[刀剣乱夢]らいぶ   作:himausa

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第五話 動くなよ(主視点)

自分の咳き込む音で、目を覚ます。

今朝は血は出てない。

頭が重く気怠い。

時間がないのは変わらない。

話をするなら、急がないと。

戸に手をかけるが開けられない。体を使って、なんとか開ける。

その先には、思った通りに日本号が座ったままうたた寝してて。

「……日本号さん……」

伸ばす手の先、目を覚ました彼が掴んでくれる。

温かい……。

「主!」

膝から崩れ落ちる身体を支えてくれる日本号に、首を振る。

頭、痛い。

「話、を」

「そんな場合じゃねぇだろっ」

今は甘えている場合じゃない。

手を振りほどき、続ける。

「聞かせて、ほしいんです」

「なぜ、あなたが私を?」

「引継ぎの子は、もっと素直です」

「私より、よほど」

息を整え、日本号を見上げる。

私より余程苦しそうなのも、きっと、全部、私のせいだ。

「あんただって、素直だろ」

「本当はそうだった」

私がこんな風にしてしまった。

謝りたい。

でも、何をどう言えばいいのか、わからない。

「言え」

「全部聞いてやる」

日本号が私の肩を支えるように、掴んだ。

「聞いてやるから」

「俺に、あんたの時間をくれ」

日本号の申し出に、目を見開く。

残りの、時間を。

この人に。

一度、目を閉じる。

「――はい」

あなたがそれを望むなら。

 

 

 

日本号に抱き上げられ、部屋に戻る。

胡座をかいた膝に、横向きに乗せられる。

下から、日本号の心配そうな顔を見上げる。

「……もう、抵抗すんなよ」

目を閉じる。

左手が持ち上げられ、手の甲から薬指の付け根に温かい感触がつく。

「どうして、ここまでしてくださるのですか?」

また私の中を引っ張りあげる何か。それが身体を重苦しくしているものを軽くする。

日本号が言う、凝り。

私が圧縮している霊力。

それがゆるゆると移動し、離れていく。

日本号が触れた場所から、外へと。

少しだけ、呼吸が軽くなる。

「あんたが、生きていないからだ」

頬を撫でられ、眉根を寄せる。

「生きて……」

「命の話じゃねぇ」

言いかけを遮られた。

「あんたはもっと気楽に笑え」

意外なことに、柔らかく優しく声音が降ってきた。

「笑う……」

「その方が、いい」

生きることと笑うこと。

どんな関係があるのだろう。

「続けるぞ」

また感触がくる。

さっきより優しい。

温かいお湯の中で揺れるみたい。

「……ぁ……」

私が笑うこと。

それが、この日本号の望み。

ゆっくりと瞼を開ける。

真剣な横顔。

頼れる男士。

お酒を飲んでる時、笑ってた。

気が緩むと、よく笑ってた。

そういうことだろうか。

日本号の視線が、私と重なる。

(あ)

急に心地よい流れが途切れる。

「おい」

「な、何もしてないです」

日本号は深く深く息を吐く。

本当に、何もしてない。

でも、昨日の朝ぐらいまでは楽になった。

正直何をされているのかわからない。

ただ霊力が減ったのはわかる。

軽くなった分、また勝手に余剰霊力を固めてしまったが。

「に、日本号さん」

「なんだ?」

「あの、日本号さんは、私が、その生きてないって」

苦笑する日本号が、私の頭にそっと手を乗せる。

夢の中よりも大きくて厚くて、優しい掌に目を閉じる。

「あんた、感情を殺してるだろ」

「……そう、見えますか」

「見える」

「……はぁ」

「そういう生き方は、違うだろ」

撫でる手がそのまま頬に滑る。

目を開けると、楽しそうに笑っている。

「なあ、笑えよ」

「俺はあんたの笑った顔で酒が飲みたい」

ああ。

これだ。

これが、日本号。

私の好きな。

顔に熱が集まる。

「……何言って……」

こんな私を肴に酒を飲みたいなんて。

酔狂にもほどがある。

それより、もう終わったように思う。

膝から降りようとすると、肩を抑えられた。

「もうちっと休んどけ」

「それは布団で」

「ここでいいだろ」

「それは、困ります」

降りられないから、顔を背ける。

人の気も知らないで、勝手すぎる。

こんな風になったのが私のせいだとはいえ。

「あんたが、もうちっと心を開いてくれりゃあなぁ」

困った声音に、ちらりと日本号を見る。

「……これ以上、どうしろと……」

心は開いてないわけじゃない。

ただ日本号が開きすぎなだけだ。

なんでこんなことに。

「その調子だ」

小さく吹き出した日本号が、また頭を軽く撫でてくる。

手の大きさに、温かさに目を閉じてしまう。

「ちょ、日本号さん」

「号さん、でいいんだぜ」

言われた言葉に固まる。

そうだ、夢を、見られてる。

私が、日本号に甘えてる姿を。

「え」

「くくっ」

「う、うわ……」

顔を両手で隠す。

そっと隙間から覗き見る。

なんで日本号はこんなに機嫌がいいのだろう。

でも、夢とは違う揶揄い方が嬉しいなんて。

「……やだもう……」

「ほら」

「呼びません」

「呼んでみろって」

「うぅ」

肩を柔らかく叩かれる。

慣れたくない距離感に、縮こまる。

また小さな笑いが響いてくる。

完全に遊ばれてる。

でも、少し嬉しい。

「今日はもう仕事するなよ」

「は?」

「するなら、俺が付く」

「え」

「増えそうなら止める」

「……」

「人前では出来ないだろ」

ずっとそばにいてくれる。

こんな、いいのだろうか。

望んでくれているのなら、いいのかもしれない。

視線を外へ向ける。

「……最低限、終わらせるものがありまして……」

「おう」

「……終わったら。もう少しだけ、あなたの時間をください……」

あと少し。

もう少しだけ。

だから。

「んなけち臭いこと言うなよ」

日本号は嬉しそうだ。

真っ直ぐに見つめて微笑んでいる。

「もっともっていっても構わねぇぞ」

「え、い、いえ。少しで、大丈夫です」

贅沢な申し出に首を振る。

だって。

「……それで、十分です」

「何がだ?」

目を細めて、問い返される。

「もう私の時間は多くないですから」

「少しだけ」

意味がわかったのだろう。

日本号の笑顔が消える。

「……くそっ、絶対、生きたいって言わせるからな」

悔しさの滲む声に、苦笑する。

「頑張ってください」

「他人事にすんな」

ずっとこんな些細なやり取りがしたかった。

最後なら。あと少しなら。

いい、だろう。

目を伏せて、日本号の視線を少しだけ避けた。

外で小鳥の小さく啼く声が聞こえていた。

 

 

 

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