[刀剣乱夢]らいぶ   作:himausa

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第四話 ごねるな(主視点)

翌日、私はいつも以上に仕事に奔走した。

全てを霊力を使えるだけ使って、これ以上日本号に関わりたくなかった。

(だって、無理だ)

膝に乗せられ。

顔を合わせて。

左手の甲の薬指の下に口づけられて。

ただでさえ、男の色気があるのに。

好きな人にあんなことを続けさせたくもない。

自分のことだ。わかっている。

霊力の圧縮なんて、一族以外の人間はやらない。

しかも私は、子供のころからずっと繰り返してきた。

そんな濁った霊力に触れさせたくない。

先ほど吐き出したばかりの血がついたタオルを見つめる。

赤黒く、汚れた色だ。

「主」

廊下から日本号の呼ぶ声がする。

ひどく、焦った様子で。

戸を開けると、日本号は一瞬だけ安堵の表情を浮かべた。

身体の後ろで星空が静かに瞬いている。

……話だけなら、いいのだけど。

「聞きたいことがある」

真剣な声に、私は一歩だけ部屋を出る。

すぐに部屋に逃げ込めるように。

「……なんでしょうか」

顔は上げられなかった。

「今日、何をした?」

今日の仕事を尋ねられ、霊力を使う仕事を並べる。

日本号はそれに舌打ちを返してきた。

「逆効果だ」

どうしてか、日本号には私の霊体の状態が見えている。

他の、石切丸や太郎太刀、次郎太刀はそんなこと言わないのに。

「……みたいです」

先ほど吐いたばかりの血が過る。口の中もまだ苦い。

私の反応に、日本号が深い息を吐きだす。

「嫌なら言え」

「……」

「他の方法、いや、他の奴がいいなら」

咄嗟に、日本号の服を掴んでいた。

嫌だなんて、そんなことはない。

でも、良くもない。

だって、あんな濁ったもの、日本号を壊すに決まってる。

「嫌ではないですっ」

「嫌ではないから、困ってて」

助けてくれることは、本当は嬉しい。

どうにもできないと諦めていた。

どうにかなるかもと思った。

でも、現実は霊力は増えるし、身体はもう限界だ。

「困る?」

「なにがだ」

日本号の問いに、そのまま答えられずに口を引き結ぶ。

「言え」

「言わなきゃわからん」

結局私は怖い。

怖いのだ。

この日本号が傷つくのが。

全部無理だと知ってしまうことが。

この絶望を知ってほしくない。

力が抜け、日本号を掴む手を離す。

見上げられない視線が床に落ちる。

「……日本号さんを、壊したくない……」

一瞬日本号が息を止め、また静かに吐いた。

「だから、心配ねぇって」

呆れた声に、顔を上げずに言い返す。

「そんなはずないです」

「他人の霊力を受け入れるなんて、できるわけない」

「……聞いたことないもの……」

「私は、あなたを壊したくないんです」

また舌打ちが聞こえ、次には頤を掴まれていた。

無理矢理に上を向けられる。日本号の視線が突き刺さる。

「俺が、壊れているように見えるか」

強い強い瞳に射抜かれる。

「……見えない……」

「俺は槍で、付喪神だぞ。人間と同じに思うな」

「……かみ、さま……」

刀剣男士は、付喪神。

そんなこと知っている。

だから、私は。

「……なおさら、できません……」

「……私だけのために、使っていい力じゃない……」

日本号の手を振り払い、背を向けて、部屋に入る。

「おい」

「もう、諦めて」

そのまま後ろ手に閉じた。

ここには刀剣男士は無断で入れない。

だから、開けられることはない。

それが今、有り難く。

そして、苦しかった。

 

 

 

何があっても夢の中は平和で明るい。

私はここでだけ、息ができる。

「主ー、どうしたー?」

大広間で寝転がっていると、上から数人が覗きこんでくる。

私が作った、私を好きな刀剣男士の幻影。

わかってる。

こんなものオママゴトでしかない。

「なんでもなーい」

それでも、私はここでは笑う。

現実ではできない分だけ。

そばにいた日本号が私の頭を撫でてくる。

私はそれを目を閉じて迎える。

現実の手はもっと大きくて厚くて、重かった。

現実の日本号は入れないようにしたから、ここにいるのは私が作り出した日本号。

「号さん」

「うん?」

「好きだよ」

「ああ、俺もだ」

「……そうだね」

だめだ、泣きそうだ。

現実で言うわけない。

わかってる。

全部夢だ。

「……もう、いい……」

両腕で目を隠し、世界を全部壊す。

夢も、もう、いらない。

こんな夢はもう意味がない。

本当の日本号は、こんな小娘相手にしない。

私が好きな気持ちで呼んでしまった。

だから、あの日本号まで。

「……影響、してる……?」

ふと、気づいた。

私はあの槍を顕現するより前から知っていた。

あの素晴らしい刃。

日の本一と称えられる槍。

力強くて、美しくて。

あの槍なら、どんな勝負であっても勝って手にしたい。

その気持ちがわかった。

その気持ちで顕現した槍の刀剣男士は、想像以上だった。

想像以上に力強く、頼れる刀剣男士だった。

暗闇の中、寝返りを打つ。

「私のせいで、気にしてる?」

それは的を射ている気がした。

でなければ、こんなに気にかけてくる理由がない。

だって、関わらないようにしていたのだ。

見合いの付き添いだって、いつも話なんて碌にしてない。

それでも付き合ってくれた。

お人好しだからだと思っていた。

刀剣男士は顕現する主によって、個体差があるって。

誰かが言っていた。

じゃあ、あの日本号が「らしく」ないのは。

「……私のせい、か」

それなら、私は。

「責任、とらないと」

起き上がり、目を閉じて深呼吸する。

「責任取って、最後ぐらい、いうこと聞いてあげなきゃ、ね」

それは、呼び出して、影響させてしまった「主」の責任だから。

目を覚ましたら。

ひとつだけ、きいてみよう。

それで、どうするか決めよう。

 

 

 

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