号と向かい合う。

目が覚めて直ぐ、廊下に日本号が待っていた。

いつからいたのかはわからない。

「まずはどうするのか教えてください」

「無理なら止めます」

どんな方法を出してくるのかと思えば。

日本号は口角を上げて、自分の徳利を出した。

「俺の酒で、あんたと俺をつなぐ」

「あとはあんたから凝りを取り出す」

「そんだけだ」

その方法に、眉根を寄せる。

「昨日の……お酒の?」

思い返すのは、抱き留められたこと。身体を包んだ温かい何か。左の薬指を掴んだ、太い指。

動揺しそうになり、唇を噛む。

「ああ」

頷きながら、日本号は盃を取り出し、酒を注いだ。

「あんたが俺を拒絶しなきゃ、できる」

助けてくれようと、しているのはわかる。

あの時も私の中の何かに触れていた気がする。

「……試すだけですから」

一度試して、無理なら諦めるだろう。

日本号の酒を一息に飲み干す。

日本号は私の左手を掴んで、しばらく私の全身を観察する。真剣な瞳に、飲まれそうだ。

やがて、日本号は、祈る人のように。

私の薬指の付け根へ、額で触れた。

「っ!?」

「じっとしてろ」

触れた場所から何かが内側に触れてくる。

あのクリームを延ばすみたいな、心地よい温かさ。

「……ぁ……っ!?」

私の中で何かを動かしている気がする。

「ぁ……ぅ……っ」

これは、なんだ。

重苦しい何かを、引っ張り上げている。

(これ、だめ、かも)

意識まで引っ張られていく。

どこか、遠く。

「主?」

「……はぁ……っ」

頭がくらくらする。

ひどく、疲れる。

「……済み、ました……?」

「まだ、ひとつだ」

ひとつ。

どういう意味だろう。

荒い息をつく私の背を、優しく撫でられる。

「少し眠れ」

「……すみ、ませ……」

言葉のままに、意識は暗闇に沈んだ。

 

 

 

目を覚ました時、日本号は何かを考え込んでいた。

(なんで)

ここにいるんだろう。

思い返し、自分が部屋に招き入れたことを思い出す。

今までより少しだけ思考がクリアだ。

「……少し、軽くなりました……?」

「ありがとうございます」

礼を言うと、日本号は苦虫を噛み潰したように、息を吐いた。

「はぁ、全然だろ」

「え」

「あんた、寝てる間も増やしてたぞ」

呆れた様子の日本号は、今度こそ諦めるだろう。

霊力を固めていたのは今に始まったことじゃない。

それこそ物心ついたときには習得していた。

死なないために。

日本号の思案する視線を受け止める。

方法がないのだから、諦めればいいのに。

少し呆れてしまう。

その手が伸びてきて、私の頭に乗った。

思わず目を閉じる。

(え、何?)

手があがって、薄目を開ける。

日本号は驚いた顔をしている。

こっちのが驚いているんだけど。

また大きな手が頭に乗る。私の頭を覆うほど大きな手のひらに、目が閉じてしまう。

「……主」

「はい」

「あんた、面白いな」

「はい?」

なんでか、機嫌が良くなっている日本号に首をかしげる。

「くくっ、いや、うん。まあ、もうちっとやるか」

もう一度左手を取られる。

「まだやるんですか」

「おう。消えた分増えただけなら、マシだろ」

思った以上に、諦めの悪い人だ。

「そうだ、こっちこい」

「え」

こっちとはなんだと聞く前に、日本号の膝に横向きに乗せられていた。

「っ!?」

近い。近すぎる。

身体も、息も、近い。耳元で低い声が。

「じっとしてろ」

左手が掴まれ、握られる。

「っ」

「目、閉じてろ」

「な、なんで」

「その方が落ち着くだろ」

この状況が既に落ち着かない。

見えなければ、落ち着くというのか。

言われるとおりに目を閉じる。

「くくっ」

笑い声が身体から直接響いてくる。

「ふ、ふざけるなら、やめます」

「悪い悪い。ちゃんとやるって」

視覚を閉じると、他の感覚が鋭くなる。

日本号の鼓動が、吐息が、体温が、匂いが。

左手を掴む手の熱さが、指先の繊細な撫で方が。

左手が持ち上げられる。

(え)

手に、吐息が、かかって。

(うわ)

温かくて柔らかくて少し湿った感触が。

頭の中が混乱でいっぱいになる。

目を開けたいような、開けたらダメなような。

「……ぁ……っ」

身体の内側が、動いている。

「……ぅ……っ」

でも、それ以上に、感触が。熱が。

(まさか、くち……!?)

嘘でしょう。

(……待って……!?)

今、手に触れてるのが、本当にそうなら。

日本号のそれが手から離れ、何かを問いかけているけど。

何も耳に入らない。

ゆっくりと瞼を上げる。

日本号は――びっくりするほど機嫌がよかった。

「大丈夫そうだな?」

(何一つ、大丈夫ではないです!)

動揺して、答えられない私の前で。

私の左手の甲、薬指の下に、日本号が口をつけて。

(ま、待って待って待って!?)

見てしまったら、もっとだめだった。

これは、これはだめだ。

絶対、無理。

心臓が壊れそうに震えている。

「……主」

口を離した日本号が、困ったように呼んでくる。

「む、無理です」

「なんで」

「もう下ろして……っ」

「まだ終わってねぇ」

終わるとかそういうことじゃない。

こんなの無理だ。

目を閉じても、さっきのが離れない。

私の左手の甲。

薬指の下。

日本号が口を。

(む、無理ーっ)

混乱の最中にあるというのに。

日本号は私の背中を持ち上げ、さらに密着して。

「怖くない怖くない」

幼子にするように、背中を叩く。

「っっっ」

それから、まだ続けようとする。

いや、本当にもう許してほしい。

こんなの無理に決まってる。

だって、ずっと姿を見てた。

それだけで頑張れた。

期限付きの命でもいいと思ってた。

それが。

こんな、急に。

近くに、なんて。

(無理!)

何度か同じことを繰り返し。

私は精神的にいっぱいいっぱいになっていて。

日本号が小さく息を吐く。

「……おい」

それでも。

霊力は勝手に増えるし、身体は勝手にいつものように固めてしまう。

見ていた日本号は、流石に諦めてくれ――。

「まあ、長期戦は覚悟の上だ」

「楽にはなってんだろ?」

また大きな手が頭に乗せられ、目を閉じる間に何度も撫でられる。

「ならいい」

全然、諦めてない。

顔を上げて日本号を見る。

「いい、んですか」

「毎日やりゃいい」

「……毎日」

日本号は何でもない風に言うけれど。

「……毎日……」

この距離を、毎日。

霊力より先に、心臓が破裂するんじゃないだろうか。

また頭を撫でられ、目を閉じる。

なんで諦めないんだろう。

私はそれが不思議でならない。

 

 

 

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