[刀剣乱夢]らいぶ   作:himausa

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第六話 元からかもしれない(主視点)

日本号に連れられて、大広間に向かう。

いつもなら避ける。

だって、これからの時間は食事で多くの男士が集まってくる。

普段なら、部屋でひとり栄養をとるだけのこと。

(仕方ない)

今日、日本号は私から離れるつもりがない。

昨夜避けたから。

また何かあったらどうすると言われた。

……どうと言われても困る。

私の部屋は大広間と同じ屋敷の中。

これは最初に初期刀と決めたこと。

だから、すぐに着く。

大広間に先に入った日本号の後、入口で立ち止まる。

ここに、入っていいのだろうか。

迷う私を日本号が手招きする。

大丈夫。

これは、私が変えてしまった日本号のため。

それだけのこと。

踏み出した一歩。

これは今だけ。

日本号が望むから。

それだけだから。

 

 

 

テーブルに置かれたプレートには、一人分には少し多い朝食セット。

ご飯。味噌汁。おひたし。目玉焼きと添えられた唐揚げ。どれも湯気と食欲をそそる香りに包まれている。

こんなの、久しぶりだ。

思わず口元が緩む。

自然と両手を揃えて、挨拶をする。

「いただきます」

箸を手に、味噌汁を少し。白味噌だ。出汁も効いてる。美味しい。

おひたしをひとつまみ。鰹節とほうれん草の香りが口いっぱいに広がる。懐かしい味だ。

茶碗から白米を一口。ふわり、穀物の香りと、何より温かい。

身体に染み込む。

隣の日本号の満足気な視線に、我に返る。

「美味いだろ?」

つい、食事を楽しんでいた。

こくりと頷く。

「……久しぶりに、ごはんを食べた気がします……」

笑みを消す様に、失言を悟る。

「生家ではちゃんと食べてましたよ」

「ただ審神者になってからは、帰っていませんでしたし」

「ひとりでのごはんでしたし」

視線を落として、深く息を吐かれた。

「これからはこっちで食え」

それは。

いいのだろうか。

だって、私はもう長くないのに。

迷った末、頷いた。

「……日本号さんが一緒でしたら……」

これは、日本号が望むから。

それだけだから。

 

 

 

日本号は食べるのが早い。

焦っていると、ゆっくり食べろと頭に手を置かれた。思わず目を閉じてしまう。

「今日はもう仕事ねぇだろ」

そうなのだけど。いつまでもいては他の男士たちが食べる場所が。

ふと、周囲を見ると、ほとんどが食べ終わっていて。

大広間には穏やかな空気が流れている。

「……皆さん、お早い……」

吹き出した日本号を困ったように見る。

身体を震わせ笑っている。そんなにおかしなことを言ったつもりはないが。

たっぷり時間をかけて、残りを食べる。

久しぶりの食事は美味しかったから、仕方ない。

日本号も喜んでいるから、いいはずだ。

「ご馳走様でした」

手を合わせる。

プレート、日本号、厨と視線を動かす。

片付けはどうするんだろう。

厨の入口でいいのだろうか。

迷っていると、紫色の癖髪で和装の男士がお盆に何かを乗せて近づいてきた。

「主、甘いものは好きだろうか」

目の前に置かれたのは、ぷるんとした水羊羹。中に餡子が見える。手作りなのは、見てわかる。

歌仙を見る。日本号を見る。水羊羹を見る。そして、もう一度日本号を見た。

日本号は楽しげに苦笑している。

「どうなんだ?」

聞かれ、眉を下げる。

「これ、私だけですか?」

「日本号さんには……」

一人だけ出されるなんて、困る。

私だけ特別に、なんていらないのに。

私はただ日本号が望むからここにいるだけなのに。

「俺ァ酒のがいい」

「貴殿はそうだろうね」

二振の言葉を聞いて、歌仙を見た。

「少しなら、食べます」

お皿をじっとみて、口元を緩める。

「これ、綺麗ですね」

匙で一口を口に入れる。

甘さが口いっぱいに広がる。

頬があがる。

「……美味しい……」

ほぅ、と温かな吐息が零れた。

歌仙が安堵の息を吐く。

「口に合ったようで良かった」

「はい、ありがとうございます、歌仙さん」

目を向けて、礼を言うと、歌仙は驚いた後で微笑んだ。

「うん」

何を驚いていたのだろう。

歌仙がいなくなった後で、首を捻るがわからない。

続けて、ゆっくりと残りを食べてゆく。

本当に美味しい。

一人でなんて、もったいない。

ちらりと日本号を見る。

「日本号さん」

「あん?」

「少し食べませんか?」

「俺は……」

「甘すぎて、食べ切れなくて」

姉様や妹たちと、いつも分け合っていた。

それが当たり前で、ひとりで全部なんてなかった。

美味しいものは分け合うともっと美味しくなる。

だから、少しでも日本号に返したかった。

「……かせ」

日本号が皿を手に、残りを一口で食べる。

大きな口に、驚き、笑った。

うん。

やっぱり。

美味しいものは分けるともっと美味しい。

 

 

 

風呂上がりにまた、日本号が部屋の前で待っていた。

部屋に招き入れる。

日本号が胡座をかいて、無言で座ることを促してくる。

今日一日、ほとんど一緒にいた。

これがただの同情ではないとわかっている。

(治療、だから)

そっとその膝に乗る。

私一人じゃびくともしない。

夢よりも体温を感じる。

茹ってしまいそうだ。

目を閉じる。

「疲れたか?」

「……はい」

今日は朝から大広間で食事をした。

たくさんの刀剣男士がいて、皆、私に驚いていた。

まさか、料理の提供システムがあるとは思わなかった。

日本号の手が頭に乗ったのがわかる。

「ごはんが美味しいことを、思い出しました」

口元が緩む。

どれも温かくて美味しかった。

審神者になってから、こんな食事してなかった。

残りの時間は少ないから、関わりたくなかった。

でも、日本号が望んでくれたから。

日本号が左手を取り、手の甲から薬指の付け根に口をつける。

びくり、と身体が震える。

流れてくる温もりが少し、慣れそうで怖い。

私の中から何かが出ていく。それで身体が少しだけ軽くなるのは確かだ。

でも、他に方法はないのだろうか。この方法は心臓が落ち着かない。

こうして触れているのだから、日本号もわかっているはずなのに。

「日本号さんは、いっぱい食べますね」

緩やかな流れが途切れた。

日本号が言うには、必ずどこかで止まってしまうらしい。

「主が少なすぎるんだろ」

「俺ァ普通だ普通」

手に触れる感触が離れたので、そっと目を開く。

下から見上げる日本号の顔に見惚れる。

(……いいのかな)

日本号のためなのに、私が得をしている気がする。

その視線が降りてきて、重なる。口元がにやりと笑っている。

「明日から楽しみにしとけ」

「え?」

「厨の奴ら、張り切ってたからな」

厨――台所のことだ。歌仙たちが何故張り切るのだろう。

「どうして……」

「そりゃ、主が美味そうに食ってたからだろ」

「え、顔に、出てました?」

「ちっとだけな」

両手で頬を押える。

しばらく顔の筋肉を使っていなかったのに。わかるほど表情に出ていたのだろうか。

そりゃあ、美味しかったから、伝わるのはいいのだけど。

(困る、かも)

今の時間は日本号にあげているだけなのに。

(……いいのかな……)

誰かと食べるご飯は美味しい。

温かいご飯は美味しい。

そんな当たり前が本丸でできるなんて。

いいのだろうか。

「明日は、何する?」

「……あ、明日?」

楽し気に日本号が問いかけてくる。

明日なんて、何を言っているんだ。

いや、明日もまだ今日が続くのか。

残りの時間分を日本号にあげたから。

――まだ一緒にいていいのか。

にやけそうな顔は、日本号の大きな手で隠された。

 

 

 

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